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「精神障害者『社会復帰』政策下での『反社会復帰派』運動研究の思想的可能性」

安原 壮一 20140601 『現代思想』 2014年6月号 vol.42-9 「研究手帳」.

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last update:201500801


立命館大学 客員研究員 安原 壮一


 現在沖縄戦のトラウマを研究され、その一方で相馬市のなごみクリニックで診療に携わっておられる蟻塚医師(精神科医)のご案内で相馬市を中心に現地での訪問看護や震災被災区域を見学させて頂く機会があった。すでに震災から三年過ぎ、長引く仮設住宅暮らしで心身の不調を訴えている人が大変多いという県のアンケート結果は、マスコミでも報道されたのでご存知の方も多いだろう。同医師によれば、震災トラウマが原因で起きている症状が多いのだそうだ。そしてその晩、イギリスで移民のトラウマの研究書があり、これは各種避難所を点々としてきたフクシマの被災者のトラウマを研究する上でのベースになる本だから翻訳しようかという話が出た。
 さて私自身は先行研究がほとんどない精神障害者の「社会復帰」政策と「反社会復帰派」運動の歴史を研究している。「反社会復帰派」運動というのは、例えば「社会復帰」政策を推し進めようとする厚生労働省や家族会や「御用」精神障害者団体等に対して、その融和主義的、牙抜き的(作業所、ディケア)、施設収容主義的(グループホーム)側面を徹底的に糾弾する運動であり、悪徳病院糾弾闘争に積極的、また共同の自主管理の場を持って暮らしてきたという特徴を持つ。しかしながらその歴史的思想的位置づけ作業はなかなか難しい。そんなとき蟻塚医師からイギリスの移民のトラウマ研究が飛び出してきたのにはちょっと驚いた。私の場合、自分の研究テーマに関連して他障害の似たようなケースを多少勉強していた程度であって、具体的なイメージをより深く掴もうとしたら、まったく思いもつかなかった国内外の研究や運動も参考になる可能性が高そうだ。例えば沖縄における「反復帰運動」のこんな日本に「復帰」してよいのかという主張と、「反社会復帰派」運動のこんな社会に強制的に「適応」させられてたまるか、変わるべきは社会ではないのかという主張には、似たような側面が強い。私は現在地元で行われているスローワーク協会や引きこもり支援の活動に関心を持っているのだが、かつての「反社会復帰派」運動と似ている面もあって驚いている。
(やすはら そういち・障害学)


*作成:安田 智博
UP: 20150201 REV: 20150203, 0801
全文掲載  ◇安原 荘一 
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