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「社会保障審議会・障害者部会報告書(2015年12月14日付)をどう読むか――政府・財務省の社会保障解体方針と関連して」

古賀 典夫 2016/03/** 

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last update: 20160418


社会保障審議会・障害者部会報告書(2015年12月14日付)をどう読むか
ー政府・財務省の社会保障解体方針と関連して


 12月14日は、この報告書に向けた最後の'社会保障審議会・障害者部会'の会議となりました。この場には、厚労省から報告書の案が示され、委員からはいろいろな指摘が行われました。報告書の案は、12月4日と14日の2回提示されて、いくつかの書き直しが行われていました。14日の会議を経て、報告書についても、14日の案から3か所ほどが書き換えられています。
 厚労省に私が1月20日に確認したところ、この書き直し作業に実際には数日かかった、とのことでした。したがって実際には、12月14日に、この報告書が存在していたわけではありません。しかもこの報告書は、12月14日の資料であるかのような形で、厚労省ホームページに記載されています。

 報告書は、以下のアドレスで閲覧できます。
障害者部会審議会資料 |厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000107941.html

 この報告書が対象とする期間は、次のように記されています。

  「今後、本報告書に基づき、関係法律の改正や平成30年度に予定されている障害福祉サービスの次期報酬改定等に向けて、具体的な改正内容について検討を進め、財源を確保しつつその実現を図るべきである。」

 厚労省は3月1日に、「関係法律の改正」として、’障害者総合支援法’と児童福祉法の改定を主とする法案を、閣議決定し、国会に提出しました。
 また、「平成30年」すなわち2018年は、'総合支援法'にかかわる事業所への報酬改定の時であるとともに、その3月31日は、利用者負担の減額を規定している経過措置の期限でもあります。
この法案やその後の運用がどのようなものになっていくのかを考えるには、政府、とりわけ昨年次々と社会保障の解体方針を提示してきた財務省の方針との関係を、考えておかなければならないと思います。この報告書には、実際に次のような文章が出てきます。

 「(障害福祉サービス等の持続可能性の確保)
○政府は、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)について、2020年度
(平成32年度)までに黒字化を目指すとの財政健全化目標を掲げており、社会保障関係費については、平成32年度に向けて、その伸びを、高齢化による増加分と消費税率引上げと併せて行う充実等に相当する水準におさめることを目指すこととされている。財政制度等審議会では、障害者総合支援法の見直しに当たっては、サービス提供の在り方や財源・利用者負担の在り方等について幅広く検討を行い、制度の持続可能性の確保を図るべきと建議されている。」

 ここで、「財政制度等審議会」という言葉が出てきますが、これは、財務省の審議会です。政府や財務省の方針に従っていくことを、この報告書は示しているのではないでしょうか。
 政府の言う社会保障関係の「制度の持続可能性」という言葉は、社会保障を切り下げるためのレトリックになっているわけですが、「障害福祉サービスの重点化・効率化」とは、障害福祉制度の改悪であり、「負担の在り方の見直し」とは、利用料の引き上げであることは間違いありません。
 ではまず、政府、とりわけ、財務省関係の方針とは、どのようなものなのかから見ていきたいと思います。

★政府、財務省の方針とは

  4月27日、財務省主計局が「財政制度等審議会・財政制度分科会」に、「社会保障」と題する文章を提出しました。社会保障費削減のための方向を示し、'障害者総合支援法'施行3年後の見直しについても、予算削減の立場からの方針を記しています。
 6月1日には、財政制度等審議会の「財政健全化計画等に関する建議」(以下、6月1日建議)が発表されています。これは、上述の主計局の方針を盛り込んだものとなっており、安部首相を議長とする'経済財政諮問会議'に提出されました。
 6月30日、'経済財政諮問会議'が「経済財政運営と改革の基本方針2015」を出し、閣議決定されます。「障害者」の制度見直しについては触れられていないものの、社会保障全体の削減の方針が「歳出改革は聖域なく進める。社会保障と地方行財政改革・分野横断的な取組等は、特に改革の重点分野として取り組む。」と強調されています。「尊厳死」を推進する記載もあります。
 10月9日、'財政制度等審議会・財政制度分科会'に、社会保障に関する「総論、経済・財政一体改革の改革工程、障害福祉」(以下、10月9日文書)という文章が提出されます。社会保障制度の改悪について、検討から法案提出の時期まで記しています。介護保険の利用者負担を基本的に2割にするなど、今年前半に出された内容よりも、さらにエスカレートしています。障害福祉についても、'児童デイサービス'や'就労継続支援'にも新たに触れています。
 11月24日、'財政制度等審議会'が「平成28年度予算の編成等に関する建議」(以下、11月24日建議)を、財務大臣に提出します。「政府においては、本建議の趣旨に沿い、今後の財政運営に当たるよう強く要請する」とするこの文章は、社会保障の切り捨てがメインとなっています。
 これらに具体的に示されている制度改悪は、けっして社会保障制度の持続のためでなく、社会保障を解体するために推し進められるのではないか、と私は思います。

●社会保障解体のための方針

 財務省関係の文章で私が一番驚いたのは、介護保険制度改悪方針のすさまじさです。要介護1・2の人を、介護保険のサービス給付の対象から外し、家事援助を中心とする「生活援助」・福祉用具・住宅改修は自費で購入すべきである、というのです。こうすることによって、「サービスの効率化、産業の発展が図られる」というのです。財政審の6月1日建議には医療保険についての次のような文章が出てきます。
 「この公的保険給付の範囲の重点化は、保険給付額を抑制して制度の持続性に貢献すると同時に、公的保険から外れた市場を産業として伸ばしていくことにより、経済成長とも整合的であり、社会保障の雇用・成長市場としての側面を損なわずに社会保障改革を進めることができるメリットがある。」
 これって社会保障、国民皆保険制度の解体ですよね。「骨太の方針二〇一五」では、「社会保障をはじめとする公的サービスの産業化の推進」という表現とならんで、次のような記述があります。
 「全国一律に一定の行政サービスを保障する仕組みの下、コスト意識が希薄化し、自助自立を促す取組や公共サービス需要の膨張を抑制する取組が弱い。また、一律的なサービス提供であるため、選択肢が乏しく、創意工夫が発揮されにくい。」
 これでは、地域間格差をつくることはもちろん、政府が社会保障を行う責任を規定した憲法第二十五条そのものの否定です。

●政府は、2016年度から社会保障大改悪を本格的に進めようとしている

 「経済財政運営と改革の基本方針2015」では、次のように述べています。
 
 「(1)集中改革期間と中間評価
計画の初年度である平成28年度予算から手を緩めることなく本格的な改革に取り組む。計画期間の当初3年間(2016〜2018年度)を「集中改革期間」と位置付け、「経済・財政一体改革」を集中的に進める。その取組を毎年度の予算編成及び関係する全ての計画、基本方針、法案等に反映させる。」

 このプランの中で、社会保障の大改悪が進められようとしているのです。'障害者総合支援法'の改定は、この期間の冒頭にくるわけで、以下に紹介する社会保障改悪方針との関係をも反映させた法案が出てくることが予想されます。反対に、ここで運動を強化して政府の方針を食い止めていくことができれば、そのほかの社会保障改悪も阻止する展望を開くことができると思うのです。
 では、具体的にどのような改悪を政府が進めようとしているのか、'財政制度等審議会'関係の10月9日付文書と11月24日建議に書かれている内容を紹介します。
 
●医療

 ・「28年度末までに全都道府県で地域医療構想を策定
・地域医療構想に示される2025年段階の医療機能別病床数の達成、2020年時点の中間目標の設定」(10月9日文書)

 上述した政府の社会保障関係の文章では、医療制度をめぐる部分に最も多くの文字数を使っています。これを分析する力量を私は持ち合わせませんが、病棟の再編として、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4類型としようとしています。これにより、早期に保険点数の低い病床に送るか、早期に退院させて、後は在宅介護という体制にもっていくことを進めようとしているのだと思います。
 もちろん、在宅介護の体制を強化しようとなどとはしていません。だから、「尊厳死」の推進が出てくるわけです。「尊厳死」の推進については、10月9日付文書の以下の部分からも読み取れます。

 「F在宅や介護施設等における看取りも含めて対応できる地域包括ケアシステムを構築
G人生の最終段階における医療の在り方を検討」

 また、精神科病院については、厚労省が2015年4月から敷地内グループホーム(地域移行支援型ホーム)を認める省令改悪を行っています。また、2015年1月27日に閣議決定された「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では、「認知症」者に対する精神科病院の関与を強めています。安倍政権に大きな影響を持っている'日本精神科病院協会'が医療再編の中で、生き残りをかけて入院患者囲い込みを進めているという側面があるわけですが。

・「かかりつけ医以外を受診した場合において個人が日常生活で通常負担できる少額の定額負担の導入」(10月9日文書)

・「〔高額療養費制度〕負担能力に応じた適正な負担とするため、@高齢者のみに設けられている外来の特例措置の廃止、
A入院・外来を通じて、高齢者の自己負担の月額上限を、所得水準に応じて現役世代と同じ基準へと見直し」(10月9日文書)

 次に紹介する介護保険制度改悪もそうですが、利用者負担を増大させようとしています。

●介護保険制度

・「介護保険における高額介護サービス費制度についても、高額療養費と同水準までの利用者負担限度額の引上げが必要である。」(11月24日建議)

 利用者負担限度額を、現在の3万7200円などから大幅に引き上げようとしていることが判ります。

・「医療制度との均衡を踏まえて、65〜74歳について原則2割に見直し」(10月9日文書)

・「医療・介護を通じて「現役並み所得」の基準の妥当性の検討・見直しも行うべきである」(11月24日建議)

 利用者からの取り立てを増やしつつ、「現役並み所得」の所得水準は引き下げ、多く取り立てる対象を増やそうということでしょう。
 すでに、年金所得が280万円以上の人については、介護保険の2割負担が始まっていますが、まだ利用負担限度額が引き上げられていないので、大きな社会問題となっていませんが、負担限度額が引き上げられると、大変な状況になるのではないでしょうか。

・「軽度者に対する生活援助の原則自己負担(一部補助)化
・福祉用具貸与・住宅改修に係る価格及びスペック(仕様書)の見直し、原則自己負担(一部補助)化
・要介護1・2への通所介護サービス等について、自治体の予算の範囲内で実施する仕組み(地域支援事業)へ移行」(10月9日文書)

 昨年の法改悪で、要支援1・2の人を、介護保険サービス給付の対象から外したわけですが、要介護1・2の人も、給付対象から外すというのです。
 要介護2の人など、買い物を一人ではできない状態だと思うのですが、「生活援助サービスについては、日常生活で通常負担する費用であり、介護保険給付を中重度者に重点化する観点、民間サービス事業者の価格・サービス競争を促す観点から、原則自己負担(一部補助)化すべきである」(11月24日建議)と言います。私たち庶民にとって、買い物など家事については、必要でなければ家事援助者の費用など払わないのですが、財務官僚やこうした審議に参加する企業経営者や大学教授の家では、お手伝いさんがいるということなのでしょうか。後に記述しますが、「障害者」の家事援助についても、介護保険と同様の方向で改悪しようとしているのです。

 さらに、医療保険や介護保険利用の地域差、介護認定の地域差を問題として、これを是正するとしているのですが、低きに合わせようとしているのでしょう。そのために、国の財政調整交付金を使ったり、高齢者の医療について、地域によって報酬に差を作ることを述べています。
 財務省が保険者に求めているポイントは、「後発医薬品の使用促進、重複・頻回受診/重複投薬の防止」(10月9日文書)などです。必要な部分もありますが、医療が受けにくい体制が作られることについては、警戒する必要があるのではないでしょうか。
 後発医薬品については、添加剤の違いなどから、とりわけ、向精神薬については、効き方が違ってくる、とも言われます。後発医薬品が無理強いされることも懸念されます。
 さらに、11月24日建議では、「特許切れ先発医薬品に関しては、後発医薬品の価格を超える部分を患者の自己負担とする制度改革について、平成29年央における後発医薬品の数量シェア目標の進捗評価の時期を目途に、具体化の方策を取りまとめるべきである」とも述べており、とことん患者に負担を負わせようとしています。

 こうした医療と介護保険の制度については、来年(2016年(中に検討を行い、2017年には通常国会に法案を提出するとしています。
 その後、75歳以上の高齢者についても、医療や保険の窓口負担を2割にしようとしています。

●生活保護

 以下は、11月24日建議からの引用です。

・「生活扶助等については、就労意欲の向上の観点も踏まえつつ、経済社会情勢の変化やこれまでの社会保障・社会福祉分野における制度の拡充を考慮して、各種加算・扶助の必要性や在り方を見直すなど、現行制度で可能な見直しは、できる限り早い時期に結論を得て、実施すべきである」
 ・「生活保護費全体の約5割を占める医療扶助については、不当な医療扶助等を行う医療機関の適正化措置の徹底、後発医薬品の使用促進、医療費の一部自己負担の導入の検討を含む頻回受診の抑制などに不断に取り組まなければならない」

・「能力に応じた就労又は就労に向けた訓練を受けることを原則とするとともに、正当な理由なくこれを拒否した場合には、保護の停止・廃止、保護費の減額を含む柔軟な対応を可能とする制度とすべきである。」

・「平成29年度の生活扶助基準の検証に合わせ、生活保護制度の在り方について検討を行い、その結果を踏まえて、平成30年通常国会への法案の提出等の所要の措置を講ずるべきである」

 生活扶助、住宅扶助、冬季加算を引き下げてきたばかりなのに、さらに引き下げようとしていることが判ります。'障害者加算'もなくすことが狙われているのではないでしょうか。
 「医療費の一部自己負担」は、生活扶助部分から支払うことになるのでしょうから、それ自体が生活扶助の大幅削減になってしまうのではないでしょうか。
 就労の強制が最もかかるのは'その他世帯'ですが、ここには高齢者や障害・傷病を有する人が相当数含まれています。年齢についていえば、60歳以上と未成年者が49%を占めているとのことです。就労強制の重圧は、病気をますます悪化させることが懸念されます。
 後発医薬品の強制も懸念されます。


★財政審方針と障害者部会報告書

 障害者部会の審議の資料として、厚労省は、財政審や「経済財政運営と改革の基本方針2015」の文章を資料の中に数度(3回は確認)にわたって入れています。そして、障害者部会報告書の中にも、そうした内容を検討事項や指摘された事項として盛り込んでいます。以下では、財政審の10月9日文書と障害者部会報告書がどのように対応しているか、示していきたいと思います。
 
・財政審
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 「○ 障害保健福祉に関しては、利用者負担が概ね生じず、利用限度額も設定されておらず、今後もサービス供給・需要の伸びが見込まれる中で、真に支援を必要とする者に必要な支援を確実に行き届かせるとともに、サービス提供を効率的なものとすることにより、制度の持続可能性を確保していくことが必要ではないか。
○ そのため、障害者総合支援法の施行後3年を目途とした見直しに当たっては、不合理な地域差の改善など執行面における適正化に加え、地域の実情に応じ効率的にサービスを提供する仕組みの活用など障害者の自立や就労を支援するための効率的なサービス提供の在り方、制度を支える財源・利用者負担の在り方等について幅広く検討を行っていくべきではないか。」
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・障害者部会報告書
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 「○障害福祉サービスについては、義務的経費化を行うことで、支援を必要とする障害
者等に対し、安定的にサービスを提供することができるようになった。一方で、障害福祉サービス関係予算額が10年間で2倍以上に増加しており、国・地方自治体の財政状況にも配慮する必要がある。
○社会保障関係費全体について制度の持続可能性の確保が求められている中、障害福
祉サービスについても、障害者に対して必要な支援を確実に保障するため、サービス提供を可能な限り効率的なものとすること等により、制度を持続可能なものとしていく必要がある。今回の制度見直しを含め、障害者のニーズを踏まえたサービスの充実においては、既存の障害福祉サービスの重点化・効率化を始めとする制度の見直しや負担の在り方の見直し等と併せて、財源を確保しつつ実施していく必要がある。」

 「(障害福祉サービス等の利用者負担)
○障害福祉サービス等の利用者負担については、障害者総合支援法の趣旨やこれまでの利用者負担の見直しの経緯、障害者等の家計の負担能力、他制度の利用者負担とのバランス等を踏まえ、制度の持続可能性を確保する観点や、障害福祉制度に対する国民の理解や納得を得られるかどうかという点、利用抑制や家計への影響といった懸念にも留意しつつ、引き続き検討すべきである。」
------------

 障害者部会報告書では、利用者負担の在り方を検討するとしているのですが、この検討とは社会保障審議会・障害者部会の中の検討ではなく、厚労省内で検討するもののようです。ここだけでなく、報告書には「引き続き検討」という言葉があちこちに出てきます。このことについて、報告書とりまとめまでの最後の会議となった12月14日の障害者部会で、田中障害福祉課長は次のように述べています。
 「「引き続き検討」ですけれども、これについては今回の審議会の取りまとめにおいて、引き続き検討すべきということを厚生労働省として宿題をいただくものだと思っております。なので、厚生労働省として引き続き検討を続けさせていただくわけですが、ものによって異なるということがあろうかと思いますが、適切なものは将来この部会で御議論をいただくことも想定されるものだと考えております。」(議事録)
 厚労省内で検討して結論を出すのが基本。厚労省が「適切」と判断すれば障害者部会にも出すが、ということでしょう。

 障害者部会の資料として、厚労省は、多制度と比べて、障害福祉制度の利用者負担が以下に低いか、という資料を、少なくとも2度にわたり提出します。そこでは、「障害者」が公的保険料、病院での窓口負担(自治体の減免措置がある場合もあるが、それが適用されない人もいる)、制度に乗らないためにその人の「障害」にかかわって支出しなければならない金額などは考慮されていません。
 厚労省としては、応益負担の復活を狙っていると思いますが、そうなると法改悪が必要となります。しかし、現在の'障害者総合支援法'は、利用者負担を応能にしているという建前はありますが、1割までは徴収することが可能な法律です。政令を改定すると利用料を引き上げることはできます。
 
・財政審
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「○ 障害福祉サービス等が充実されていることを踏まえれば、制度の持続可能性を確保していくためにも、制度を支える財源、利用者負担の在り方等を検討する必要があるが、特に、障害者自立支援法の施行の際に経過措置として導入された食費負担軽減措置等については、他の制度とのバランスも踏まえ、経過措置終了後に廃止すべきではないか。」
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・障害者部会報告書
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「○利用者負担に関する経過措置(食事提供体制加算等)の見直しについては、時限的な措置であること、施行後10年を経過すること、平成22年度より障害福祉サービスの低所得者の利用者負担が無料となっていること、他制度とのバランスや公平性等を踏まえ、検討すべきである。」
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 注意を要するのは、「経過措置として導入された食費負担軽減措置等」という表現です。
 障害者部会の資料に出ているようにこの経過措置には入所施設の補足給付、'療養介護'利用者および'医療型障害児施設入所'の利用者にかかわる'医療型個別減免、'自立支援医療'の'育成医療'や'精神通院医療'の利用者負担上限額にも関わります。
 '精神通院医療'に関しては、「一定所得以上」(市町村民税23万5千円以上)の世帯について、月2万円の負担上限額を設定していますが、これが経過措置とされているのです。
 これらの経過措置は、何度か延長され、現在は2018年3月31日までとされています。財務省としては、これを延長せずに廃止しろ、と言っているのでしょうが、障害者部会の報告書もほぼ同様の方向に読み取れます。部会委員からは、経過措置を廃止されると打撃になってっしまうことが語られていたのですが。

・財政審
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「○ 新たな判定式が導入された障害支援区分の判定結果を見ると、従来と比べ、全体としてより上位の(重度の)区分にシフトしており、総費用額の増大につながっていると考えられる。また、2次判定における上位区分への変更においても依然として大きな地域差が生じている。このため、新たな判定式の検証を行うとともに、不合理な地域差の改善を図るべきではないか。」
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・障害者部会報告書
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「○障害者自立支援法施行時に導入された障害程度区分については、支給決定における公平性や透明性の確保のため、支給決定の勘案事項とされるとともに、報酬の設定や一部サービスの利用要件として用いられていた。平成26年度には、名称を「障害支援区分」に改めるとともに、障害特性をより適切に評価するため、認定調査項目や各調査項目における判断基準の見直しが行われた。平成26年4月から9月までの審査判定実績においては、障害支援区分の導入前に比べ、知的障害や精神障害を中心に2次判定での引上げ割合が低下しているが、一方で、当該割合には地域差が見られることや、従来と比べて上位区分の割合が上昇しているのではないかとの指摘がある。」

 「○障害支援区分及びその役割については、2次判定の引上げ割合に地域差が見られる
ことなどの指摘があることから、その要因を分析し、判定プロセス(1次判定・2次判定)における課題を把握した上で、その結果を踏まえて、必要な改善策を検討すべきである。また、市町村ごとの審査判定実績等必要な情報を国が把握し、自治体に対して継続的に提供するなど、認定事務の適正な運用を図るべきである。
○障害支援区分に係る制度の趣旨や運用等について周知を行う等、制度の普及・定着
に向けた取組を徹底するとともに、全国の都道府県において、認定調査員等を対象に、それぞれの障害特性にも対応した標準的な研修が実施できるよう、国において研修会用の資料を作成する等の方策を講じるべきである。」
-----------

 財務省としては、'障害支援区分'について、もっと軽度に判定されるようにしろ、と言っているわけです。
 「障害者」本人にとって、適切な支給決定をしようとすれば、その人の住んでいる家屋や地域の状況、本人の希望などを当然にも反映させたものにしなければなりません。そうすると、'障害支援区分認定項目(80項目)で判定している1次判定は、2次判定で変わることは、当然のことです。
 障害者部会報告書をよく読むと、財務省の指摘を検討すると述べています。つまり、「2次判定の引上げ割合に地域差が見られることなどの指摘」とは、財政審の指摘のことであり、それは、重度に判定される傾向のことも含んでいるわけです。そして、「判定プロセス(1次判定・2次判定)における課題を把握した上で、その結果を踏まえて、必要な改善策を検討すべきである」と書いています。だから、軽度になるように判定項目の在り方も含めて検討する、ととらえるべきでしょう。
 他方、「市町村ごとの審査判定実績等必要な情報を国が把握し、自治体に対して継続的に提供するなど、認定事務の適正な運用」という文言は気になるところです。この間の厚労省の動きをみると、低きに合わせることを意識的に追求しようとしているように思われるからです。
 また、認定調査員に対する研修会用のテキストのようなものを作るなどの方策を求めています。

・財政審
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「 ○ 本来の趣旨に則ったサービス利用という観点から、例えば、「短期入所(ショートステイ)」について、1ヶ月間利用している者が事業所ベースで一定数見られることから、その要因分析やその結果に基づく制度改正等が必要ではないか。また、「生活介護」について、サービス利用者の「常時介護の必要性」の検証やその結果に基づく制度改正等が必要ではないか。
(注)短期入所は、介護者の疾病等のため障害者を短期に受け入れるサービス。稼働率が低いこと等から、報酬単価は施設入所支援に比べ高めに設定。生活介護は、常時介護が必要な者に対し、入浴等の介護や生産活動の機会の提供等を行うサービス。日中サービス系の中でも、高い報酬単価が設定されている。対象者は障害支援区分3以上などに限定。」

「○ 今後も、介護者の高齢化等により、障害福祉サービス等の需要は伸びると考えられるため、真に支援を必要とする障害者に対し必要な支援を行き届かせる観点から、以下を検討すべきではないか。
@ 居宅介護のうち「家事援助」(掃除や調理・配膳等)について、介護保険における「訪問介護」に係る議論等も踏まえつつ、必要性に応じた給付の在り方の見直し (軽度の障害者の「家事援助」の利用割合は8割超)
A 障害者の地域生活を推進するため、インフォーマルサービス(制度等に基づかない形でNPO等により提供されるサービス)の利用等を進めつつ、一部のサービスについて地域の実情に応じ効率的にサービスを提供する枠組み(地域生活支援事業)の活用」
------------

  介護保険と同じような改悪を狙っているわけです。家事援助を、義務的経費で賄われる個別給付(自立支援給付)から裁量的経費で賄われる「地域生活支援事業」に移すべきである、としているのです。
 9月25日に行われた障害者部会(第71回)で、厚労省が配布した資料の中には、「平成27年度財務省予算執行調査資料」というものがあり、その中には、次のような記述があります。
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 「家事援助については、上記のとおり、その具体的内容は、主に一般的な掃除、調理、洗濯、買い物等であり、介護の高度な専門性が常に要求されるものではないと考えられる(ただし、当然にしてサービス利用者の状態像にもよるものであり、また、状況に応じて介護の知識が必要となることを否定するものではない)。
基本指針(平18厚労告395)にもうたわれているとおり、障害者の地域生活を支援するためにはインフォーマルサービス(ボランティアなど制度等に基づかない形でNPO等により提供されるサービス)の活用を進めていくことが重要であり、家事援助については、その活用を進めることが可能な分野の一つであると考えられる。
 しかしながら、インフォーマルサービスなどの社会資源は、現状、地域によって偏在があることを踏まえれば、家事援助については、地域の実情に応じて自治体が自由度高く効率的にサービスを提供する枠組み(地域生活支援事業)に見直すべきではないか」
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・障害者部会報告書
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「○障害福祉サービスの需要が伸びている中で、例えば、短期入所、生活介護、居宅介護(家事援助)等についても、サービスを必要とする障害者等に支援を行き届かせる観点から、支援の必要性に応じた給付の在り方の見直し等を検討すべきとの指摘がある。例えば、居宅介護については、実質的に相談目的で利用されている事例があるとの指摘もある。また、障害福祉サービスと併せて、ボランティア等も含めたインフォーマルサービスの活用を進めることや、社会の構成員として当事者自身が支え手となることも重要との指摘がある。」
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 財政審の指摘をそのまま検討する、と障害者部会の報告書でも述べてしまっていると言えるのではないでしょうか。

・財政審
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「B 支援を必要とする度合に応じてサービスが提供される仕組みへの見直し (就労支援のサービスやグループホームなど、障害支援区分の認定が必要ないか、支援区分が「非該当」であっても利用が可能なサービスの見直しや、障害支援区分等に応じた利用限度額の導入等)」
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・障害者部会報告書
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 「グループホームには、区分なし、区分1・2の者も多く入居している。こうした中、「地域移行=グループホーム」との考え方に疑問を呈する指摘や、「一人暮らし」
に向けた支援を検討すべきとの指摘がある。」

「○地域での暮らしが可能な障害者が安心して地域生活を開始・継続できるよう、地域生活を支援する拠点の整備を進めるとともに、本人の意思を尊重した地域生活を支援するための方策や重度障害者に対応したグループホームの位置付け等について、対応を行う必要がある。」

 「障害者の地域移行の受け皿となるグループホームについて、重度障害者に対応することができる体制を備えた支援等を提供するサービスを位置付け、適切に評価を行うべきである。また、障害者の状態とニーズを踏まえて必要な者にサービスが行き渡るよう、利用対象者を見直すべきであり、その際には、現に入居している者に配慮するとともに、障害者の地域移行を進める上でグループホームが果たしてきた役割や障害者の状態・ニーズ・障害特性等を踏まえつつ詳細について検討する必要がある。」
-------------

 障害者部会報告書では、さすがに介護保険と同じような支援区分に応じた利用限度額については触れられていません。しかし後述するように、厚労省はあくまで障害者の制度を介護保険と統合しようと考えていますので、利用限度額のようなものを考えていることは間違いないでしょう。
 障害者部会報告書で登場してくるのは、区分なし、区分1、区分2の人を、グループホームの対象から外すような記述です。2014年3月まであったケアホーム(共同生活介護)は、区分2以上の人を利用者としていました。この年の4月に、グループホーム(共同生活援助)に統合されたわけですが、区分3以上とすると、グループホームの定義を規定している第五条15項を変えるかもしれません。例えば、区分3以上の人を対象としている生活介護については、その対象者について「常時介護を要する障害者として厚生労働省令で定める者」と規定されていますので、そのような記載が入ってくる可能性があります。
 「地域生活を支援するための方策」はもちろん重要ですが、財務省の言うような家事援助の見直しを行ってしまったら、地域での生活はますます困難になるでしょう。
 また、グループホームの報酬単価は現在でも非常に低く、そのためか、大声を出したら追い出されるという事例もよく聞きます。そんなグループホームを、「地域生活を支援する拠点」の一つにすることや「重度障害者に対応」させようと、障害者部会報告書では書いているのですが、混乱を引き起こしていくことになるのではないでしょうか。

・財政審
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「○ 放課後等デイサービスについては、近年の制度改正後、事業所の指定基準が緩いことや、事業所が高い収支差を確保できることなどから、営利法人を中心に事業所数が急増し、総費用額も急増していると考えられる。
○ 障害児の生活能力の向上のために必要な訓練等を行うという目的に沿った形で、サービスの質を確保しつつ、真に支援が必要
な障害児に支援を行うためにも、事業所の適切な運営を確保する中で、効率的なサービスの提供を行っていく必要があるのではないか。
○ その際、こうした目的に沿った利用が徹底されるよう、利用回数の設定を行うことや、他の保育サービスとの比較も踏まえて利用者負担を求めること等を検討するべきではないか。」
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・障害者部会報告書
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 「○放課後等デイサービスについては、量的な拡大が著しく、その費用額は1,024億円
(平成26年度)で対前年比5割近くの伸び、その事業所数及び利用者数は対前年比で3割近くの伸びとなっており、特に営利法人が数多く参入している。
さらに、単なる居場所となっている事例や、発達支援の技術が十分ではない事業所が軽度の障害児を集めている事例があるとの指摘がある。」

 「○放課後等デイサービスなどの障害児通所支援については、発達支援を必要とする障
害児のニーズに的確に対応するため、質の向上と支援内容の適正化を図る観点から、放課後等デイサービスガイドラインの活用を徹底するとともに、発達支援等の子どもに関する支援の専門的な知識・経験を有する者の配置を求めるほか、障害児本人の発達支援のためのサービス提供を徹底するなど、制度面・運用面の見直しを行うべきである。」
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 さすがに障害者部会報告書では、利用回数の設定については触れられていません。しかし、質の向上の名のもとに、発達至上主義が求められる恐れはあるのではないでしょうか。

・財務省
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○ こうした就労支援に関しては、どのサービスを受けるかについて障害支援区分の判定が不要とされており、障害支援区分なしの障害者に対しても就労困難を前提とした就労継続支援が行われている。また、就労支援に係る費用も踏まえ、高い賃金が確保される一般就労への移行が必ずしも進んでおらず、就労継続支援における賃金・工賃は一般就労と比較して低い水準。
○ 今後、就労支援サービスについては、本来の趣旨に沿ったサービス提供が行われるよう、就労移行支援・就労継続支援の在り
方を見直しつつ、例えば、障害者毎に適切なサービスを提供するための支援区分を設けることや、第三者が適切なサービスを判断するアセスメントを幅広く活用することなどにより、支援の必要度合いに応じてサービスが提供され、一般就労がより進む仕組みを検討していくべきではないか。」
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・障害者部会報告書
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○就労継続支援については、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者に対して
就業の機会の提供等を行うこととしており、こうしたサービスを利用する中で、能力を向上させ一般就労が可能になる障害者もいることから、一般就労に向けた支援や一般就労への移行実績も踏まえた評価を行うべきである。
また、就労継続支援B型については、高工賃を実現している事業所を適切に評価するなど、メリハリをつけるべきである。就労継続支援A型については、事業所の実態が様々であることを踏まえ、利用者の就労の質を高め、適切な事業運営が図られるよう、運営基準の見直し等を行うべきである。
さらに、一般就労が困難な障害者に対して適切に訓練が提供され、障害者が自らの能力を最大限発揮し、自己実現できるよう支援するため、就労継続支援B型の利用希望者に対して本年度から本格実施されている就労アセスメントの状況把握・検証を行うとともに、その効果的かつ円滑な実施が可能な体制を整備しつつ、対象範囲を拡大していくべきである。
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 どちらも、就労至上主義をますますあおろうとしていることは間違いありません。財務省は、支援区分が低ければ、単純に就労しやすいとか、「手がかからない」と思い込んでいるようです。実際を知らない人たちのたわごとですが、この人々が権力をもってしまっているので、恐ろしい話です。
 障害者部会報告書にあるような就労実績や高工賃を評価するとは、基本報酬単価を低くして、加算を何段階か作るという結果になるでしょう。こうなると、「重度の障害者」や「手がかかる」とされた人たちは、作業所側から拒絶されてしまう恐れがあるのではないでしょうか。少なくとも、地域の仲間が集う日中活動の場としての作業所、というあり方は、ここでは否定されてしまっているように思われます。
 また、同報告書にある「企業に雇用された障害者の早期離職を防ぎ、職場に定着することは、障害者の自立した生活を実現するとともに、障害福祉サービスを持続可能なものとする観点からも重要である」との記述も気になります。一般就労で働かないと、福祉制度は崩壊するぞ、と脅しているようなものです。そして、

★介護保険との関係は、どう書かれているか

●介護保険との統合の検討は堅持

 障害者部会報告書では、「障害福祉制度と介護保険制度との関係や長期的な財源確保の方策を含めた今後の在り方を見据えた議論を行うべきである。」と、あくまで、介護保険との統合を検討をすることを述べています。
 この文章に続く、「この点については、障害福祉制度と介護保険制度は制度の趣旨・目的等が異なるとの意見や両制度の関係は共生社会の実現の観点から検討すべきとの意見もあることに留意する必要がある。」という言葉の挿入は、介護保険との統合議論につながる記述は削除すべきであるという委員(脊髄損傷者連合会の大濱さんなど)と、統合を推進すする立場の委員(佐藤進埼玉県立大学名誉教授、菊池馨実早稲田大学法学学術院教授)の相対立する主張を書いたものなのです。

●介護保険優先も護持

 報告書では、「日本の社会保障は、自助を基本としつつ、共助が自助を支え、自助・共助で対応できない場合に社会福祉等の公助が補完する仕組みを基本とすることを踏まえると、現行の介護保険優先原則を維持することは一定の合理性があると考えられる。」として、介護保険優先原則を護持しています。自助を社会保障の一環であるかのような記述を許していいはずはありません。
 この記述の法理論的な、あるいは、社会保障論としての議論が障害者部会では非常に弱かったのではないかと思います。大濱さんのように、障害福祉と介護保険は、あくまで選択制にすべき、という「骨格提言」どおりの意見表明はありましたが。
 報告書には「障害者総合支援法第7条に基づく介護保険優先原則については、公費負担の制度よりも社会保険制度の給付を優先するという社会保障制度の原則に基づいている」という記述もあります。「社会保障制度の原則」という記述は、法的根拠を示せないからこのように言うほかないのです。
 そもそも、公的保険制度を「共助」などと言うこと自体がおかしいのです。そのような規定は法律上ありません。強制加入させられ、制度が改悪されても抜けられない制度を、「共助」などと言っていること自体許しがたいと思います。そして、公的保険制度には、税財源からの支出も行われているのです。保険料のことを保険税という呼び方をしていた時もあったではないですか。したがって、公助の方法として、税財源で行う「社会扶助方式」と公的保険方式があると考えるべきなのです。
 「骨格提言」発表から約1年後に、'社会保障制度改革推進法'が民主、自民、公明によって成立します。家族同士の助け合い、生活保護制度の改悪、「尊厳死」推進など、全体にわたってとんでもない法律です。ここでは、「自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ」、とか、「年金、医療及び介護においては、社会保険制度を基本とし」などという記述が出てきます。しかし、何が共助なのかという規定はありません。また、優先関係も規定されてはいません。税財源で行われている障害福祉が例外であるなどという解釈は主張されていないし、私たち「障害者」は決して許しません。

 ここに記載されているような「原則」がいつから政府の中で主張され始めたかについては、『賃金と社会保障』1610号の里見賢治氏(佛教大学社会福祉学部教授)の「厚生労働省「自助・共助・公助」の特異な新解釈と社会保障の再定義」によれば、内閣官房長官の私的懇談会である社会保障の在り方に関する懇談会の報告「今後の社会保障の在り方について」(2006年5月26日)からとのことです。この報告作成には、学識経験者としては、財政学者しかおらず、社会保障の研究者は参加していなかったそうです。その後、『厚生白書』の中でも、この考え方が取り上げられるようになるそうですが、必ずしも一貫して取り上げられているわけではないとのことです。社会保障研究者の中からは、今でも批判する方々がいらっしゃるそうです。

●障害福祉と介護保険制度との連携を進める

 障害者部会報告書では、障害福祉から介護保険制度に、障害者がスムーズに移行させるための方策が記述されています。
 「それまで当該障害者を支援し続けてきた障害福祉サービス事業所が引き続き支援を行うことができるよう、・・・その事業所が介護保険事業所になりやすくする等の見直しを行うべきである。」
 '障害者総合支援法'に基づく各地域の協議会と介護保険法に基づく「地域ケア会議及び基幹相談支援センターと地域包括支援センターとの連携」
  「地域の実情に応じた窓口の一元化」
 「障害福祉計画と介護保険事業(支援)計画が一層調和のとれたものとなる方策」
 '障害者総合支援法'による相談支援専門員と介護保険の「介護支援専門員の連携を推進するため、両者の連携が相談支援事
業及び居宅介護支援事業が行うべき業務に含まれる旨を明確にする」
 「65歳を超えても引き続き同一の者による対応等を推進するため、相談支援専門員と介護支援専門員の両方の資格を有する者の拡大のための方策」
 障害福祉の入所施設(A)から介護保険施設(B)に移る場合もスムーズにするための方策が考えられています。Aに入所している人にかかわる公的負担は、出身地の自治体が支払うのですが、介護保険施設に移ると、Aのある自治体が支払うことになります。そうなると、施設の多い自治体が損をする構造になるので、見直すべきであると記載されています。
 以上紹介したように、介護保険制度との実質的な一体化を図ろうとしていることが判ります。

 障害福祉から介護保険制度に移った時に発生する利用料の大幅増額については、「その在り方についてさらに検討」と記載されています。しかしその検討に当たっては、「一般高齢者との公平性や介護保険制度の利用者負担の在り方にも関わることに留意しつつ」としていますので、利用料を減額する方向とは読み取れません。
 なお、『公明新聞』(2015年12月29日付)によれば、党障がい者福祉委員会の高木美智代委員長の談話として、「障がい福祉サービスを利用してきた高齢障がい者が、介護保険サービスを利用する場合、65歳を迎えると、自己負担が大きくなります。このため、障がい福祉制度で負担を軽減する仕組みを提案しました。」と記載されています。

 「介護保険制度移行に関する現行の取扱いを踏まえ、介護保険給付対象者の国庫負担
基準については、財源の確保にも留意しつつ、見直しを行うべきである」との表現が出てきます。
 これは、報告書の中の「障害福祉サービスについて市町村において適当と認める支給量が、介護保険の区分支給限度基準額の制約等から介護保険サービスのみによって確保することができない場合は、障害福祉制度による上乗せ支給がなされる取扱いとされているが、自治体によっては、障害福祉サービスの上乗せが十分に行われず、介護保険サービスの利用に伴って支給量が減少する要因となっている。」という記述に対応したものと思われます。
 「障害者」側からの、介護保険制度に移ったら介助時間が減ってしまう、との介護保険拒否論に対応するため、厚労省はこの2年ほど、介護保険に移ったからと言って介護時間が増減することは考えにくい、との見解を示してきました。
 他方、こうした厚労省の見解に対して、自治体側からは、厚労省は口先でかっこの良いことは言うがそれに見合った予算措置はしない、という反発があります。
 こうした状況に対応する記述を入れておかないとまずい、と考えて書き込んだものと思われます。財源が確保できなかった場合は、財務省や予算の制約のせいにするのかもしれませんが。

 介護保険との関係もあってのことと思われますが、厚労省は、補装具の貸与(レンタル(方式の導入を報告書案に書き込みました。これに反対する委員と児童の場合はレンタルも必要と言う委員の間のやり取りがあり、次のような表現となりました。
 「補装具については、効果的・効率的な支給に向け、実態の把握を行うとともに、購入を基本とする原則を堅持しつつ、成長に伴って短期間で取り替えなければならない障害児の場合など、個々の状態に応じて、貸与の活用も可能とすることや、医療とも連携した相談支援の体制整備等を進めるべきである。」

★「精神障害者」に対する政策

●'日本精神病院協会'の言いなりなのか

 報告書には現状として、「精神科病院では、新規入院者の87%が1年未満で退院する一方で、約20万人が1年以上入院しており、毎年5万人の長期入院者が退院し、新たに5万人が長期入院者となっている状況である。」と記されています。
 こうした記述の仕方に対しては、昨年11月13日に行われた障害者部会において、日本相談支援専門員協会の菊本委員の代理の岩上参考人が次のように指摘しています。
 「毎年5万人の退院があるという所ですが、ここに内訳として「1万1,000人が死亡している」というのを入れていただきたい。それから、「転院・転科が1万9,000人いらっしゃる」と。地域移行が進んでいないですよということです。これは是非お願いしたい。」(議事録より)
 これに対して、'日本精神科病院協会'(私立精神科病院の団体)の川嵜委員が「先ほど岩上参考人から、10ページの4行目、長期入院者は毎年5万人が退院するという、これの内訳についての言及がありました。・・・退院者の5万人の内訳だけをここに記載するというのは、少し問題があるのではないか」(議事録より)と発言します。
 そして、報告書においても、退院者の内訳が記載されることはなかったのです。長期入院問題の深刻さが記載されなかったということです。

 報告書には、「ピアサポートを担う人材を養成する研修」という言葉が出てきます。この研修の必要性をまず語ったのも、川嵜委員です。
 「精神障害者」の仲間からは、行政や病院の行う研修を受けなければならなくなると、ピアの意義が失われてしまう、との意見が出されています。小沢委員(筑波大教授)や本条医院(「精神障害者」の家族の団体)からも会議の場で異論が出されていたのですが。

 12月4日に厚労省が提出した報告書案には、「精神障害者の入院の予防と家族支援の観点から、短期入所について、医療との連携を強化すべきである。」と記載されていました。
 これに対して、川嵜委員から「精神障害者の入院の予防」というのがあります。これは、例えば疾病予防、がん予防、脳梗塞の予防等々を考えますと、何かを予防するというのは、好ましくない状況のものを防ぐというのが通常の日本語の使い方かなとも思いまして、はたして入院というのは悪いことなのでしょうかという意味合いでは、ここの表現は少し考えていただきたい。」(議事録より)と発言しました。上述の岩上委員も、この点では同意する発言をしています。
 かくして、14日に配られた報告書案から「入院予防」は削除され、報告書の記載もそのようになりました。

●今後の取り組みとしては

 「地域移行に向けたサービスの体験利用」

「都道府県障害福祉計画に記載される精神障害者の長期在院者数の削減目標を、市町
村障害福祉計画に記載される障害福祉サービスのニーズの見込量に反映させる方法を提示すべきである。」

★「地域生活を支援する新たなサービス」、「定期的な巡回訪問」

 報告書の中で、最も目新しい言葉です。新たなサービスについては、次の記述のことだと思います。
「グループホームから一人暮らしへの移行を希望する知的障害者や精神障害者などについて、本人の意思を尊重した地域生活を支援するため、障害者の一人暮らしを支える仕組みを構築し、安心して一人暮らしへの移行ができるよう、障害者の日常生活を適切に支援できる者による定期的な巡回訪問や随時の対応により、障害者の理解力、生活力等を補う観点から、適時のタイミングで適切な支援を行うサービスを新たに位置付けるべきである」

 報告書は続けて、「その際、当該サービスの内容を踏まえつつ、他のサービスの利用の在り方についても整理を行うべきである」と述べています。この「他のサービス」とは何を指しているのかは不明です。
 
 地域の一人暮らしを支える制度としては、’総合支援法’の観点からすると、’地域定着支援事業’の発展やグループホームのサテライト型住居の発展ということも考えられるはずです。これらは、両方とも個別給付(自立支援給付)の事業です。このような方向を、障害者部会報告書や障害者部会の審議からは、私としては読み取れなかったのですが。

★入院時の介助

 ここは、改善点です。
 「重度障害者の地域生活を支えている重度訪問介護を利用している者について、医療保険の給付範囲や医事法制との関係を整理しつつ、入院中も医療機関で重度訪問介護により、一定の支援を受けられるように見直しを行うべきである。あわせて、意思疎通支援事業が入院中においても引き続き適切に利用されるよう、周知を図るべきである。」
 入院中の解除は、多くの「障害者」関係団体が要求してきたことです。介助対象が限定されることのないように注意は必要です。

 
★移動支援

 多くの「障害者」関係団体は、移動支援を、'地域生活支援事業'から'個別給付'にすることを求めていました。しかし報告書は、現状維持としています。
 改善点となる記述は、「医療機関に入院中の外出・外泊に伴う移動支援については、障害福祉サービス(同行援護、行動援護、重度訪問介護)が利用できることを明確化すべきである。」というものです。
 しかし、'同行援護'は「重度の視覚障害者」に限定されたものであり、'行動援護'は「行動障害」項目を満たした人でないと使えません。'重度訪問介護'については、支援区分4以上の「身体障害者」か、「行動障害」項目を満たした「知的障害者」と「精神障害者」となります。したがって、適用範囲が狭いのです。


★「障害者の範囲

 12月14日の会議に配られた報告書案は、これまでの厚労省の立場を主張するものであり、以下のような記述になっていました。
 「障害者総合支援法はサービス給付法という性質を有するため、制度の対象となる者の範囲を客観的に明確にしておく必要があるが、障害福祉サービスを真に必要とする者がサービスを受けることができるよう、引き続き検討を行うとともに、指定難病に関する検討状況も踏まえつつ、対象疾病の見直しを検討していくべきである。」

 これに対して、この日も本条委員などから'障害者基本法'に定義を合わせるように求める意見が出ました。その結果、報告書の記述は以下のように変わりました。
 「障害者総合支援法については、平成25年4月に、制度の対象として難病等が追加され、順次、対象となる疾病の拡大が図られており、本年7月には151疾病から332
疾病に拡大されている。また、障害者総合支援法における「障害者」の定義を、障害者基本法における「障害者」の定義に合わせるべきではないか、小児慢性特定疾病における対象疾病も含め、支援を必要とする疾病を幅広く対象とすべきではないか等の意見がある。」

 この意見を実現するためには、’総合支援法’第四条第1項の障碍者の定義を変えないといけないわけですが、厚労省の姿勢は、これまでかたくなにこれを拒否し続けてきた経緯があります。

★全体として

 改善になる記述もあるものの、全体としては、やはり福祉切り捨ての方向で動くものとなっていると思われます。


*作成:小川 浩史
UP: 20160418 REV:
障害者と政策  ◇生活・生存 全文掲載
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