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長期入院患者の生き辛さと苦悩、自己の存在と生存を懸けて

古込 和宏 2016年3月 記

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筋ジストロフィー  ◇病者障害者運動史研究

 ※この文章は、当初著者匿名で掲載されましたが(→(匿名))、古込さんの退院に伴いその名を記すことになりました(立岩記)。

 2014年、いくつかの国立病院機構系の旧筋ジス病棟のDMD入院患者の数名と支援者1名からはじまった動きがあった。患者たちを取り巻く療養面の環境悪化やQOLのさらなる低下を危惧した患者が集まりFacebook 上での議論がはじまった。全国の筋疾患の入院患者、在宅患者問わず、八雲病院の患者の意思を尊重し寄り添う医療を誰もが求めていて、全国の在宅患者たちは自分が住む近くの国立病院機構病院を頼るのではなく、多くの在宅患者は遠い八雲病院を目指す現状があった。このことは裏を返せば地元の国立病院機構病院に、患者の意思を尊重し寄り添う医療がないことを端的にあらわしているものであった。また機構病院の長期入院患者の立場からすると、八雲とは雲泥の差がある医療と療養、非人間的な扱いを死ぬまで受けさせられることに耐えがたいものを感じていて、全国の国立病院機構病院に八雲と同じ医療と療養環境を拡大することを願いメンバーは活動に参加していたし、患者はその恩恵を享受する権利があると思っていた。
 入院患者が窮状に陥っても助けを求める場や機会もなく、ますます孤立を深めるだけだったので、まず声を出す場を設け協会との繋がりを作ることからはじめた。患者の声を吸い上げないことには機構の改善の動きは始まらないということで、筋ジス協会への要望書提出を進め皆でまとめ、以下の内容で提出された。全国の機構病院に入院している筋ジス患者に対して、医療とQOLの実態調査の実施と、患者・家族、医療関係者、支援者を中心とした、QOLを向上させるための委員会の設置を求めた。それに併せ「現在、地方に居住する患者が地域に暮らせる様、また十分な支援を受けられる様、患者の選択肢を広げて頂き、協会として国に働きかけること」の文言も追加した。重度になるほど距離的な問題から、八雲を依存先にするのも不可能になっていくのは目に見えていて、そのときが来たら地元の機構病院を依存先にするしかなくなる。在宅患者にとっても機構病院は地域に暮すため、患者の選択肢を広げるための重要なデバイスであり、在宅患者にも入院患者の窮状は他人事ではなく関心を持ってもらう流れを作る必要性があることを、活動に参加していたメンバーの共通認識としてあった。
 要望書が受理されてしばらくして、求めていたQOLを向上させるための委員会は病型別の分科会として設置されQOLを向上させるための活動が開始された。私が思い描くものとは別の形のものとなったのは仕方なかったが、非常に残念であった。この形で現状を変えるには、あまりにも時間が掛かり過ぎるという予感が私の中にあった。私のいる病院の患者やその家族と連絡を取り合ったりして、家族である保護者に私のいる病室に来て頂き分科会の説明と参加への理解を求めた。私は分科会の趣旨の一つに、親亡きあとの人生がさらに現実味を増す中で、患者の自立確立は重要で分科会の活動の趣旨に盛り込むよう要求した。今後、病院でのQOL低下はさらに進み、その中で自己決定をしていくには難しく患者の自立が必要だと考えていた。漠然とだが病状が軽いうちに地域で暮らし社会性を身に付けたうえで、病院に戻るのもありだと思い始めていたが、それは私の苦い経験から出た発想。話が少しそれたが保護者の理解の反応は薄かった。親としては我が子に病院にいてもらった方が安心できるし、預かってもらう以上、病院から見て目立つ行動は取りたくない。少なからずとも年金を頼る部分も理由にあるだろう。患者の反応にはもっと失望した。誰かがこの現状を変えてくれるだろうという主体性と問題意識のなさ、呼びかけに応じない患者は思考停止していると私は思うことにした。これも想定はしていたが、このような協力を得られない中で、私のいる病院で八雲の取り組みをと頑張っても限界がある。仮に外圧により八雲の取り組みを受け入れさせたとして実際行われたとしても、私のいる病院の現場では破たんすると思った。患者が八雲の取り組みを求めるなら病院にいながらではなく、外に出て求めるしかないと思い地域移行するしかないという結論に至った。しかし次第に地域移行は八雲の事だけではなく、自立するための理由としてほうが大きくなっていった。自己決定を求めるために病院と延々と話す時間は、もう私にはないし、病院とやり合うのも飽きた。そして活動メンバーと私のあいだに分科会の設立の経過から意見の相違と温度差があり活動からも身を退き協会からも抜けた。保護的空気が自分に合わなかった。患者が自己決定をするには地域移行で自立し患者が生存するための権利を手に入れるしかないという結論に辿り着いた。そのことに気付くのも地域移行の取り組みを始めるのも、あまりにも遅すぎたが病状的にも状況が厳しくても前例作りを成功させ、あとから来る人に道を踏み固めてほしいし、やがて立派な道になるはず。障害者収容施設で身近な人間から死ぬまで搾取され続け、人生を終えることほど理不尽なことはない。それを終わらせるためにも、私の少ない残り時間の中で地域移行を間に合わせたい。きっと失ったものよりも大きなものを得られると信じたい。


 協会への要望書が書かれたのは2014年10月で、その後、協会機関誌に掲載され、以下は掲載全文。

 旧筋ジス病棟がある国立病院機構病院の入所患者から、協会への要望が寄せられましたので、全文をそのまま掲載します。なお、患者が入所する病院名は伏せてあります。
※以下、囲みにする


2 0 1 4 協 会 へ の 要 望

 私達は、自立支援法施行に基づき、病院での生活において医療と療養面でのサポートが保証されています。
 毎年、病院側と契約を更新しながら、多くの患者が長期入院をしており、地方に居住する患者は、行政の支援を十分に得る事が難しく、病気が重度になるほど地域で生活することが困難になり、長期入院を余儀なくされ、社会的入院という道を選択しています。
多くは、国立療養所時代の筋ジス病棟に子供の頃から入院している筋ジス患者が割合を占め、地域で過ごすよりも入院で人生を過ごす患者の方が多いのです。自立支援法は、障害者が自己の選択のもとで自分らしく生きるため、国がそれを支援すべく作られた法律です。いまだ私達地方の患者は、病院で長期入院という選択肢しかないのは、非常に残念な状況です。
 さて、○○病院内の筋ジス病棟は、現在、筋ジス患者の他に、難病の混合病棟になっており、職員の業務も多岐にわたり過密になってきました。過酷な業務ゆえ、体調を崩され休職や離職する職員もいて、人手不足という悪循環の中に常にあります。
 そんな状況の中で医療のサポートは十分受けられていますが、療養介護のサポートは、医療的業務がどうしても優先される為、年々先細りしており、あらゆる理由を付けられ縮小されております。重度の患者が離床して車いすに移乗する事が月に一度あるかないかです。
 患者がPCの電源を入れてもらうだけでも、それは療養介護の実績として記録に残ると言う、如何なものです。
 これらの問題の背景には、本来供給されるべきサービスに対して圧倒的に人員が不足しているので、患者が求めることのできる最低限のニーズに応える事が出来ないでいるからです。
 それどころか接遇面でも疎かになり、気管切開して発声できない患者への対応では、職員が口パクで読めることを理由に文字盤を使う事を省略され、忙しさを理由に後回しにされる事もあります。これは予めパソコンで文字を打っても拒否される事があります。私達、 患者は様々な場面で不利益を甘受せねばなりません。
はたして自分達は意志を持って、人間としての尊厳を持ちながら生きているのかさえ疑問に思いながら、不信感だけが募り、両親にも、それを口にすることさえ憚れる環境の中、諦めの心境で生きる者もいます。
 完治しない患者にとって「諦め」に追いつめられる事は、これ以上ない理不尽です。
 北海道の国立病院機構八雲病院は、医療とQOLにおいて日本でもトップで全国から患者が集まるほどの信頼を得ております。
 裏を返せば、このような事態は、格差だという事を顕著に表しております。勿論そのような格差解消に向けた努力は、一病院の努力では出来ない部分もあります。
 八雲では気管切開を回避するため、NPPVで高い医療とQOLを維持する事を実践して、八雲の方式を普及する取り組みを行っています。
 他の国立病院機構でもNPPVを取り入れているところはありますが、このままでは筋ジス医療は後退どころか崩壊してしまうという不安と危機感さえあります。
 これまで筋ジス患者の受け入れをしてきた国立病院機構の病院は、在宅の患者にとっても頼みの綱です。
 国立病院機構の質の低下は在宅患者が、地域で安心して暮らすことを続けるためにも大きなダメージになります。

そこで私達は協会に次の要望を出させて頂きます。

◯ 全国の国立病院機構に入院している筋ジス患者に対して、医療とQOLの実態調査を協会から各支部に通達して、協会と各支部の責任のもとで、病院を通さず行うこと。

◯ 協会内に患者・家族、医療関係者、支援者を中心とした、QOLを向上させるための委員会(その内部にはグループワーク)を設置し、当事者同士が、あらゆる問題を議論し解決を模索する場、あらゆる当事者が連携し意識を高める場とし、協会の大会や総会などで提言できる機会を求めます。格差が表面化した場合は、その解消に向け対策を検討し、協会として国に働きかけること。

◯ 現在、地方に居住する患者が地域に暮らせる様、また十分な支援を受けられる様、患者の選択肢を広げて頂き、協会として国に働きかけること。

 以上、難題のようではありますが、これらを私達が本来得るべき権利として勝ち取れる事を、協会としてご尽力の程、宜しくお願い申し上げます。


UP: 20160307 REV: 20190427
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