HOME > 全文掲載 >

『当事者セラピストが持つ「当事者体験」への認識とその活用からの社会的役割の構築についての考察
――疾病・障害体験を持つリハビリテーション専門職へのアンケート調査から』

山田 隆司 201802
日本福祉大学通信教育部医療・福祉マネジメント学科卒業論文,124p.

※PDF・WORDファイルはこちらからダウンロードできます。
論文PDFファイル】/【論文ワードファイル

Tweet
last update: 20210330


■目次

■第1章 はじめに
 ●第1節 研究の背景と問題意識
 ●第2節 研究の目的
 ●第3節 論文の構成

■第2章 「本研究における当事者セラピスト」を定義する
 ●第1節 既存研究の検討
  ・第1項 「当事者セラピスト」の出自と先人たち
  ・第2項 「疾病・障害体験を持つ医療福祉専門職」に関する文献の検討
 ●第2節 「本研究における当事者セラピスト」とは
  ・第1項 セラピストとはだれか
  ・第2項 当事者とはだれか
  ・第3項 当事者セラピストとはだれか

■第3章 研究の方法
 ●第1節 当事者セラピストの抽出
  ・第1項 抽出方法
  ・第2項 抽出時の対象者属性
 ●第2節 アンケートの作成と配布
  ・第1項 アンケートの概要
  ・第2項 アンケートの内容と構成
 ●第3節 アンケートの回収結果

■第4章 アンケート回収結果のエピソード分析
 ●第1節 対象者の属性 A氏〜N氏(14名)
  ・第1項 一般情報、職業に関する情報、疾病・障害に関する情報
  ・第2項 対象者の属性の整理
  ・第3項 エピソード分析のための枠組み設定
 ●第2節 エピソード分析とそれぞれの解釈
  ・第1項 発症・発障時とその後の喪失・獲得体験
  ・第2項 就労場面におけるストレングスとウィークネス
  ・第3項 就労以外の場面におけるストレングスとウィークネス
  ・第4項 社会的な活動(行動化・希望・義務・期待)
  ・第5項 実態のともなう社会的役割
  ・第6項 生活者として自身が思い描くビジョン

■第5章 考察と結論
 ●第1節 エピソード分析のまとめと考察
  ・第1項 「発症・発障時とその後の喪失・獲得体験」のまとめと考察
  ・第2項 「就労場面におけるストレングスとウィークネス」のまとめと考察
  ・第3項 「就労以外の場面におけるストレングスとウィークネス」のまとめと考察
  ・第4項 「社会的な活動(行動化・希望・義務・期待)」のまとめと考察
  ・第5項 「実感のともなう社会的役割」のまとめと考察
  ・第6項 「生活者として自身が思い描くビジョン」のまとめと考察
 ●第2節 結論
  ・第1項 当事者セラピストの分類――当事者体験の認識と解釈
  ・第2項 Group:Tの傾向――ストレングス・ウィークネスと社会的役割
  ・第3項 Group:Uの傾向――ストレングス・ウィークネスと社会的役割
  ・第4項 当事者セラピストとはだれか――再考

■第6章 最後に
 ●第1節 提案と今後への課題
  ・第1項 当事者セラピストが担う社会的活動――具体例を挙げて
  ・第2項 今後のセラピストへ
  ・第3項 研究の課題.
 ●第2節 謝辞

■引用・参考文献
  ・引用文献
  ・参考文献

■添付資料――アンケート書式一式
  ・質問紙
  
・同意書
  
・当事者セラピストに対するアンケート


>TOP

■第1章 はじめに

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を前に、国内では障害者や難病患者などいわゆる当事者たちが活気づいてきている。特に、リオデジャネイロパラリンピックで盛り上がったパラスポーツやパラアスリートへの関心や熱気を冷ます間もなく、次の東京へ向けた周知活動がシームレスに開催されている。東京都内の公共交通機関や公共スペースには大々的にポスターが掲示され、パラスポーツの体験イベントやパラアスリートたちの講演会などが積極的に実施されている。テレビや雑誌などメディアでの取り扱いも増えており、その内容も従来の障害部分のみをクローズアップしたものではなく、パラスポーツのハイレベルな競技性や選手たち個人のアスリート性へと変化してきている。

これらの流れと同じくして、当事者を理解するための社会啓発イベントや講演会・セミナーも各地で開催され、当事者自身が主体的にその企画や運営を担うことも増えている。そして、NHK「バリバラ」1)をはじめとし、今までは「社会的タブー」とされてきた当事者の「生々しい生活」や「本音の語り」が世の中に発信される機会が増えている。さらには、「感動ポルノ」2)など当事者に対する報道や表現方法に関する疑問を社会に投げかけると言った挑戦も行われてきている。時代はまさに、「当事者ブーム」とさえ言える。

当事者たちが活気づく一方で、それを支援する立場の医療福祉系の専門職たちも活気づいてきている。従来の「医療モデル」に基づく医学的アプローチにとどまらず、当事者を「社会モデル」でとらえ、その生活レベルにおける諸活動や社会参加などの困難についてさまざまなアプローチを試行している。病院や施設を飛び出し、当事者の主体的で自分らしい地域生活や社会参加を支えるべく地域医療・地域福祉の分野へ飛び込んだり、かつてない社会資源を創出すべく起業する専門職も増えている。当事者の主体的で自分らしい地域生活や社会参加が促されるに従い、そのニーズは多種多様かつ個別性が高くなってきている。専門職たちの社会的役割や働き方は、現代の日本社会における就労内容や就労方法の多様化と合わせて、治療者・支援者から協働者・伴走者へと大きく変化している。

これらの背景には、1960年代から日本でおこってきた障害者運動を基礎として、近年の障害者・難病患者への対策や政策が多く挙げられる。2007年の「障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)」への署名に始まり、ここ10年程の間に当事者たちの権利や社会参加に関する制度改革は一気に進められてきた(表1-1)。この一連の流れは、障害者権利条約の策定過程において用いられた「Nothing About Us Without Us」3)のスローガンに象徴される「当事者の声」を積極的に取り込みながら進められ、日本社会における当事者たちの主体的な活動を後押ししていくこととなった。またこれらの流れは、世界保健機構の提言する「ソーシャルインクルージョン」4)の積極的な推進運動へもつながっており、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に先駆けた、当事者運動における大きなムーブメントとなっている。

一方で、「権利のみの主張」「内なる偏見」「合理的配慮の押し付け」など当事者活動の中にも課題は多い。専門職においても、「医療モデルへの批判」や「社会モデルへの傾倒」などバランスの悪さが見受けられる。さらに、計画性や中身の薄い啓発イベントやセミナーが乱立している事実もある。このムーブメントが一過性に終わらない工夫や信頼性の向上を考える必要もある。

ここ数年において、当事者たちが長い年月をかけて獲得してきた「あたりまえ」の権利や生活が再び大きく注目されている。そして、それらに対して医療福祉専門職たちはさまざまなアプローチを模索し、自分たちの働き方を多様化させてきている。つまりは、ソーシャルインクルージョン理念の中で、時代や生活の変化に応じて当事者や専門職たちが従来の役割やイメージを超え、協働し社会へ積極的にアプローチする時期になってきたと言える。そのイニシアチブをとる存在はいったいどんな立場なのだろうか。


表1-1 障害者・難病患者に関する法律や動きの年表 (2007〜2016年の抜粋) [Excel]
表1-1 障害者・難病患者に関する法律や動きの年表(2007-2016年の抜粋)


>TOP

●第1節 研究の背景と問題意識

私は、「Charcot-Marie-Tooth(CMT)病患者」で「身体障害者」であり「作業療法士」である。支援される側(当事者)と支援する側(セラピスト)という、相反する二つのアイデンティティを持つ存在として生活し就労してきた。

二つのアイデンティティを持つことは、自身のストレングスでもありウィークネスだと感じることが多い。児童期には当事者体験によって疎外感を感じた一方で、自身の個性として感じられることがあった。青年期には担当のセラピストへ憧れるとともに、セラピストになるという将来の目標にとって、当事者体験は自身のストレングスに感じられた。成人期になり当事者体験は、結婚や子育てにおいてウィークネスとしての存在を増し、症状の進行はセラピストとしての役割を奪うものとして恐れの対象となった。その一方で、Charcot-Marie-Tooth病に関する研究班や患者会活動においては当事者でセラピストであるがゆえの「役割」を求められることが増え、他の専門職や当事者からはストレングスであると言われることが増えた。このように、「当事者体験」はライフステージや社会的役割の変化に応じて、自身のセラピスト役割における意味合いを変化させてきた。二つのアイデンティティを持つことは、常に自身の存在や役割を揺さぶり、自己肯定感と否定感というアンビバレンツなものをもたらしてきた。

このような二つのアイデンティティを持つ自分自身を「当事者セラピスト」と仮称し、数年にわたって臨床や当事者運動において活動をしている。当事者セラピストを名乗り始めてから、同様に二つのアイデンティティを持つ専門職に会うことが増えた。彼らに共通していたのは、「当事者体験は貴重なものだと感じている」「当事者体験を活かしきれていない」「誰かに伝えたい」「具体的に行動化する方法が分からない」という漠然とした想いや使命感、そして当事者体験を肯定的に捉えて行動化しようとする姿だった。さらに、執筆・出版や講演・教育など、すでに行動化している者も存在した。一方で、疾病や障害の進行とともに、今まさに専門職としての役割や自分らしい生活を喪失しつつある者にも出会った。彼らの間にある共通項や違いはいったいどんなものだろうかと非常に関心が高まった。

当事者セラピストに対して、神田(2016)5)は「他者からの期待に依存をしない、障害経験を含んだ役割の獲得を目指すこと、つまりアイデンティティを含む強い内的期待を持つことで、満足のできる役割を獲得できるのではないだろうか」と述べており、当事者体験に役割や価値を付与することで自身を「補完」していることを考察していた。それでは私自身も含めて当事者セラピストらは、いったい自身の当事者体験に対してどのようにストレングスやウィークネスを見出していくのだろうか。当事者の抱えるネガティブな部分にアプローチする専門職として、またソーシャルインクルージョン理念のなかで、当事者セラピストだけが担える役割があるのではないだろうかと感じている。



>TOP

●第2節 研究の目的

本研究では、支援される側(当事者)であり支援する側(セラピスト)という2つのアイデンティティを持つ「当事者セラピスト」が、自身の当事者体験をどう解釈し、ストレングスやウィークネスを感じ、どのような社会的役割を見出していくのかを考えていきたい。これらのプロセスや共通項・違いを解き明かすことで、当事者への「最適なアプローチの一端」を解き明かすことができると同時に、これから先にも増えるだろう新たな当事者セラピストたちへ働き方の可能性を提案したい。



>TOP

●第3節 論文の構成

本論文は、全6章で構成される。まず第1章では、筆者が本研究に至った背景や問題意識、研究の目的、論文の構成を示した。

第2章では、「本研究における当事者セラピスト」の定義を試みた。当事者もセラピストもどちらも非常に幅広く多様なイメージを持つ言葉である。先行研究や文献をもとに、それぞれの枠組みを明確にすることで、当事者セラピストの定義化を目指した。

第3章では、前章で定義化された「本研究における当事者セラピスト」を対象とした、アンケート用紙の作成と回収方法までを記した。対象者の「過去」「現在」「未来」という時系列ごとに質問を用意し、「当事者体験」「ストレングスとウィークネス」「社会的役割」「将来へのビジョン」を収集できるようにした。

第4章では、アンケート結果をまとめ、「エピソード分析」を行った。全6項のデータとともに、統合と解釈、そして各項のまとめを行った。アンケートデータと分析内容は表にしてそのまま記載した。

第5章では、前章をもとに各項の考察を行い、それらをさらにまとめて全体の考察とした。そして、「研究の目的」に合わせて結論を述べ、当事者セラピストの再定義を試みた。

第6章では、上記を踏まえた提案や研究への課題を記し、謝辞を述べて終わりとした。それ以降は、参考・引用文献のデータとした。



>TOP

■第2章 「本研究における当事者セラピスト」を定義する

●第1節 既存研究の検討

本研究で取り扱う「当事者セラピスト」はいままで定義されていなかった。本論文ではここまで、便宜上「疾病・障害体験を持つ医療福祉専門職」を広義の当事者セラピストとしてきたが、「本研究における当事者セラピスト」を定義していく必要があった。



・第1項 「当事者セラピスト」の出自と先人たち

先行して、広義の当事者セラピストにあたる存在は多くが確認できた。ところが、「当事者セラピスト」という単語を明確に用いている文献は、山田(2016,p-190)6)、神田(2016)5)と近年のものであった。これらのもととなった「当事者セラピスト」の提言は、2012年に日本福祉大学高浜専門学校第11回卒後研修会7)において山田・押富によってなされたものだったことが確認できた。彼らは当初から、「疾病・障害当事者で、医療福祉専門職」を「当事者セラピスト」と仮定し、疾病や障害の内容にこだわらず、医師に加えて国家資格の有無を問わずコメディカルたちを広く包括して「セラピスト」と表現していた(図2-1-1)。

図2-1-1
図2-1-1 初期の当事者セラピストイメージ [Excel]

次に、先行研究として「当事者セラピスト」の自己肯定感や社会的役割をについて考察しているものは、神田(2016)5)のみであった。神田は「当事者セラピスト」について、山田・押富へのインタビューを通して「自身の障害当事者とセラピスト経験の双方を踏まえた役割」とし「双方の立場を経験しないことには見えてこない様々な課題を明確化し、セラピスト側に問題提起することを企画する」役割であるとまとめた。

神田の研究や前述した研修会において、山田・押富は当事者セラピストとしての活動を、自身らのストレングスとして打ち出していた。



>TOP
・第2項 「疾病・障害体験を持つ医療福祉専門職」に関する文献の検討

次に、広義の当事者セラピストが関わっている文献や活動は複数見つけることができた。それらは大きく分けて、@「疾病・障害体験を持つ医療福祉専門職としてのナラティブ」、A「医療福祉専門職としての業績」、B「疾病・障害当事者としてのナラティブ」、C「疾病・障害体験を持つ医療福祉専門職としての社会的活動」などである。それらは、研究論文だけではなく、書籍・コラムや講演・セミナー、イベント企画や社会的活動というさまざまな手段や方法で発表されていた。


文献の検討@ 「疾病・障害体験を持つ医療福祉専門職としてのナラティブ」

代表的なものには、熊谷(2009)8)、小林(2017)9)、関(2013)10)(2014)11)、田中(2013)12)、山田(2009)13)、和田・山田(2016)6)などの書籍と、押富(2013)14)のジャーナルが挙げられた。

田中(2013)12)は、「患者(リウマチ)の私」と「作業療法士の私」の間を行き来しながら、「患者の価値を再構築する」方法論を模索したり障害受容について論考していた。発症から現在に至る「「私」の病の体験を、自己物語という形式で綴った」(p-5)とし、自身のナラティブを自ら分析し他者のナラティブと比較していた。特徴的だったのは、作業療法士が取り扱う「意味のある作業」を喪失してしまった「当事者としての自身」に対する、「作業療法士としての自身」による論考であった。これらを通して、問題提起や提案など全体を通して「セラピストへの発信」という役割を担っていた。同様に、小林(2017)9)は「脳卒中経験者兼理学療法士」と自らを呼称し、当事者の主観的体験を分かりやすく伝えるべく、より主観を大切にした「セラピストへの発信」を担っていた。

関(2013)10)(2014)11)は失語症となった言語聴覚士であり、発症からの経過を事細かに記していた。書籍には治療場面から回復後の生活場面に至るまで、実際の写真や検査データなどが多数掲載されていた。また、経過に対応した自身の状況を、専門家として分析し解説を添えたり、一方で当事者としてのリアルな感情や想いを添えていた。序文には「リハビリに難渋する対象者とのセッションに行き詰まる臨床家や、期待したほど回復しない症状に悩む当事者・ご家族への励ましとなれば幸いです」10)(p-C)とあり、「セラピスト・当事者への発信」という役割を担っていた。なお、山田(2009)13)の書籍も同様に、「壊れた脳の中、教えます」「病気を科学してみたら」など、その目次のタイトルに当事者と医師の2つの視点が用いられていた。

熊谷(2009)8)は、脳性麻痺の医師であり、その当事者体験と今までの想いを生々しくわかりやすい言葉で表現している。自身の脳性麻痺そのものを分析し、当事者にしか分かりえない感覚や感情など「文字で表すことが困難な体感のようなもの」(p-253)を文章化する挑戦をしている。また、幼少期から始まった「性への強い関心」、リハビリや生活上の「専門家・他人とのズレ」など、一般的にタブー視されがちな実体験を生々しく表記し、さらに分析まで加えていた。「セクシャリティのことや身体性のこと」(p-254)を「セラピスト・当事者・社会へ発信」する役割を担っていた。

和田・山田(2016)6)らはそれぞれアイザックス症候群の看護師とCharcot-Marie-Tooth病の作業療法士であり、難病当事者と専門職という2つのアイデンティティに対する想いや揺らぎを書いていた。和田は「今は患者としてできることを考え、自分の病気やほかの難病について発信できることに力を入れていきたい」(p184)と記載し、山田は「社会〜医療〜難病患者の架け橋になり通訳をしていきたい。共感者から発信者としての役割へ移っていくことで、患者だけでなく社会をも変えていけたらいい」(p192)と記載していた。内容は当事者としての主観で書かれており、書籍自体のコンセプトは「セラピスト・当事者・社会への発信」という役割を担っていた。

押富(2013)14)は重症筋無力症の作業療法士であり、自身の発症から現在に至るまでの喪失体験や、闘病中の専門家・家族とのやり取りを克明に描いていた。とくに、当事者サイドから見た臨床現場での対応、障害受容への臨床家の認識、福祉制度への問題提起がシリアスに描かれていた。ジャーナルと言うこともあり、「専門職への発信」を担っていた。

以上の文献から、著者の多くは当事者体験という主観的なものに対して、専門知識を用いた客観的な評価・解釈をすることで「発信すること」を役割の一つとしていることが推察された。また、当事者という主観的体験に専門家として客観的にアプローチできる点が、当事者セラピストの特徴の一つと推察された。さらに、「当事者へ対するピアサポート的な発信」と「専門家へ向けた教育・指導的な発信」と「社会へ向けた啓発的な発信」という3つの発信を使い分けていることが示唆された。実際に、著者のほとんどが執筆活動だけではなく、上記C「疾病・障害体験を持つ医療福祉専門職としての社会的活動」として講義・講演やイベント企画も行っていた。


文献の検討A 「医療福祉専門職としての業績」

上記の著者らを検索する中で、多数の文献が見つかった。内容は、自身の専門領域や臨床上の課題に対する、医療福祉専門職としての研究とその成果であった。自身の専門性を用いて研究に携わることは専門職としての責務であり、さまざまな分野の研究論文・ジャーナル・書籍・学会抄録など「医療福祉専門職へ向けた発信」だった。著者らの研究テーマとしては「当事者研究」「身体感覚」「痛み」「自己感」「自閉症」「マイノリティ」「社会モデル」「共生社会」「障害受容」「高次脳機能障害」「失語症」「芸術活動」「精神疾患」「患者会支援」など、専門職として多岐にわたって執筆していた。

上記の著者らの中でも関(2003)15)は、自身の発症前に言語聴覚士として多くの研究を行っており、専門家としても当事者としても「失語症」に関する書籍を出版していることが特徴的だった。

また作業療法士の田島(2014)16)はその書籍の中で、前述の熊谷と田中を分担執筆者として指名しており、両者は医療専門職として、自身の当事者体験を踏まえた論考を記していた。熊谷は他にも、「障害者の権利」「差別解消・合理的配慮」「当事者研究」など多岐にわたる執筆や講演をつとめていた。

臨床と研究及び執筆や講演は医療福祉専門職としての責務であり業績である。しかしそこには、自身の当事者体験を通して社会問題をとらえ、自身の研究テーマとし論考・言語化して発信するという作業が見られた。医療福祉専門職としての業績においては、少なからず神田5)の言うように「自身の障害当事者とセラピスト経験の双方を踏まえた役割」が反映されていることが推察された。


文献の検討B 「疾病・障害当事者としてのナラティブ」

ここでは主に、障害者運動や難病運動など当事者活動について情報を集めたが、これらは見つけることがは難しかった。その理由として「専門職としての立場を明かさずにいる」「患者会などを通した当事者としての活動である」「資料や文献そのものが一般的に流通していない」ことが推察された。

前述した和田・山田らは、それぞれの罹患する疾患の患者会に所属していた。彼らはそれぞれの患者会17) 18)において、ホームページや会報誌への寄稿、講演会や交流会での講師、関連する難病団体や専門学会でのシンポジストや寄稿など、さまざまな当事者活動をしていた。厳密に当事者としてのナラティブだけとは言い切れず、専門職としての視点や考察が散見できるものも多かったが、「一人の当事者として他の当事者や専門職・社会に向けた発信」だった。

患者会等の当事者活動においては、自身の持つ専門家としての経験ではなく当事者としての経験を活かした活動を行っていることが推察された。それは、患者-治療者という治療関係や、障害者-支援者という支援関係ではない、当事者同士のピアな関係でのピアサポート活動19)であることが推察された。


文献の検討C 「疾病・障害体験を持つ医療福祉専門職としての社会的活動」

ここでは文献ではなく、主に社会的活動についての情報を集めた。

山田(2016)6)は、自身が罹患するCharcot-Marie-Tooth病の研究班に研究協力者として参加(2009〜)20)を続けており、そこでは「作業療法士」役割(p-189)を期待されていたとした。一方で山田は、研究班が刊行した診療マニュアル21) 22)において、患者会代表の立場から分担執筆しており、患者会の概要や患者の生活の様子・想いなどを綴っていた。これらから、研究班において山田は「当事者」と「専門職」の両者の役割を期待されていたことが推察された。

小林は2017年に、自身が罹患した脳卒中に関連するイベントを企画した。そのホームページ23)で小林は「脳卒中・脳梗塞の当事者の方や家族・セラピストが本気で楽しむ大人の文化祭です」とし、志を同じくする医療福祉専門職やボランティアを中心に、脳卒中当事者と家族・一般企業・マスコミ・芸能人やパラアスリートなど広く社会をも巻き込んでイベントを実施した。また小林は「引きこもりがちな当事者の方が少しでも希望を持ってもらえたら」など、自身の当事者体験をおりまぜて開催のあいさつとした。当事者と支援者のためだけでなく、社会へ向けた啓発活動でもあるとしていた。

高橋・山田は当事者セラピストグループ『Cross Bridge』(2015〜)24)を立ち上げ、広義の当事者セラピストたちが交流・情報交換できる「場」づくりと、当事者と専門職らが一堂に会しフラットな交流・意見交換・問題解決が出来る「機会」としてのワークショップを実施してきた。前述した押富・山田の「当事者セラピスト」イメージをもとに、「私たちのような存在ができることは何だろう?」と問題提起し、「医療、患者、社会の架け橋になり様々なズレを解消し住みやすい社会を創造する」ことを目標に掲げていた。過去に開催されたワークショップでは、当事者・専門職や支援者たちが集まり「当事者セラピストの可能性とは何か?」「当事者と専門職とのズレとはなにか?」「当事者と社会とのズレはどうして起こるのか?」などをテーマに、ワークショップやディスカッションを実施していた。その場において高橋・山田らは、参加者たちのファシリテーションやコーディネートの役割を担っていた。

関は専門職や当事者向けの講演のほかに、高次脳機能障害の研究所25)を設立し、相談や訓練指導を行っていた。また、専門家で当事者としての自身を活用し、患者会や専門学会等での役職もつとめていた。専門職としての長年にわたる臨床・研究・教育の経験をもとに、自身の当事者経験を踏まえて、当事者や専門職へ対して広くアプローチしていた。

その他、前述の著者らの多くはさまざまな場に招かれ、講師やシンポジストなどを務めていた。その際に求められるテーマや役割はさまざまで、その対象者も当事者・専門職・一般市民・行政など多彩であった。


第2項のまとめ (表 2-1-2)

上記@〜Cより、広義の当事者セラピストらは、自身の「専門性」や「当事者性」を活用して行動化していることが推察された。行動化の内容は「講演」「執筆」「研究」「イベント企画」「セミナー」「ワークショップ開催」「場作り」「ファシリテート」など多種多様であり、その対象は「当事者」「専門職」「一般市民(社会)」「行政」などこちらも多種多様であった。取り扱うテーマや期待される内容もまた多岐にわたっていた。行動化している広義の当事者セラピストらの共通項として、自分自身を活用した「発信」や「つなぐ」役割を担っていることが推察された。一方で、「発信」「つなぐ」以外の役割については明確化されておらず、手段や方法がわからず行動化していない広義の当事者セラピストの存在も示唆された。

これらは、本研究の問題意識を解決する大きなヒントとなる内容であった。これらをもとに、より具体的に「自身の当事者体験をどう捉え」「ストレングスやウィークネスを見出し」「それを活用する(もしくは活用できないでいる)ことになり」「自身の役割としていくのか」というプロセスやきっかけ、そして共通項や違いを探る必要性が出てきた。


表2-1-2 文献検討による社会的活動まとめ [Excel] 表2-1-2 文献検討による社会的活動まとめ

以上より、第2項のまとめを踏まえて、アンケートを作成(第3章)しナラティブ分析(第4章)を行うこととなった。



>TOP

●第2節 「本研究における当事者セラピスト」とは

「当事者」をめぐる議論は新しいものではないが、近年では特にさまざまな学問において盛んに「当事者」という言葉が用いられ研究されている。野口(2012)26)は「当事者」を「絶対化」「相対化」させることについて論考を重ね、「「当事者」の「相対化」とは、「当事者」を変動可能な存在として位置づける開放的な志向性」、「「当事者」の「絶対化」とは、「当事者」を特定の存在として限定し固定化する排他的な志向性」と述べた。その研究の結論として、「絶対化と相対化との間を揺れ動くような「当事者」とは、研究の課題設定に応じて設定される方法論上の範疇にある概念であることが明らかになった」「これを「方法としての『当事者』」と呼ぶことにした」とし、「研究上における「当事者」とは、「方法としての『当事者』」であり、研究上の「当事者」設定は当該概念を用いる研究者の目的意識に基づいて戦略的になされるものである」と結んでいた。

また、「セラピスト」という単語は世間一般的にあふれており、曖昧かつ無秩序に用いられていることが多い。上記の「当事者」と同様に、「セラピスト」においても「絶対化」や「相対化」を考えていかなくてはならなかった。

以上より、「本研究における当事者セラピスト」について、「方法としての『当事者セラピスト』」の考えをふまえ、研究の目的意識に基づいて戦略的に設定していった。



>TOP
・第1項 セラピストとはだれか

辞書で検索してみると「セラピスト【therapist】:社会復帰のための療法を専門に行う人。療法士。治療士」27)と記されていた。一般的にセラピストとは、「国家資格・民間資格・公的資格」として多種多様な職種に与えられている俗称であり、独占された名称ではなかった。国家資格のように職能団体や倫理綱領が存在しておりエビデンスの確立された者や、民間・公的資格で職能団体・倫理綱領が存在しており医療福祉分野で活動している者、さらには民間・公的資格でもない者など、世間一般的に「セラピスト」の用い方はさまざまだった。

次に、前述している医療福祉専門職の中でも「セラピスト」と名の付く代表的な専門職種は、@理学療法士(Physical Therapist:PT)、A作業療法士(Occupational Therapist:OT)、B言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist:ST)の3つであり、いずれもリハビリテーションに関わる国家資格であった。彼らは主に、医療保険・介護保険のもとでそれぞれの専門性(知識や技術)をもって、対象者へとアプローチしていくことを生業としていた。

なお、押富・山田の提唱した初期の「当事者セラピスト」における「セラピスト」イメージは、医師に加えて多くのコメディカルが含まれるもので、医療・福祉・介護・そして社会など「セラピスト」が活動する場に対するイメージはとても懐の深いものだった(図2-2-1)。そもそも、医療福祉専門職はその職業の成立や歴史・職業概念・職域などがあまりにも幅広く多種多様であり、ひとまとめに研究対象とすることは難しかった。

以上より、「本研究におけるセラピスト」とは、「国家資格を保有するリハビリテーション専門職で、その専門性を用いて臨床その他で対象者へアプローチする者(PT、OT、ST)」とした(図2-2-2)。

図2-2-1 「広義のセラピスト」のイメージ
図2-2-1「広義のセラピスト」のイメージ [Excel]

図2-2-2 「本研究におけるセラピスト」のイメージ
図2-2-2「本研究におけるセラピスト」のイメージ [Excel]


>TOP
・第2項 当事者とはだれか

辞書で検索してみると「当事者:その事に直接関係のある人」27)とあり、その他には「法律用語としては、主に民事法において用いられる。ここでの起きている問題とは事件や紛争などの出来事を、また直に体験したとは主体として関わった人物も指す」「福祉分野で使われるときは、起きている問題とは何らかの社会問題である。広義ではその家族や支援者も含めるが、社会問題をかかえる本人を指していることが多い。障害が問題の現場で使用されることが多いが、難病や暴力・犯罪被害などに広く用いられる。この分野の研究は当事者研究と呼ばれ、当事者が主に自助のために作っている当事者団体を介して行われることが多い」28)とされていた。これによると「当事者」は大きく、「法律用語」「福祉用語」として使われることが多いとされていた。

次に、CiNiiにて「当事者」を論文検索してみると、タイトルに含まれる物だけで6,600件以上が見つかった。また、福祉用語としての使用例は「当事者研究」「当事者活動」「当事者主権」などが多く検索された。

これら福祉用語としての「当事者」に関わる研究の中でも、中西・上野(2003)29)は著書「当事者主権」の中で「当事者とは問題を抱えた人々と同義ではない。問題を生み出す社会に適応してしまっては、ニーズは発生しない。ニーズ(必要)とは、欠乏や不足という意味から来ている。私の現在の状態を、こうあって欲しい状態に対する不足と捉えて、そうではない新しい現実をつくり出そうとする構想力を持ったときに、はじめて自分のニーズとは何かが分かり、人は当事者となる」(p-2〜3)と述べていた。そして岡(2009)30)はこれを踏まえて「社会福祉のある限定された継続的な課題を、自己の生活に直接関わるものとして捉え、それに取り組む人々。たとえば、患者、依存症者、身体障害者に始まり、精神障害者、ひとり親家族、死別体験者、ホームレスなど」と、「当事者福祉論」において述べていた。西村(2012)31)は、これらを引用した上で「社会福祉の歴史において、長い間これら当事者たちは社会福祉の対象として、保護や庇護すべき存在として、専門家の管理下におかれてきた」(p-31)と述べ、さらに1957年に設立された脳性麻痺者の団体「青い芝の会」の運動を示し「近年の当事者主体や当事者研究の基底をなすものである」とした。

中西・上野や岡らは共通して「障害も含めて自身の状況を把握する」「自身のニーズ(必要)を明確に持つ」「自身の生活において主体性を持って取り組む」ことを「行動化」した者を「当事者」としていた。そして西村は上記を補完する形で、医療や社会福祉の客体という存在ではなく、「主体性」をもって行動化するものを「当事者」としていた。

以上より、「本研究における当事者」とは、「疾病や障害によって社会生活における課題を感じ、自身の状況とニーズを把握し、その解決とよりよい生活の実現のために主体性をもって取り組む(取り組もうとする)者」とした。



>TOP
・第3項 当事者セラピストとはだれか

第1,2項を踏まえて「当事者セラピスト」とは「疾病や障害によって社会生活における課題を感じ、自身の状況とニーズを把握し、その解決とよりよい生活の実現のために主体性をもって取り組む(取り組もうとする)者」であり、「国家資格を保有するリハビリテーション専門職で、その専門性を用いて臨床その他で対象者へアプローチする者(PT、OT、ST)」と言えた(図2-2-3)。以下、「疾病・障害体験を持つリハビリテーション専門職」と仮称することにした。

図2-2-3 「当事者セラピスト」のイメージ
図2-2-3「当事者セラピスト」のイメージ [Excel]

あらためて、本研究の対象者である「当事者セラピスト」とは「疾病・障害体験を持つリハビリテーション専門職」である。言い換えると彼らは、「当事者が抱える課題」を「専門性を用いて解決」することを担う「セラピスト」であり、一方で「当事者が抱える課題」を「主体性をもって解決」しようとする「当事者」である。ようするに当事者セラピストは、当事者が抱える「生活課題」に対して当事者としてもセラピストとしてもアプローチする存在であることが推察された。しかも、セラピストとしてのアプローチ対象が「当事者としての自分自身」でもあり、解決する課題は「自分自身が抱える課題」であるという、複雑で相互通行的な関係性が存在した。また、前述した「疾病・障害体験を持つ医療福祉専門職に関する文献」の検討(第2章-第1節-第2項)も踏まえて、当事者セラピストであるがゆえの独自性が、「当事者」と「セラピスト」の間にあることが推察された(図2-2-4)。

これらをまとめると「当事者セラピスト」とは、「専門性と当事者性(主体性)を用いて生活課題の解決に取り組んでいく」存在でもあると言えた。

以上を踏まえて、あらためて「本研究における当事者セラピスト」とは、「疾病・障害体験を持ち、自身の専門性と当事者性(主体性)を用いて生活課題の解決に取り組んでいく、リハビリテーション専門職(OT、PT、ST)」とした(図2-2-5)。

なお、第3章以降のナラティブ分析を通して、第5章-第2節-第4項ではあらためて「当事者セラピスト」の定義化も試みた。

図2-2-4 「当事者」で「セラピスト」であることの独自性イメージ
図2-2-4 「当事者」で「セラピスト」であることの独自性イメージ [Excel]

図2-2-5 「本研究における当事者セラピスト」のイメージ
図2-2-5「本研究における当事者セラピスト」のイメージ [Excel]


>TOP

■第3章 研究の方法

●第1節 当事者セラピストの抽出

・第1項 抽出方法
 第3章で定義した「本研究における当事者セラピスト」に基づいて当事者セラピストを抽出した。抽出方法は、「当事者セラピストグループ Cross Bridge」のメンバーと関係者を中心とし、雪玉式抽出も用いた。対象は18名が挙げられ、そのうち協力の意志を示したのは16名であった。
 協力依頼は、電話もしくはE-mailにて行い、その際にアンケートの送付先住所・送信先E-mailアドレスを聴取した。


>TOP
・第2項 抽出時の対象者属性

抽出した対象者18名のうち、協力の意志を示した16名分の対象者属性を示した。なお、抽出時点で把握できていた項目のみ記載した(表3-2-1)。


表3-2-1 抽出時の対象者属性 [Excel] 表3-2-1 抽出時の対象者属性


>TOP

●第2節 アンケートの作製と配布

・第1項 アンケートの概要
 アンケートは、協力の意志を示した16名の対象者に対して封書にて送付し、同様のWordデータをE-mailでも送信した。
 送付内容は以下の通りとし、返信用封筒と切手を同封した。
 
   @あいさつ文:封書の内容や記述・返信・締め切りのルールを記載
A研究協力依頼書:研究目的・意義、研究方法・手順、予測される利益・不利益とその対策、同意とその撤回、
 研究結果の取り扱いなどを記載
B同意書:同意内容とそのチェック項目、署名欄を記載
C質問紙(アンケート用紙):自計式質問紙で、末尾には質問紙で使用される用語の解説を記載
 

 質問紙への記述方法は、自筆記入もしくはWordデータへの直接入力で構わないこととした。また、同意書は自筆記入のみとした。
 質問紙の返信方法は、自筆記入した用紙もしくは直接入力したWordデータを印刷して、返信用封筒に入れて返信してもらった。また、自筆記入した同意書も同封可能とした。なお、直接入力した質問紙のWordデータはE-mailでの返信でも構わないこととした。
 返信期間は約1ヶ月半程度を設けた。


>TOP
・第2項 アンケートの内容と構成

アンケート内容は大きく分けて以下のような構成で、時系列を負って記入してもらうようにした。

      @個人の属性:一般情報、職業歴、病歴・障害歴など
   A過去:発症・発障時の様子と体験など
   B現在:就労とその他の場面におけるストレングス・ウィークネス、社会的活動、社会的役割
   C未来:将来のビジョンなど
   


>TOP

●第3節 アンケートの回収結果

 16名の対象者のうち、アンケートの返信があったのは14名で回収率は87.5%だった。
 なお、M氏に関しては自記入での回答が困難だったことを考慮し、自宅を訪問した上で質問紙を用いた聞き取りと代筆を行った。同意書のみ、自筆で署名してもらった。
 アンケートの詳しい結果については、第4章で分析とともに示した。


>TOP

■第4章 アンケート回収結果のエピソード分析

第4章では、対象者から回収されたアンケート結果を分析し、統合と解釈を進めた。研究対象者は18名が挙げられ、協力の意思を示したのは16名であった。そして、実際にアンケートの返信を得た者は14名(回収率87.5%)だった。



>TOP

●第1節 対象者の属性 A氏〜N氏(14名)

・第1項 一般情報、職業に関する情報、疾病・障害に関する情報

アンケート結果を分析するにあたり、アンケート対象者16名のうち同意と回答が得られたA氏〜N氏まで14名の基本的属性について記載した(表4-1-1、4-1-2)。


表4-1-1 一般情報・職業に関する情報 [Excel] 表4-1-1 一般情報・職業に関する情報


表4-1-2 疾病・障害に関する情報 [Excel] 表4-1-2 疾病・障害に関する情報

1. A氏(38歳、男性、OT16年目、Charcot-Marie-Tooth病)

A氏は精神科病院で15年勤務していた38歳のOT(16年目)である。

4歳頃から足部の変形や頻回な転倒・脚の易疲労性などさまざまな違和感を得ており、6〜7歳頃には急激な運動機能低下が見られた。下肢の麻痺・変形から麻痺性内反足の診断を受けていたが、OT養成校に在学中の18歳時にCharcot-Marie-Tooth病の確定診断を受けた。

症状の進行とともに現在は離職し、療養生活を送りながら、フリーランスのOTとして同病の患者会代表や医療福祉系養成校・専門職向けセミナー等で講師をつとめている。また、当事者セラピストグループをC氏とともに立ち上げ、ワークショップや場作り等の活動もしている。

身体障害者手帳3級で障害基礎年金を受給しており、上下肢の麻痺や筋力低下に合わせて短下肢装具とロフストランド杖を使用しながら、妻と娘たちと4人暮らしをしている。


2. B氏(36歳、女性、OT14年目、重症筋無力症)

B氏は回復期病院で勤務していた36歳のOT(14年目)である。

臨床や研究に忙殺されていた24歳時に、身体の違和感に気づき重症筋無力症の診断を受けた。OTとして実際に臨床勤務した期間は4年間で、症状の増悪にともない退職し長期療養となった。現在は福祉系NPO法人の代表理事となり、地方自治体や地域と協働する機会が増え、障害施策の委員や医療福祉系養成校での講師をつとめるほか、インクルーシブイベントの企画も行っている。

日常生活では多くの場面で介助が必要であり、診療・リハビリ・入浴などの訪問系障害福祉サービスを利用している。また、気管切開し人工呼吸器や酸素ボンベを利用していることでコミュニケーションのわずらわしさを訴えている。身体障害者手帳1級で障害年金を受給しており、ヘルパーを利用しながら母との二人暮らしである。


3. C氏(29歳、男性、PT6年目、脳性麻痺)

C氏は一般病院で勤務する29歳のPT(6年目)である。

脳性麻痺による対麻痺で歩行は不安定であるが、短下肢装具を装着し急性期・回復期のリハビリテーションに携わっている。また、A氏とともに当事者セラピストグループを立ち上げ、ワークショップ等の活動もしている。

身体障害者手帳は5級を所持しており、それ以外の定期受診やサービス受給はしていない。家族と同居。


4. D氏(65歳、女性、ST34年目、心原生脳塞栓症)

D氏は国立大学医学部や大学院の教授として、失語症の治療・研究や後進の育成に取り組んできた65歳のST(34年目)である。

多忙な生活を送っていた57歳時に脳塞栓症による左片麻痺と失語症を罹患しており、その闘病体験をもとにした講演会活動や書籍執筆をしている。16年間の臨床の後に教職となり、発症のための休職期間を経て12年間の勤務を全うした。定年退職した現在は自ら立ち上げた脳に関する研究所の所長のほか、脳損傷に関する学会の理事などをつとめている。

身体障害者手帳は2級、夫との二人暮らしである。


5. E氏(58歳、女性、OT23年目、膠原病)

E氏は精神科病院・大学付属病院精神科での勤務を経て医療福祉系大学で准教授をつとめる58歳のOT(23年目)である。

もともと、ピアノや音楽活動に造詣が深く、OT免許を取得する以前から音楽療法の学会に所属したり音楽制作や演奏に関する活動も行ってきている。

40歳時から膠原病による症状が出現し、疼痛や変形でピアノが弾けなくなっていくと同時に、OT教員としての役割をも喪失しかけるという体験をしている。また、これら発症による心身の状況・対人ストレス等の変化を分析的に記した書籍も出版している。現在は症状も落ち着いており、音楽活動も再開している。

障害サービス等の受給はなく、家族への告知もしていない。


6. F氏(41歳、男性、OT6年目、交通事故による頭部外傷 脳内出血)

F氏は認知症専門病院で勤務する41歳のOT(6年目)である。

5歳頃に交通事故にあい頭部外傷・脳内出血となり、左下肢機能の著しい障害が残っている。

現在は病院勤務の傍ら、地方自治体や団体における障害者スポーツ指導員やトレーナーとして活動している。

身体障害者手帳は4級で、現在は定期受診やリハビリは受けていない。妻と二人暮らし。


7. G氏(34歳、女性、OT13年目、CIDP疑い)

G氏は回復期病院や老人保健施設で勤務していた34歳のOT(13年目)である。

30歳頃より現れた四肢末梢神経障害により単身生活・就労が困難となり離職し、確定診断を待ちながら治療を行っている。発症時は四肢の筋力低下から始まり、複数の医療機関を回ったが原因特定に至らなかった。職場の理解のもとで就労継続していたが、症状の悪化とともに休職し、結果として離職となった。

身体障害者手帳は2級、障害年金は申請中で、現在は週2回の外来リハビリを受けつつ症状増悪時には入院している。四肢の筋力低下や神経因性膀胱などが見られ、移動時は両手ノルディックポールの使用もしくは車椅子である。勤務地より帰郷し、両親と同居している。


8. H氏(35歳、女性、OT13年目、多発性硬化症疑い)

H氏は回復期病院で勤務していた35歳のOT(13年目)である。

OT養成校に在籍中だった19歳時に多発性硬化症の疑いとされるが、診断が確定しないまま現在にいたる。四肢麻痺や内部障害を主としており、加齢とともに症状は増えている。

働きにくさを抱えたまま臨床勤務をしてきたが、現在は離職し障害者グループホームで指導員として勤務している。

身体障害者手帳は未申請で、定期受診やリハビリを利用している。


9. I氏(35歳、男性、PT5年目、脳梗塞)

I氏は回復期病院で勤務する35歳のPT(5年目)である。

23歳時、スポーツジムトレーナーとして勤務しつつボクシングプロを目指していた練習中に脳梗塞を発症した。右片麻痺・運動失調・感覚障害は残ったが、リハビリ経験をもとに理学療法士の道を選択し、現在は脳卒中に関する患者会や脳に関する学会においても活動している。

また、脳卒中当事者や支援者を対象としたイベントを企画したり、自身の体験を描いた書籍を出版している。

障害サービス等の受給はなく、妻と二人暮らし。


10. J氏(26歳、男性、PT5年目、脊椎空洞症)

J氏は回復期病院で勤務していた26歳のPT(5年目)で、現在は訪問看護ステーションに勤務している。

14歳時に左上下肢の感覚障害や右上下肢の筋力低下が出現し、現在も症状は残存している。幼少期から野球に取り組んできたが、発症時には明らかな足のつまづき・もつれなどを感じていた。

過去には診察やリハビリを受けていたが、現在は障害サービスの受給や定期受診はしておらず単身生活をしている。


11. K氏(46歳、女性、ST17年目、Charcot-Marie-Tooth病)

K氏は総合病院で勤務する46歳のST(17年目)であり役職にもついている。以前は生命保険会社の事務職として就労していた。現在は勤務先のほかに、身体障害者療護施設や通所介護施設などで非常勤としても勤務している。

始歩が遅れ幼少期から運動発達の遅滞を指摘されたが一般就学し、運動等にも参加してきた。18歳でCharcot-Marie-Tooth病の告知を受けている。

身体障害者手帳は6級で、現在はインソールと靴型装具を使用して歩行している。


12. L氏(37歳、女性、ST12年目、脳性麻痺・Charcot-Marie-Tooth病)

L氏は総合病院で勤務する37歳のST(12年目)である。

幼少期には運動発達の遅れのため療育センターを受診し、リハビリ目的で入所していた。歩行障害のほかに顔面神経麻痺・外斜視や上肢運動機能障害があり、2歳頃には脳性麻痺の診断を受けていたが、33歳時にCharcot-Marie-Tooth病の確定診断をうける。

身体障害者手帳は1級、夫と二人暮らし。


13. M氏(50歳、女性、OT29年目、くも膜下出血)

M氏は医療系専門学校や短期大学で教鞭をとっていた50歳のOT(29年目)である。

一般病院で臨床経験を積んだ後に養成校の教員となり、市の障害・介護認定の委託を受けたり講演や研究を積極的に行ってきた。通信大学や大学院へ入学し履修・研究を進めていた42歳時に、くも膜下出血を発症し左片麻痺と高次脳機能障害となった。

現在は離職し、通所や訪問サービスを利用しながら在宅で過ごしたり、医療系短大やセミナー講師として活動している。

身体障害者手帳1級、自宅を改修し両親と同居している。


14. N氏(33歳、男性、PT5年目、クローン病)

N氏は公認会計事務所で勤務するPT(12年目)で公認会計士資格も取得している。

PTとして勤務していた22歳時にクローン病の診断を受け、その後は症状が増悪と桓階を繰り返している。

クリニックや介護老人保健施設におけるPTとしての臨床勤務は実質4年程度。キャリアチェンジを図り、ベンチャー企業や監査法人での勤務を経て現在にいたる。

小腸の部分切除や人工肛門の増設など手術を受け、身体障害者手帳3級を取得。体調管理をしながら単身生活している。



>TOP
・第2項 対象者の属性の整理

次に、上記の対象者14名の属性をまとめた(表4-1-3)。

対象者の属性は、「男性」6名・「女性」8名で、平均年齢は40.2±8.4歳(26〜65歳)である。所有するリハビリテーション国家資格は、「作業療法士(OT)」7名・「理学療法士(PT)」4名・「言語聴覚士(ST)」3名で、免許取得からの平均年数14.6±6.5年(5〜34年)であった。ICD-10により主病名を分類すると、「神経系の疾患」8名・「循環器系の疾患」3名・「消化器系の疾患」1名・「筋骨格系および結合組織の疾患」1名・「損傷中毒およびその他の要因の影響」1名であり、発症・発障からの平均年数は20.1±11.4年(4〜45年)であった。現在の就労状況としては、「臨床にて専門職として就労中」6名・「キャリアチェンジして専門知識や技術を用いての就労中」6名・「就労していない」2名であり、キャリアチェンジした対象者の中には発症・発障前に臨床から教職・研究職へキャリアチェンジしていた者が2名含まれていた(発症・発障がキャリアチェンジのきっかけではない)。また、対象者全員が一度は臨床家として就労経験を有しているということがわかった。

対象者は、発症・発障と国家資格取得のタイミングでとらえると2つに大別することができ、「発症・発障したのちに国家資格取得」8名・「国家資格取得したのちに発症・発障」6名であった。


表4-1-3 属性のまとめ [Excel] 表4-1-3 属性のまとめ


表4-1-4 成育歴の相関グラフ
図4-1-4 成育歴の相関グラフ

これらのデータのうち、「発症・発障、免許取得、現職へのキャリアチェンジ、現在年齢」の前後関係を整理するためにグラフを作成した(図4-1-4)。

14名の対象者は、疾病や障害の内容、発症時の生活、家族構成、そして現在の生活など状況はさまざまであった。そして、対象者の属性を整理する中で、疾病や障害が現在の生活に何らかの影響を与えていることが推察された。本来ならば、医療福祉サービスの提供側に存在すべきリハビリテーション専門職(セラピスト)が、自身の発症・発障によってサービスの受給側になっているという状況を読み取ることができ、中には今まさに離職し療養中である者や、臨床現場から離れる選択をしてキャリアチェンジしている者も見られた。



>TOP
・第3項 エピソード分析のための枠組み設定

エピソード分析を始める前に、対象者属性の枠組みを設定した(表4-1-5)。まずは、前述した「発症・発障」と「国家資格取得」のタイミングで対象者を2つに大別し独立変数とし、「現在の就労状況」で対象者を3つに大別し従属変数とした。それによって、対象者は大きく6つのグループに分けることができ、それぞれのグループごとにエピソード分析をすることができた。

独立変数は、「発症・発障したのちに国家資格取得」8名・「国家資格取得したのちに発症・発障」6名の2つ。従属変数は、「臨床にて専門職として就労中」6名・「キャリアチェンジして専門知識や技術を用いての就労中」6名・「就労していない」2名の3つとなった。

便宜上、独立変数の前者を「Group:T」、後者を「Group:U」とした。また、従属変数をそれぞれ「サブグループ○」「サブグループ△」「サブグループ□」とした。


表4-1-5 対象者属性の枠組み [Excel] 表4-1-5 対象者属性の枠組み


>TOP

●第2節 エピソード分析とそれぞれの解釈

今節では、アンケート紙で回収したデータへのエピソード分析を進めていった。前節で設定した対象者属性の枠組みに準じて、アンケート内容を編集し分析した。



・第1項 発症・発障時とその後の喪失・獲得体験

対象者が、発症や発障時に感じた「想い」や「喪失体験」「獲得体験」など主観的な部分についてエピソード分析をした(表4-2-1、4-2-2)。


表4-2-1 発症・発障時とその後の喪失・獲得体験(Group:T)[Excel]
表4-2-1 発症・発障時とその後の喪失・獲得体験(GroupT)


・Group:T @発症・発障時の想い

ここでは大きく2つの傾向が見られた。それは、自身の状態を「当たり前」と認識するサブグループと「不安・心的防衛機制」を訴えるサブグループであった。

前者はC,K,L氏ら「先天性〜乳児期」の発症・発障であり、後から振り返ってみて現在の自身の状況は「生まれつき」「当たり前」であるという認識をしていることが分かる。

後者は、A,F,H,J氏ら「幼児期〜青年期」とI氏の「成年期以降」の発症・発障というさらに2つのサブグループに分けることができた。それぞれ、「違和感・漠然とした不安」「何も思わなかった」(各A氏:4歳、F氏:5歳)や、「どうなるの?」「どうして自分が」(各H氏:19歳、J氏:14歳)そして、「絶望・混乱」(I氏:23歳)という受け止め方をしている。これらは、喪失への不安やショック・否認・混乱などの心的防衛機制をともなっており、年齢を重ねるにつれてその度合いは大きくなる傾向が見られた。


・Group:T A喪失体験

先ほどと同様に、大きく2つの傾向が見られた。それは、喪失体験を「なかった」と認識するサブグループと「あった」と訴えるサブグループであった。

前者は同じくC,K,L氏らで、「喪失体験はない」「特に感じたことはない」(各C,L氏)や、喪失体験ではなく「体験できなかった=獲得できなかった」(K氏)と記載があった。また、「他者との比較」「劣等感」(各C,L氏)の訴えもあり、「喪失」よりも「獲得できない」ことへの想いが記されていた。

一方で後者は、明確に「喪失体験」を記載していることが多かった。喪失感の傾向としては「心身機能の喪失」(A,F,J氏)が多く挙げられており、それに伴う「つながりの喪失」(A,J氏)、そして「目標・役割の喪失」(A氏)「自己像の喪失」(A,H,J氏)が明記されていた。心身機能を喪失することでの活動制限は、社会的なつながりを喪失させ、自分自身のアイデンティティを揺るがすことになっていた。 


・Group:T B獲得体験

ここでも先ほどと同様に、大きく2つの傾向が見られた。それは、「獲得」していくサブグループと「再獲得」していくサブグループであった。

前者は、「職業選択」「役割の創出」(K,A氏)など「先天性〜乳児期」発症・発障の自身に対して、喪失ではなく「積み重ねていく=獲得していく」課程を記載している。障害を持つことでの独特の視点や感性、肉親との密なつながりを肯定的に記載していた。

一方で後者は「幼児期以降」発症・発障の者が多く、喪失したものへの「再獲得」が多く記載されていた。その傾向として「新たな価値観の獲得」(A,H,J,I氏)や、「新たなつながり」(A,I氏)、「新たな役割」(A,H氏)など「再」や「新たな」を用いた内容が挙げられていた。これらは、心身機能の再獲得だけではなく、概念的な部分の再獲得と言えた。



>TOP

表4-2-2 発症・発障時とその後の喪失・獲得体験(Group:U)[Excel]
表4-2-2 発症・発障時とその後の喪失・獲得体験(GroupU)


・Group:U @発症・発障時の想い

ここでは特徴的に「心的防衛機制」を訴えた者が多かった。「気のせいだと思っていた・何が何だかよくわからなかった」(B氏)、「恨みつらみ怒り」(E氏)、「何が起こっているのか理解できず…混乱と焦りを感じていました」(G氏)、「実感がわかなかった…徐々に自覚した」(N氏)などの記載からも、ショック・否認・混乱そして合理化など心的防衛機制が働いていることを読み取ることができた。

一方で、D,M氏は自身の発症・発障に対して「ああ、脳卒中になった!!」「自分が今どんな状況なのかを把握しようと、自身の知識を総動員していた」(各D,M氏)と記載していた。D氏は素直に感情を吐露しており、M氏は冷静に自身の蓄積してきた専門知識によって状況把握と状態改善への努力を試みていた。両氏に共通するところは、発症・発障時にはST26年目・OT21年目という長いキャリアを有し、さらに臨床から研究・教育職へキャリアチェンジ済みだったことである。また、前述のB,E,G,N氏はキャリア10年未満のセラピストだった。


・Group:U A喪失体験

Group:U対象者は共通して、明確に「喪失」の体験を記載していることが多かった。ここでの喪失体験は「心身機能の喪失」(G,M氏)と健康的な「自己像の喪失」(E氏)に始まり、「キャリア・仕事の喪失」(E,G,D,M氏)とそれに伴う「存在価値」「生きがい」(B,E氏)など社会的役割の喪失、また就労において構築してきた人間関係や職場環境など「つながり」「居場所」の喪失(各B,M氏)、さらに自身にとって意味のある「作業・活動の喪失」(E,G,N氏)など多岐にわたっていた。また、少数ではあるが生命へのクライシスに陥り「生への疑問」(B氏)や、腸疾患による「自由な食事の喪失」(N氏)を記載した者もいた。


・Group:U B獲得体験

対象者は共通して、「新たな」を用いた「獲得」体験を記載していることが多かった。「新たな感性の獲得」(G,D,M氏)や「新たな価値観の獲得」(N氏)、「新たな役割の獲得」(B氏)、「新たな視点の獲得」(G氏)などが挙げられており、さらには「新たな人生・疾病の獲得」(E氏)と記載した者もいた。

もう一つ特徴的だったことは、「知的好奇心の拡大」「知識への体験的フィードバック」(各D,M氏)という記載である。D氏は「これまで対象としていた方々の経験を味わうことができるという気持ち。理解することができなかった失語症患者の世界を知ることができるという知的好奇心。新しい体験をしてセラピストとして再学習できる機会。」と記載しており、M氏は「患者が言っていたことが実感できるようになった。「患者を見る・分かる」という、セラピストとしてのバージョンアップが図れたと感じる…自身の知識と実感が伴う。新しい身体を得た。」と記載している。


・対象者属性による枠組みの再構成

この項においてGroup:T,Uの分析をする中で、対象者属性による枠組みがさらにグルーピングできることが分かった。それらを踏まえて、対象者属性による枠組みを再構成した(表4-2-3)。

Group:Tでは発症・発障の年齢により分類し、「先天性〜乳児期」を「Group:T-1」、「幼児期〜青年期」を「Group:T-2」、「成年期〜」を「Group:T-3」と設定した。Group:Uでは資格取得からの経過年数により分類し、「1〜10年未満」を「Group:U-4」、「10年以上」を「Group:U-5」と設定した。

この枠組みを用いて、第1項のまとめを行った。また、分析で抽出されたキーワードを整理し表にまとめていった(表4-2-4)。


表4-2-3 対象者属性の際枠組み [Excel] 表4-2-3 対象者属性の際枠組み

・Group: Tのまとめと考察

Group:T-1では、自身の障害を「当たり前」と認識し「喪失体験はなかった」と柔軟な受け止め方をしている。これは、自我形成前に障害が存在しているため、喪失対象となる体験が蓄積されておらず、ありのままの自身を受け止めていることだと推察できた。また、「当たり前」と感じつつも心身の成長とともに「他者との比較」を行い、「体験の制限」を通した「劣等感」を得ていることも分かった。一方で、「当事者体験」が職業選択のきっかけになったり、健常児以上に「他者とのつながり」や「愛情・幸福感」への感性を豊かにしてきたと感じていることが読み取れた。

これらのプロセスを通して、「疾病や障害を持ちあわせていることが自分自身である」という自己同一性が幼少期から育まれていると推察できた。「先天性〜乳児期」に発症・発障した者は、心身の発達段階において、「当事者体験がアイデンティティの構築に一役買っている」と推察された。

Group:T-2,3では全体を通して、「心的防衛機制」およびさまざまな「喪失体験」と「獲得・再獲得体験」が記載されていた。対象者は、健常児として獲得してきた「心身機能」や「社会性」など「健康的な自己像」を、発症・発障によって一時的に喪失しており、その喪失感は年齢を重ねた発症・発障であるほど大きかった。そしてその後、何らかのきっかけを通して、喪失した物の「再獲得」や「新たな自己像」の獲得に至っていることが推察された。

「幼児期〜青年期」「成年期以降」という思春期を前後しての当事者体験は、心身の発達段階の中に「成長=獲得」と「喪失体験」と「再獲得・新たな獲得」をもたらし、結果としてリハビリテーション国家資格の取得に至らせている。プロセスこそ違うがこちらも、「当事者体験がアイデンティティの構築に一役買っている」と推察された。

Group:Tを通して言えることは、その発症・発障の年齢に合わせて「喪失体験」の認識に大きな差があったということである。先天性〜乳児期の発症においては、「当たり前の存在」である疾病や障害によって何かを「喪失する体験」はなかった。一方で、正常発達の段階が進んでいる途中での発症・発障は、そこまでに獲得したものを「喪失する体験」を伴うことを読み取ることができた。それによってGloup:T-2,3では、多くの対象者が上田(1980)32)の「障害受容段階」に当てはめて考えることができ、何かしらのきっかけ・過程を経て上田(1980)32)の「価値の転換」に至っていることが推察された。Gloup:T-1においては、受容段階や価値転換という概念は当てはまらなかった。

また、共通して言えることはいずれのサブグループにおいても、当事者体験が「セラピストになることの要素」の一つになっている事であった。幼少期から積み重ねてきた豊かな感性や自己同一性だったり、再獲得により積み重ねてきた新たな価値観や役割観が、どちらも自己肯定感として作用していることが特徴的だった。


・Group: Uのまとめと考察

Group:U-4において特徴的だったことは、喪失体験に対して全員が「心的防衛機制」を呈していることと、多くの「喪失体験」を記載している事であった。彼らは資格取得後に発症・発障しているグループであり、正常発達後に何らかのきっかけでセラピストを志し、「健康的なセラピスト」としてキャリアを積み、将来に向けて継続的に対象者に向き合っていくはずだった。発症・発障という当事者体験は彼らに、「セラピストとしての大きな喪失感」をもたらした。大きな喪失体験に対する対象者それぞれの反応は、「障害受容段階」に当てはめて捉えることができる。

また、セラピーする側からされる側への立場の転換は、強制的に「価値の転換」を迫られることにもなり、「新たな」を枕詞にした獲得体験が多く記載されていた。特に、当事者に対する「親和性・共感性」を挙げた者が半数おり、セラピストではない「当事者としての感性」を新たに獲得したとした。

Group:U-5では臨床経験が20年を超えたベテランセラピストたちによる、「知的好奇心の拡大」「知識の体験的フィードバック」という記載があったことが特徴的だった。「これまで対象としていた方々の経験を味わうことができるという気持ち」「患者が言っていたことが実感できるようになった」とD,E氏が述べているように、自身がセラピストとして長年にわたり興味・関心を寄せ理解しようと努めてきた「当事者体験」が自身に降り注いだことを素直に受け止め、さらにその蓄積された知識・経験・知的好奇心によって自身の当事者体験を「内側から理解・解決しよう」と行動化した試みだと言えた。今まで理解しようとしても決して体験することができなかった「当事者体験」は、セラピストとしての大きな学びとなっていた。

Group:Uで共通して言えることは、「健康的なセラピストとしての過去・未来」を喪失する体験をしたことであった。しかしその一方で、セラピストとしての知識・経験の蓄積はそのままに、当事者体験による「新たな感性」「新たな価値観」を獲得したということである。彼らは、「セラピストとしての知識・経験」と「当事者としての実感」を相互にフィードバックさせており、当事者理解やアプローチに新たなセンスを見出していることが読み取れた。実際の仕事復帰や就労継続に困難さを抱えるものの、「セラピストとしての喪失体験がアイデンティティの再構築に一役買っている」と言えた。


表4-2-4 想いと体験の抽出 [Excel] 表4-2-4 想いと体験の抽出


>TOP
・第2項 就労場面におけるストレングスとウィークネス

第2項では、就労場面においてセラピストたちが感じる「ストレングス」と「ウィークネス」についてエピソード分析を進めた(表4-2-5、4-2-6)。またこの項でも、対象者属性の再構成した枠組みを用いて、抽出したキーワードを整理した(表4-2-7)。

アンケートでは、就労場面で自身の感じている「ストレングス」「ウィークネス」と「その他」の3項目を用意したが、「その他」内で「ストレングス」「ウィークネス」へ分類できる内容は移行して考えることとした。


表4-2-5 就労場面におけるストレングスとウィークネス(Group:T)[Excel]
表4-2-5 就労場面におけるストレングスとウィークネス(Group:T)

・Group:T @ストレングス

当事者体験を通してストレングスと感じているものとして、「当事者性への役割付与」「共感性・親和性」「信頼関係」という特徴的な3つのキーワードが抽出された。

「当事者性への役割付与」について、C氏は「職業を選択する際…自分の経験が患者さんなどに役に立つのではないかと思いました」と記載している。免許取得前に、自身の当事者体験へ漠然とではあるが役割を感じていた。これ以外のキーワードは免許取得後に振り返って感じたストレングスについてであった。

「共感性・親和性」については、全体の7/8にあたるA,F,H,I,J,K,L氏が記載していた。「対象者の心理的葛藤に寄り添いやすい…実感を持って対応できる」「気持ちが痛いほどわかる」「患者の主観が想像しやすい」「相手の立場に立っての視点ができる」(各A,H,I,J氏)などの記載があり、それぞれがストレングスとして挙げていた。また、これに伴っての「信頼関係」構築について、「本音を伝えてきてくれる」「「何でも話せる」と言ってもらうことがある」(各H,L氏)と挙げられていた。


・Group:T Aウィークネス

ウィークネスと感じているものとして、「身体による活動制限」「心的ストレス・バイアス」「就労継続の困難」「当事者体験の不十分な活用」が特徴的に挙げられた。

対象者全員(8/8)が「身体による活動制限」を挙げており、歩行・移乗や徒手的リハビリなど自身の身体を用いる場面での困難さやリスク管理など業務遂行の難しさを訴えていた。

「心的ストレス・バイアス」はA,H,J,K氏(4/8)が挙げていた。業務遂行の難しさや同僚の反応に対する「心的ストレス」と、「強い共感が、思考を鈍らせバイアスをかける…技術よりも想いが先行しがちになる」「気持ちが痛いほどわかって苦しくなった」「何かやりたいことがあっても遠慮する」(各A,H,J氏)という親和性・共感性の高さによる「心的バイアス」のつらさを訴えていた。また、「なかなか理解を求められず…「周りと同じ」を求められた」「現場の他スタッフから理解されない」「自分という存在が職場にいることでの影響」(各H,A,C氏)など、職場環境や対人面での心的ストレスも多く記載されていた。

また、上記の身体・精神的なウィークネスに伴って、「就労継続の困難」もH,J,L氏が記載(3/8)していた。さらに、J氏は「自分の症状と全く一緒じゃないので(当事者体験を)上手く生かせない」と記載し、自身の当事者体験がストレングスでもウィークネスでも生かし切れていないとした。


・Group:T Bその他

その他の内容はそれぞれストレングスとウィークネスに分類できた。



>TOP

表4-2-6 就労場面におけるストレングスとウィークネス(Group:U)[Excel]
表4-2-6 就労場面におけるストレングスとウィークネス(Group:U)

・Group:U @ストレングス

当事者体験を通してストレングスと感じているものとして、「当事者性の活用」「共感性・親和性」が多く挙げられ、「信頼関係」「キャリア意識の変化」も挙げられた。

「共感性・親和性」は3/6(B,D,G氏)と、Group:Tに比べて数は少ない。具体的な内容としては「動けない不安などを理解してあげられた」「身体的・精神的苦痛や生活への不安を表面的ではなく理解・共感できることが増えました」など、セラピストとして共感が及ばなかった点を「共感できるようになった」という獲得の体験だと読み取ることができた。

「当事者性の活用」は対象者全員が挙げており、その活用主体は2つに分けることができた。1つは、「退院後の生活を一緒に考えていく」「具体的な困り事や心身状態を学生に伝えることができる」「生きた教材としての存在」(各G,E,M氏)のように「セラピストとしての活用」に挑戦しているグループで、D氏の「セラピストが当事者になるという逆転の結果から得たWisdom(知恵)」という言葉が印象的であった。もう一つは、「同病者にも勇気を与えることができると思った」「障害そのままに生きる方法があることの発見を患者さんへ提示」(各N,E氏)のように、「当事者としての活用」に挑戦しているグループもあった。中でもN氏は、自身が「困難を乗り越える」姿を当事者に示すという「ピアサポート的な活用」を記載していた。これらの結果として、「患者対セラピストの関係から…患者&セラピストの関係に変化した」(G氏)という「信頼関係」の変化・構築も挙げられた。


・Group:U Aウィークネス

Group:Tと同様に、「身体による活動制限」「就労継続の困難」「当事者体験の不十分な活用」が挙げられており、特徴的なことに「当事者性の持つネガティブなイメージ」が挙げられた。

B,D,G,M,N氏が(5/6)が「身体による活動制限」を挙げており、人工呼吸器などの利用や高次脳機能障害・内部疾患による体力のなさなど、業務遂行の難しさを訴えていた。

「当事者体験の不十分な活用」はB,E氏が記載しており、「必要な人に必要な情報を届けることはできないのかな」(B氏)のように自身の体験を必要としている人とうまくマッチングできないことや、「障害受容って、障害や病の無い人には、どうやっても伝える手段はない」(E氏)という当事者性を持たないものに対する共感性のなさを訴えていた。

「就労継続の困難」はE,G,M氏が挙げており、特にE氏は「患者としては大切にされるべきであっても、専門職・職業人としても「弱い人」「困った人」「休むことが多い」と思われる厳しい目」が寄せられるとし、G氏は「他のセラピストに代わってほしいと…患者に気を使わせてしまう場面」があったとし、M氏は「(内部障害は)外見からは分からないので、症状の大きさを理解されない…体力面では他の人に劣る」とした。これらは、「当事者性の持つネガティブな側面」が、職場環境や対人面での心的ストレスとなり、「就労継続の困難」にもつながっていると訴えていた。


・Group:U Bその他

その他の内容はそれぞれストレングスとウィークネスに分類できた。


表4-2-7 臨床におけるストレングスとウィークネスの抽出 [Excel] 表4-2-7 臨床におけるストレングスとウィークネスの抽出

・Group:Tのまとめと考察

このグループは「当事者体験がセラピストとしてのアイデンティティ構築に一役買っている」とされるグループである。特徴的なのは、当事者体験を通して身に着けた「共感性・親和性」とそれに伴う「心的ストレス・バイアス」の存在であった。

彼らは免許取得前に「喪失体験」のほかネガティブな体験や感情を「実感」してきている。また一方で、成長発達の過程で大きな喪失体験よりも、多くの「獲得体験」も積み重ねて来た。疾病・障害の存在を「当たり前」「自身の一部」と受け止めて自己同一性の構築を図り、その高い共感性・親和性をストレングスとして生かすことで自己肯定感が得られると感じ、免許取得に至っていることが推察できた。

そして免許取得後、セラピストとして臨床経験を重ねるうちに、他セラピストとの比較による「身体機能による制限」や、自身の当事者体験が活かしきれていないという「当事者体験の不十分な活用」による不全感など、ウィークネスを感じる機会が増えたことが読み取れた。

また、彼らの高い「共感性・親和性」は上記のようにストレングスである反面、ダイレクトに自身のネガティブな体験や感情を用いることになり、冷静な視点を失いバイアス・ストレスとなるリスクも多く内包していた。

Group:Tでの当事者体験は、ストレングスでありウィークネスでもあるというアンビバレンツな存在として感じられることが多く、結果として臨床においては多くの身体・精神・社会的なゆらぎを抱えながら就労継続していることが推察できた。


・Group:Uのまとめと考察

セラピストとして支援対象とし理解を深めてきた「当事者」に自分自身がなるという逆転の体験は、セラピストとしての大きな喪失体験であり、一方では自身の知識・経験に対する「実感を持ったフィードバック」という獲得体験であると言える。

今までセラピストという「客観的かつ外側」から見てきた当事者体験を、「主観的かつ内側」から見るという変化を伴っていた。それにより、「理解の深まり」「捉え方・視点の変化」「共感性の高まり」などを感じていた。言い換えれば、「知識・経験と実体験の融合」であり、当事者に対するセラピストとしてのより具体的で深い理解が進むことを期待できた。また、自らの当事者体験を自身の持つ専門知識で分析・理解し、それを言語化・行動化して他者へ伝えるという「当事者性の活用」に挑戦している者が多かった。その対象は、専門家だったり当事者であり、E,M,N氏などは特に「リカバリー体験」を伝達・提案するという役割をすでに得ていた。

一方で、第1項で述べたようにGroup:Uにおいては免許取得後の発症・発障により、自身のセラピストとしてのアイデンティティや社会的役割の喪失と再獲得のプロセスがあった。今まで日常的に行ってきた業務に大きな制限をもたらし、特に自身の身体機能を活用する機会が多い身体障害・老年期領域においては、自身の活動制限だけでなく対象者のネガティブな心理的変化(不安・不信感、不必要な気遣いなど)をも招き信頼関係にもネガティブな影響をもたらしていた。

さらにE氏は、一般社会や医療専門職における「健康的な就労」のイメージが根強く存在することを指摘し、「患者を治す」役割の医療専門職が疾病・障害状態であることに違和感を唱える者がいまだに多いことを訴えていた。セラピストとして当事者性を獲得したがゆえに、当事者性への共感・理解が出来ないことへのストレスがあることを、同様にN氏も訴えていた。

Group:Uにおける当事者体験もまた、ストレングスでありウィークネスであるというアンビバレンツな存在して感じられていた。就労状況を加味すると、当事者体験をきっかけにキャリアチェンジや療養状態のものが4/6をしめていた(D,E氏は臨床を離れて研究・教育職となってから発症し復職している)。



>TOP
・第3項 就労以外の場面におけるストレングスとウィークネス

第3項では、就労以外の場面においてセラピストたちが感じる「ストレングス」と「ウィークネス」についてエピソード分析を進めた(表4-2-8、4-2-9)。またこの項でも、対象者属性の再構成した枠組みを用いて、抽出したキーワードを整理した(表4-2-10)。

アンケートでは、就労場面で自身の感じている「ストレングス」「ウィークネス」と「その他」の3項目を用意したが、「その他」内で「ストレングス」「ウィークネス」へ分類できる内容は移行して考えることとした。


表4-2-8 就労以外の場面におけるストレングスとウィークネス (Group:T) [Excel]
表4-2-8 就労以外の場面におけるストレングスとウィークネス(Group:U)

・Group:T @ストレングス

就労以外の場面において、対象者全体の6/8がさまざまにストレングスを感じていることが分かった。ストレングスの内容は「当事者性とセラピスト性の活用」3名、「当事者性の活用」2名、「その他」1名と特になし2名だった。その活動場面は、研究(セラピスト)、患者会、講演・執筆(当事者セラピスト)、そして生活場面が挙げられた。

「当事者性とセラピスト性の活用」はC,F,I氏が挙げていた。C氏は「自分自身の身体の仕組みを知りたいという欲求があった」と記載し、自分の身体の仕組みを解き明かしたいという知的好奇心から「研究分野」への関心を示していた。F氏は「当事者セラピストの存在意義を感じることができた」と記載し、自身の持つイメージと当事者セラピストグループの活動に親和性を感じて、活動参加したい旨を述べていた。I氏は「患者とセラピストの中間の存在として、講演や執筆を行えた」と記載し、自身の体験を活用した講演や執筆などを行動化していた。

「当事者性の活用」はA,K氏が挙げていた。A氏は「患者視線・生活者視線での運営がしやすい。社会的ニーズや生活ニーズがイメージしやすい。当事者の声を実際の活動に反映させやすい」と患者会活動における活用を記載し、ピアサポートや患者会運営にあたっていた。K氏は「活動できる期限がある感覚があり、縁がある活動には参加しようと思う」と記載し、自身の持つ当事者性によって想起される「活動の制限」を「活動の積極性・モチベーション」として活用していた。

また、J氏は「病気という診断がつくことで、何もわからない状態よりは少し安心」と記載しており、他の対象者のような活動上の活用ではなく、診断に対して「安心感」を覚えているとした。

臨床業務ではない活動場面においても、それぞれの当事者体験にストレングスを感じることが記載されていた。


・Group:T Aウィークネス

就労以外の場面において、対象者全体の7/8が様々なウィークネスを感じていることが分かった。ウィークネスの内容は「当事者性の負の側面」による影響が7名、「当事者性とセラピスト性のバイアス」1名だった。その活動場面は生活場面がほとんどで、「生活者」としてのウィークネスを訴えていた。

生活場面での「当事者性の負の側面」として具体的に挙げられたものは、「易疲労性」(C,I氏)、「症状の変化・進行」(H,F氏)、「心的ストレスに対する脆弱性」(J氏)、「活動範囲の制限」(L氏)、そして「一般的に担うべき家庭内役割遂行の困難」(A氏)であった。疾病・障害の当事者であり「生活者」として抱えるさまざまなウィークネスがされていた。

「当事者性とセラピスト性のバイアス」はA氏が記載しており、両者の間での心理的葛藤や自己同一性の揺らぎが訴えられていた。

臨床業務ではない活動場面、特に生活場面において、それぞれの当事者体験にウィークネスを感じることが記載されていた。


表4-2-9 就労以外の場面におけるストレングスとウィークネス (Group:U)[Excel]
表4-2-9 就労以外の場面におけるストレングスとウィークネス (Group:U)

・Group:U @ストレングス

就労以外の場面において、対象者の4/6が様々なストレングスを感じていることが分かった。ストレングスの内容は「当事者性とセラピスト性の活用」3名、「当事者性の活用」1名、特になし2名だった。その活動場面は、講演・執筆・教育(当事者セラピスト)、ピアサポート(デイサービス)、生活場面だった。

「当事者性とセラピスト性の活用」はB,D,M氏が挙げていた。B氏は「2つの視点を持っていること、両方の立場を理解できる…どちらにも共感できるし分かりやすいと思う」と記載し、「当事者としての経験を、講演活動などにダイレクトに活用できている」と実感をつづっていた。D氏は自身のことを「特異な背景を持つ当事者セラピスト」と記載し、講演や授業の機会を得ているとした。M氏は自身の通うデイサービスにおいて「他の利用者の様子を見たりアドバイスしている」と記載しており、さらには「当事者になってもセラピストとしてのフィーリングやタッチには変化なかったので、今でもセラピーできる」と述べていた。

「当事者性の活用」として、自身にとっての意味ある活動(ピアノ)を喪失したと感じていたE氏は「動かない指でのピアノ演奏が可能になった」と記載し、そのことを「固定概念からの解放」と表現していた。



・Group:U Aウィークネス

就労以外の場面において、対象者全体の5/6が様々なウィークネスを感じていることが分かった。ウィークネスの内容は「当事者性の負の側面」による影響が5名、「当事者性とセラピスト性のバイアス」2名だった。その活動場面は生活場面がほとんどで、「生活者」としてのウィークネスを訴えていた。

生活場面での「当事者性の負の側面」として具体的に挙げられたものは、「症状や体調の変化」(B,E,N氏)、「活動範囲の制限」(B,E,M,N氏)、「家族への介護負担」(M氏)、「家庭内役割遂行の困難」(M氏)、そして「死への予感」(D氏)であった。Group:Uにおいても、疾病・障害の当事者であり「生活者」として抱えるさまざまなウィークネスがされていた。また具体的な、「活動の制限」については特に、症状により日常生活や就労上の制限が生じて経済的負担が大きくなったり(E氏)、症状により「家庭内役割(留守番等)の遂行が困難」となったりADL上の「家族の介護負担」の増加があったり(M氏)、人工呼吸器の使用によるコミュニケーションの制限(B氏)が挙げられた。

「当事者性とセラピスト性のバイアス」はN,M氏が記載しており、疾病・障害を持ちながら就労しなければいけない負担について、「仕事上のミス…職場の人間関係の悪化」「在宅でできる仕事はないか」(各E,M氏)と、その難しさを訴えていた。

臨床業務ではない活動場面、特に生活場面において、それぞれの当事者体験にウィークネスを感じることが記載されていた。


表4-2-10 臨床以外の場面におけるストレングスとウィークネスの抽出 [Excel] 表4-2-10-1 臨床以外の場面におけるストレングスとウィークネスの抽出@ 表4-2-10-2 臨床以外の場面におけるストレングスとウィークネスの抽出A 表4-2-10-3 臨床以外の場面におけるストレングスとウィークネスの抽出B

・Group:Tのまとめと考察

Group:Tにおいて特徴的だったのは、「当事者性」がストレングスの中心にあるという語りだった。当事者性は、C氏にとって直接的に現在のセラピスト活動(研究)の動機となっており、K氏には間接的に日常生活活動へ積極性(活動の制限)を与えており、A氏には患者会活動(ピアサポート)での自身の活用をもたらしていた。

一方で、ウィークネスは「生活場面」において多く感じられていた。そこでは、当事者性そのものが持つ負の側面(易疲労性・症状の進行など)がクローズアップされていた。また、A氏は「2つの立場・視点ゆえの心理的葛藤や自己同一性の揺らぎ」を訴え、双方から求められることの相違から自身の役割の不安定性を訴えている。さらにJ氏は、心身のストレスに対する防衛機制が、免許取得前の学生時代に特に強い傾向があったと述べていた。

Group:Tという免許取得前の発症・発障グループでは、自身の「当事者性」をストレングスの中心とし当事者体験の活用に挑戦する傾向が推察され、一方でそのウィークネスは「生活場面」で強く意識され、その中心にも「当事者性」が影響していることが推察できた。


・Group:Uのまとめと考察

Group:Uにおいて特徴的だったのは、「セラピスト性」がストレングスの中心にあるという語りだった。特にM氏は「当事者になってもセラピストとしてのフィーリングやタッチには変化がなかった」と語り、セラピストとしての知識・経験・フィーリングの継続性によって「自身の通うデイサービスにおいて、他の利用者の様子を見たりアドバイス」したり「自身を「評価・治療」し、周囲に「指導」し、専門家に「意見・リクエスト」」を実行していた。さらに「今でもセラピーできる」と力強く自身のセラピスト性を強調していた。またD氏は自身を「特異な背景」を持つ当事者セラピストとし、「特異=当事者体験」を持つ自身のセラピスト性を語っていた。

一方で、ウィークネスは「生活場面」における「喪失体験」との関係を感じていることが多かった。生活場面で感じる「家族への介護負担」「家庭内役割遂行の困難」「就労継続の困難」などは、成人し免許取得してからの発症・発障がもたらした「喪失体験」に由来することが推察でき、それらは疾病・障害の当事者であり一人の「生活者」として抱えるウィークネスであった。E,M氏はそれぞれ「仕事上のミス…職場の人間関係の悪化」「在宅でできる仕事はないか」と記載し、当事者性を持ちながら就労継続することの難しさを訴えていた。またD氏は、発症時に体験したクライシスに対して「死」への予感を抱くことになっていた。

他に、E氏はいったん喪失した自身の意味ある作業(生きがい)に対し「動かない指でピアノ演奏が可能となった」「固定概念からの解放」と語り、喪失体験からのリカバリー体験(再獲得)を得ていた。

Group:Uという免許取得後の発症・発障グループでは、自身の「セラピスト性」をストレングスの中心とし当事者体験の活用に挑戦する傾向が推察され、一方でウィークネスは「生活場面」で強く意識され、その中心には「喪失体験」が影響していることが推察された。



>TOP
・第4項 社会的な活動(行動化・希望・義務・期待)

第4項では、第1〜3項を踏まえて、自身の担う社会的な活動について、@実際に行動化していること:「行動化」、A自身がしたいと感じていること:「希望」、B自身がする必要があると感じていること:「義務」、C自身がすることを期待されていること:「期待」、と4つに分けて記載してもらった(表4-2-11、4-2-12)。

なお、ここで言う「社会的活動」とは、「人間活動の中でも社会に参加して、社会のために貢献する活動」とし、営利・非営利は問わないものとした。また、社会のために貢献せず自己自身のための活動であっても「社会の中で営まれている個人の活動」も広義に含めるものとした。

キーワードをまとめるにあたって、その活動内容だけでなくその活動の「対象者」が誰であるかも分析しまとめた。その際には、キーワード1つに対して各1ポイントを与え、その対象者へ付与することで「活動内容と対象者」の比較をした(表4-2-13)。


表4-2-11 社会的な活動(行動化・希望・義務・期待)(Group:T) [Excel]
表4-2-11 社会的な活動(行動化・希望・義務・期待)(Group:T)

・Group:T @行動化している活動

行動化している活動について、その対象者は「当事者」(67%)、「専門家・学生」(57%)が多く、「市民・社会」(19%)へ向けた活動は少なかった。

具体的な内容として、当事者に対しては「当事者セラピストグループ」(3)、「講師」「執筆」「当事者団体」(各2)が多く挙げられており、「障害者スポーツ活動」(1)が当事者だけ対象として挙げられていた。専門家・学生に対しては「当事者セラピストグループ」「講師」(各3)、「執筆」(2)が多く挙げられていた。市民・社会に対しては「執筆」(2)が多く挙げられていた。また、「何も行動化していない」が4名という点も特徴的だった。

中でも、「当事者セラピストグループ」「ワークショップ」「当事者と専門家の間の通訳」などが当事者とセラピストへ同時に向けられた活動として挙げられていた、さらに、「執筆」「イベント企画」「当事者研究」に関しては、当事者と専門家と社会へ広く向けられていた。


・Group:T Aしたいこと:希望

行動化したいと思うことについて、その対象者は「当事者」(86%)、「専門家・学生」(43%)、「市民・社会」(43%)となっており、「当事者」向けの活動が他の約2倍となっていた。

具体的な内容として、当事者に対しては「生活支援」「啓発」(各2)が多く挙げられており、「生活支援」(2)「障害者スポーツ活動」「外出支援」(各1)が当事者だけ対象として挙げられていた。専門家・学生に対しては「啓発」(2)が多く挙げられており、「研究」「職務遂行」(各1)が専門家・学生だけ対象として挙げられていた。市民・社会に対しては「啓発」(2)が多く挙げられていた。

中でも、「当事者セラピストグループ」「当事者研究」(各1)「啓発」(2)が当事者とセラピストへ同時に向けられており、「場作り」「ビジネスモデル作り」「イベント団体の法人化」「アウトドア活動」(各1)が当事者と市民・社会へ向けられていたことであった。さらに、「啓発」は「当事者と専門職と社会」に広く向けられていた。


・Group:T Bする必要があること:義務

する必要があると思うことについて、その対象は「当事者」(92%)、「専門家・学生」(38%)、「市民・社会」(77%)となっており、「当事者」と「市民・社会」向けの活動が多く挙げられていた。

具体的な内容として、当事者と専門家と社会に向けた「啓発」(3)が一番多く、同様の対象に「橋渡し」(1)が挙げられていた。当事者のみに対しては「居場所づくり」「卓球療法の活動」(各1)が挙げられ、当事者と市民・社会に対しては「地域づくり」「障害者スポーツ支援」「東京パラリンピック支援」「イベント団体の法人化」「ビジネスモデルづくり」(各1)が挙げられた。

特徴的だったのは、割合の多かった「当事者」「市民・社会」の両方へ同時に向けた活動が多かったことであった。


・Group:T Cすることを期待されていること:期待

することを期待されていることについて、その対象は「当事者」(100%)、「専門家・学生」(69%)、「市民・社会」(54%)となっており、圧倒的に「当事者」向けの活動を全員が挙げていた。

具体的な内容として、当事者と専門家と社会に向けた「啓発」(4)が一番多く、同様の対象に「場作り〜フラットな場〜」(1)が挙げられていた。当事者のみに対しては「東京パラリンピック支援」「卓球療法」(各1)が挙げられ、当事者と専門家・学生に対しては「啓発」「当事者セラピストグループ」「つながり作り」「架け橋」(各1)が挙げられ、当事者と市民・社会に対しては「社会への介入」「障害者スポーツ支援」(各1)が挙げられていた。


表4-2-12 社会的な活動(行動化・希望・義務・期待)(Group:U) [Excel]
表4-2-12 社会的な活動(行動化・希望・義務・期待)(Group:U)

・Group:U @行動化している活動

行動化している活動について、その対象者は「当事者」(47%)、「専門家・学生」(58%)、「市民・社会」(32%)となっていた。

具体的な内容として、当事者に対しては「講師」(3)「執筆」(2)が多く挙げられており、「患者会への参加」(1)が当事者のみを対象として挙げられていた。専門家・学生に対しては「講師」(6)「執筆」(2)が多く挙げられており、「研究対象としての協力」(1)が専門家・学生のみを対象として挙げられていた。市民・社会に対しては「執筆」(2)が多く挙げられており、市民向けの「講師」が市民・社会向けのみを対象としてあげられていた。

中でも、「執筆」「啓発」「イベント企画」が、当事者と専門家と社会へ広く向けられており、「福祉系NPO法人の運営」も行われていた。

全体的に「講師」としての行動化が多く、その対象は当事者・専門家・学生・市民であった。Group:Uでは、幅広い対象に向けてバランスよく行動化していることが推察された。また一方で、「何も行動化していない」(1)という者もいた。


・Group:U Aしたいこと:希望

行動化したいと思うことについて、その対象者は「当事者」(80%)、「専門家・学生」(20%)、「市民・社会」(70%)となっており、「当事者」および「市民・社会」向けの活動が多く挙げられ、「専門家・学生」向けの活動は少なかった。

具体的な内容として、当事者に対しては「場づくり・地域づくり」「コミュニティー作り」「社会変革」「よりダイレクトに当事者体験を活かせる活動」「モデル事業化」「就労・起業」などが挙げられており、そのほとんどが同時に市民・社会向けの活動としても挙げられていたことが特徴的だった。

また、市民・社会のみを対象とした活動では「教育」が挙げられており、小学生等に対する早期からの福祉教育によってインクルーシブ教育を広めたいと記載していた。


・Group:U Bする必要があること:義務

する必要があると思うことについて、その対象は「当事者」(63%)、「専門家・学生」(50%)、「市民・社会」(75%)となっており、若干「市民・社会」向けの活動が多く挙げられていた。全体的に数は少ない。

具体的な内容として、当事者と専門家と社会に向けた「場作り」(3)が一番多く挙げられていた。より具体的に見ると、「患者会以外の集える場の普及」「精神障害や引きこもり対象」としていた。他には、当事者と市民・社会を対象とした「地域づくり」、当事者とセラピストを対象とした「人集め」が挙げられていた。特徴的だったのは、「教育(障害福祉教育)」「啓発(疾病予防)」で、これらは市民・社会のみを対象として挙げられていた活動であった。


・Group:U Cすることを期待されていること:期待

することを期待されていることについて、その対象は「当事者」(44%)、「専門家・学生」(56%)、「市民・社会」(78%)となっており、「市民・社会」向けの活動が多く挙げられていた。全体的に数は少ない。

具体的な内容として、当事者と専門家と社会に向けた「啓発」(2)と、専門家と社会に向けた「発信」(2)が多く挙げられた。他にも、当事者の社会参加促進や学校教育を生業とする者がおり「職務遂行」や「福祉教育」を、期待として挙げていた。

また少数ではあるが、「模索中」「なし」と挙げた者もいた。

全体を通して、当事者・専門家・社会へと広く「啓発・発信」することを挙げていることが多かった。


表4-2-13 社会的活動の内容と対象者まとめ [Excel]
表4-2-13 社会的活動の内容と対象者まとめ

・Group:Tのまとめと考察

行動化している活動は、当事者や専門家向けが多く、双方を対象としていることも多かった。特に、「当事者セラピストグループ」をはじめとして、当事者とセラピストが集まる「ワークショップ」「イベント企画」、当事者とセラピストの間の「通訳」、さらに市民や社会も対象に加えた「当事者研究」「執筆」などが挙げられていた。A,I氏は当事者や専門家・学生へ向けた講演や執筆など、啓発的な行動化をすでに数多く行っていた。これらの活動は自身の「当事者性とセラピスト性の活用」を意識していることが推察された。

次に希望とする活動は、当事者・専門家・社会へ向けた「啓発」が多く挙げられていたが、行動化の項目には挙げられていなかった。このことから、「啓発したい」と希望しつつも、何らかの理由でまだ行動化できていないことが推察された。また、当事者向けの活動が他の対象の2倍(86%)となっており、特に当事者と社会を対象とした「フラットな場作り」、当事者が働ける「ビジネスモデル作り」、社会啓発的な「イベント団体の法人化」、当事者が安心して参加できる「アウトドア活動」などが挙げられていた。これらの活動の主たる対象はあくまで「当事者」であり、「生活支援」(2)など当事者が生活するための具体的な「社会づくり」を希望していることも推察された。自身の「当事者性をストレングスの中心」にしているGroup:Tの特徴であると推察することができた。

次に義務と感じる活動は、前述の「希望」と同様に当事者・専門家・社会へ向けた「啓発」が多く挙げられ、「橋渡し」役割も挙げられていた。また、当事者向け(92%)、市民・社会向け(77%)とどちらもたくさんの活動が挙げられており、ここでも「希望」と同様に当事者と社会を対象とした「地域づくり」「障害スポーツ・パラリンピック活動」「イベント団体の法人化」「ビジネスモデル作り」などが挙げられていた。これらの活動の主たる対象はもちろん「当事者」であり、その社会参加のためには当事者そのものへのアプローチだけでなく、「場・地域」や「システム・仕組み」づくりも必要であることを自身の当事者体験を通して感じており、自身の希望以上に義務感を感じていることが推察された。前述の「希望」の内容以上に、より「市民・社会」を意識していた。

最後に期待を感じる活動は、全員が「当事者」のための項目を挙げていた。ここでも当事者・専門家・社会へ向けた「啓発」が多く挙げられていた。特徴的だったことは、当事者と専門家をつなぐ「場作り」「当事者セラピストグループの活動」「交流会などのつながり」そして「啓発」「架け橋」をそれぞれが挙げている事であった。自身の役割として、他者からも自分自身からも「当事者」へのアプローチが期待されていると感じていることが推察された。

Group:Tにおいては、自身の当事者性を中心としたストレングスと当事者体験を通した問題意識を持ち、当事者を対象として行動化しようとする挑戦があった。そこでは医療モデルに準じた当事者へのアプローチだけではなく、社会モデルに準じた「場・仕組みづくり」「専門家・市民への啓発」など当事者のリカバリーを促す要素をつくり出そうとする挑戦が行われていることが推察された。彼らの意識の中ではやはり「当事者性」が中心をなしており、「患者と専門家がフラットにやり取りできる」「ソーシャルインクルージョンの普及や啓発」(A氏)「何でも言い合える協力しあえる場を創りたい」(J氏)「障害や疾病の枠を超えて、お互いに認め合える地域づくり」(L氏)のような「共生の社会」が強くイメージされていた。そしてその実現に向かって、「当事者のリアルな生活を…自身がもっと発信すべき」(A氏)「一般の方々と障害を抱えている方々の橋渡し役となること」(C氏)「自分を通じて障害とかに興味を持ってもらう」(H氏)のように、自分自身を利用して「啓発」しなくてはならないことを期待され義務として感じ希望しながらも、一方ではうまく行動化できていないことが推察された。

また、何らかの理由で「行動化できていない」とする4/8名がいることも特徴的であった。

「当事者性を持つ自己自身を活用しようとする義務感と挑戦」が多く推察された。


・Group:Uのまとめと考察

行動化している活動は、当事者・専門家・社会向けとバランスよくさまざまであった。特に「講師」「執筆」が多く「啓発」「イベント企画」など、全体的に幅広い対象へ発信していく活動が行動化されていた。B,D,M,N氏は講師として幅広い対象へ数多くの講演活動を行っており、「患者とセラピストという両者と立場の想いを知ってもらいたく本を出版した」と記載したE氏やD氏のように執筆活動をしている者もいた。これらの行動化は、「当事者性とセラピスト性の活用」に挑戦した結果であり、医療モデルではなく社会モデルで思考し行動化したことが推察された。

次に希望とする活動は、とても多くの項目が挙げられていたが、対象は当事者および市民・社会向けの内容が多かった。当事者への活動はそのまま市民・社会向けの活動と同じであり、「場・地域・コミュニティー作り」「モデル事業化」「就労・起業」など、当事者が過ごすための「社会づくり」を望んでいることが推察された。また、「生涯教育やインクルーシブ教育」そして「障害者中心で主体的な社会変革」「共生社会の実現」など、多様性ある共生的な社会づくりを希望していることも推察された。これらは、「セラピスト性をストレングスの中心」としているGroup:Uの特徴であり、自身の当事者性から感じられる社会問題を解決すべく、当事者と社会のどちらへもアプローチしようと考えるセラピスト視点が意識されていることが推察された。

次に義務と感じる活動は、上記の「希望」と同様に当事者と社会へ同時に向けているものが多く挙げられていた。具体的に挙げられていた「場作り・地域作り・コミュニティ作り」など社会へのアプローチの内容としては、「精神障害や引きこもりの人たちが、地域で安心して集まることのできる場」「今までの患者とセラピストの関係性を打ち砕くようなアピールができる場」「難病カフェなど患者会以外での障害者が集える場所」(各E,G,N氏)など、既存の場ではない新しい「場作り」をイメージしていた。また、次の世代や将来性を意識した「教育(障害福祉教育)」「啓発(疾病予防)」(各B,D氏)などの意識もあった。社会という生活場面における「受け皿作り」や、当事者を含め広く「生活者」を対象として、自身の義務感を感じていることが推察された。

前述した「希望・義務」的活動では当事者と社会へ向けた活動が強く意識されていたが、期待を感じる活動は、市民・社会向けの活動が多く挙げられていた。具体的な内容としては「啓発」「発信」を多く挙げており、「当事者の体験を支援者にわかりやすく、伝わりやすい言葉で伝えていく」「克服している人が「障害があっても成果を出すことが出来る」と伝える必要がある」「当事者が社会参加し、児童・養成校在学中の学生が「障害」を理解する」(各B,N,D氏)とする当事者体験の活用が特徴的に挙げられていた。そしてその対象は社会や当事者・専門家など幅広く、全体を通して自身の当事者体験を用いた活動に期待が寄せられていると感じていることが推察された。

また現在療養中のGroup:U-△、G,M氏は次のように記載していた。G氏は、「これからやってみたい活動を通して少しずつ見えてくるかも」とし、現時点では特に行動化しておらず他者からの期待も感じられていないが、「希望」や「義務」を感じて自身の活用を模索中であるとした。M氏は、自身を「しゃべるポスター」など教育現場で活用し「仕事をしてみたい」と希望を抱きつつも、義務や期待はまだ感じていないとした。

Group:Uにおいては、自身のセラピスト性を中心としたストレングスと当事者体験を通した問題意識を持ち、当事者と社会を対象として行動化しようとする挑戦があった。そこでは、社会モデルに準じた「場・仕組み作り」や「世代や将来を見据えたアプローチ」など、社会に対してのさまざまな新しい挑戦が行われていることが推察された。自身の活用として「当事者の体験を…分かりやすく、伝わりやすい言葉で伝えていくこと」(B氏)という言葉にあるように、「当事者性をセラピスト性で解釈し活用する」という傾向が推察された。



>TOP
・第5項 実態のともなう社会的役割

第5項では、実感のともなう社会的役割について、@すでに実感している役割、Aイメージ・予想される役割、に分けて記載してもらった(表4-2-14,4-2-15)。

なお、アンケート実施の時点での「主観」で記載してもらい、その抽出されたキーワードを表にまとめて分析した(表4-2-16)。


表4-2-14 実感のともなう社会的役割について (Group:T) [Excel]
表4-2-14 実感のともなう社会的役割(Group:T)

・Group:T @実感のともなう社会的役割

実感のともなう社会的役割について、対象者全体の7/8がさまざまに社会的役割を実感していることが分かった。役割の内容は、「ファシリテーター」5名、「発信者」5名、「ピアサポーター」1名、「支援者」1名で、「役割の実感がない」1名であった。

まず、「ファシリテーター」「発信者」を同時に挙げたのはA,C,I氏で、それぞれ「当事者の声を専門家へ。専門家の声を当事者へ。そしてこれらの声を社会へ」「身体の印象や感覚、筋緊張が亢進している状態を患者さまや同僚へ伝える」「患者の主観をセラピストに伝え、臨床に生かしてもらう」(各A,C,I氏)と記載していた。当事者・セラピスト・社会のファシリテートと、その場での発信は同時に行われていた。

あらためて「ファシリテーター」はA,C,F,I,J氏が挙げており、自身のことを「架け橋」「通訳」「ハブ」とさまざまに表現していた。J氏は「(患者と医療という)観点を越えたチームプレーができる」と記載していた。また、「発信者」はA,C,H,I,K氏が挙げており、H氏は「専門職としての知識や経験を(当事者体験と)交えて、情報を発信する」と記載し、同時に相談窓口での「ピアサポーター」としての役割も記載していた。

その他としてF氏は、「障害者スポーツの普及とトレーナー活動」として「支援者」の役割を感じていた。また一方で、L氏は実感している役割がないとしていた。


・Group:T Aイメージ・予想される社会的役割

イメージ・予想される社会的役割について、対象者全体の7/8が社会的役割をイメージ・予想していることが分かった。役割の内容は@と同じで、「ファシリテーター」2名、「発信者」5名、「ピアサポーター」1名、「支援者」2名で、「役割のイメージがない」1名であった。

ここで、「ファシリテーター」「発信者」を同時に挙げたのは、上記で「実感する役割がない」としたL氏だけで、「患者の気持ちを他のスタッフに代弁できる部分はあるのではないか」と記載していた。

あらためて「ファシリテーター」を挙げたのはH,L氏で、H氏は「当事者同士…障害のない人との交流の場を作る」と記載し、「ピアサポーター」の役割も合わせてイメージしていた。

また、あらためて「発信者」を挙げたのはA,F,J,K,L氏で、具体的には「自身が発信者となる」「(当事者セラピストとして)各種講演依頼があると考えられる」「(痛みや辛さや苦痛を)乗り越える精神の強さを持って…いわゆる健常人の方への刺激に」「社会、会社に障害者が普通に居るように」(各A,F,J,K氏)と自己の活用イメージを記載していた。

一方で、I氏は特にイメージ・予想はないとした。


表4-2-15 実感のともなう社会的役割について(Group:U) [Excel]
表4-2-15 実感のともなう社会的役割(Group:U)

Group:U @実感のともなう社会的役割

実感のともなう社会的役割について、対象者全体の5/6がさまざまに社会的役割を実感していることが分かった。役割の内容は、Group:Tと同様な4項目「ファシリテーター」3名、「発信者」3名、「ピアサポーター」1名、「支援者」1名。それに加えて、特徴的な2項目「プレゼンター」1名、「教育者」1名。そして「役割の実感がない」1名であった。

まず、「ファシリテーター」「発信者」はB,D,M氏の3名とも同時に挙げていた。内容はそれぞれ「支援する側とされる側の架け橋となるような役割、当事者体験を伝えていくこと」「当事者セラピストとしての経験から得た知見を社会に発信する」「教科書通りではない「生」の患者であり、専門知識を持つセラピストである」(各B,D,M氏)と記載していた。Group:T同様に、当事者・専門家・社会のファシリテートと発信は同時に行われていた。これらに加えて、B氏は「NPO法人の代表としての当事者体験を活かした企画力を発揮する」と記載し、「プレゼンター」の役割も担っていると感じていた。また上記に加えてM氏も「生きている教科書」として自身を活用する役割を感じており、実際に「教育者」として後進の育成に努めていた。

次に、E氏は「医療から地域への移行支援」と記載し「支援者」としての役割を感じており、N氏は「患者の気持ちが分かる、という意義は大きいと思う…人が親しみを感じるのは相手との共通項を見つけられた時だから」と記載し、自身の「ピアサポーター」としての役割を感じていた。また一方で、G氏は「まだ実感しているものはない」としていた。


Group:U Aイメージ・予想される社会的役割

イメージ・予想される社会的役割については、対象者全体の半数3/6が社会的役割をイメージ・予想していることが分かった。役割の内容は少なく、「ファシリテーター」3名、「発信者」1名、「支援者」1名で、「役割のイメージがない」3名であった。

「ファシリテーター」はB,E,G氏の3名とも挙げていた。B氏は「もっとダイレクトに患者と地域をつなぐような役割が必要なんじゃないかな」と記載し、新たな役割や活動を模索していた。E氏は「同僚であるセラピストに障害の「リアル」を伝えられる」と記載し、同時に「発信者」の役割も担っていると感じていた。上記で「まだ実感している役割がない」としていたG氏は「当事者とセラピスト、どちらの要素も持っているからこその就労支援に必要とされる存在となるのではないか」「地域など社会参加レベルの場に携わる活動に(当事者セラピストの)特性を活かしていけるのではないか」と記載し、「漠然としたイメージ」としながらも自身の新たな役割を模索していた。

また一方で、D,M,N氏はイメージ・予想はないとした。


表4-2-16 実感のともなう社会的役割の抽出 [Excel]
表4-2-16-1 実感のともなう社会的役割の抽出@
表4-2-16-2 実感のともなう社会的役割の抽出A
表4-2-16-3 実感のともなう社会的役割の抽出B

・Group:Tのまとめと考察

Group:Tでは、「ファシリテーター」と「発信者」を同時に社会的役割として遂行している者が多かった。自身を当事者とセラピストの「架け橋・通訳・ハブ」と表現し、両者の「間」にいる存在と認識していた。そして具体的には「インクルーシブ社会のハブ」(A氏)「当事者体験を専門家・社会へ」(C,I氏)、「専門知識を当事者へ」(F,K氏)、「相互発信」(C,H氏)など、さまざまなファシリテートと発信をしていた。ある時はピアな立場の当事者として、またある時はセラピストとして、当事者とセラピストをファシリテートする挑戦が行われていた。特にこれらは当事者性をストレングスの中心とした「当事者性とセラピスト性の相互活用」であると推察された。

また一方で、社会的役割の実感を得られていないものの、上記と同様のキーワードがイメージ・予想されていた。特徴的なことは「研究や福祉機器の開発」(C氏)、「障害者スポーツの普及とパフォーマンスの向上」(F氏)、「当事者が医療現場で就労できるようなかかわり」(K氏)、「交流の場作り」(H氏)など、行動化できていなくてもその役割を具体的にイメージ・予想できていたことである。

彼らは、当事者性を持つ自己自身が主体的にかかわることで、自身の社会的役割を強く感じていることが推察された。


・Group:Uのまとめと考察

Group:Uでの主なキーワードはGroup:Tと同様に「ファシリテーター」「発信者」「ピアサポーター」「支援者」だった。

実感している役割において「ファシリテーター」と「発信者」を同時に社会的役割として遂行していたのは全体の半分であるB,D,M氏であり、その一方で実感はできていないまでもイメージ・想像される役割として二つを同時に挙げたのはE氏であった。E氏は、自身のリアルな当事者体験を「セラピストである同僚に伝えることが出来る」とし、自身の役割を明確にイメージしていた。彼らは、当事者・専門家・社会に対して同時に実施される社会的役割の一つとしてこれらを認識し、行動化もしくはイメージしていることが推察された。

また、「経験から得た知見」「障害のリアル」「生の患者」「患者の気持ちが分かる」(各D,E,M,N氏)のように、自身の当事者体験を社会的役割として活用しようとする挑戦が行われており、その一方でG氏のように「役割をまだ実感していない」「漠然とした」としながらも自身の新たな社会的役割を模索していることも推察された。

他に、「医療から地域へ移行する」「NPO法人の代表としての当事者体験を活かした企画力」や「社会参加レベルの場に携わる活動に特性」(各E,B,G氏)らは、自身の活用場所を臨床場面ではなく「生活場面」「社会参加レベル」と感じていることが推察された。実際にE,B,G氏をはじめGroup:Uの対象者らは、臨床家からキャリアチェンジして就労していた。

彼らは、当事者性とセラピスト性を相互活用し、自身の当事者体験をセラピスト性を用いて解釈し、生活現場や社会で活用するということに社会的役割を強く感じていることが推察された。



>TOP
・第6項 生活者として自身が思い描くビジョン

第6項では、生活者として思い描く自身の将来のビジョンや想いについて記載してもらった(表4-2-17,4-2-18)。

なお、抽出されたキーワードを表にまとめて分析した(表4-2-16)。


表4-2-17 生活者としての自身が思い描く将来のビジョン(Group:T) [Excel]
表4-2-17 生活者としての自身が思い描く将来のビジョン(Group:T)

・Group:T 将来のビジョン

生活者としての自身が思い描く将来のビジョンとして、「自己実現」5名(63%)、「自己の活用」4名(50%)、「自分らしさ」3名(38%)、「自己肯定感の獲得」「就労の継続」各2名(25%)が複数挙げられており、「普通の生活」「自己承認欲求の充足」「ない」各1名(13%)となっていた。

「自己実現」はA,C,F,J,L氏が挙げており、「ユニバーサルアウトドアフィールドを創りたい」「障害の有無に捉われることなく…社会で活躍できる仕組み作りの一翼」「(パラリンピックで)日本代表トレーナーとしてメダル獲得に携わる」「病気を持っている持っていないじゃなく…ワクワクする世の中づくり」「子供を育てたり、家庭を支えたり、妻として女としての当たり前のしあわせを築きたい」全世界御人々が「(各A,C,F,J,L氏)など多彩な目標や夢を掲げていた。

「自己の活用」はC,F,H,L氏が挙げており、「自分にしかできない分野の開拓(障害者スポーツのトレーナー)」「自分の専門背や障害体験から、社会貢献ができれば」(各F,H氏)という記載や、漠然としていながらも「専門職としての知識や経験を交えて」(H氏)行動して行きたいとする想いが記載されていた。

「自分らしさ」はA,C,K氏が挙げており、A,K氏は「計画的にそして面白おかしく生活していきたい」「自身の状態に合わせて、色々な形で柔軟に対応したい」と自分らしい生き方を望み、C氏は「自分が障害を抱えているという感覚が徐々に薄れてきている」という実感を今まさに感じていた。

「自己肯定感の獲得」はA,H氏が挙げており、A氏は「就労や社会貢献によって、自身の役割や存在を肯定していくことが大切」と自信のあり方を記載し、H氏は「自身のことに折り合いをつけながら楽しくかつ誰かに必要とされて生活していきたい」と「自己承認欲求の充足」と合わせて記載していた。

その他、A,K氏は専門職としての「就労の継続」を希望しており、L氏は「誰もがしているであろう普通の生活を継続」したいと記載していた。また、I氏のみ「日々の積み重ねが未来を形成していく」と記載し、将来のビジョンは持っていないとした。


表4-2-18 生活者としての自身が思い描く将来のビジョン(Group:U) [Excel]
表4-2-18 生活者としての自身が思い描く将来のビジョン(Group:U)

・Group:U 将来のビジョン

生活者としての自身が思い描く将来のビジョンとして、「自己実現」4名(67%)、「自分らしさ」5名(83%)、が複数挙げられており、「自己の活用」「普通の生活」「心身の回復」各1名(17%)となっていた。

「自己実現」はB,D,G,M氏が挙げており、B氏は「自分らしさ」を加えて「今の生活を無理なく続けていくこと…地域で一人暮らしをしていくこと…自分らしい生活を送れたら」と記載し、D氏は「心身の回復」を加えて「麻痺と感覚障害がなくなり、介助なしでも自立した生活を送れたらいい」と記載し、G,M氏は「障害を持っていても住みやすい街づくりや厳しい冬をいかに楽しく過ごすかなど」「外出はできるようになりたい。婚活もしたいね。コンパとか」と多彩な将来への生活イメージを記載していた。

「自己らしさ」はB,D,E,G,M氏が挙げており、「いろいろな人の支援を受けて、自分らしい生活を送れたらいいな」「自分らしく生き生きとすごす」「静かに今のままの生活を生きていく」「口の減らない100歳を目指して、楽しくありたい」(各B,D,E,M氏)と記載していた。「自己実現」と「自分らしさ」を同時に掲げていたのはB,D,G,M氏らで、中でもG氏は、特に自己実現と結び付けて「街づくり」をしながら「小さい頃から憧れていた雪国」での暮らしを続けていきたいと記載していた。

他に、N氏は「普通に働いて社会に溶け込むことが、同病者に希望を与える」と記載し、「普通の生活」や「自己の活用」を挙げていた。また、D氏は「麻痺と感覚障害」がなくなることを望み、「心身の回復」を希望していた。


表4-2-19 生活者としての自身が思い描く将来のビジョン [Excel]
表4-2-19-1 生活者としての自身が思い描く将来のビジョン@
表4-2-19-2 生活者としての自身が思い描く将来のビジョンA
表4-2-19-3 生活者としての自身が思い描く将来のビジョンB

・Group:Tのまとめと考察

Group:Tの対象者たちは、自身の思い描く将来のビジョンについて多彩なイメージを持っており、具体的な「目標」や「やりたいこと:夢」「なりたい自分:自己実現」を掲げている者が多かった。

「自己実現」に関して、A,F氏は将来の「夢」を具体的に掲げており、そのためには「自分らしさ」や「自己の活用」をしていかなくてはならないと感じていた。そしてそれらの達成は、自身の自己肯定感でもあるとしていた。また、C,J氏はノーマイゼーションやソーシャルインクルージョンと自身の役割を記載しており、「自己の活用」を通してその実現を目標と掲げていた。

また、幼少期からの当事者体験により「獲得できなかった」ことも多く、疾病・障害のある生活が当たり前だったこともあって、「誰もがしているであろう普通の生活」(L氏)への憧れを強く持っていることも推察された。「自分らしさ」や「自分にしかできないこと」を多くの対象者が掲げる一方で、健常者だったり「普通」へのアンビバレンツな想いも抱えていることが推察された。

対象者の多くは、自身の思い描く将来のビジョンに対してポジティブに思考する傾向が見られ、当事者としての想いやストレングスをモチベーションに生活していることが推察された。対象者の50%は将来に向けて「自己の活用」していくイメージを持っていた。そしてI氏のように、将来へのビジョンは具体的でなくても「日々の積み重ねが未来を形成していく」と掲げ、自身の可能性に期待する想いも推察できた。


・Group:Uのまとめと考察

Group:Uの対象者の中で、自身の思い描く将来のビジョンについて「自己実現」と「自分らしさ」を同時に挙げている者は全体の67%にあたるB,D,G,M氏だった。彼らの記載した内容を整理していくと、「生活・生き方」というキーワードが多用されており、お互いに切り離せない内容となっていた。

Group:Uは免許取得後の発症・発障グループであり、生活者としての喪失体験を重ねてきていた。前述した多くの喪失体験の中には「心身機能」「仕事や社会的役割」などが挙がり、「生活」や「健康的な将来のイメージ」を喪失した者もいた。第6項で挙げられた「自己実現」と「自分らしさ」は、「自分らしい生活・生き方の実現」を目指した将来へのイメージであると推察された。

また、N氏は「(自身が)普通に働いて社会に溶け込むことが、同病者に希望を与えると思う」と記載し、喪失体験からリカバリーした「自己の活用」に挑戦している。

Group:Uでは、喪失体験からリカバリーする自身の将来像をイメージし、それを目標に自分らしい生き方を模索する挑戦が推察された。



>TOP

■第5章 考察と結論

●第1節 エピソード分析のまとめと分析

第4章エピソード分析の統合と解釈をもとに、6つの項目のまとめと考察を行った。



・第1項 発症・発障時とその後の喪失・獲得体験

第4章-第2節-第1項より、Group:TとUにおいて明確な違いは、「発症・発障と資格取得の関係性」であった。それにより、「心的防衛機制の程度や内容」「喪失体験の有無と内容」「獲得体験と再獲得体験」にそれぞれ特徴が見られた(表5-1-1)。

前者においては、当事者体験の積み重ねによって自分自身のアイデンティティの構築が進み、セラピストを志すことになっている。それらの体験の多くは喪失ではなく獲得(Group:T-ABは再獲得)の積み重ねであり、当事者でありセラピストでいることの同一性が推察された。

後者においては、健康的な自己像とともにセラピストを志し、当事者をセラピーすることでアイデンティティの構築が進んできた。そして、それらを大きく喪失する体験の中で、セラピストである自身を活用し当事者である自身を理解しようとする挑戦をしている者がいた。自身のアイデンティティを再獲得する過程が見られた。

すべての対象者は「当事者セラピスト」として現在も何らかの活動をしているが、これらの結果により「当事者セラピストとしてのアイデンティティ構築の過程」に差異があることが推察された。


表5-1-1 発症・発障時とその後の喪失・獲得体験のまとめ [Excel] 表5-1-1 発症・発障時とその後の喪失・獲得体験のまとめ


>TOP
・第2項 就労場面におけるストレングスとウィークネス

第4章-第2節-第2項よりストレングスとウィークネスについて考察した。まず、キーワード数の比較をすると、Group:Tにおいてはそれぞれ1.5(±0.5)と2.6(±1.7)となりウィークネスの数が上回った。一方で、Group:Uでは2.0(±0.3)と2.3(±0.8)で大きな差はなかった(表5-1-2,5-1-3,5-1-4)。

次にキーワード内容を比較すると、ストレングスにおいての共通項は「共感性・親和性」「当事者性の活用」「信頼関係」で、ウィークネスにおいての共通項は「身体による活動制限」「就労継続の困難」となった。差異が出たのは、Group:Tのウィークネスにおける「心的ストレス・バイアス」であった。

まずは「共感性・親和性」を中心に考察していった。Group:T,Uで共通することは、自身の当事者体験が対象者の体験と重なるところが多く、喪失や獲得・再獲得のプロセスであったり、心的防衛機制や障害受容段階・価値転換などへ「実感を伴った共感・理解」を示すことができるという点であった。次に双方の差異について、Group:Tにおいては「主観的・直感的」で「高い共感性と親和性」を有しているということ、Group:Uにおいては「主観的かつ客観的」で「分析的理解と共感性」を有しているということだった。

前者は、当事者体験をストレングスとして役割を見出し免許取得に至っているが、臨床現場ではそれを活用しようとすることで逆にウィークネスを意識する傾向が高く、アンビバレンツな存在として生かしきれないでいることが多かった。当事者体験への理解は自身の「主観的な体験の積み重ね」を用いており、自身の主観的体験から解離した他者の当事者体験(社会的役割の喪失など)には共感性を示すことができないことも示唆された。それに伴って、「主観的・直感的」ゆえの「心的ストレス・バイアス」も多くなってしまっていると推察できた。

後者は、本来セラピストとして客観的・分析的に対象者を理解してきた経験がある。その上で、自身の当事者としての主観的体験が積み重ねられており、自身の主観的体験を客観的・分析的に解決しようとするセラピストとしての挑戦が、結果として「当事者性の活用」を促していると推察できた。蓄積されてきた知識・経験への実感を持ったフィードバックは、セラピストとしての感性をより高度なものにしていると推察できた。

これを踏まえて「就労継続の困難」を考察していった。前者では、「臨床にて専門職として就労中」「キャリアチェンジして専門知識や技術を用いての就労中」合わせて、8名全員が就労継続している。一方で後者では、「キャリアチェンジして専門知識や技術を用いての就労中」4/6名(そのうち、発症・発障がきっかけでキャリアチェンジした者は2/4名)と「就労していない」2/6名であり、「臨床にて専門職として就労中」の者はいなかった。

前者は、疾病・障害のあることが当たり前な状態で免許取得に至っており、身体・精神的なストレスや制限が大きいながらも、セラピストとしてのキャリアを大きく喪失する体験に至らなかった。一方で後者は、セラピストとしてのキャリアを大きく喪失する体験をしており、治療する側とされる側という立場・価値の転換を図らざるを得ない状況でもあった。

以上をまとめると、Group:Tは「当事者が専門知識を獲得した」と言うことができ、Group:Uは「セラピストが当事者体験を獲得した」と言うことができた。

前者は、自身の当事者体験に意味や役割を感じ、ストレングスとしてセラピストを目指した。大きな喪失体験はなく、疾病や障害は自我の発達とともに自身の一部として認識されていった(自己同一性の獲得)。免許取得後は臨床において、他者との比較や自身の当事者性から劣等感を感じることが多く、ウィークネスとすることが多い傾向にあった。当事者体験はセラピストとしての自身のストレングスかつウィークネスというアンビバレンツなものであると感じる者が多かった。

後者は、健康的なセラピストとして臨床を重ねる中で、予想外の当事者体験により大きな喪失体験を得ていた。心身の活動制限に始まりセラピストとしてのキャリアや社会的役割などさまざまな喪失体験に対して、セラピストとしての知識や経験を用いて価値の転換を図り、それらをセラピストである自身のストレングスとして活用しようと挑戦していた。

第1項・第2項より、発症・発障と免許取得の前後関係について、「当事者体験のとらえ方」「ストレングス・ウィークネスの感じ方」に差異があることが推察できた。


表5-1-2 臨床におけるストレングス・ウィークネスの認識 [Excel]  表5-1-2 臨床におけるストレングス・ウィークネスの認識


表5-1-3 ストレングス:共感性・親和性 [Excel] 表5-1-3 ストレングス:共感性・親和性


表5-1-4 ウィークネス:就労継続の困難 [Excel] 表5-1-4 ウィークネス:就労継続の困難


>TOP
・第3項 就労以外の場面におけるストレングスとウィークネス

第4章-第2節-第3項より、ストレングスとウィークネスについて考察した(表5-1-5,5-1-6)。

Group:T,Uのキーワードを比較すると、ストレングスにおいての共通項は「当事者性とセラピスト性の活用」「当事者性の活用」で、ウィークネスにおいての共通項は「当事者性の負の側面」「当事者性とセラピスト性のバイアス」となった。その数は大差なかった。

キーワードの内容を分析していくといくつかの差異が見つかったので、ストレングスとウィークネスに分けて考察した。

ストレングスについて、Group:Tでは「当事者性」が、Group:Uでは「セラピスト性」がその中心にあることが推察された。Group:Tは免許取得前の発症・発障のグループで、自身の免許取得のきっかけに当事者体験が影響していることは第2項で推察された。当事者性は、臨床も含めて現在のさまざまな活動に対する直接的もしくは間接的な「動機」であり「意欲」となっていた。一方でGroup:Uは免許取得後の発症・発障のグループで、セラピストとして自身が蓄積してきた「知識・経験・フィーリング」に、発症・発障で獲得した当事者経験をアップデートさせ、活用しようとする挑戦が見られた。

どちらのグループにおいても、その当事者性とセラピスト性は切っても切り離せない相互関係を呈しており、臨床場面以外でも双方のバランスよい活用に挑戦している者が多かった。

次にウィークネスについては、どちらのグループも自身の「生活場面」で強く意識されており、「当事者性が持つ負の側面」が強調されていた。これらは、「疾病・障害や症状」に起因する「易疲労性」「症状の変化・進行」などであり、臨床場面以上に自身の活動や役割が多彩な生活場面で強く感じられるものと推察された。

これを踏まえて、Group:Tではストレングスと同様に「当事者性」がウィークネスの中心にあることが推察された。生活場面ではさまざまに制限を感じるものの、就労や生活は継続できており、ウィークネスを感じながらも生活を止めるまでの深刻な制限はなかった。

一方でGroup:Uでは、生活場面におけるウィークネスと「喪失体験」との関係性が示唆され、当事者であるセラピストでもあるという「生活者」視点からのさまざまな喪失体験が挙げられていた。健康的に成長しセラピストとして就労することで、社会的役割や家庭内役割を担ってきたGroup:Uの対象者たちは、発症・発障によりそれらの役割を喪失する体験を負ってきた。臨床場面においてはストレングスとしている当事者体験も、生活場面においてはウィークネスであると感じる者が多かった。

また中には、喪失体験からのリカバリー体験(再獲得)を体験している者もあり、喪失体験にストレングスとウィークネスをアンビバレンツに感じながら、キャリアチェンジや職場復帰して就労を継続していた。

なお、Group:Tでは全員が臨床等で就労継続しているのに対して、Group:Uでは臨床で就労継続している者はいなかったということ第2項のまとめで推察された。

以上をまとめると、Group:T,Uの間には「喪失体験の認識」の違いがあり、それが臨床場面以外で特に生活場面においてのストレングス・ウィークネスのとらえ方に影響していることが推察された。これは、第2項のまとめで述べたGroup:T=「当事者が専門知識を獲得した」、Group:U:「セラピストが当事者体験を獲得した」という考察と一致するところだった。

臨床場面では「身体による活動制限」「心的ストレス・バイアス」が大きなウィークネスとされたが、生活場面では一人の生活者としての「日常生活」や「個人的な社会的活動」においてウィークネスが強く感じられていた。健康的な「自己」や「生活」を喪失したという体験と、一部の対象者が感じているリカバリー体験はGroup:Uに特徴的な傾向であった。

臨床場面以外では「当事者性」と「セラピスト性」の相互活用が挑戦されており、特にGroup:Tでは「当事者性」が、Group:Uでは「セラピスト性」がストレングスとして活用される傾向であった。当事者体験に専門知識を積み重ねてきた前者は、その生活場面において大きな喪失体験を得ることが少なく、当事者体験を臨床場面・生活場面の両面で活用することに挑戦していた。一方で、セラピストとして当事者体験を獲得した後者は、セラピストとしての喪失体験が生活者としての喪失体験でもあり、そこからのリカバリーとして自身の当事者体験を活用することに挑戦していることが推察された。後者のこのプロセスは、第1項で述べた「価値転換」のプロセスでもあった。

第3項では、「当事者体験」とくに「喪失体験」のとらえ方によって、臨床場面以外のとくに生活場面における「ストレングス・ウィークネスの感じ方」とその「活用内容」に差異があることが推察できた。


表5-1-5 臨床以外の場面におけるストレングス・ウィークネスの認識 [Excel]  表5-1-5 臨床以外の場面におけるストレングス・ウィークネスの認識


表5-1-6 ストレングスとウィークネスの比較 [Excel] 表5-1-6 ストレングスとウィークネスの比較


>TOP
・第4項 社会的な活動(行動化・希望・義務・期待)

第4章-第2節-第4項より、社会的な活動について考察した(表5-1-7)。

全体を通してGroup:Tでは「当事者向けの活動」が多く挙げられ、一方でGroup:Uでは「当事者と社会向けの活動」が多く挙げられていた。

Group:Tは「当事者が専門知識を獲得した」という自身の当事者性を中心にしたストレングスの活用によって、当事者を中心に彼らが生活する社会へのアプローチを思考し行動化していることが推察された。今後の希望・義務・期待の内容についても、当事者そのものの社会参加や生活しやすさが改善されるように、具体的な行動(障害者スポーツ、イベント企画など)が提案されていた。当事者性による共感性・親和性の高さは、当事者の諸問題や社会生活をイメージしやすく、ピアサポートや当事者支援・当事者のための社会づくりなど「当事者視点」を中心とした様々な挑戦を行っていた。一方で、希望・義務・期待として挙げられていた「啓発」活動が、実際には行動化できていないこともカテゴリー分けの中で示唆された。今後の課題として、これらを行動化していくことが求められた。

Group:Uは「専門家が当事者体験を獲得した」という自身のセラピスト性を中心としたストレングスの活用によって、当事者・社会へのファシリテーター的なアプローチが多く提案されていた。彼らには当事者体験により獲得した、生活者としての大きな喪失体験があり、それを通して社会問題が大きく感じられていることが推察された。もともとセラピストとして獲得した知識や経験と、自身の当事者体験を通した視点とを合わせて、社会モデルを利用した当事者・専門家・社会への幅広い挑戦を行っていた。

当事者たちが生活する社会へアプローチしていこうとする挑戦は共通していた。なかでも、Group:Tは自身の当事者性を用いた「当事者寄り」の視点で、Group:Uは自身のセラピスト性を用いた「社会寄り」の視点を持っていることが推察された。それぞれが、それぞれの持つ特性で社会的役割を感じていることが推察された。


表5-1-7 社会的な活動 [Excel] 表5-1-7 社会的な活動


>TOP
・第5項 実感のともなう社会的役割

第4章-第2節-第5項より、社会的役割の実感について考察した(表5-1-8)。

全体を通して、Group:T,Uの両者ともに「当事者性とセラピスト性を相互活用しようとする挑戦」を行っていた。強く感じられる社会的役割としては、共通して「ファシリテーター」「発信者」が多く「支援者」「ピアサポーター」も挙げられていた。

当事者性にストレングスを置くGroup:Tとセラピスト性にストレングスを置くGroup:Uはどちらも当事者性とセラピスト性をあわせ持っており、「当事者」「専門家」の中間に立って「架け橋・通訳・ハブ」というファシリテーター的な役割を、「生活場面」「就労場面」など「社会という場」で担っていることが推察された。その場でその役割を担いながら、ある時は「支援者」として声を挙げ、またある時は「ピアサポーター」として行動していた。

当事者体験は、Group:Tにおいては強い共感性・親和性を発揮していた。当事者体験そのものを「伝えよう」としたり、当事者そのものへの「関わろう」としたり、当事者が生活するための「場作り」への取り組みが実行・イメージされることが多く見られた。一方で、Group:Uにおいては生活者としての喪失体験があった。そのため、当事者が抱える課題や社会問題などを「解決しよう」とする取り組みや、自身の喪失体験を通して必要性を感じた「発信」が、実行・イメージされることが多く見られた。

第5項においても、当事者性とセラピスト性を相互活用しようとする挑戦が見られた。彼らは自身の当事者体験を通して、社会的役割を担ったり新たに創造しようとする挑戦を行っていることが推察された。


表5-1-8 実感する社会的役割 [Excel] 表5-1-8 実感する社会的役割


>TOP
・第6項 生活者として自身が思い描くビジョン

第4章-第2節-第6項より、対象者の将来への想いについて考察した(表5-1-9)。

生活者としての自身が思い描く将来のビジョンとして、多彩なイメージとその実現のための挑戦が推察された。Group:T,Uで多く挙げられたキーワードは「自己実現」「自己の活用」「自分らしさ」であり、それぞれが関係を持っていることが推察された。どのキーワードもとても主観的な内容で、対象者たちのさまざまな将来への想いが込められていた。

「自己実現」はGroup:T,Uでそれぞれ63%・67%、「自己の活用」はそれぞれ50%・17%、「自分らしさ」はそれぞれ38%・83%となった。どちらも6割以上が「自己実現」を記載し、Group:Tでは「自己の活用」を、Group:Uでは「自分らしさ」を同時に記載していることが多かった。

Group:Tでの「自己実現」の内容は、自身の「夢・やりたいこと・なりたい自分」を挙げており、その手段として「自己の活用」「自分らしさ」を用いる傾向があった。前述したように彼らは、免許取得前に自身の当事者体験を「自分らしさ」としてストレングスにしていた。よって、これらの「自己実現へのプロセス」や「就労の継続」を通して、「自己承認欲求を充足」したり「自己肯定感の獲得」に大きく影響を与えていることが推察された。

Group:Uでの「自己実現」の内容は、「生活・作業活動」を挙げており、その手段として「自分らしさ」中心の思考をしている傾向があった。また、これらの「自分らしい生活」や「心身の回復」を目指すことで、「リカバリーした自身の将来像」を思い描いていることが推察された。

以上より、Group:Tが思い描く将来のビジョンは、先天性・幼少期に得た当事者体験に端を発した「自己の当事者性」をストレングスとして活用し、「自己肯定感の獲得を目指す将来のビジョン」であることが推察された。そこでは、「自分らしさにあふれた夢ややりたいこと」への、ポジティブな思考と挑戦が行われていることが推察された。

そして、Group:Uが思い描く将来のビジョンは、免許取得後に発症・発障し多くの喪失体験を得た「自己の当事者性」と「免許取得後に積み重ねてきたセラピスト性」をストレングスとして活用し、「自身のリカバリーを目指す将来のビジョン」であることが推察された。そこでは、「自分らしい生活・自分らしい作業活動」の実行を目指した活動の模索と挑戦が行われていることが推察された。

彼らの思い描く将来のビジョンは、当事者・専門家・社会に対して、多くの「モデル」を提案し、実行していく「ヒント」にあふれていた。


表5-1-9 将来に向けたビジョン [Excel] 表5-1-9 将来に向けたビジョン


>TOP

●第2節 結論

本研究の目的は、当事者セラピストが「自身の当事者体験をどう解釈」し、「ストレングスやウィークネスを感じ」、「どのような社会的役割を見出していくのか」を考えることであった。そして、それらの「プロセスや共通項・違いを解き明かす」ことで、「当事者への最適なアプローチの一端を解き明かす」ことが出来ると同時に、これから先にも増えるだろう「新たな当事者セラピストたちへの働き方の可能性」を提案したいとした。

今節ではこの研究の目的に沿って、「当事者体験の認識と解釈」「ストレングス・ウィークネスと社会的役割への影響」について結論を述べ、「本研究における当事者セラピストの再考」を行った。なお、「当事者セラピストが担う社会的役割への提案」については第6章へ記載した。



>TOP
・第1項 当事者セラピストの分類――当事者体験の認識と解釈

本研究において、当事者セラピストは「発症・発障と資格取得の関係性」により、大きく2つにグループ分けできた(表4-2-3)。Group:Tは「発症・発障したのちに国家資格取得」しており、さらに発症・発障年齢によって3つのサブグループに分けることが出来た(Group:T-@AB)。Group:Uは「国家資格取得したのちに発症・発障」しており、さらに免許取得の経過年数によって2つのサブグループに分けることが出来た(Group:U-CD)。また、Group:T,Uの間には、発症・発障にともなう「喪失体験」「獲得(再獲得)体験」の認識に差異があり、将来的な「当事者セラピストとしてのアイデンティティ構築」の過程に大きく影響をもたらしていることが推察された。

サブグループ@は、自身の疾病・障害を「当たり前」で「喪失体験はない」とし、自己概念の形成の中で自己同一性を獲得しセラピストを目指していった。サブグループABは、発症・発障によってそれまでに形成した自己概念を「喪失」しており、発症・発障の年齢(発達段階)が上がるにつれてその「喪失体験」は大きく感じられていた。その後、心身の発達の中で自己概念の再構築を図りセラピストを目指していった。サブグループCDは健康的な発達による自己概念の形成を経てセラピストを目指し、発症・発障によってそれまでの自己概念や社会的役割など多くの「喪失体験」を感じていた。さらにそこから、自身のリカバリー(再獲得)を目指した者もいた。

サブグループABCDは、喪失体験を感じた際に急性ストレス反応や心的防衛機制が出現しており、これらの傾向は加齢するにしたがって強い傾向が推察された。これらの発症・発障に対する反応の傾向を上田(1980)32)の「障害受容段階」で考えると、サブグループ@は当てはまらず、サブグループABCDは当てはめて捉えることが出来た。さらに、上田の「価値転換」論で考えると、サブグループCDは「価値の範囲の拡大・障害の与える影響の制限・身体の概観を従属的なものとすること・比較価値から資産価値への転換」にも当てはめて捉えることが出来た。

結論として、発症・発障によってもたらされる「喪失・獲得(再獲得)」という「当事者体験」が、当事者セラピストの「分類」と「アイデンティティ構築」に大きく影響していることが推察された。つまり、発症・発障年齢が低いほど喪失体験は小さく、年齢が高いほど喪失体験は大きく認識されていた。また、資格取得前の発症・発障では自身の自己概念構築の中に当事者体験が取り込まれ、一方で資格取得後の発症・発障では自身の自己概念の喪失と当事者体験を含んだ再獲得が挑戦されるという傾向が推察された。



>TOP
・第2項 Group:Tの傾向――ストレングス・ウィークネスと社会的役割

本研究を通してGroup:Tで特徴的だったのは、「当事者としての自身の活用」が多く挙げられていたことだ。

まず、発症・発障してから資格取得に至る過程において、自身の疾病・障害と向き合い、心身の発達段階の中でそれらとの自己同一性の獲得に臨んでいることが多かった。それは、自身の「喪失・獲得(再獲得)」という当事者体験そのものと、他者との比較から感じた「劣等感」を通して獲得していったものだと推察された。加賀谷(2015)33)は著書の中で、「多面的な「障害」構造」を記していた。これによると、Group:Tにおける「診療・リハビリを受ける」「福祉サービスを受給する」「誰かに特別扱いされる」など、他者により外在化された自身の「障害」は、自身を内在的な「障害」者という意識に至らせていると推察できた。先天性・幼児期発症・発障のサブグループ@が「当たり前」として意識してこなかった疾病・障害や、幼少期〜成年期発症・発障のサブグループABが「喪失体験」とした疾病・障害は、心身の発達とともに他者によって外在化されていき、自身を「障害」の「当事者」として早期に内在化し「ありのまま」「ストレングス」として肯定していく過程があったと推察された。

また、Group:Tの多くは「将来のビジョン」で、「「当事者」としての自身が「セラピスト」として就労していること」「自己実現(夢・やりたいこと・なりたい自分)のプロセスを実行していること」を挙げており、そこから「自己承認欲求や自己肯定感を得ている」「社会的役割である」とも述べていた。Group:Tにおいては常にその思考の中心に、「当事性」があることが推察された。

臨床場面においては、当事者性に基づく「主観的・直感的」な「高い共感性と親和性」を用いて、「実感をともなった共感・理解」をストレングスとしていた。また、資格取得前からの「身体機能による制限」をウィークネスと感じつつも、退職することなく就労継続できていることが特徴的だった。一方で、自身のその「高い共感性と親和性」がバイアスとなり、セラピストとしての客観性よりも当事者としての主観性や想いが先行することを、ウィークネスでありストレスであるとした。実際に臨床場面で感じることにおいては、ストレングスよりもウィークネスの項目が多く挙げられていた。

生活場面においては、「生活者」としての自身の活用が広く実行されており、「当事者寄りの視点」で「当事者向けの活動」を実行していることが多かった。そこでは、当事者そのものへのアプローチだけではなく、当事者の「生活しやすさ」「社会参加」実現のための社会へのアプローチが挑戦されていた。臨床場面と同様に生活場面においても、就労や生活の営みは途切れることなく継続される傾向があった。

社会的活動や役割において、彼らは「当事者」と「専門職・社会」との中間に自身を置き、「架け橋・通訳・ハブ」などの表現を用いて「ファシリテーター」や「発信者」役割を担おうと挑戦していた。当事者性を中心とする彼らは、支援者である前に自身を活用した「ピアサポーター」としての役割を担う傾向にあると推察された。

これら「当事者としての自身の活用」について、発達障害当事者で研究者の綾屋(2011)34)は、「今ここにいる自分の生きづらさを研究し言葉にしていくことそのものが、自己を固めると同時につながりツールになっていく」という「自己肯定」感を述べていた。

Group:Tでは将来のビジョンを、「生活者として描く自己実現(夢・やりたいこと・なりたい自分)」として掲げており、自身が当事者として活動し満たされることを望んでいることが推察された。そして、自身が「当事者セラピスト」として生活することで、「生活者」としての自身をエンパワメントしていることが推察された。

以上より、Group:Tは「当事者が専門知識を獲得した」当事者セラピストと言うことが出来た。また、「当事者が自身の当事者性を活用し自己肯定感を得るための一手段として、当事者セラピストになることを選択した」とも推察された。言い換えれば彼らは、「自己肯定感を獲得するために当事者セラピストになった」とも表現できた。彼らは当事者セラピストとなる以前に、自身が当事者であることをしっかりと内在化しストレングスとして当事者体験をとらえていた。



>TOP
・第3項 Group:Uの傾向――ストレングス・ウィークネスと社会的役割

本研究を通してGroup:Uで特徴的だったのは、「セラピストとしての自身の活用」が多く挙げられていたことだ。

まずGroup:Uは、健康的な自己概念の獲得を重ねる中で、何らかのきっかけから資格取得を目指し、セラピストとしてのキャリアを重ねた末に発症・発障という当事者体験を重ねていた。彼らはセラピストとしてその専門性を用いて対象者(当事者)へのアプローチを行い、理解を深めようと努めてきた。そして思いがけない当事者体験は、セラピストとしてのキャリアやアイデンティティを大きく喪失させ、「セラピストとして就労している生活者」としても社会的役割など大きな喪失体験となった。支援する側から支援される側への立場の転換により、急性ストレス反応・心的防衛機制などが見られ、障害受容の過程で強制的な価値転換を迫られることとなった。

当事者となり健康的な心身機能を喪失してもなお、セラピストとして積み重ねてきた知識・経験・感性を喪失することはなかった。むしろベテランのセラピストたちは「今まで理解できなかった当事者の主観的体験を理解できるようになった」と述べた。彼らは健康的な心身機能と引き換えに、今まで「共感・理解」に至らなかった「当事者性」を獲得し、セラピストとしての「新たな知見」を獲得するに至った。結果として、臨床での就労継続に困難をきたし療養やキャリアチェンジするものも多かったが、「主観的かつ客観的」な「分析的理解と共感性」を用いて、「実感をともなった共感・理解」を示せるようになったことをストレングスとして挙げていた。

「喪失体験」から「獲得(再獲得)体験」へいたるプロセスは、元来リハビリテーション専門職が担う当事者へのアプローチである。上田と加賀谷(2015)33)の対談の中で上田は、「人間はむしろ、ほかの人から見れば客観的な存在だけれども、自分にとっては主観的な存在なんですよね」「リハビリテーションをやっていれば、患者さんが悩んでいるということは、すぐわかるでしょう…(中略)同じ人間として、この人が悩んでいるということはすぐわかります。その悩みを解決するということもリハビリテーションである。悩みを解決しなかったら、リハビリテーションにはならない」(p-110)と述べていた。Group:Uにおいては、上田の言う「患者の主観的な悩み」を解決するリハビリテーションを担ってきたセラピストが当事者になることで、「客観的に見ていた患者の悩み」が「主観的に捉えられる」というポジティブかつ大きな価値転換が起こり、ストレングスを得たと推察された。

生活場面や社会的活動において、自身の当事者体験を通した「主観的ニーズ」をもとに行動化されていることが多く、「生活者」として当事者が抱える課題や社会問題の解決に向けた挑戦が行われる傾向が見られた。自身が負った社会的役割の「喪失と再獲得」というプロセスを踏まえて、あらたな活動や仕組みを創造する挑戦も行われていた。それらの活動の中心には、「セラピスト性」が発揮されていると推察された。

実際の社会的活動では「障害教育やインクルーシブ教育」「場作り・地域作り・コミュニティ作り」などの「ファシリテーター」、そして「講演・執筆」など「発信者」役割を担おうと挑戦していた。生活者として一度は喪失した社会的役割・自己概念に対して、上田(2015)33)は「非常に有益な「参加」をするということが、その人の主観的な体験を満足させる条件」(p-111)と述べていた。喪失体験を負ったセラピストが、当事者セラピストとして活動をおこし「社会参加」することこそが、まさにリハビリテーションであり、自身のリカバリーの過程であると推察された。

Group:Uでは将来のビジョンを、「自分らしい生活の実現」「心身の回復」など、喪失体験からリカバリーした自身のイメージを掲げ、それを目標に自分らしい生き方を模索中であることが推察された。また、リカバリーに至った自身の姿を当事者たちに提示したり、あらたな「モデル」を提案しようとする挑戦も述べられていた。

以上より、Group:Uは「セラピストが当事者性を獲得した」当事者セラピストと言うことが出来た。また、「セラピストである自身が、1人の生活者としてリカバリーするための一手段として当事者セラピストを選択し、そのアイデンティティ獲得の模索をしている」とも推察された。言い換えれば「当事者セラピストになることで自己肯定感を再獲得した」とも表現できた。彼らは当事者セラピストとして、更なる自身の活用に挑戦していた。



>TOP
・第4項 当事者セラピストとはだれか――再考

既存研究の検討において、広義の当事者セラピストらの自分自身を活用した「発信」や「つなぐ」役割についてが示唆されたが、アンケートのナラティブ分析の結果と相関がみられた。また、上記以外の活動についても、ナラティブ分析からたくさんのヒントを得ることが出来た。

「発症・発障と資格取得の関係性」によって大きく2つに分類できた当事者セラピストは、共通して「自身の当事者性とセラピスト性を活用」し「実感をともなった共感・理解」を臨床場面で示していることが推察された。また一方で、生活場面においては自身の「当事者性の負の側面」によって活動や社会参加には制限が見られていた。2つのアイデンティティを持つことは、「生活者」として自己肯定感と否定感というアンビバレンツなものであり、「セラピスト」としてストレングスでありウィークネスであるというアンビバレンツなものであった。2つのアイデンティティは常に自身を揺さぶるものであったが、それらを「相互活用している実感」と行動化こそが、当事者ではないセラピストたちとの大きな違いであると推察された。ようするに、自身を「当事者」として内在化し絶対化することで、「セラピスト」として外在化し相対化してアプローチできるというストレングスを発揮できると推察された。

当事者セラピストは、臨床・またはそれ以外の場面で、幅広い対象へ多彩なアプローチをしていた。共通して認識していたのは、「ファシリテーター」「発信者」という役割で、ある時は「支援者」として、またある時は「ピアサポーター」として、そしてその双方として自身を活用していることが推察された。

神田(2016)5)は、「他者からの期待に依存をしない、障害経験を含んだ役割の獲得を目指すこと、つまりアイデンティティを含む強い内的期待を持つことで、満足のできる役割を獲得できるのではないだろうか」と述べ、さらに「その結果、障害が肯定的価値に代わり、障害をもった人が満足できる社会となるのではないだろうか」と続けていた。つまりは、当事者セラピストにより行われている「疾病や障害を負ってもなおセラピストで居よう(セラピストになろう)とする挑戦」こそが、彼らの望む自己実現の一つであり、自己肯定感であり、インクルーシブな社会づくりであると推察された。これはまさに、「リハビリテーション」のめざす「全人間的な復権」であると推察された。

最後に、「本研究における当事者セラピスト」について、「疾病・障害体験を持ち、社会にあふれる生活課題を当事者として主観的に捉え、セラピスト(専門職)として客観的に評価し、当事者性とセラピスト性(専門性)を相互活用して解決に取り組んでいく、リハビリテーション専門職(OT、PT、ST)」と再考した(図5-2-1)。


図5-2-1 「本研究における当事者セラピスト」再考後のイメージ
図5-2-1 「本研究における当事者セラピスト」再考後のイメージ [Excel]


>TOP

■第6章 最後に

●第1節 提案と今後への課題

・第1項 当事者セラピストが担う社会的活動――具体例を挙げて

本研究を通して集まった当事者セラピストたちの社会的活動について、具体的にまとめ表にした(表6-1-1)。


表6-1-1 社会的活動のまとめ [Excel] 表6-1-1 社会的活動のまとめ

西村(2012)31)は、「障害当事者たちが自らを語ることの意味は、既存の概念を社会に問うと同時に、自らを相対化し、肯定的なアイデンティティを取り戻す作業であった」と1970年代の障害者運動や当事者研究の発展を例にして述べていた。また熊谷(2017)35)は、「当事者研究には、新しい言葉や知識を発見する側面(discovery)と、それを通じてなんらかの生きやすさがもたらされる側面(recovery)を持っている」(p-7)と述べ、「学術研究も…(中略)当事者の参加を必要としている」(p-8)と述べた。

さらに、自身も1型糖尿病の当事者で心理学者である飯牟礼(2007)36)は、研究者自身が「当事者」である場合の「当事者」研究について問題提起していた。飯牟礼は「これまで漠然と、まさに「主観的に」感じられていた「自分の経験が、対象の理解に役立つ」といった感覚について、実証するデータを持っていない」「言葉になりにくい「暗黙知」を言語化し、広く共有できる「実践知」にまで具体性を高めるためには、相当の困難を伴うことが予想される」としながらも、研究者自身が当事者である場合に「その経験の中で体感し感じられた言葉にならない感覚(暗黙知)や、その体験に基づいた「経験知」ベースの問題を提起することが可能となる」「「暗黙知」を言語化し、心理学における構成概念として概念化することを比較的容易にこなせるのが、「経験者」であり「当事者」である研究者である」(以上、p-114〜115)とストレングスを見出していた。これらにより飯牟礼は、@「「当事者」の実体験に基づいた問題意識であることは同時に…(中略)より実践的に有効な研究となりえる可能性が高い」、A「体験の伝達者になるという行為自体が「当事者」のエンパワメントにつながる」、B「「当事者」たちの意味世界をオープンにすることで…(中略)広く社会還元が出来る可能性がある」(以上、p-115)として、有益性を挙げていた。

これらから、当事者セラピストの社会的役割である「発信」「執筆」に関して、大きな意味があることが推察された。さらに、「学術研究」という公的な営みにおいてもその役割が期待され、発揮できることが推察された。まさに、本研究で考察したことと相関していた。今回集まった当事者セラピストたちの、行動化されている社会的活動と今後の希望・期待・義務の活動イメージもまた、上記の文献と相関することが推察された。



>TOP
・第2項 今後のセラピストへ

日本の総人口と障害者の人口比率から計算してみたところ、予想される当事者セラピストの数は約1万3,050人となった(表6-1-2)。これはあくまで予測値であり、今後も一定の比率でその数は増えていくものと予想された。また、リハビリテーション専門職(PT・OT)が国家資格となってから約50年となり、有資格者の多くが定年退職・引退する時期になってきている。Group:Tの当事者セラピストは今後も一定の増加率と考えられるが、Group:Uについては有資格者の加齢による生活習慣病や慢性疾患等の当事者セラピストが急速に増加していくものと予想できた。当事者セラピストとして就労する彼らの受け皿として、また当事者としての彼らを支える新しい社会の仕組みについて、考えていかなくてはならない。

そして、現代の日本社会における就労内容や就労方法の多様化に合わせて、柔軟な働き方を「想像し創造」していかなくてはならない。「全人間的復権」を目指し社会モデルを活用できるリハビリテーション専門職ならではの、自由で自分らしい働き方が見つかるはずである。当事者セラピストは、インクルーシブ社会を目指す現代日本において、そのイニシアチブをとることが出来る貴重な存在の一人であると推察された。

多様性とインクルーシブな社会において、当事者側からもセラピスト側からも当事者セラピストへの期待は高まっている。また、当事者研究をはじめとする近年の「当事者活動×学術研究」の協働においても、当事者セラピストの活躍が期待できる。ここで難しいのは、当事者セラピストのストレングスである「当事者性とセラピスト性(専門性)の相互活用」が、「当事者研究分野」では活用できる一方で、「セラピストとしての学術研究分野」においては「つねに客観的」であることが求められると言うことだ。本研究においても、「主観と客観の相互活用」を当事者セラピストのストレングスとしつつ「つねに客観的であること」が求められるという難しさがあった。

「当事者」や「セラピスト」と独立して自己を活用するのではなく、「当事者セラピスト」としての自己の活用(当事者性とセラピスト性の相互活用)を、臨床・研究・地域・社会などさまざまな場所で提案し挑戦していけるとよい。


表6-2-2 予想される当事者セラピストの数 [Excel] 表6-2-2 予想される当事者セラピストの数


>TOP
・第3項 研究の課題

本研究は、当事者セラピストたちへのアンケート調査をもとにナラティブ分析した研究であった。これは、当事者セラピストの「当事者体験への認識」と「現在の活動への影響」をとらえ、当事者セラピストを定義化する試みだった。ここでは、あくまで広く当事者セラピストを捉えるにとどまり、より詳しい分析・考察には至らなかった。

今後は、疾患や障害の特性、性別や職業、進行性・慢性・一過性など、さまざまな分類が考えられた。他に、障害への認識、障害受容段階、自己概念の形成、リカバリー、社会的役割、喪失体験など、より詳しく分析・考察を深める必要もあった。

さらに対象者の母数を増やし、リハビリテーション専門職以外の医療福祉専門職との比較や、専門職ではない当事者との比較なども行えるとより考察が深まると考えた。



>TOP

●第2節 謝辞

まず初めに、本研究に際して快くアンケートに協力してくださった当事者セラピストの皆様にお礼申し上げます。アンケートに応える上で自身の発症・発障体験まで振り返り、過去・現在そして未来への想いまでも語ることは、大変な労力とストレスだったことをお察しいたします。研究趣旨に賛同していただいただけでなく、論文執筆中は公私ともにさまざまな暖かいサポートをいただきました。なによりも、当事者セラピストとして同じ方向を向いていることが感じられ、本当に心強く想っておりました。本当にありがとうございました。これからどんどん、当事者セラピストの社会的役割を一緒に想像し創造していきましょう。

次に、4年間の通信大学生活・論文執筆期間を静かに支えてくれた妻と、いつでも明るくふるまってくれた娘たちに深く感謝を伝えたいと思います。夫婦共働き状態で大学入学を決意し、娘たちの成長や習い事に追われ、そして思いがけない難病の急速な進行・入院からの離職。在学期間は波乱に満ちた4年間でした。その間には3回の長期リハビリ入院があり、その後も自宅療養が長く続きました。生活もままならない状態で、大学卒業や論文執筆をあきらめようとしたことが何度もありましたが、辛抱強くそばにいて励まし続けてくれたことに本当に感謝しています。精一杯のお礼と愛情を返したいと想います、これからも家族仲良くそばにいてください、よろしくお願いします。

大学の志望動機はまさに、本研究の結論にもあるような自分自身の「自己肯定感」の獲得を目指したものでした。幼少期から抱えてきた「当事者性」と「セラピストへの憧れ」は、「当事者セラピストになる」という道を自然と選ばせました。しかし、その後の臨床や患者活動・難病運動の中で、たくさんのつまづきや揺らぎ、そして当事者セラピストゆえのストレングス(共感性やファシリテーター役割など)・ウィークネス(難病の進行や活動制限など)を感じていきました(山田6),p-186〜192)。そんな中、多くの当事者セラピストたちとの生々しいディスカッションを通して、自身のアイデンティティを常に揺るがし続ける「当事者セラピスト」とは何なのかを研究テーマに掲げたいと願っていくことになり、また今後の自身のキャリア形成として「学術的に学ぶ」「論文を書く」という作法を身に着けたいと考えるようになりました。

論文指導を受けた今年度一年間に関して言えば、当事者セラピストゆえの「身体機能による制限」というウィークネスが猛烈に発揮されてしまった一年でした。体調不良によりほとんど論文に取り掛かることなく時間が過ぎていき、自身で掲げた研究目的は「強い共感性・親和性」のバイアスにより強烈な心的ストレスとなってしまいました。本研究はただの当事者研究ではなく、「当事者セラピスト」が「当事者セラピスト」を「セラピスト」として研究するものであり、それは当事者セラピストたちの「主観的体験」を受け止めて呑み込んで「客観的かつ分析的」に吐き出していくという作業の繰り返しでした。これは、幼少期発症の「当事者が専門知識を獲得した当事者セラピスト」である自分にとって、「主観的で感情的」になりがちな非常に難しい作業でした。

この学びと経験をもとに、つぎのライフステージへ進んでいきたいと考えています。「Charcot-Marie-Tooth病患者×身体障害者×作業療法士」という「当事者セラピスト」であり一人の「山田隆司という生活者」として、自分らしく今以上によりよく生きていければ幸いです。



>TOP

■引用・参考文献

・引用文献

1)  NHK(2017)『バリバラ ホームページ』http://www6.nhk.or.jp/baribara/

2)  TED 〜Stella Young〜(2014)『I’m not your inspiration, thank you very much』https://web.archive.org/web/20160820034625/https://www.ted.com/talks/stella_young_i_m_not_your_inspiration_thank_you_very_much

3)  外務省(2014)『わかる!国際情勢「障害当事者の声が実を結ぶとき〜障害者権利条約の締結」』 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol109/index.html

4)  厚生労働省(2000)『「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」報告書』http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s0012/s1208-2_16.html

5)  神田太一(2016)『障害を持った人の役割獲得の困難さと獲得方法の背景 ―当事者セラピストへのインタビューを通じての考察―』日本作業療法学会抄録集2016
http://jotc50.mas-sys.com/pdf/endai101556.pdf

6)  河原仁志、中山優希、和田美紀、山田隆司ほか(2016)『快を支える 難病ケアスターティングガイド』医学書院

7)  押富俊恵・山田隆司(2012)『障害者になって想う「障害受容」』日本福祉大学高浜専門学校同窓会第11回卒後研修会 https://www.netnfu.ne.jp/heart/meeting/h24/kensyu/

8)  熊谷晋一郎(2009)『リハビリの夜』医学書院

9)  小林純也(2017)『脳卒中患者だった理学療法士が伝えたい、本当のこと』三輪書店

10)  関啓子(2013)『「話せない」と言えるまで』医学書院

11)  関啓子(2014)『まさか、この私が』教文館

12)  田中順子(2013)『患者と治療者の間で』三輪書店

13)  山田規畝子(2009)『文庫版 壊れた脳 生存する知』角川ソフィア文庫

14)  押富俊恵(2013)『患者と治療者の間を生きる』OTジャーナル Vol.47-No.8~12

15)  関啓子(2003)『失語症を解く』人文書院

16)  田島明子、熊谷晋一郎、田中順子ほか(2014)『「存在を肯定する」作業療法へのまなざし』三輪書店

17) アイザックス症候群患者会(2010)『りんごの会 ホームページ』 https://ringonokaiisaacs.wixsite.com/rinogo-no-kai

18) Charcot-Marie-Tooth病患者会(2008)『CMT友の会 ホームページ』www.j-cmt.org/

19) Wikipedia(2017)『ピアサポート』  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A2%E3%82%B5%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88

20) 京都府立医科大学大学院神経内科学教室(2009)『シャルコー・マリー・トゥース病の診断・治療・ケアに関する研究 ホームページ』http://www.cmt-japan.com/

21) CMT診療マニュアル編集委員会(2010)『シャルコー・マリー・トゥース病診療マニュアル 第1版』金芳堂

22) CMT診療マニュアル編集委員会(2015)『シャルコー・マリー・トゥース病診療マニュアル 第2版』金芳堂

23) 脳卒中フェスティバル(2017)『脳卒中フェスティバル2017 ホームページ』 http://noufes.com/

24) Cross Bridge(2015)『当事者セラピストグループ Cross Bridge ホームページ』 https://www.facebook.com/1crossbridge/

25) 三鷹高次脳機能障害研究所(2011)『三鷹高次脳機能障害研究所 ホームページ』
http://brain-mkk.net/

26) 野口憲一(2012)『「当事者」とはだれか――「当事者」の絶対化と相対化の相克をめぐって』現代民俗学研究 第4号,p-83〜93

27) 松村明(2006)『大辞林 第三版』三省堂

28) Wikipedia(2017)『当事者』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%93%E4%BA%8B%E8%80%85

29) 中西庄司、上野千鶴子(2003)『当事者主権』岩波新書

30) 岡知史(2009)『「当事者福祉論」とは何か』日本社会福祉学会 第57回全国大会
(資料)http://pweb.sophia.ac.jp/oka/papers/2009/sw/

31) 西村愛(2012)『社会福祉分野における当事者主体概念を検証する』大阪社会問題研究所雑誌 No.645,p-32〜42

32) 上田敏(1980)『障害の受容 その本質と諸段階について』総合リハ8,p-515〜521

33) 加賀谷はじめ(2015)『リハビリテーション的障害論』株式会社CBR,p-63〜80

34) 綾屋紗月(2011)『痛みの記憶』現代思想2011年8月号,p-62

35) 熊谷晋一郎ほか(2017)『みんなの当事者研究』金剛出版

36) 宮内洋、今尾真弓、飯牟礼悦子ほか(2007)『あなたは当事者ではない 〜「当事者」をめぐる質的心理学研究〜』北大路書房


>TOP
・参考文献

37) 田島明子(2009)『障害受容再考――「障害受容」から「障害との自由」へ』三輪書店

38) 石川准、長瀬修ほか(1999)『障害学への招待』明石書店

39) 中田洋二郎(2002)『子どもの障害をどう受容するか』大月書店

40) 池田勝昭、目黒達哉(2007)『障害者の心理・「こころ」』学術図書出版社

41) 浦河べてるの家(2005)『べてるの家の「当事者研究」』医学書院

42) 石原孝二(2013)『当事者研究の研究』医学書院

43) 「障害者のリアルに迫る」東大ゼミ、野澤和弘ほか(2016)『障害者のリアル×東大生のリアル』ぶどう社

44) 綾屋紗月、熊谷晋一朗(2010)『つながりの作法―― 同じでもなく違うでもなく』NHK出版 生活人新書

45) 熊谷晋一郎ほか(2017)『他者の理解』atプラス31,太田出版

46) 熊谷晋一郎ほか(2017)『障害者――思想と実践』現在思想2017年5月号,青土社

47) 南雲直二(2008)『ものいうからだ――身体障害の心理学』講談社

48) 小川奈々、中里瑠美子(2007)『わたしのからだをさがして――リハビリテーションでみつけたこと』協同医書出版社

49) 國分功一郎(2017)『中動態の世界――意志と責任の考古学』医学書院

50) 有賀リエ(2015〜)漫画『パーフェクトワールド』Kiss”連載中,講談社

51) 阿部一雄(2016)『木の家と太陽と車いす』円窓社



>TOP

■添付資料――アンケート書類一式

・質問書




卒業論文・研究への協力のお願い


対象者様 宛


日本福祉大学通信教育部 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科 山田 隆司


研究テーマ:疾病・障害体験を持つリハビリ専門職の自己肯定感と社会的役割についての考察
   〜2つのアイデンティティを持つ「当事者セラピスト」のナラティブから〜


このたび、卒業論文の作成にあたり上記研究テーマに関するアンケート及びインタビュー調査を行いたいと考えております。対象者の方には、下記の本研究に関する確認事項をお読みいただき、ご協力いただける場合には別紙「同意書」にご署名ください。ご理解とご協力をよろしくお願いします。



1 研究の目的・意義について

私は、「Charcot-Marie-Tooth病(CMT)患者」で「身体障害者」であり「作業療法士」です。現在まで精神科病院でリハビリテーションに従事しながら、患者会や研究班にも所属して活動してきました。支援される側(当事者)と支援する側(セラピスト)という2つのアイデンティティを持つことは、自身のストレングスでありウィークネスでもあると感じることが多くありました。

職業選択の際には「当事者体験はセラピストとしての武器だ」と感じていました。また患者会・研究班の活動においてはピアサポートの出来る立場に加えて専門的な視点や知識が役立つと感じてきました。その一方で、症状や障害の変化はセラピストとしての自信を揺さぶり、当事者への強い共感力はセラピストとしての思考や行動を鈍らせることもありました。このような2つのアイデンティティを持つ自分自身を「当事者セラピスト」と仮称し、患者・難病活動や臨床などで数年にわたって活動を続けています。

当事者セラピストを名乗り始めてから、私と同様に2つのアイデンティティを持つセラピストに出会うことが増えました。共通していたのは「自分にしかできないことがあるはずだ」という漠然とした想いと使命感、そして自身の当事者体験を肯定的にとらえて役割を見出そうとする行動でした。「自身の当事者体験は貴重なものだと感じているが、具体的にどう生かしていいのかわからない」「症状や障害の変化とともに臨床家を継続することが難しいと感じることがある」という揺らぎの中で、「発信」「通訳」「つなぐ」などいくつかのキーワードが聞かれています。

私自身も含めて当事者セラピストは、当事者体験に価値や役割を付与していることが多く見られます。いったいどのような点にストレングスやウィークネスを感じ自己肯定感としているのか非常に関心がありました。また、インクルーシブな社会の中で、当事者セラピストだけが担える役割があるのではないだろうかとも感じています。

今研究の目的として、支援される側(当事者)であり支援する側(セラピスト)という2つのアイデンティティをもつ「当事者セラピスト」が、自身の当事者体験をどう捉えどんなプロセスを経て自己肯定感を得ているのか解き明かし、どのような社会的役割を担っていけるのか考え提案したいと考えています。




2 研究の方法・手順について

データの収集方法については質問紙(アンケート)への回答をベースに行います。ご返信いただいた質問紙をもとに、あらためて半構造化面接による個別インタビューを実施する場合があります。個別インタビューの際には“ICレコーダー”にて音声を録音し、筆記による記録も併せて行います。

分析方法については、質問紙の回答とテキスト化した録音内容を検証し、本研究の目的に沿ってデータ抽出や概念化を行い「当事者セラピストの自己肯定感と社会的役割」について考察していきます。研究期間は2017年4月〜2018年3月末を予定しています。



3 対象者へ予測される利益と不利益について


4 予測される不利益に対する対策について


5 協力の意志と同意の撤回について

本研究への協力は自由意志でお決めください。また、同意書を提出していただいた後でも、その同意を撤回し研究協力を中止することが可能です。お気軽にお申し付けください。






6 研究結果の公表について

本研究の研究結果は、平成29年度の卒業論文として大学へ提出します。その後は、関連学会や関連する学術雑誌、当事者セラピストグループ「CrossBridge」の研修等で公表する予定です。

公表に際しては、前述の通りプライバシーに配慮した記述をし、個人が特定されないようにいたします。



7 研究についての質問

本研究に関する疑問など、どのような点についても納得いくよう自由に質問していただけます。研究の結果に関しても、希望に応じて公開いたします。いつでもご連絡ください。





以上




問い合わせ先
所属:日本福祉大学通信教育部 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科
研究責任者:山田 隆司(作業療法士)
携帯電話番号:***−****−****
E-mail:*************
















>TOP

・同意書



対象者様用



同 意 書



研究テーマ:疾病・障害体験を持つリハビリ専門職の自己肯定感と社会的役割についての考察
〜2つのアイデンティティを持つ「当事者セラピスト」のナラティブから〜

別紙『卒業論文・研究への協力のお願い』をお読みいただき、以下の項目についてご理解とご協力いただける場合は、所定の箇所にご署名ください。



1 研究の目的・意義について

2 研究の方法・手順について

3 対象者へ予測される利益と不利益について

4 予測される不利益に対する対策について

5 協力の意思と同意の撤回について

6 研究結果の公表について

7 研究についての質問



● 質問紙への回答・インタビューの録音  □同意します   □同意しません

● 研究への協力             □同意します   □同意しません



私は上記内容について、  山田 隆司  から説明を受け納得し了承しましたので、この研究に協力・参加することに同意します。


対象者(署名)                      

代諾者(署名)                      

署名年月日    平成    年    月    日   

私は本研究について上記項目を説明し、同意が得られたことを認めます。


説明者(署名)                      

説明年月日    平成    年    月    日   

研究者(署名)                      

署名年月日    平成    年    月    日   









>TOP

・当事者セラピストに対するアンケート



当事者セラピストに対するアンケート

〜自己肯定感と社会的役割について〜



 このたびは研究へのご理解とご協力をありがとうございます。ご自身の持つ体験や想いなど、以下のアンケートへお答えいただきたいと思います。

* 回答と返信方法:回答は、Wordデータへの直接入力または印刷しての自筆記入でお願いします。返信は、Wordデータでの メール添付 または 封書での郵送 でお願いします。なお、郵送の場合は、同意書と同封 していただいて構いません。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

1、一般情報

1−1氏名:           

1−2年齢:    

1-3性別: 男性 ・ 女性

1−4出身と現住所:     (都・道・府・県)出身/     (都・道・府・県)在住

1−5家族について: 配偶者あり・配偶者なし / 子供あり・子供なし

1−6趣味(自由記載):                                      


2、職業に関する情報
1−7職種と経験年数(医療福祉関連の複数の資格を所持している場合はすべて)

  @                     (    年)     
  
  A                     (    年)   
  
  B                     (    年)      

1−8勤務先や職域

  @                    (身体・精神・発達・老年・地域・その他      )

  A                    (身体・精神・発達・老年・地域・その他      )

  B                    (身体・精神・発達・老年・地域・その他      )

1−9役職(あれば記載)

  〇                       

1−10その他の社会的役割や活動(医療福祉系に限らず臨床以外に担っている役割や活動)

  @                    (    年)   
  
  A                    (    年)   
  
  B                    (    年)








3、疾病や障害に関する情報
1−1診断名と診断時期(複数ある場合はすべて) *後日あらためてインタビューする点になります

  @                    (   歳時)
  
  A                    (   歳時)
  
  B                    (   歳時)
  
1−2障害の内容とその出現時期 *後日改めてインタビューする点になります

  @                    (   歳時〜)
  
  A                    (   歳時〜)
  
  B                    (   歳時〜)
  
1−3医療福祉サービスの受給状況(診察、リハビリ、手帳、年金など)

  〇                                              



4、生活と疾病・障害に関すること

4−1発症や発障した際はどんな生活をしていましたか?





4−2発症や発障した際にどんなことを感じましたか?





4−3発症や発障した際に家族はどんな反応を示しましたか?





















5、疾病・障害による体験に関して
5−1何かを失ってしまったような体験はありましたか?何を失ったと感じましたか?





5−2逆に、何かを得たような体験はありましたか?何を得たと感じましたか?








6、臨床業務(または職業選択)と疾病・障害に関して
6-1疾病や障害が臨床業務(または職業選択)に影響していることはありますか?
6-1-1ストレングスとしての影響。特に、きっかけとなるエピソードがあれば教えてください。





6-1-2ウィークネスとしての影響。






6-2ストレングスやウィークネスと分別できないまでも、職務遂行上で”気になること“はありますか?



















7、臨床業務以外の活動と疾病・障害に関して
7-1臨床業務以外での活動に影響していることはありますか?
7-1-1ストレングスとしての影響。特に、きっかけとなるエピソードがあれば教えてください。





7-1-2ウィークネスとしての影響。






7-2ストレングスやウィークネスと分別できないまでも、職務遂行上で”気になること“はありますか?







8、疾病・障害体験を活かした社会的な活動に関して
8-1すでに活動していることがあれば教えてください。





8-2これからしてみたい活動があれば教えてください。





8-3これからする必要があると感じる活動があれば教えてください。





8-4これからすることを期待されていると感じる活動があれば教えてください。















9、疾病・障害体験を持つセラピストだからこそ担える社会的役割に関して
8-1すでに実感している役割があれば教えて下さい。





8-2はっきりではなくても、イメージ・予想される役割があれば教えてください。







10、さいごに
8-3生活者としての自身が思い描く将来のビジョンがあれば教えてください。





8-4自分以外の当事者セラピストで、お知り合いがいれば教えてください。





本当にお疲れ様でした、以上です。
ご理解とご協力ありがとうございました。
















● 本研究における用語の定義




提出日:    年  月  日

解答者:           


問い合わせ先
所属:日本福祉大学通信教育部 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科
研究責任者:山田 隆司(作業療法士)
携帯電話番号:***−****−****




















*作成:岩ア 弘泰
UP: 20210330 REV:
リハビリテーション 全文掲載
TOP HOME (http://www.arsvi.com)