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「意思疎通方法 自ら研究――視力や発語能力失い大学院へ」

天畠 大輔 20100407
『京都新聞』夕刊:1
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last update:20100519


「意思疎通方法 自ら研究――視力や発語能力失い大学院へ」
「伝えられぬ意識 救出」

目が見えず、言葉を発することができない東京都武蔵野市の天畠大輔さん(28)が今月、立命館大大学院先端総合学術研究科に入学した。「日本で一番重度の障害がある大学院生」としながら、7日からの授業では、障害者のコミュニケーション方法を研究する。

天畠さんは14歳のとき、医療ミスの後遺症で体がほとんど動かなくなり、視力と発語能力も失った。24時間体制の介助が必要だが、「4重苦に加え性格も悪いので5重苦」と介助者と冗談を交わす。

コミュニケーションは聴力を生かす。入院当時、母の万貴子さん(57)が意思を理解するために考えたひらがなの五十音表を頭に浮かべる方法だ。通訳が「あ・か・さ・た・な」と順番に行を問い、天畠さんは、腕や首をかすかに動かして答える。「か行」と分かれば、通訳が「か・き・く・け・こ」の順に問い、文字を特定する。これを繰り返して文にする。健常者の会話の20〜30倍も時間がかかる。

ルーテル学院大社会福祉学科を卒業し、大学院進学を目指すことにした。研究テーマの一つは「意識があるのにコミュニケーションの閉ざされた人を見つけ出す」こと。ベルギーでは、意識があるのに脳死状態と診断された患者が23年間、表現方法が分からず何も意思を伝えれなかった例があるという。

天畠さんも入院時に医師から「植物状態が続く」と言われた。意識があるのに、周囲に気づいてもらえない。暑くてたまらないのに、看護師が布団をかける。約半年後、五十音のコミュニケーション法を母が試し、「おなかがへった」と伝えることができた。うれしさのあまり泣いた。

将来は、自分の意思を発することができないロックトイン・シンドローム(閉じ込め症候群)の人たちを支援する団体の設立や、養護学校の生徒を大学に進学させるためにヘルパーを派遣する事業所を運営する夢がある。

「大学院に受け入れてもらったが、最適な研究をするための通訳者の利用ができるか、暗中模索」という。立命館大大学院は天畠さんが自宅で授業に参加できるよう、テレビ電話のような通信機器を設置したり、院生らのティーチングアシスタントを付け、録音した授業内容やノートを提供するという。

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UP:20100410 REV:20100519
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