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相模原事件に関する私の意見
NPO 精神障害者ピアサポートセンターこらーるたいとう・加藤 真規子 2016/08/02
相模原市の障害者施設での殺傷事件
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NPO 精神障害者ピアサポートセンターこらーるたいとう
加藤真規子
精神障害や知的障害がある人々に対する隔離収容主義がもたらした現実は、医療法の精神科特例を根拠とした@低劣な医療A一般病床からの医療拒否B地域社会における人間関係や役割からの排除であり、居場所がないという現実だ。何よりも深刻なことは、偏見や差別を正当化し、誤った社会認識を築き上げてしまったことだ。私たちは、社会の認識や判断が間違っていることを社会の人々に認識してほしい。そして憎しみや偏見や差別の連鎖を断ち切って、「平和と他者の幸せを願う」という素朴で正当な理念こそ、社会の基盤に構築したい。
豊かな社会をつくり出すために、私たちに求められることは何だろう。高齢者、子ども、障害者などどんな人の基本的人権も保障する法制度を作ることであり、自由・平等・基本的人権の思想を実現することだ。そのためには、汗や恥をいっぱいかくこと、挫折や失敗を恐れずにチャレンジしていく勇気が必要である。
人間としての復権には、自分のこころを受け止め、他者とつながり、対話し、共に歩む生き方が求められる。人間の自立には、ある意味依存することも含めて、信頼し、連帯する関係性が必要だ。社会的排除は、この意味においても重大な人権侵害であることは明らかだ。誰かを排除して成立する社会は決して豊かな社会とはいえない。様々な人々が排除することも排除されることもなくつながっている社会の実現こそ、私たちは願う。尊厳あるいのちを支え合う営みに参加していくことこそ、自立生活の実現ではないだろうか。私はこれからも多様性、平等性、対等性を志向して、ひとりのひきこもり・不登校・うつ病の体験を大切にして歩んでいきたい。
精神病は病である。しかしあまりにも長い間、日本においては「非医学的治療」「非医学的入院」の被害にさらされてきた。そして悲惨な現実に置き去りにされてきた。医学の専門性、保健の専門性、福祉の専門性を問うことも極めて重要なのではないだろうか。
憲法があり、障害者権利条約に批准し、改正障害者基本法、差別解消法、総合支援法と国内の法制度も整えた現在、憲法や障害者権利条約が示す自由・平等・基本的人権の思想を、精神病を罹患した人々、精神障害がある人々にこそ、享受してほしい。その実現は遠く困難な道程かもしれない。しかしその道のりの中央を、体験者の人々にこそ歩んでほしい。精神障害者ピアサポートセンターこらーるたいとうの私たちもその道程を共に歩み続けていきたい。
エールとは贈り合うものだ。私たちがA病院などに10年以上、病院訪問活動を継続することができたのも、多く人々からエールを頂いてきたからだ。最後に2015年12月のB病院での訪問活動の記録を記したい。そこで語られることは日常の生活の工夫であり、望むことは普通の日常生活を穏やかに送ることだ。
S:どうやって寒さをしのいでいるか、工夫を話そうよ。僕はヒートテックを着ている。僕の部屋には暖房がないので、すごく着込んでいる。
H:熱いコーヒーを淹れて飲む。お風呂を追い炊きして、熱くする。ズボンの下にタイツをはく。
K:猫がいる。猫は温かい。
M:朝の4時30分に起きて。暖房をいれる。ゆずレモンなどをいれる。寒いとまた布団の中に入りたくなる。
H:湯豆腐に野菜を沢山いれる。島村で洋服を買いたくなるね。
M:寒いと思ったら、とにかく布団にもぐるんだ。
S:Mさんの洋服、時代に追いついてきたね。
I:血液の流れをよくすることだね。『ためしてガッテン』で、どこを暖めるとよいかやっていたよ。
K:お風呂に2回入る。エアコンはあまり使わない。ホカロン貼って節約してる。
N:炬燵に入ってヌクヌクしているのがいい。
A:退院したら、炬燵で小説を大事に読みたい。
S:台所にたって、子どものために料理を作りたい。早く退院したい。
先ほどまで営んでいた日常をなんびとにも遮断されることなく、営々と営むことの幸福。誤っていたらやり直す謙虚さを持つこと。悩み苦しむ時の伴奏者。そうした生活の支えのひとつが他者からのエールだろう。独りだけれど、一人ではない。私はルオーの「郊外のキリスト」が好きだ。冬の夜、労働者が住む町の路地に、子どもに寄り添うキリストがいる。厳しい生活を暗示しているが、深い信仰が描かれていてある種の明るさ、温かさがこころに沁みわたる。こうした何気ないものが如何に尊いか。何気ない人間関係が如何に宝物なのか。私は精神障害から学んだのである。
UP:20160812 REV:
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加藤 真規子
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7.26障害者殺傷事件
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