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「精神保健福祉法改正の検討経過ならびに法改正に関する見解」

特定非営利活動法人 全国精神障害者地域生活支援協議会, 20170317, [pdf]

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last update:20170324


精神保健福祉法改正の検討経過ならびに法改正に関する見解

2017年3月17日
特定非営利活動法人全国精神障害者地域生活支援協議会

去る2月28日、政府は「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の一部改正に関する法律案(以下「改正法案」)を閣議決定した。本法に関する見直し作業は、厚生労働省に設置された「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」(以下「検討会」)において見直し作業が行われていたところである。
検討会においては2013年の精神保健福祉法改正の国会審議における「附帯決議」を踏まえた検討を必要としていた。しかしながら検討の経過ならびに審議の中身において、それが充足されているという評価は困難であった。また2016年7月、相模原市「津久井やまゆり園」事件が発生し、厚生労働省内に事件の検証及び再発防止策検討チームが設置され、その報告のとりまとめを受ける形で、措置入院制度の見直しがあらたな課題として検討会に付された。そしてさらに、精神保健指定医の資格認定の在り方を問う課題も検討内容に加えられるというように、不測の事態、事案への対応も多く、全体として散逸な経過であったことは否めない。
先月、本検討会報告を踏まえる形で改正法案が提出されたが、この間の経緯を踏まえ、改めて現時点における本件への当会の見解を下記の通り示す次第である。

 記

1.法改正の方向感は、前回の法改正時の国会審議における「附帯決議」が踏まえられることであるという認識を持っていた。しかしながら検討の推移を含め、附帯決議を踏まえたものとは言い難く、強い違和感を抱くものである。
 附帯決議にあった「精神障害のある人の保健・医療・福祉施策は、他の者との平等を基礎とする障害者の権利に関する条約の理念に基づきこれを具現化する方向で講ぜられること」という基本的な要請を受けながらも、障害者権利条約の趣旨を確認するなどの検討を一切しておらず、立法府及び国際社会を軽視するような進め方と評さざるを得ない。
 要請に照らせば、精神障害を特別な枠組みのなかで、「特殊な分野」と位置づける現状のあり方ではなく、他の疾患や障害と共通の法律のもとで医療が提供されるべきである。つまり障害者権利条約25条に唱えられた『医療』の確保提供に沿った姿勢を明確に示すべきであり、精神医療は「精神保健福祉法」という特別法での対応ではなく、他科と同様に「医療法」における対応を基本とし、「5大疾病時代」に適うものとして進めるべきであった。おのずと、現行の「精神科特例」を完全に撤廃し、全ての精神病床の人員配置を一般病床と同水準に引き上げ、医療の質の向上をはかることは第一義として早期に取り組むべきことである。
 さらに、今回の検討においては、「医療保護入院の入院手続き等の見直しについて」が対象事項とされていた。しかし、「非自発的入院」の根本を問う議論は不足し、人権を制限する法規定について検討が加えられることはなかった。引き続き「家族等の同意」により、安易な非自発的入院が続くこととなり、権利擁護の観点からの不備が温存されるとともに、障害者権利条約に抵触するという指摘への対応もままならない状態であった。
 以上の論点は、触れられはするものの、わずかな投げかけや聞き取り程度にとどまり、一向に深まらず、きわめて遺憾な経過であると断ぜざるを得ない。
 なお本検討会の構成員は30名、そのうち当事者は家族を含め、わずか3名であり、他は医療福祉関係者が多く、ユーザー視点が決定的に不足しており、圧倒的に医療福祉の供給側の視点での検討であった。これは障害者権利条約の全体を覆う「当事者主体の精神」「Nothing about us without us(私たち抜きで私たちのことを決めないで)」からの大きな逸脱であり、施策検討の基本を踏まえない事態として、改めて強く抗議するものである。

2.相模原津久井やまゆり園事件に端を発し、再発防止の検討を引き継ぐような形となった本検討会であったが、結果として、そのまとめにおいて、措置入院患者の退院要件や退院手続きの厳格化、退院後の追跡の導入など、事件の再発防止を精神医療保健福祉に求め、精神医療保健福祉を保安の道具として用いることを示唆していると捉えざるを得ないものであった。
 しかしそもそも、措置入院者の退院後の支援に限定した特別な制度に、違和感を禁じ得ない。それは入院の形態や経緯によって、退院後の生活支援や処遇の在り方を変えることは、まず在りえないと地域生活支援の現場感覚として、率直に思うからである。
 今後「精神保健福祉法」が精神障害者の行動規制や生活管理のための法律として強化されれば、現場の支援感覚からの遊離とともに、益々、先述の「特殊な分野」と化し、ひいては精神障害者差別が助長され、共生社会の創造は見果てぬ夢と化してしまうという強い危惧を覚える。今後の進捗においてこの危惧が払しょくされることを強く要望する。

3.検討の過程で「重度かつ慢性」のという新たな入院患者層を設定していく方向が浮上した。「重度かつ慢性」の基準により、対象となる長期在院患者は、今後も精神科病院において長期在院を余儀なくされ、退院の可能性の無い者として放置されかねない恐ろしい基準である。また絶望感を抱かせるその名称の響きは、現在地域で生活している当事者の方たちに、将来を予期した新たな不安をもたらしている。
 検討会では、名称のもつ絶望感の払しょくに議論が集中し、本基準の概念自体の問題が薄らいでしまい慙愧に堪えない。
 私たちは長期入院の誰もが地域で暮らす権利があることを確認し、また、人間として当たり前に暮らす権利を奪い、あらたな排除と差別を生むような基準である「重度かつ慢性」それ自体に対して、改めて反対の立場を明確に示すものである。
 なお、本基準の導入の背景となった研究報告に、関係者の調査により重大な瑕疵があることが明らかになったことを公表するとともに、検討会の最中にあって、示された「重度かつ慢性」という基準を満たしながらも、現在地域生活を送っている当事者の方は多いという、地域医療を担う検討会構成員の発言に基づき、どのような支援がその方々の生活を支えているのかという視点からの、実証的研究の必要を強調し、その実施を要望する次第である。

以上



*作成:伊東香純
UP:20170324 REV:
精神障害/精神医療:2017  ◇障害者と政策:2017  ◇介助・介護  ◇病者障害者運動史研究   全文掲載
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