1.法改正の方向感は、前回の法改正時の国会審議における「附帯決議」が踏まえられることであるという認識を持っていた。しかしながら検討の推移を含め、附帯決議を踏まえたものとは言い難く、強い違和感を抱くものである。
附帯決議にあった「精神障害のある人の保健・医療・福祉施策は、他の者との平等を基礎とする障害者の権利に関する条約の理念に基づきこれを具現化する方向で講ぜられること」という基本的な要請を受けながらも、障害者権利条約の趣旨を確認するなどの検討を一切しておらず、立法府及び国際社会を軽視するような進め方と評さざるを得ない。
要請に照らせば、精神障害を特別な枠組みのなかで、「特殊な分野」と位置づける現状のあり方ではなく、他の疾患や障害と共通の法律のもとで医療が提供されるべきである。つまり障害者権利条約25条に唱えられた『医療』の確保提供に沿った姿勢を明確に示すべきであり、精神医療は「精神保健福祉法」という特別法での対応ではなく、他科と同様に「医療法」における対応を基本とし、「5大疾病時代」に適うものとして進めるべきであった。おのずと、現行の「精神科特例」を完全に撤廃し、全ての精神病床の人員配置を一般病床と同水準に引き上げ、医療の質の向上をはかることは第一義として早期に取り組むべきことである。
さらに、今回の検討においては、「医療保護入院の入院手続き等の見直しについて」が対象事項とされていた。しかし、「非自発的入院」の根本を問う議論は不足し、人権を制限する法規定について検討が加えられることはなかった。引き続き「家族等の同意」により、安易な非自発的入院が続くこととなり、権利擁護の観点からの不備が温存されるとともに、障害者権利条約に抵触するという指摘への対応もままならない状態であった。
以上の論点は、触れられはするものの、わずかな投げかけや聞き取り程度にとどまり、一向に深まらず、きわめて遺憾な経過であると断ぜざるを得ない。
なお本検討会の構成員は30名、そのうち当事者は家族を含め、わずか3名であり、他は医療福祉関係者が多く、ユーザー視点が決定的に不足しており、圧倒的に医療福祉の供給側の視点での検討であった。これは障害者権利条約の全体を覆う「当事者主体の精神」「Nothing about us without us(私たち抜きで私たちのことを決めないで)」からの大きな逸脱であり、施策検討の基本を踏まえない事態として、改めて強く抗議するものである。