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精神障害者のアジアを横断する同盟の結成――インクルージョンに向けた地域変革(TCI-Asia)について

伊東香純  2015/11/30
障害学国際セミナー 2015於:北京

[English]

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last update:20160429


■背景

精神障害の当事者の運動は欧米を中心におこなわれてきた。
1991年、ヨーロッパ精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(European Network of (ex-)Users and Survivors Psychiatry: ENUSP)成立.(ENUSP 2015)
1991年、世界精神医療ユーザー連盟(World Federation Psychiatric Users: WFPU),第1回会議 (於:Mexico City, Mexico)
出席者8名(NL 1, USA 2, Mexico 1, NZ 2, Japan 2) (WNUSP 2015a)
1993年、WFPU,第2回会議(於:Tokyo, Japan)
 出席者26名(Britain 2, NL 1, Sweden1, USA 3, NZ 3, Japan 16) (WNUSP 2015b)
2001年、世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(World Network of Users and Survivors of Psychiatry: WNUSP),第1回会議 (於:Vancouver, Canada)
 出席者12か国から34組織(アジアからは台湾から2つ、日本から1つの組織)
2004年、WNUSP,第2回会議 (於:Vejle, Denmark)
 53か国から出席者184名(Pakistan 8, China 2, India 2, Japan 4 , Philippines 2 and Nepal 1 from Asia) (WNUSP 2015c)
2005年、アフリカ精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(Pan African Network of Users and Survivors of Psychiatry: PANUSP)成立. (PANUSP 2015)
2009年、WNUSP,第3回会議 (於:Kampala, Uganda) (WNUSP 2015c)

■アジアの背景

アジアには、まだ当事者の運動が存在しない国がたくさんある。

□2004年のWNUSPの第2回会議の閉会式での総会のまとめ
「アジア/パシフィック地域には、まだ地域のネットワークをつくらないことに決めている。なぜならその地域は、正式なネットワークをつくるには早すぎるし、多様すぎるからだ。しかし、パートナーシップの計画は考えている」(Holling 2004)

□多くの国には精神医療体制がない。これらの国では、精神障害者が精神医療のユーザー・サバイバーだというアイデンティティをもっていない傾向にある。これは、アジアにおいてユーザー・サバイバーの運動があまりないことの理由の一つである。 (TCI-Asia Oct. 29 2014a)

■アジアの国々の問題

アジアのユーザー・サバイバーは差別と排除のなかを生きつづけている。

□精神保健法制のある国
例)日本、インド、韓国、中国
・強制的な治療をおこなう多くの刑事的な精神医療施設が存在する。
・精神障害が犯罪のように扱われている。

□精神保健法制のない国
例)ネパール、フィリピン、スリランカ、バングラデシュ、タイ
・精神障害者のための十分な支援体制がない
・世界中で施設において人権侵害がおこっているという膨大な証拠にもかかわらず、いくつかの国では精神衛生法をつくる計画を立てている

アジアでは精神保健法制のある国もない国も状況はよくはない。
↓この状況を変革するために
アジアでユーザー・サバイバーが地域で暮らせるようにしなくてはならない。

■TCI-Asiaのための準備会議

2013年5月 於:Pune, India
6か国からの出席者
アジアでの(自身での権利擁護とソーシャルワーカーによるものとの両方の)インクルージョンのための地域を基盤とした活動について経験を共有した。

□インクルージョンをすすめるためにアジアの基盤をもっていることの必要性が明らかになった。
- 障害の種別をこえた運動
- 地域及び世界のほかの支援者
と協力していく

□障害者の権利条約第19条(自立した生活及び地域社会への包容)の強調
なぜならアジアは:
- 社会的文化的な構造がいまだに強く、それを利用できるから。
- すべての社会関係が契約によるのではなく、近所や地域社会の概念が存在しているから。
(TCI-Asia Dec. 30 2015)

■TCI-Asiaの成立

2014年11月4-7日 於:Bangkok, Thailand
12か国から38名の出席者(2か国からの2人の出席者はアジア以外の地域から)

TCI-Asiaの現在の優先事項:
1) 戦略、意見表明を通し、精神科施設が存在する国々では脱施設化の推進を主張する

2) オルタナティブを強調しつつ、精神保健的問題を抱えている人精神障害者への地域社会に根ざしたプログラムの開発に向け国の政策に影響を与える

3) 国内そして地域レベルで、様々なレベルで障害の権利主張をインクルージョンすることを確保するために、障害種別を超えた運動や人権運動と緊密に連携して取り組む

4) アジアにおける私たちの任務と実践をとおして、各国政府が地域社会開発の活気に満ちた取り組みを通じ条約19条の履行を確保するよう働きかけ促進する

5) 地域における有効な権利主張活動のためによりよい組織化をする
(TCI-Asia Oct. 29 2014b, Dec. 30 2014=2014)

■TCI-Asiaの発展

□戦略会議
2015年6月9-12日 於:Bangkok, Thailand
9か国から19人の出席者

□総会
2015年11月17-21日 於:Incheon, South Korea

■結論

アジアにおいて精神障害者のおかれている状況は、精神保健法制のある国とない国ではまったく異なっており、多様である。このためにこの地域では、同じ主張を掲げて運動することが難しかった。またアジア地域には、精神障害者の運動がほとんど存在しない国が多く、これも連帯を難しくしてきた。このような状況でのアジアを横断する組織TCI-Asiaの結成は大きな意義のあることだ。この組織は、地域へのインクルージョンを主な目標としてかかげている。すでに精神保健法制があって、施設に排除されている人たちがいる地域での脱施設化の運動ももちろん重要である。
しかし、まだ精神保健法制がなく、精神障害者が地域のなかで隔離されていたり、これから法律をつくって施設に収容していこうとしたりする地域で、これに抵抗する運動をおこなっていることにこそ、この同盟の意義はあると考える。このような地域では、本人たちの運動はほとんどない。このため、それがよくない状況を招くことが認識されないままに、施設収容が進んでしまうことが予測できる。そこで先に施設収容のなされた地域の運動家が自分たちの経験を伝えることが、同じ歴史を繰り返すことを避けることにつながる。

■Refereces

◇European Network of (ex-)Users and Survivors of Psychiatry, 2015, "Who We Are," (http://www.enusp.org/index.php/about-us/who-we-are, last access date: Nov. 14, 2015).
◇Holling, Iris, 2004, "Closing Ceremony Summary," (http://wnusp.rafus.dk/documents/vejle04_closingsummary.pdf, last access date: Nov. 14, 2015).
◇Pan African Network of Users and Survivors of Psychiatry, 2015, "Home," (http://www.panusp.org/, last access date: Nov. 14, 2015).
◇Transforming Communities for Inclusion in Asia, Oct. 29, 2014a, "Statement of Purpose of TransAsia Group on Inclusion," (https://transformingcommunitiesforinclusion.wordpress.com/2014/10/29/statement-of-purpose-of-transasia-group-on-inclusion/, last access date: Nov. 14, 2015).
◇――――, Oct. 29, 2014b, "Participants to the II Asian Regional Conference on Transforming Communities for Inclusion," (https://transformingcommunitiesforinclusion.wordpress.com/2014/10/29/participants-to-the-ii-asian-regional-conference-on-transforming-communities-for-inclusion/, last access date: Nov. 14, 2015).
◇――――, Dec. 30, 2014, "Announcing the TransAsian Alliance on Transforming Communities for Inclusion of Persons with Psychosocial Disabilities," (https://transformingcommunitiesforinclusion.wordpress.com/2014/12/30/announcing-the-transasian-alliance-on-transforming-communities-for-inclusion-of-persons-with-psychosocial-disabilities/, last access date: Nov. 14, 2015).=2014,山本眞理,「精神障害者をインクルージョンする地域社会変革へのアジア横断同盟の宣言」全国「精神病」者集団(2015年12月3日取得http://www.jngmdp.org/%E5%9B%BD%E9%80%A3%E4%BA%BA%E6%A8%A9%E3%83%A1%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0/2711)
◇――――, May 29, 2015, "Strategy Meeting of TCI Asia 9-12 Bangkok 2015," (https://transformingcommunitiesforinclusion.wordpress.com/2015/05/29/strategy-meeting-of-tci-asia-9-12-bangkok-2015/, last access date: Nov. 14, 2015).
◇World Network of Users and Survivors of Psychiatry, 2015a, "WFPU First committee meeting, Mexico City," (http://wnusp.rafus.dk/wfpu-first-committee-meeting-mexico-city.html, last access date: Nov. 14, 2015).
◇――――, 2015b, "Minutes of WFPU Meetings, Japan," (http://wnusp.rafus.dk/minutes-of-wfpu-meetings-japan.html, last access date: Nov. 14, 2015).
◇――――, 2015c, "General Assemblies," (http://wnusp.rafus.dk/general-assemblies/, last access date: Nov. 14, 2015).




*作成:伊東香純
UP:20151203 REV: 20151207, 20160429
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