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「『精神保健及び障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案』に対する見解」

日本精神保健福祉協会, 20170306,[pdf]
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last update:20170318


「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案」に関する見解

 政府は本年2月28日に精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)の一部を改正する法律案(以下「改正法案」という。)を閣議決定した。
 精神保健福祉法の見直しに関しては、厚生労働省に設置された「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」(以下「検討会」という。)において主に医療保護入院制度について見直しの検討が行われていたところである。しかしながら、相模原市の障害者施設における殺傷事件が発生し、マスコミの報道により被疑者の措置入院歴が耳目を集めたことから、精神疾患と事件の因果関係が明らかとなっていない段階で厚生労働省内に事件の検証及び再発防止策検討チームが設置され、その報告書のとりまとめを受ける形で、急きょ措置入院制度の見直しが検討会の検討課題とされた。
 事件発生後、本協会はこれまでに7回にわたり見解の公表及び要望書の提出等を行ってきたところであるが、なかでも、措置入院制度を事件の再発防止策の意図に絡めて見直すことについては、当初から強い疑義を唱えてきた。
 今般の精神保健福祉法改正法案の提出を受けて、改めて現段階での見解を下記の通り示すものである。

1.法改正の趣旨について
 改正の趣旨をみると、改正法案要綱においては「精神障害者に対する医療の役割を明確にすることに加えて、精神障害者の社会復帰の促進を図るため」とされているものの、その概要では相模原市の障害者支援施設における事件と同様の事件の再発防止のために精神保健福祉法を改正する旨の記載もある。
 事件の被疑者については起訴前の鑑定留置が終了し、鑑定結果は完全責任能力を認めるもので、検察は2月24日に被疑者を起訴した。今後は被疑者が犯行に至る背景や経緯が刑事裁判の中で明らかにされることとなろう。
 しかるに、改正法案概要における「二度と同様の事件が発生しないよう」との文言は、あたかも精神医療と地域精神保健福祉の不備が今回の事件を生み出したかのような印象を国民に与えることになり、承服できるものではない。今後法改正を進めるうえにおいて、そのような視点に立った制度設計が決してなされないことを強く望むものである。

2.医療保護入院の入院手続き等の見直しと患者の意思決定支援について
 2013年の精神保健福祉法改正では、附則第8条に検討規定が付され、「医療保護入院における移送及び入院の手続の在り方」「医療保護入院者の退院による地域における生活への移行を促進するための措置の在り方」「精神科病院に係る入院中の処遇、退院等に関する精神障害者の意思決定及び意思の表明についての支援の在り方」が見直し事項とされた。
 しかしながら、非自発的入院という人権の制限にかかわる根本問題を孕む法規定そのものについての検討が加えられることはなかった。検討会の中では、医療保護入院における入院時の要件である「家族等の同意」に替わる機能については、公的保護者制度の導入等の提案もなされたが、公的責任についての十分な整理ができないまま今回も見送られることとなったことは、障害者権利条約の観点からも痛恨の極みである。
 今回の改正で市町村長同意の要件が緩和されることとなるが、権利擁護機能が法律上明確に規定されない中で安易な同意による非自発的入院が存続することに、我々精神保健福祉士は十分に留意しなければならない。
 入院中の患者の意思決定支援等については、精神保健福祉法の枠内ではなく障害者総合支援法の地域生活支援事業に位置づける方向性が示されている。必要とする人の権利擁護機能を果たすためにも、必須事業として位置づける必要がある。

3.措置入院者が退院後に医療等の継続的な支援を確実に受けられる仕組みの整備について
 今後、精神障害のある人々の支援は、地域包括ケアシステムの中で一体的に行われていくことが求められる中で、措置入院者の退院後の支援に限定した特別な制度を創設することには、甚だ違和感を覚える。退院後の継続的な支援は、行政による継続的な管理、監視に変質することが決してないようにしなければならない。
 措置入院先病院の管理者が選任する退院後生活環境相談員については、退院後の地域生活には「医療中心ではなく、生活モデル中心(福祉主導)」の支援が求められることから、精神保健福祉士が担うことは当然の責務である。退院後の地域における支援は、適切な保健・医療を支援する保健所や福祉的視点からのかかわりを担う地域援助事業者との連携が肝要である。
 しかしながら、こうした役割を担う保健所では、その半数近くにおいて精神保健福祉相談員が任命されていない状況にある。全保健所に精神保健福祉士を配置する必要がある。
 さらに、これら医療・保健・福祉のチームを構成する専門職者の更なる資質向上のために、所定の研修受講を必須とするべきである。

4.法施行後の見直しの時期について
 今回の精神保健福祉法改正法案においても附則に検討規定が設けられているが、見直しの時期は法施行後5年以内とされている。上述のように2013年度の改正以前から積み残している課題が多いことから3年以内の見直しが妥当である。
 その際、本法における精神障害者福祉の部分については障害者総合支援法に移行しており有名無実であることや、そもそもにおいて精神科医療を他の医療から切り離して規定すること自体の問題を踏まえ、また、精神障害をも含めた地域包括ケアシステムの充実が謳われていることに鑑みて、法のあり方自体を再検討すべきである。
以上

2017年3月6日
公益社団法人日本精神保健福祉士協会
会長柏木一惠



*作成:伊東香純
UP:20170318 REV:
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