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「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会最終取りまとめに対する緊急抗議声明」

全国「精神病」者集団, 20170217.

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last update:20170319


これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会最終取りまとめに対する緊急抗議声明

 2017年2月、「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」の「最終取りまとめ」が公表されました。そもそも、全国「精神病」者集団としては、精神障害者の非自発的入院の手続等を定めた精神保健福祉法それ自体が精神障害者の生活を左右し得るものであり、重大な人権上の問題があるため撤廃されるべきであると考えています。また、日本もすでに批准している障害者権利条約の国際的に浸透した解釈においても精神保健福祉法の非自発的入院は廃止されるべきと言われているものと理解しています。しかし、最終取りまとめの水準は、精神保健福祉法撤廃以前のところにとどまるというよりは、明らかに精神障害者の人権を軽視し、国際社会の潮流にさえ逆行したものとなっております。
精神障害当事者の団体として最終取りまとめに対して次の箇条書きに対して重点的に批判を加えるとともに、このような最終とりまとめが出されたことに対して緊急で抗議の意思を示します。

1. 障害者権利条約及び付帯決議を踏襲していない点
 2013年の精神保健福祉法改正の国会審議に際しては「精神障害のある人の保健・医療・福祉施策は、他の者との平等を基礎とする障害者の権利に関する条約の理念に基づき、これを具現化する方向で講ぜられること」とする附帯決議が可決されました。しかし、当該最終報告書では、障害者権利条約の趣旨を確認するなどの検討が一切されておらず、立法府及び国際社会を軽視するようなものと考えます。

2. 医療保護入院について
「最終取りまとめ」では、医療保護入院について「自らが病気であるという自覚を持てないときもある精神疾患では、入院して治療する必要がある場合に、本人に適切な治療を受けられるようにすることは、治療へのアクセスを保障する観点から重要」とし、措置入院、任意入院以外の入院制度として医療保護入院を維持することとした」「現状でどのような者が同意を行うべき者に当たるかについて直ちに整理することは困難と考えられる」と書かれ、現状維持の方向性が示されました。
2013年の改正時は、障害者権利条約の批准を前にして保護者制度を含む医療保護入院等の見直しを中心に改正に向けた議論がなされました。ところが、国会に上程された法案は、医療保護入院が存続した上に「保護者の同意」から「家族等の同意」に変更したことで同意権者の範囲を拡大するようなものでした。このことは、国会においても問題となり、衆参両委員会による付帯決議や附則に見直し規定が入るなど、この度の改正を方向づけました。それにも関わらず、「最終取りまとめ」では、医療保護入院に対する抜本的な見直しに向けた提言は出されませんでした。医療保護入院制度は、立法事実となり得る医療及び保護の必要な精神障害者像が不明であり(仮に実態要件が成立しても抽象度が高く不明な点が多く残されることになる)、現に恣意的な運用が散見され、精神科医の性善説に依拠して存続させるのには、あまりに危険であると考えます。あらゆる理念を明文化しても、恣意的運用による人権侵害事件の危険に大きな変更が加わるものとは考えません。医療保護入院制度は廃止されるべきです。
また、2013年法改正の際に保護者制度が家族等の同意に改められ結果として同意者が拡大されましたが、さらに市区町村同意を可能にすることで同意者を拡大するようなことは断固として反対します。

3. いわゆる「重度かつ慢性」の基準化について
 最終取りまとめでは、「重度かつ慢性」について次のように書かれています。
「重度かつ慢性」に関する研究班の実施した全国調査では、1年以上の長期入院精神障害者(認知症を除く)のうち6割以上が当該基準案に該当することが明らかとなった。これにより、1年以上の長期入院精神障害者(認知症を除く)の多くは、地域の精神保健医療福祉体制の基盤を整備することによって、入院から地域生活への移行が可能であると示唆された。このような研究成果等を踏まえつつ、平成32 年度末・平成37 年(2025 年)の精神病床における入院需要(患者数)及び、地域移行に伴う基盤整備量(利用者数)の目標を明確にした上で、計画的に基盤整備を推し進めるべきである。あわせて、医療計画における精神病床の基準病床の算定式との整合性を図るべきである」。
さて、障害者基本法の規定をはじめとする「障害」概念は、機能障害を有する者とこれらの者に対する態度及び環境による障壁との間の相互作用と認められるようになりました。しかし、「重度かつ慢性」の基準化は、精神科病院に長期在院している人の置かれている不条理を当該精神障害者の機能障害のみに原因を帰責しようとするものであり、ひいては精神科医療従事者が研鑽して実践の水準をあげる機運を下げ、多くの人が指摘する国策の誤りに対しても免罪符を与えるものです。そして、「重度かつ慢性」とされた長期在院患者は、今後も精神科病院において長期在院を余儀なくされることになりかねません。たとえ実際に精神障害者が重度で慢性症状を呈しているとしても地域で暮らす権利があることを確認し、また、人間として当たり前に暮らす権利を奪うような基準であり(地域移行の予算の根拠にすることや削減病床の基準にすることなどを含む)、基準化それ自体に対して反対の立場を表します。

4. 隔離・身体拘束の急増の問題について
新聞各社の報道にもあるように、2013年度分の精神保健福祉資料によると、身体拘束を受ける患者は10229人、隔離を受ける患者は9983人にまで増加し、身体拘束は10年間で実に2倍になっていることが判明しました。国として増加の原因を早急に調査分析し、人権上の問題がないかどうか精査したうえで、改善に向けた方策を至急打ち出していく必要があるはずです。しかし、最終取りまとめには、処遇等に関わる問題がほとんど議論されておらず、立法上の解決の範囲としてではなく、精神科医の善意に委ねた運用上の解決の範囲の問題と位置付けられています。このような最終取りまとめの検討結果では、隔離・身体拘束の急増の問題に対して何もなし得ず、さらに数年後に倍増していくことになると考えます。

5. 意思決定支援等の権利擁護について
最終取りまとめには、「医療保護入院や措置入院は、疾患による判断能力の低下により、治療に結びつきにくい精神疾患のある患者について、本人の同意に基づかない入院により治療を行う制度であるが、こうした制度の特性上、医療機関以外の第三者による意思決定支援等の権利擁護を行うことを検討することが適当である」として、意思決定支援等の権利擁護を行なう者についての記載があります。しかし、想定されるアドボケーター像は、最終取りまとめにおいて確定的なイメージを示し得ておらず、@医師の入院が必要と判断した場合に入院意思を引き出す意思決定支援、A退院に向けた意思決定等を支援し、退院促進を図る意思決定支援、B退院請求など入院者が持つ権利行使を支援する意思決定支援、C入院の必要性や適切な医療が行われているかどうかを判断する意思決定支援などが列挙されているにとどまっています。
 このアドボケーターの実像は、精神障害者が医師にものを申すことを支援するまでには至らず、精神保健福祉法を傘にきた精神科医による恣意的運用による人権侵害に対して救済を可能とするだけのものとはなっていません。それどころか、医師と患者が対立する場面では、患者の味方をするという視点が決定的に欠けており、医師の判断が常に正しいという見立てで医師の判断の範囲を出ないものとなっています。
何よりも医療保護入院の存続を前提とした意思決定支援等の権利擁護という点に根本的な問題があり、医療保護入院の恣意的運用の検証を行なわずに医療保護入院を補完するが如くの提言では納得できません。私たち精神障害者にとっては、権利侵害をしておいて侵害されているから権利擁護をしよう、といわれているようなものです。権利を擁護するというのなら、権利侵害である医療保護入院を廃止するべきです。

6. 相模原事件の再発防止としての措置入院の強化
 2016年12月8日、「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」(以下、検討チーム)は、「報告書〜再発防止の提言〜」(以下、最終報告)をとりまとめました。最終報告の提言は、これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会での検討に引き継がれました。
最終報告は、容疑者の大麻使用・入院歴が精神保健上の問題があったことと因果的であるかのように目されていますが、現時点では犯罪行為が疾病によるものかは不明とされています。もし、鑑定留置の結果、犯罪行為が疾病と無関係なのであれば、精神医療では再発防止できないことになり、なんのための退院後のフォローアップかもわからなくなります。現在も措置入院は、社会防衛的に運用されることがあり、多くの精神障害者にとってトラウマ経験となっています。そのため、精神障害と社会防衛を結びつけた政策になることを多くの精神障害者が不安に思っています。最終報告に示された退院後のフォローアップは、再入院の防止、地域移行・地域定着を目的としたものというより、事件の再発防止を掲げている点で社会防衛を目的としたものです。このような目的は、精神障害者を他害に向かわないために地域において監視する方向に秩序化されるのではないかと深刻に憂慮しています。
最終とりまとめでは、すべての措置入院者に対して退院後の計画を都道府県が作成すること、退院後は保健所設置自治体が退院支援を調整することなどが示されました。しかし、本来、支援計画はサービス等利用計画に代表されるように本人が中心となって作成されるものであるが、最終取りまとめでは、自治体と入院先病院、通院先医療機関を主な構成員と想定しており、福祉サービス事業者、本人、家族は「必要に応じて」参加可能な位置にとどまっています。このような計画は、本人不在で精神医療関係者による「囲い込み」を招く結果となり、医学モデルの視点に立った「管理」と「支配」が目論まれていると言わざるを得ません。

2017年2月17日

全国「精神病」者集団



*作成:伊東香純
UP:20170319 REV:
精神障害/精神医療:2017  ◇障害者と政策:2017  ◇介助・介護  ◇病者障害者運動史研究   全文掲載
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