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「高学歴ワーキングプア」その後――大学に回す国費増やせ

水月 昭道 20100326
『京都新聞』朝刊:6

last update:20100407


「高学歴ワーキングプア」その後――大学に回す国費増やせ

 高校・大学新卒者の就職難が大きな社会問題となっている。本人もさることながら、親御さんの不安もいかばかりかと思う。
 政府への期待は言うまでもなく大きいはずだが、万一「就職は自己責任」とでも返されたらどんな気持ちになるだろうか。理不尽な実態に直面している若者は実は少なくない。大学院の修了者たち、特に、新卒の博士などは悲惨を極める。
 彼らの就職率は、東大卒でも、任期付きのポストまで含めてわずか40%台に過ぎない。いわゆる終身雇用は3割を切るのではないかとも案じられている。東大でこれほど悪いのなら、他は推して知るべしである。
 現時点で、非正規雇用で研究職に就く若手博士たちは、理系・文系を併せて4万1千人にものぼる。大学に残れず、フリーターなどで凌ぐ博士も同数以上いると言われる。「高学歴ワーキングプア」とも呼ばれ、社会的関心を集めるほどに問題は膨らんでいる。
 しかし、政府はこれを放置し続けている。それどころか、昨年の事業仕分けでは、若手研究者育成に投じられていた予算は縮減すべきとの判断まで下した。就職困難な若手研究者への生活支援的意味合いが強いので、税金を投入する必要性や意味をそれほど感じない、という信じられない理由からだった。
 現状認識がまったく足りないと批判せざるを得ない。新卒博士の大多数は、正規雇用されていないのである。そこには、大学業界の雇用に関する特有の事情がある。
 民間と違い、大学教員にリストラはない。高等教育市場が右肩上がりであればそれも何とかなったかもしれない。だが、1992年をピークに18歳人口は激減し続ける。教員がたぶつくことは誰にでも予想がつくため、当然のように新規採用枠は絞られていった。
 一方、一般企業であれば業績が無く真っ先に首を切られても仕方のない人も、専任教員というだけで65歳近くの定年まで安泰の状態が続いている。ツケは若い人に回され、ポスト数にも如実に表れ始めた。
 最も上位に位置する「教授」職は全体の4割を占めるほどに膨れ上がり、准教授を含めると6割近くにもなった。上が多く下が少ない逆三角形構造が形成され、高齢化が進み、業務を回すことすら難しくなっている。
 結局、若手は欲しいが、運営費交付金や私学助成金が減らされる中で、総収入に占める人件費の割合を5割程度に死守したい法人側は、非正規雇用に走らざるを得ない、となる。91年からスタートした「大学院重点化」により、若手研究者が倍増した幸運に恵まれたこともなり、「なり手」の調達には困らなかった。
 わが国では教育行政に投じられる国費は、他の先進諸国に比べて少ない。OECD加盟国30カ国のなかで、教育に振り分けられる公的資金は裁定で、対GDP比でたった3.4%に過ぎない。
 大学の収入の多くは学費頼みであるから、それはいきおい高くなりがちだ。逆に支出を抑えるため、講義の約半数は非正規先生の手に置き換わっている。多くは若者が担っている。近年文科省は、学士力アップをうたい、大学の学習環境改善を進めると息巻くが、労働ダンピングが行われているような現場では不可能だ。新政府の高等教育投資に対する姿勢が試される。

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