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認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)

認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて

厚生労働省 2015/01/27 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html

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認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜

平成27年1月27日

 我が国における認知症の人の数は2012(平成24)年で約462万人、65歳以上高齢者の約7人に1人と推計されている。正常と認知症との中間の状態の軽度認知障害(MCI:MildCognitiveImpairment)と推計される約400万人と合わせると、65歳以上高齢者の約4人に1人が認知症の人又はその予備群とも言われている。

 また、この数は高齢化の進展に伴いさらに増加が見込まれており、今般、現在利用可能なデータに基づき新たな推計を行ったところ、2025(平成37)年には認知症の人は約700万人前後になり、65歳以上高齢者に対する割合は、現状の約7人に1人から約5人に1人に上昇する見込みとの結果が明らかとなった。認知症の人を単に支えられる側と考えるのではなく、認知症の人に寄り添いながら、認知症の人が認知症とともによりよく生きていくことができるよう、環境整備を行っていくことが求められている。

 一方、高齢化に伴う認知症の人の増加への対応は今や世界共通の課題となっている中、世界でもっとも早いスピードで高齢化が進んできた我が国が、全国的な公的介護保険制度の下、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、医療・介護・介護予防・住まい・生活支援が包括的に確保される地域包括ケアシステムの実現を目指す中で、社会を挙げた取組のモデルを示していかなければならない。

 このため、いわゆる団塊の世代が75歳以上となる2025(平成37)年を目指し、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会を実現すべく、今般、「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)(2012(平成24)年9月厚生労働省公表)を改め、新たに「認知症施策推進総合戦略〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜」(新オレンジプラン)を策定した。△001
 本戦略の策定に当たっては、認知症の人やその家族をはじめとした様々な関係者から幅広く意見を聞き、認知症の人やその家族の視点に立って、施策を整理した。また、本戦略は、厚生労働省が、内閣官房、内閣府、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省と共同して策定したものであり、今後、関係府省庁が連携して認知症高齢者等の日常生活全体を支えるよう取り組んでいく。

第1.基本的考え方

 認知症高齢者等にやさしい地域づくりを推進していくため、認知症の人が住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けるために必要としていることに的確に応えていくことを旨としつつ、以下の7つの柱に沿って、施策を総合的に推進していく。本戦略の対象期間は2025(平成37)年までであるが、施策ごとに具体的な数値目標を定めるに当たっては、介護保険が3年を一つの事業計画期間として運営されていることを踏まえ、その動向と緊密に連携しながら施策を推進していく観点から、2017(平成29)年度末等を当面の目標設定年度としている。

@認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進

 社会全体で認知症の人を支える基盤として、認知症の人の視点に立って認知症への社会の理解を深めるキャンペーンや認知症サポーターの養成、学校教育における認知症の人を含む高齢者への理解の推進など、認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進を図る。

A認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供

 本人主体の医療・介護等を基本に据えて医療・介護等が有機的に連携し、認知症の容態の変化に応じて適時・適切に切れ目なく提供されることで、認知症の人が住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができるようにする。このため、早期診断・早期対応を軸とし、行動・心理症状(BPSD:BehavioralandPsychologicalSymptomsofDementia)や身体合併症等が見られた場合にも、医療機関・介護施設等での対応が固定化されないように、退院・退所後もそのときの容態にもっともふさわしい場所で適切なサービスが提供される循環型の仕組みを構築する。△002

B若年性認知症施策の強化

若年性認知症の人については、就労や生活費、子どもの教育費等の経済的な問題が大きい、主介護者が配偶者となる場合が多く、時に本人や配偶者の親等の介護と重なって複数介護になる等の特徴があることから、居場所づくり、就労・社会参加支援等の様々な分野にわたる支援を総合的に講じていく。

C認知症の人の介護者への支援

 高齢化の進展に伴って認知症の人が増えていくことが見込まれる中、認知症の人の介護者への支援を行うことが認知症の人の生活の質の改善にも繋がるとの観点に立って、介護者の精神的身体的負担を軽減する観点からの支援や介護者の生活と介護の両立を支援する取組を推進する。

D認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進

 65歳以上高齢者の約4人に1人が認知症の人又はその予備群と言われる中、高齢者全体にとって暮らしやすい環境を整備することが、認知症の人が暮らしやすい地域づくりに繋がると考えられ、生活支援(ソフト面)、生活しやすい環境の整備(ハード面)、就労・社会参加支援及び安全確保の観点から、認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進に取り組む。

E認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進

 認知症をきたす疾患それぞれの病態解明や行動・心理症状(BPSD)を起こすメカニズムの解明を通じて、認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発の推進を図る。また、研究開発により効果が確認されたものについては、速やかに普及に向けた取組を行う。なお、認知症に係る研究開発及びその成果の普及の推進に当たっては、「健康・医療戦略」(平成26年7月22日閣議決定)及び「医療分野研究開発推進計画」(平成26年7月22日健康・医療戦略推進本部決定)に基づき取り組む。

F認知症の人やその家族の視点の重視

 これまでの認知症施策は、ともすれば、認知症の人を支える側の視点に偏△003 りがちであったとの観点から、認知症の人の視点に立って認知症への社会の理解を深めるキャンペーン(再掲)のほか、初期段階の認知症の人のニーズ把握や生きがい支援、認知症施策の企画・立案や評価への認知症の人やその家族の参画など、認知症の人やその家族の視点を重視した取組を進めていく。

第2.具体的な施策

1.認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進

【基本的考え方】
 誰もが認知症とともに生きることになる可能性があり、また、誰もが介護者等として認知症に関わる可能性があるなど、認知症は皆にとって身近な病気であることを、普及・啓発等を通じて改めて社会全体として確認していく。

(1)認知症の人の視点に立って認知症への社会の理解を深めるキャンペーンの実施

○広告等を通じて、認知症への社会の理解を深めるための全国的なキャンペーンを展開する。その際、認知症の人が生き生きと活動している姿は、認知症に関する社会の見方を変えるきっかけともなり、また、多くの認知症の人に希望を与えるものでもあると考えられる。特に、初期段階の認知症の人が、できないことを様々な工夫で補いつつ、できることを活かして希望や生きがいを持って暮らしている姿は、認知症の診断を受けた後の生活への安心感を与え、早期に診断を受けることを促す効果もあると考えられる。認知症に対する画一的で否定的なイメージを払拭する観点からも、認知症の人が自らの言葉でそのメッセージを語る姿等を積極的に発信していく。

(2)認知症サポーターの養成と活動の支援

○ 認知症サポーターの養成システムは、我が国が世界に誇る普及・啓発の取組であり、引き続き、認知症に関する正しい知識と理解を持って、地域や職域で認知症の人やその家族を手助けする認知症サポーターの養成を進める。△004

※【認知症サポーターの人数(累計)】(目標引上げ)
 2014(平成26)年9月末実績545万人
           ⇒2017(平成29)年度末800万人
*近年の養成動向を踏まえ、2017(平成29)年度末600万人の目標を800万人に上方修正。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

○ また、今後は、認知症サポーターを量的に養成するだけでなく、あくまでもできる範囲で手助けを行うという活動の任意性は維持しつつ、養成された認知症サポーターが認知症高齢者等にやさしい地域づくりを加速するために様々な場面で活躍してもらえるようにすることに、これまで以上に重点を置く。

○ 具体的には、地域や職域などで行われている創意工夫を凝らした様々な先進的な取組事例を全国に紹介していくことで、新たな活動へと繋げていく。また、地方自治体等が認知症サポーター養成講座を修了した者を把握するとともに、認知症サポーター養成講座を修了した者が復習も兼ねて学習する機会を設け、座学だけでなくサポーター同士の発表・討議も含めたより上級な講座など、地域や職域の実情に応じた取組を推進していく。

※【認知症サポーター養成講座を修了した者が復習も兼ねて学習する取組の推進】(新設)
2015(平成27)年度学習手法の見本について検討
      ⇒2016(平成28)年度〜地域や職域の実情に応じた取組を推進※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

(3)学校教育等における認知症の人を含む高齢者への理解の推進

○ 学校において、高齢者との交流活動など、高齢社会の現状や認知症の人を含む高齢者に対する理解を深めるような教育を推進する。また、小・中学校での認知症サポーター養成講座の開催等を利用した認知症に関する正しい理解の普及を進める。さらに、大学等において、学生がボランティアとして認知症高齢者等と関わる機会を持つことができるよう、自主的な取組を推進する。

2.認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供

【基本的考え方】△005
 2025(平成37)年を目指して、早期診断・早期対応を軸とする循環型の仕組みを構築することで、本人主体の医療・介護等を基本に据えて医療・介護等が有機的に連携し、発症予防⇒発症初期⇒急性増悪時⇒中期⇒人生の最終段階という認知症の容態の変化に応じて適時・適切に切れ目なく、そのときの容態にもっともふさわしい場所で提供される仕組みを実現する。

(1)本人主体の医療・介護等の徹底

○ 認知症の人の状態は、周囲の人々やケアの状態を反映する鏡とも言われる。認知症医療・介護等に携わる者は、認知症の人を、各々の価値観や個性、想い、人生の歴史等を持つ主体として尊重し、できないことではなくできることに目を向けて、本人が有する力を最大限に活かしながら、地域社会の中で本人のなじみの暮らし方やなじみの関係が継続できるよう、支援していくことが重要である。

○ このような本人主体の医療・介護等の原則は、その提供に携わるすべての者が、認知症の人が置かれた環境の下で、認知症の容態の変化に応じたすべての期間を通じて共有すべき基本理念であることを改めて徹底し、医療・介護等の質の向上を図っていく。

(2)発症予防の推進

○ 加齢、遺伝性のもの、高血圧、糖尿病、喫煙、頭部外傷、難聴等が認知症の危険因子、運動、食事、余暇活動、社会的参加、認知訓練、活発な精神活動等が認知症の防御因子とされている。認知症の発症予防については、運動、口腔に係る機能の向上、栄養改善、社会交流、趣味活動など日常生活における取組が、認知機能低下の予防に繋がる可能性が高いことを踏まえ、住民主体の運営によるサロンや体操教室の開催など、地域の実情に応じた取組を推進していく。

(3)早期診断・早期対応のための体制整備

(かかりつけ医等の対応力向上や認知症サポート医の養成等)

○ 認知症の症状や発症予防、軽度認知障害(MCI)に関する知識の普及啓△006 発を進め、本人や家族が小さな異常を感じたときに速やかに適切な機関に相談できるようにするとともに、かかりつけ医による健康管理やかかりつけ歯科医による口腔機能の管理、かかりつけ薬局における服薬指導のほか、地域、職域等の様々な場における、町内会、企業や商店、ボランティアやNPO、警察等による様々なネットワークの中で、認知症の疑いがある人に早期に気付いて適切に対応していくことができるような体制を構築していく。

○ このためには、「1.認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進」に掲げた施策のほかに、まず何よりも身近なかかりつけ医が認知症に対する対応力を高め、必要に応じて適切な医療機関に繋ぐことが重要である。かかりつけ医の認知症対応力を向上させるための研修や、かかりつけ医の認知症診断等に関する相談役等の役割を担う認知症サポート医の養成を進めるほか、認知症に関する専門医、認定医等について、数値目標を定めて具体的に養成を拡充するよう、関係各学会等と協力して取り組む。

※【かかりつけ医認知症対応力向上研修の受講者数(累計)】(目標引上げ)
2013(平成25)年度末実績38,053人
      ⇒2017(平成29)年度末60,000人
*高齢者人口約600人に対して1人のかかりつけ医が受講するという基本的考え方を約500人に1人に引き上げ、2017(平成29)年度末50,000人の目標を60,000人に上方修正。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

※【認知症サポート医養成研修の受講者数(累計)】(目標引上げ)
2013(平成25)年度末実績3,257人
      ⇒2017(平成29)年度末5,000人
 *一般診療所(約10万)25か所に対して1人のサポート医を配置という基本的考え方を20か所に1人に引き上げ、2017(平成29)年度末4,000人の目標を5,000人に上方修正。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

○ また、かかりつけ機能に加えて地域の医療機関、認知症疾患医療センター、地域包括支援センター等との日常的な連携機能を有する歯科医療機関や薬局も、認知症の早期発見における役割が期待される。歯科医師等による口腔機能の管理や薬剤師による服薬指導等を通じてこれらの専門職が高齢者等と接する中で、認知症の疑いがある人に早期に気付き、かかりつけ医等と連携して対応するとともに、その後も認知症の人の状況に応じた口腔機能の管理や服薬指導等を適切に行うことを推進する。このため、歯科医師や薬剤師の認知症対応力を向上させるための研修の在り方について検討した上で、関△007 係団体の協力を得ながら研修を実施する。

※【歯科医師・薬剤師の認知症対応力向上研修(仮称)】(新設)
2015(平成27)年度研修の在り方について検討
      ⇒2016(平成28)年度〜関係団体の協力を得て研修実施※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

(認知症疾患医療センター等の整備)

○ 認知症の疑いがある人については、かかりつけ医等が専門医、認知症サポート医等の支援も受けながら、必要に応じて認知症疾患医療センター等の専門医療機関に紹介の上、速やかに鑑別診断が行われる必要がある。

○ 認知症疾患医療センターについては、都道府県域全体の拠点機能を担うものや一部地域の拠点機能を担うものなど、都道府県ごとに地域の中で担うべき機能を明らかにした上で、認知症疾患医療センター以外の鑑別診断を行うことができる医療機関と併せて、計画的に整備を図っていく。また、個々の認知症疾患医療センターの機能評価も併せて行うことで、PDCAサイクルにより認知症疾患医療センターの機能を確保していく。

※【認知症疾患医療センターの数】
2014(平成26)年度見込み約300か所
      ⇒2017(平成29)年度末約500か所
*目標自体は変更しないが、基幹型、地域型及び診療所型の3類型の機能やその連携の在り方を見直し、地域の実情に応じて柔軟に対応できるようにする。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

(認知症初期集中支援チームの設置)

○ 早期に認知症の鑑別診断が行われ、速やかに適切な医療・介護等が受けられる初期の対応体制が構築されるよう、認知症初期集中支援チームの設置を推進する。市町村が地域包括支援センターや認知症疾患医療センターを含む病院・診療所等にチームを置き、認知症専門医の指導の下、複数の専門職が認知症が疑われる人又は認知症の人やその家族を訪問し、観察・評価を行った上で家族支援などの初期の支援を包括的・集中的に行い、かかりつけ医と連携しながら認知症に対する適切な治療に繋げ、自立生活のサポートを行う。△008

※【認知症初期集中支援チームの設置市町村数】(目標引上げ)
2014(平成26)年度見込み41市町村
      ⇒2018(平成30)年度〜すべての市町村で実施
*地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(平成26年法律第83号。以下「医療介護総合確保推進法」という。)を踏まえ、新たに目標を設定。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

(早期診断後の適切な対応体制の整備)

○ 認知症は早期診断を行った後の対応体制の整備が重要である。早期診断の際に地域の当事者組織の連絡先を紹介するなど、地域の実情に応じ、認知症の人やその家族の視点に立った取組を推進する。

(4)行動・心理症状(BPSD)や身体合併症等への適切な対応

(循環型の仕組みの構築)

○ 認知症の人に行動・心理症状(BPSD)や身体合併症等が見られた場合にも、医療機関・介護施設等で適切な治療やリハビリテーションが実施されるとともに、当該医療機関・介護施設等での対応が固定化されないように、退院・退所後もそのときの容態にもっともふさわしい場所で適切なサービスが提供される循環型の仕組みを構築する。その際、入院・外来による認知症の専門医療も循環型の仕組みの一環であるとの認識の下、その機能分化を図りながら、医療・介護の役割分担と連携を進める。認知症を含む精神疾患は、医療計画に位置づけられていることを踏まえ、都道府県は地域における医療提供体制の整備を進めることとする。

○ 介護現場の能力を高め、介護で対応できる範囲を拡げるためには、精神科や老年科等の専門科による、医療の専門性を活かした介護サービス事業者等への後方支援と司令塔機能が重要であり、その質の向上と効率化を図っていく。具体的には、精神科病院等が介護事業所等と連携する、あるいは地域のネットワークに加わり、介護職員や家族、認知症の専門科ではない一般診療科の医師等からの相談に専門的な助言を行ったり、通院や往診(通院困難な場合)等により適切な診断・治療を行ったりすることが必要である。△009

(行動・心理症状(BPSD)への適切な対応)

○ 行動・心理症状(BPSD)は認知症の進行により必ず生じるものではなく、また、その発現には身体的要因や環境要因が関与することもある。まずは早期診断とその後の本人主体の医療・介護等を通じて行動・心理症状(BPSD)を予防するほか、行動・心理症状(BPSD)が見られた場合にも的確なアセスメントを行った上で非薬物的介入を対応の第一選択とするのが原則である。

○ 行動・心理症状(BPSD)に投薬をもって対応するに当たっては、生活能力が低下しやすいことや服薬による副作用が生じやすいことなど高齢者の特性等を考慮した対応がなされる必要があり、「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」等の普及を図っていく。また、複数の医療機関からの投薬による内服薬の重複や副作用等が頻回にみられるとの指摘もあり、地域医療における投薬の調整に資する取組みを進める。

○ 行動・心理症状(BPSD)に対応するに当たっては、病識を欠くことがあり、症状によっては本人の意思に反したり行動を制限したりする必要がある。精神科病院については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)の体系の中で、行動の制限が個人の尊厳を尊重し、人権に配慮して行われるよう、適正な手続き等が定められている。また、介護保険施設や入居系のサービスについては、介護保険法(平成9年法律第123号)の体系の中で、身体的拘束等の原則禁止と緊急やむを得ず身体的拘束等を行う場合の適正な手続き等が定められている。引き続き、これらの仕組みに基づき、行動の制限が必要な場合にあってもそれが適切に行われるようにするとともに、これら以外の医療・介護等の現場においてもこのような趣旨が徹底されるようにするための方策について、検討を進める。

○ 認知症の人の入院においては、行動・心理症状(BPSD)が大きな要因を占め、その際、家族は限界まで疲弊してから認知症の人を入院させることがあるため、入院し、行動・心理症状(BPSD)が緩和されても在宅復帰を尻込みし、結果として入院が長期化するとの負の連鎖があることがある。早期診断・早期対応を推進するとともに、認知症の人の介護者への支援を行うことが認知症の人の生活の質の改善にも繋がるとの視点に立って、家族の精神的身体的負担を軽減する観点からの支援を推進する。△010

○ 精神科病院における認知症の人の入院に関しては、標準化された高度な専門的医療サービスを必要に応じて集中的に提供する場として、長期的・継続的な生活支援サービスを提供する介護サービス事業所や施設と、適切に役割を分担し、連携を図ることが望まれる。なお、慢性の行動・心理症状(BPSD)及び中等度から重度の身体合併症を伴う場合等においては、長期的に専門的な医療サービスが必要となることもある。

○ 認知症の人に精神科病院における医学的な治療が必要かどうかについては、介護力、サービス支援、受け皿等の地域差異が大きく、入院が必要な状態を一律に明確化することは困難であるが、@妄想(被害妄想など)や幻覚(幻視、幻聴など)が目立つ、A些細なことで怒りだし、暴力などの興奮行動に繋がる、B落ち込みや不安・苛立ちが目立つこと等により、本人及び介護者等の生活が阻害され、専門医による医療が必要とされる場合が考えられる。

○ また、医療機関・介護施設等での対応が固定化されないように、退院・退所後もそのときの容態にもっともふさわしい場所で適切なサービスが提供される循環型の仕組みを構築する観点からも、早期退院・退所を阻害する要因を検討した上で、地域における退院支援・地域連携クリティカルパスの作成を進め、医療機関・介護施設等からの円滑な退院・退所や在宅復帰を支援する。

(身体合併症等への適切な対応)

○ 認知症の人の身体合併症等への対応を行う急性期病院等では、身体合併症への早期対応と認知症への適切な対応のバランスのとれた対応が求められているが、現実には、認知症の人の個別性に合わせたゆとりある対応が後回しにされ、身体合併症への対応は行われても、認知症の症状が急速に悪化してしまうような事例も見られる。身体合併症対応等を行う医療機関での認知症への対応力の向上を図る観点から、関係団体による研修も積極的に活用しながら、一般病院勤務の医療従事者に対する認知症対応力向上研修の受講を進める。△011

※【一般病院勤務の医療従事者に対する認知症対応力向上研修の受講者数(累計)】
2013(平成25)年度末実績3,843人
      ⇒2017(平成29)年度末87,000人
*病院(約8,700)1か所当たり10人(医師2人、看護師8人)の医療従事者が受講という基本的考え方は変更せず。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

○ 身体合併症への適切な対応を行うためには、身体合併症等への対応を行う急性期病院等における行動・心理症状(BPSD)への対応力を高めること、及び精神科病院における身体合併症への対応力を高めることがともに重要であり、身体合併症等に適切に対応できる医療の提供の場の在り方について検討を進める。

○ 急性期病院をはじめとして、入院、外来、訪問等を通じて認知症の人と関わる看護職員は、医療における認知症への対応力を高める鍵となる。既存の関係団体の研修に加え、広く看護職員が認知症への対応に必要な知識・技能を修得することができる研修の在り方について検討した上で、関係団体の協力を得ながら研修を実施する。

※【看護職員の認知症対応力向上研修(仮称)】(新設)
2015(平成27)年度研修の在り方について検討
      ⇒2016(平成28)年度〜関係団体の協力を得て研修実施(適切な認知症リハビリテーションの推進)※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

○ 認知症の人に対するリハビリテーションについては、実際に生活する場面を念頭に置きつつ、有する認知機能等の能力をしっかりと見極め、これを最大限に活かしながら、ADL(食事、排泄等)やIADL(掃除、趣味活動、社会参加等)の日常の生活を自立し継続できるよう推進する。このためには認知機能障害を基盤とした生活機能障害を改善するリハビリテーションモデルの開発が必須であり、研究開発を推進する。また、介護老人保健施設等で行われている先進的な取組を収集し、全国に紹介することで、認知症リハビリテーションの推進を図る。

(5)認知症の人の生活を支える介護の提供△012

(介護サービス基盤の整備)

○ 認知症の人は、その環境に応じて、居宅で家族等の介護を受け、独居であっても地域の見守り等の支援を受けながら、小規模多機能型居宅介護や定期巡回・随時対応サービスなどの訪問・通所系サービスを受けたり、認知症グループホーム(認知症対応型共同生活介護)や有料老人ホーム等における特定施設入居者生活介護などの居住系サービスを利用したり、介護保険施設に入ったりと、様々な形で介護サービスと関わりながら生活をしていくこととなる。介護保険事業計画及び介護保険事業支援計画に沿って、介護サービス基盤の整備を進めていく。

○ 特に認知症グループホーム(認知症対応型共同生活介護)については、認知症の人のみを対象としたサービスであり、地域における認知症ケアの拠点として、その機能を地域に展開し、共用型認知症対応型通所介護や認知症カフェ等の事業を積極的に行っていくことが期待されている。また、地域に開かれた事業運営が行われないと、そのサービス形態から外部の目が届きにくくなるとの指摘もあることから、介護サービスの質の評価や利用者の安全確保を強化する取組みを進める。その他のサービスにおいても、利用者の中の認知症の人の割合が増加する中、認知症への対応力を向上することが求められており、これらの機能を発揮できるような仕組みの整備を進めていく。

(良質な介護を担う人材の確保)

○ 認知症の人への介護に当たっては、認知症のことをよく理解し、本人主体の介護を行うことで、できる限り認知症の進行を緩徐化させ、行動・心理症状(BPSD)を予防できるような形でサービスを提供することが求められている。このような良質な介護を担うことができる人材を質・量ともに確保していく。

○ このため、現場経験おおむね2年以上の者が認知症介護の理念、知識及び技術を修得するための「認知症介護実践者研修」⇒現場経験おおむね5年以上の者が事業所内のケアチームの指導者役となるための「認知症介護実践リーダー研修」⇒現場経験おおむね10年以上の者が研修の企画立案・講師役等となるための「認知症介護指導者養成研修」というステップアップの研修△013 体系について、医療・介護等の連携に資するよう、必要な研修内容の見直しを行った上で、eラーニングの部分的活用など研修を受講しやすい仕組みの導入を図りつつ、受講者数の増加を図る。その際、研修ニーズに的確に対応できるよう、一定の質の担保を前提とした上で、都道府県等から関係団体への研修の委託等の取組を推奨していく。また、これらの研修の修了者が介護現場だけでなく、地域の認知症施策の中で様々な役割を担うことができるようにしていく。

※【認知症介護指導者養成研修の受講者数(累計)】
2013(平成25)年度末実績1,814人
      ⇒2017(平成29)年度末2,200人
*中学校区(約11,000)5つ当たり1人が受講という基本的考え方は変更しない。また、必要な研修内容の見直しやeラーニングの部分的活用など研修を受講しやすい仕組みの導入について、2015(平成27)年度に検討を行い、2016(平成28)年度からの実施を目指す。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

※【認知症介護実践リーダー研修の受講者数(累計)】
2013(平成25)年度末実績2.9万人
      ⇒2017(平成29)年度末4万人
*すべての介護保険施設(約15,000)とグループホーム(約14,000)の職員1人ずつが受講し、加えて、小規模多機能型居宅介護事業所、訪問介護事業所、通所介護事業所等の職員はすべての中学校区(約11,000)内で1人ずつが受講という基本的考え方を改め、認知症介護指導者養成研修の受講者数(累計)と認知症介護実践リーダー研修の受講者数(累計)の2013(平成25)年度末実績の比率(約1:16)を用いて、2017(平成29)年度末の認知症指導者養成研修の受講者数(累計)の目標値から算出。また、必要な研修内容の見直しやeラーニングの部分的活用など研修を受講しやすい仕組みの導入について、2015(平成27)年度に検討を行い、2016(平成28)年度からの実施を目指す。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

※【認知症介護実践者研修の受講者数(累計)】(目標新設)
2013(平成25)年度末実績17.9万人
      ⇒2017(平成29)年度末24万人*認知症介護実践リーダー研修の受講者数(累計)と認知症介護実践者研修の受講者数(累計)の2013(平成25)年度末実績の比率(約1:6)を用いて、2017(平成29)年度末の認知症介護実践リーダー研修の受講者数(累計)の目標値から新たに算出。また、必要な研修内容の見直しやeラーニングの部分的活用など研修を受講しやすい仕組みの導入について、2015(平成27)年度に検討を行い、2016(平成28)年度からの実施を目指す。
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

○ さらに、新任の介護職員等が認知症介護に最低限必要な知識・技能をeラ△015 ーニングの活用により修得できる研修として、新たに認知症介護基礎研修(仮称)を導入することとし、認知症介護に携わる可能性のあるすべての職員がこれを受講することを目指す。

※【認知症介護基礎研修(仮称)の受講者数(累計)】(新設)
  ⇒認知症介護に携わる可能性のあるすべての職員の受講を目指す
*eラーニングの活用により新任の介護職員等が認知症介護に最低限必要な知識・技能を修得できる研修について、2015(平成27)年度にモデル事業を行い、2016(平成28)年度からの実施を目指す。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

(6)人生の最終段階を支える医療・介護等の連携

○ 人生の最終段階にあっても本人の尊厳が尊重された医療・介護等が提供されることが重要であり、その在り方について検討を進める。特に認知症の人には意思能力の問題があることから、例えば延命処置など、将来選択を行わなければならなくなる場面が来ることを念頭に、多職種協働により、あらかじめ本人の意思決定の支援を行っておく等の取組を推進する。

(7)医療・介護等の有機的な連携の推進(認知症ケアパスの確立)

○ 地域ごとに医療・介護等が適切に連携することを確保するためには、認知症の容態に応じた適切なサービス提供の流れ(「認知症ケアパス」)を確立することが必要である。2015(平成27)年度からの第6期介護保険事業計画の策定に当たっては、地域で作成した「認知症ケアパス」を踏まえて介護サービス量の見込みを定めるよう求めている。また、認知症ケアパスは、地域ごとの医療・介護等の資源を列挙するだけに留まらず、認知症の人一人ひとりのケアパスに沿って、支援の目標を設定し、これが認知症の人やその家族、医療・介護関係者等の間で共有され、サービスが切れ目なく提供されるように、その活用を推進していく。

(医療・介護関係者等の間の情報共有の推進)

○ 認知症は今や一般的な病気(Common Disease)であり、診療科を超えて連携して対応していく必要があるほか、介護による生活の支援がないと医療で△015 の対応だけでは支援が成り立たないという特徴がある。特に、早期診断・早期対応や行動・心理症状(BPSD)、身体合併症等への対応においては、かかりつけ医・認知症サポート医・認知症専門医、認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センター、急性期対応を主とする病院・リハビリテーション対応を主とする病院・精神科病院、歯科医療機関、薬局、地域包括支援センター、介護支援専門員、介護サービス事業者など様々な主体が関わることから、医療・介護関係者等の間の情報共有が重要である。

○ 例えば行動・心理症状(BPSD)が生じている原因や背景については、医療・介護等の双方の視点から身体的要因や環境要因のアセスメントについて意見を交わすことが重要である。まずは、介護関係者が医療関係者の診断をしっかりと理解し、それを生活の支援に活かしていく一方で、例えば投薬が認知症の人の生活にどのような変化をもたらしているかについて、医療関係者が介護関係者からフィード・バックを得ることが、適切な診断や投薬に繋がっていくことも考えられる。かかりつけ医等と介護支援専門員等を中心として、医療・介護関係者が顔の見える関係を築き、コミュニケーションを取りながら連携を図っていくことが重要である。

○ このため、認知症に関わる医療・介護連携のマネジメントを行う上で必要な情報連携ツールの例を提示することなどを通じて、地域の実情に応じた医療・介護関係者等の連携の取組を推進する。その際、情報連携ツールそのものも重要であるが、地域ごとに認知症の医療・介護等に携わる関係者が集まり、使いやすい情報連携ツールについて議論を交わすプロセス自体も、顔の見える関係の構築を通じて、医療・介護等の連携に資するものと考えられる。このような取組に併せ、地域ケア会議において、認知症に関わる地域資源の共有・発掘や連携を推進する。

※【認知症情報連携シート(仮称)の整備】(新設)
2015(平成27)年度研究事業で連携シートの雛形を提示
  ⇒2016(平成28)年度〜地域の実情に応じた連携シートの活用を推進(認知症地域支援推進員の配置)※
 
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○ 認知症の人が住み慣れた地域で安心して暮らし続けるためには、認知症の容態の変化に応じすべての期間を通じて必要な医療・介護等が有機的に連携△016 したネットワークを形成し、認知症の人への支援を効果的に行うことが重要である。このため、市町村ごとに、地域包括支援センター、市町村、認知症疾患医療センター等に認知症地域支援推進員を配置し、認知症疾患医療センターを含む医療機関や介護サービス及び地域の支援機関の間の連携を図るための支援や、認知症の人やその家族を支援する相談業務等を行う。

※【認知症地域支援推進員の人数】(目標引上げ)
2014(平成26)年度見込み217市町村
      ⇒2018(平成30)年度〜すべての市町村で配置
  *医療介護総合確保推進法を踏まえ、新たに目標を設定。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

○ 認知症については、医学的な管理と日々の生活を支える介護の双方が重要であり、両者が同じ方向性を共有しながら一体的に提供される必要がある。このため、医療・介護等の有機的な連携を推進する目的で作成された「認知症ライフサポート研修(認知症ケアに携わる多職種協働研修)テキスト」や「認知症および家族への対応ガイドライン」等について、認知症地域支援推進員等による積極的な活用を推進する。

(地域包括支援センターと認知症疾患医療センターとの連携の推進)

○ 認知症の人に対するサービスを効率的・効果的に提供するためには、それぞれのサービスを有機的に連携させて機動的に利用できるようにするための司令塔機能が必要である。このためには、地域包括支援センターや認知症疾患医療センターが地域の実情に応じて有機的に連携することが不可欠であることから、地域包括支援センターの医療との連携機能の強化や、地域包括支援センターの機能を併せ持つ認知症疾患医療センターについても、先進的な取組事例を全国に紹介して両者の連携を進め、地域における司令塔機能を構築する。

3.若年性認知症施策の強化

【基本的考え方】
 若年性認知症の人については、就労や生活費、子どもの教育費等の経済的な問題が大きい、主介護者が配偶者となる場合が多く、時に本人や配偶者の親等の介護と重なって複数介護になる等の特徴があることから、居場所づくり、就△017 労・社会参加支援等の様々な分野にわたる支援を総合的に講じていく。

○ 若年性認知症については、初期症状が認知症特有のものではなく診断しにくい、また、本人や周囲の人が何らかの異常には気付くが受診が遅れることが多いといった特徴があることから、改めて若年性認知症についての普及啓発を進め、若年性認知症の早期診断・早期対応へと繋げていく。

○ 若年性認知症の人は、その状態や環境に応じて、今後の生活等に係る相談、雇用の継続や障害福祉サービスである就労継続支援事業の利用、障害者手帳の取得や障害年金の受給など、様々な制度に関わってくる。若年性認知症の人が発症初期の段階から適切な支援を受けられるよう、医療機関や市町村窓口等を通じて、若年性認知症と診断された人やその家族に、若年性認知症支援のハンドブックを配布する。

○ 都道府県ごとに若年性認知症の人やその家族からの相談の窓口を設置し、そこに若年性認知症の人の自立支援に関わる関係者のネットワークの調整役を担う者を配置することで、若年性認知症の人の視点に立った対策を進める。具体的には、若年性認知症の人との意見交換会の開催等を通じた若年性認知症の人のニーズ把握、若年性認知症の人やその家族が交流できる居場所づくり、事業主に対する若年性認知症の人の就労について理解を図るための周知、若年性認知症の人がハローワークによる支援等が利用可能であることの周知等の若年性認知症の特性に配慮した就労・社会参加支援等を推進する。

※【若年性認知症の人の自立支援に関わる関係者のネットワークの調整役を担う者の配置等の事業の実施都道府県数】
2013(平成25)年度末実績21都道府県
      ⇒2017(平成29)年度末47都道府県※
 
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4.認知症の人の介護者への支援

【基本的考え方】認知症の人の介護者への支援を行うことが認知症の人の生活の質の改善にも繋がるとの観点に立って、特に在宅においては認知症の人のもっとも身近な伴走者である家族など、介護者の精神的身体的負担を軽減する観点からの支援や、介護者の生活と介護の両立を支援する取組を推進する。△018

(認知症の人の介護者の負担軽減)

○ 認知症の人の介護者の負担を軽減するため、認知症初期集中支援チーム等による早期診断・早期対応を行うほか、認知症の人やその家族が、地域の人や専門家と相互に情報を共有し、お互いを理解し合う認知症カフェ等の設置を推進する。

※【認知症カフェ等の設置】(目標新設)
2013(平成25)年度国の財政支援を開始
  ⇒2018(平成30)年度〜すべての市町村に配置される認知症地域支援推進員等の企画により地域の実情に応じ実施
*医療介護総合確保推進法を踏まえ、新たに目標を設定。※
 
※〜※ 原文:点線(……)で囲み

○ また、認知症の人の介護者負担を軽減する観点から、通所介護、短期入所生活介護、小規模多機能型居宅介護等のサービスの整備を進める。

(介護者たる家族等への支援)

○ 認知症の人の介護者たる家族等への支援を行うことで、認知症の人の生活の質を改善することができる。かかりつけ医等も、認知症の人の容態だけでなく、家族等の負担の状況をも適切に評価・配慮することが必要である。また、家族向けの認知症介護教室等の取組について、好事例を収集して全国に紹介し、その普及を進める。

(介護者の負担軽減や仕事と介護の両立)

○ 介護者の腰痛などの身体的負担を軽減するため、移乗介助時に用いる介護ロボットや、高齢者自身が介護者の介助なく動くための歩行支援機器の開発を支援する。また、介護現場の具体的なニーズを踏まえた介護ロボットの開発が行われるよう、現場でのモニター調査や実証実験等を推進する。

○ また、団塊世代が高齢者となってきている中で、働き盛り世代の家族介護者が今後急増していくものと考えられ、介護者の仕事と介護の両立支援が必要である。こうした観点から、企業及び労働者双方の抱える課題を踏まえた△019 「介護離職を予防するための職場環境モデル」普及のための研修の実施やパンフレットの作成・配布、両立に向けた理解を深めるためのシンポジウムの開催、多様でかつ柔軟な働き方を労働者が選択できるような取組を推進する企業に対する表彰制度などを総合的に実施することにより、介護離職を防止するための取組に向けた社会的機運の醸成を図っていく。

5.認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進

【基本的考え方】
 生活の支援(ソフト面)、生活しやすい環境(ハード面)の整備、就労・社会参加支援及び安全確保の観点から、認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりを推進する。

(1)生活の支援

○ 一人暮らし高齢者や夫婦二人のみ世帯が増加する中で、例えば、買い物、調理、掃除などの家事支援サービス、配食サービス、外出支援サービス、買物弱者への宅配サービスの提供等を支援する。

○ 外出機会の少なくなった高齢者の人が、新たに仲間を作り、地域の方と交流を図る場として、サロン等の設置を推進する。

○ 高齢者が利用しやすい商品(例:認知症の人の服薬を支援するための商品、操作しやすいリモコン等)の開発を支援する。また、高齢者が新しい介護食品(スマイルケア食)を手軽に活用できるよう環境整備を行う。(2)生活しやすい環境(ハード面)の整備

○ 高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを安心して続けるためには住まいの確保は基本であり、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームなど、多様な高齢者向け住まいの確保を支援するとともに、高齢者の生活支援を行う施設の住宅団地等への併設を促進する。

○ 公共交通施設や建築物等のさらなるバリアフリー化を推進するとともに、バリアフリー法の基本構想制度による福祉施設など高齢者等の生活関連施△020 設が所在する地区の面的・一体的なバリアフリー化を推進する。

○ 認知症の人を含め、自動車を運転することができない高齢者や自動車の運転を避けたいと考えている高齢者に、自ら運転しなくても、移動できる手段を確保できるよう、公共交通の充実を図る。

(3)就労・社会参加支援

○ 高齢者の方が生きがいを持って生活できるよう、就労、地域活動やボランティア活動への参加など積極的な社会参加を促すとともに、早いうちから学びを通じて地域活動やボランティア活動へ参画しやすくなる仕組みづくりを促進する。

○ 特に若年性認知症の人にとっては、就労による収入は生活の糧であり、また、生きがいにもつながると考えられることから、通常の事業所に雇用されることが困難な場合には、心身の状態に応じて障害福祉サービスである就労継続支援事業による支援を行う。

(4)安全確保(地域での見守り体制の整備)

○ 認知症の人やその家族が安心して暮らすためには、地域によるさりげない見守り体制づくりが重要であることから、独居高齢者の安全確認や行方不明者の早期発見・保護を含め、地域での見守り体制を整備する。また、行方不明となってしまった認知症高齢者等については、厚生労働省ホームページ上の特設サイトの活用等により、家族等が地方自治体に保護されている身元不明の認知症高齢者等の情報にアクセスできるようにしていく。

(交通安全の確保)

○ 高齢者の交通事故死者数は、全交通事故死者数の約半数を占め、その割合は年々増加傾向にある。そのため、認知症の人や認知機能が低下している人による交通事故を未然に防止するための制度を充実するとともに、地域の関係機関・団体と連携した高齢者宅への訪問指導、高齢の歩行者や個人の運転△021 能力の評価に応じた高齢運転者に対する交通安全教育などを実施し、また、幅の広い歩道等やバリアフリー対応型の信号機を整備し、道路標識・道路標示の高輝度化、標示板の大型化の推進、公共交通の充実など高齢歩行者や高齢運転者の交通安全を確保する。

(詐欺などの消費者被害の防止)

○ 認知症の人、高齢者の消費相談は近年増加し、消費者トラブルに遭遇した場合の被害は多額かつ頻回となっていることから、これらの消費者被害を防止するために、地域の関係者による見守りや相談体制を整備するとともに、引き続き、関係機関等と連携して注意喚起等を行う。

(権利擁護)

○ 認知症の人や高齢者の権利擁護のため、財産の管理や契約に関し本人を支援する成年後見制度や、利用者からの問い合わせ内容に応じて、法制度に関する情報や相談機関・団体等に関する情報を無料で提供する日本司法支援センター(法テラス)の制度周知や利用促進を行う。特に市民後見については、市民後見人養成のための研修の実施、市民後見人の活動を安定的に実施するための組織体制の構築、市民後見人の適正な活動のための支援等を通じて、市民後見人の活動を推進するための体制整備を行う。
 また、人生の最終段階における本人の意思決定支援の在り方についても検討を行う。

〇認知症の人が軽度の違法行為を繰り返し行うようなケースについては、認知症の症状としてそのような行為に至る可能性も指摘されている。違法行為を行った者であって医療・介護等の支援を必要とするものに対する必要な支援について検討を行う。

(虐待防止)

○ 高齢者虐待は依然として深刻な状況にあり、高齢者の尊厳保持のためには虐待防止を図ることは重要であることから、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)に基づき、養介護施設従事者や医師等高齢者の福祉に関係のある者に早期発見に努め△022 てもらうよう周知を行うとともに、市町村等に高齢者虐待に関する通報や届出があった場合には、関係機関と連携して速やかに高齢者の安全確認や虐待防止、保護を行うなど早期対応に努める。特に身体拘束の原則禁止については、認知症の人をはじめとする高齢者の尊厳が尊重された医療・介護等の提供の観点からも重要であり、その推進を図る。また、虐待を受けた高齢者の保護、心身のケアを行うとともに、虐待を行った養護者等に対する支援も推進する。

6.認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進

【基本的考え方】
 認知症をきたす疾患それぞれの病態解明や行動・心理症状(BPSD)等を起こすメカニズムの解明を通じて、予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発を推進する。また、研究開発により効果が確認されたものについては、速やかに普及に向けた取組を行う。なお、認知症に係る研究開発及びその成果の普及の推進に当たっては、「健康・医療戦略」及び「医療分野研究開発推進計画」に基づき取り組む。

○ 認知症は未だその病態解明が不十分であり、根本的治療薬や予防法は十分には確立されていない。大規模遺伝子解析や国際協働も目的とした高品質・高効率なコホートを全国に展開するための研究等を推進し、認知症の病態等の解明を進め、バイオマーカー等の同定により認知症の早期発見や診断法を確立していく。さらに、発症前の先制治療の可能性についても追求しながら、根本的治療薬や効果的な症状改善法、有効な予防法の開発に繋げていく。

〇具体的には、「医療分野研究開発推進計画」における各省連携プロジェクトの一つである「脳とこころの健康大国実現プロジェクト」によりこれらを推進する。「脳科学研究戦略推進プログラム(脳プロ)」では、認知症等の精神・神経疾患の発症メカニズムを明らかにし、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(革新脳)」では、ヒトの精神活動にとって重要な回路の同定等を行うことにより、精神・神経疾患の理解につなげる。また、「認知症研究開発事業」では、認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発を推進していく。さらに、これらの研究開発の推進のためにも、認知症の人が研究への参加に際し△023 て容易に登録できるような仕組みを構築するなど、臨床研究の推進に寄与する支援体制を強化していく。

○ 認知症の人の自立支援や介護者の負担軽減に資する観点から、日本の高度な水準のロボット技術やICT技術を活用した機器等の開発支援・普及促進を行う。その際、介護現場のニーズに適した実用性の高い機器の開発が促進されるよう、開発の早い段階から現場のニーズの伝達や試作機器についての介護現場での実証等を行う。

○ また、認知症予防については、認知機能検査に関する情報、身体活動量や社会参加といった危険因子・保護因子に関する情報、診療報酬・介護報酬等の情報など、多くの情報をビッグデータとして集約・活用し、住民や企業が一体となって地域全体として取組を推進できるようなスキームの開発を進める。

※【2015(平成27)年度までの達成目標】
  分子イメージングによる超早期認知症診断方法を確立
【2020(平成32)年頃までの達成目標】
  日本発の認知症の根本治療薬候補の治験開始※
 
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7.認知症の人やその家族の視点の重視

【基本的考え方】
 認知症の人の視点に立って認知症への社会の理解を深めるキャンペーン(再掲)のほか、初期段階の認知症の人のニーズ把握や生きがい支援、認知症施策の企画・立案や評価への認知症の人やその家族の参画など、認知症の人やその家族の視点を重視した取組を進めていく。

(1)認知症の人の視点に立って認知症への社会の理解を深めるキャンペーンの実施

○ 広告等を通じて、認知症への社会の理解を深めるための全国的なキャンペーンを展開する。その際、認知症の人が生き生きと活動している姿は、認知症に関する社会の見方を変えるきっかけともなり、また、多くの認知症の人に希望を与えるものでもあると考えられる。特に、初期段階の認知症の人が、△024 できないことを様々な工夫で補いつつ、できることを活かして希望や生きがいを持って暮らしている姿は、認知症の診断を受けた後の生活への安心感を与え、早期に診断を受けることを促す効果もあると考えられる。認知症に対する画一的で否定的なイメージを払拭する観点からも、認知症の人が自らの言葉でそのメッセージを語る姿等を積極的に発信していく。(再掲)

(2)初期段階の認知症の人のニーズ把握や生きがい支援

○ 認知症の初期の段階では、診断を受けても必ずしもまだ介護が必要な状態にはなく、むしろ本人が求める今後の生活に係る様々なサポートが十分に受けられないとの声もある。早期診断・早期対応を実効あるものとするためにも、まずは認知症の人が住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けるために必要と感じていることについて実態調査を行う。

○ また、初期段階の認知症の人を単に支えられる側と考えるだけでなく、認知症とともによりよく生きていただけるよう環境整備を行っていく観点からは、例えば認知症カフェで認知症の人を単にお客さんとして捉えるだけでなく、希望する人にはその運営に参画してもらい、このような中で認知症の人同士の繋がりを築いて、カフェを超えた地域の中での更なる活動へと繋げていけるような、認知症の人の生きがいづくりを支援する取組を推進する。

(3)認知症施策の企画・立案や評価への認知症の人やその家族の参画

○ 認知症の人やその家族の視点は、本戦略だけでなく、地方自治体レベルで認知症施策を企画・立案し、また、これを評価するに当たっても尊重されることが望ましい。認知症の人やその家族の視点を認知症施策の企画・立案や評価に反映させるための好事例の収集や方法論の研究を進め、これを発信することで全国的な取組を推進していく。

(4)その他(早期診断後の適切な対応体制の整備)

○ 認知症は早期診断を行った後の対応体制の整備が重要である。早期診断の際に地域の当事者組織の連絡先を紹介するなど、地域の実情に応じ、認知症△025 の人やその家族の視点に立った取組を推進する。(再掲)

(若年性認知症施策の強化)

○ 都道府県ごとに若年性認知症の人やその家族からの相談の窓口を設置し、そこに若年性認知症の人の自立支援に関わる関係者のネットワークの調整役を担う者を配置することで、若年性認知症の人の視点に立った対策を進める。具体的には、若年性認知症の人との意見交換会の開催等を通じた若年性認知症の人のニーズ把握、若年性認知症の人やその家族が交流できる居場所づくり、事業主に対する若年性認知症の人の就労について理解を図るための周知、若年性認知症の人がハローワークによる支援等が利用可能であることの周知等の若年性認知症の特性に配慮した就労・社会参加支援等を推進する。(再掲)

第3.終わりに

 認知症の人の視点に立てば、認知症高齢者等にやさしい地域は、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができるものであることが望まれる。これを実現するためには、国を挙げた取組みが必要であり、関係省庁の連携はもとより、行政だけでなく民間セクターや地域住民自らなど、様々な主体がそれぞれの役割を果たしていくことが求められていると言える。

 特に、認知症への対応に当たっては、発症を予防する、認知症になっても早期に診断を受けて地域で生活を続けられるようにする、適切なケアによりできる限り認知症の進行を遅らせて行動・心理症状(BPSD)等が起こらないようにする、行動・心理症状(BPSD)等が起きそうな兆候を察知して素早く適切な対応に結びつけるなど、常に一歩先んじて何らかの手を打つという意識を、社会全体で共有していかなければならない。

 また、認知症高齢者等にやさしい地域は、決して認知症の人だけにやさしい地域ではない。困っている人がいれば、その人の尊厳を尊重しつつ手助けをするというコミュニティーの繋がりこそが、その基盤となるべきであり、認知症高齢者等にやさしい地域づくりを通じて地域を再生するという視点も重要である。27冒頭にも述べたように、認知症への対応は今や世界共通の課題である。世界でもっとも速いスピードで高齢化が進んできた我が国には、認知症ケアや予防に向けた取組についての好事例が多くあり、これを国際的に発信していくことや、国際連携を進めることにより、認知症高齢者等にやさしい地域づくりを世界的に推進していく。本戦略は、認知症の人やその家族の視点に立って施策を整理したものであり、その進捗状況についても、認知症の人やその家族の意見を聞きながら、随時点検していく。また、本戦略には、医療・介護サービス等の提供に関し、個々の資源の整備に係る数値目標だけでなく、これらの連携等の様々な観点が盛り込まれていることから、これらの施策のアウトカム指標の在り方についても検討を行い、できる限り定量的評価を行っていくことを目指す。これらの点検・評価を踏まえ、本戦略の不断の見直しを行っていくこととする。△026


 
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■cf.

◆立岩 真也 2015/03/01 「認知症→精神病院&安楽死(精神医療現代史へ・追記12)――連載 109」『現代思想』43-(2015-3):8-19
◆浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)] 2015/02/04 「認知症になると精神科病院に連れて行かれる?――「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」が描く逆行ケア」(医療・介護 大転換・23),『DIAMOND online』
 http://diamond.jp/articles/-/66183


UP:20150224 REV: 
ぼけ・ぼける・呆ける・痴呆・認知症  ◇認知症/安楽死尊厳死/精神病院/…  ◇全文掲載 
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