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「2015年電子書籍フォーマットのアクセシビリティ対応状況に関する実態調査」

静岡県立大学グローバルスタディーズ研究センター 青木 千帆子

last update:20160229


青木 千帆子, 201602, 「2015年電子書籍フォーマットのアクセシビリティ対応状況に関する実態調査」
※関連する調査として、以下があります。よろしければご覧ください。
◇青木千帆子 2015 「2014年電子書籍フォーマットのアクセシビリティ対応状況に関する実態調査」
◇青木千帆子 2016 「電子書籍ビューアーのアクセシビリティ機能に関する関係者会議報告書」

1.調査(★1)の背景と目的

 情報通信技術を利用する視覚障害者、読字障害の人、上肢等に不自由のある人(以後、読書障害者)を対象とした調査によると、音声読み上げ機能を用いてそれを利用する人は91.82%存在する(★2)。このような人々にとって、電子書籍の普及は大きなチャンスである。なぜならば、音声による出力機能がある機器を用いれば、図書館やボランティア団体に点訳や音訳を依頼せずとも、電子書籍を購入したその日にそのまま読むことができるからだ。このため、電子書籍のアクセシビリティが実現するよう、これまで様々な場面で注意喚起がされてきた。
 しかし、日本で流通している電子書籍の多くは音声で読むことができないままである。このような状況を受け、筆者は2014年上半期に発売された電子書籍について、そのアクセシビリティの要素である、フォーマット、ビューアー、デバイスのうち、電子書籍フォーマットという要素を抽出した調査を実施した。結果として、アクセシビリティ機能に必要な文字情報を含むと断定できるフォーマットで制作されている電子書籍は80%に達していることが明らかになった(★3)。
 にも関わらず、日本で流通している電子書籍の多くは音声で読むことができないままなのである。
 電子書籍のアクセシビリティは、フォーマットとビューアー、デバイスの組み合わせによって変わる。例えば、電子書籍が文字情報を保持していたとしても、音声読み上げ機能のないデバイスを用いれば、それを生かすことはできない。また、電子書籍端末が音声読み上げ機能を実装していても、その機能がアクセスできないフォーマットであったり、アクセスできたとしてもキーボードや音声で操作不可能なビューアーであったりするならば、そのアクセシビリティ機能を生かすことはできない。
 では、デバイスについてみるならばどうだろうか。電子書籍を読む端末として最も普及しているものは、スマートフォンやタブレットといったモバイル端末である。楽天リサーチ株式会社の調べによると、スマートフォン、タブレット、ノートパソコン、デスクトップパソコン、という順に利用率が高く、この4つのカテゴリーを合わせると92.6%となる(★4)。スマートフォンやタブレットには、AndroidやiOSといったオペレーションシステムが搭載されており、それぞれTalkBack、VoiceOverとよばれる音声読み上げ機能が標準装備されている。また、ノートパソコン、デスクトップパソコンには、Mac OSやWindowsといったオペレーションシステムが搭載されており、これらにもVoiceOverやnarratorといった音声読み上げ機能が標準装備されている(★5)。いずれも高いシェアを占めているオペレーションシステムである(★6)。
 従って、2014年上半期に発売された電子書籍のフォーマットに関する調査からは、電子書籍のアクセシビリティの要素であるフォーマット、ビューアー、デバイスのうち、フォーマットとデバイスにおける音声読み上げ機能への対応はほぼ達成されており、課題が残されているのはビューアーであるということが浮かび上がってきた。
 この結果から導き出される結論は、電子書籍のアクセシビリティに関する進捗を計るためには、フォーマット、ビューアー、デバイスと切り分けた上での状況を把握することが必要であるという点だ。そこで、2015年に発売された電子書籍についても、それぞれのアクセシビリティ機能への対応状況に関する実態調査を継続して行い、検討した。

2.調査の概要

2−1 調査対象

 2015年(2015年1月〜12月)に販売された電子書籍で、有料のもの、かつ「文字もの」とよばれる文芸書、ビジネス書等の電子書籍を調査対象とした。ただし、2015年に発売される電子書籍すべてのフォーマットを確認することはできない。このため、電子書籍を販売するウェブストアの売上ランキング上位を占める電子書籍を調査対象とした。

2−2 調査項目

  • 電子書籍販売ウェブストアの売上ランキング上位を占める電子書籍の出版社から納品される際のフォーマット
  • 電子書籍販売ウェブストアにおける電子書籍の配信フォーマットに関する表示の有無
  • 電子書籍販売ウェブストアの売上ランキング上位を占める電子書籍のアクセシビリティ機能対応状況
  • 電子書籍販売ウェブストアのアクセシビリティに関する今後の展望

    2−3 手続き

    表1 質問項目一覧
    問1:御社に対し顧客からアクセシビリティに関する要望が寄せられることはありますか
    問2:要望がある場合、具体的な要望の内容は以下のいずれですか(複数回答可)
     a)文字拡大機能に関する要望、b)音声読み上げ機能に関する要望、c)点字出力機能に関する要望、d)DRMフリーでの販売に関する要望、e)書籍本文のデータ 提供に関する要望、f)その他
    問3:御社に対し出版社からアクセシビリティに関する要望が寄せられることはありますか
    問4:要望がある場合、具体的な要望の内容は以下のいずれですか(複数回答可)
     a)文字拡大機能に関する要望、b)音声読み上げ機能に関する要望、c)点字出力機能に関する要望、d)DRMフリーでの販売に関する要望、e)書籍本文のデータ提供に関する要望、 f)その他
    問5:御社において、アクセシビリティに配慮した電子書籍の出版を検討していらっしゃいますか
    問6:検討している場合、御社はどのような方法でのアクセシビリティ対応を検討されますか。(複数回答可)
     a)電子書籍端末の文字拡大機能への対応、b)電子書籍端末の音声読み上げ機能への対応、c)電子書籍端末の点字出力機能への対応、d)ビューアーの文字拡大機能への対応、e)ビューアーの音声読み上げ機能への対応、f)ビューアーの点字出力機能への対応、g)DRMフリーでの販売、h)書籍本文のデータ提供依頼への対応、i)その他
     1)2015年12月に、2015年(2015年1月〜12月)に販売された電子書籍で、有料のもの、かつ「文字もの」とよばれる文芸書、ビジネス書等の電子書籍に関し、出版社から納品された時点でのフォーマットに関する情報提供を、電子書籍を販売するウェブストアに対し申し込んだ。また、情報提供を依頼する際、電子書籍のアクセシビリティに関する今後の展望についてアンケート調査を実施した。アンケート調査の質問項目一覧を表1に示す。
     2)Amazon Kindleストア(★7)、BookLive!(★8)、BOOK☆WALKER(★9)、Google Play Books(★10)、honto(★11)、iBook Store(★12)、紀伊國屋書店Kinoppy(★13)、楽天Kobo(★14)の8つの電子書籍を販売するウェブストア(以後、ストア)のページにアクセスし、多くのストアにおいて売上ランキング上位に入り、かつEPUB(★15)リフロー形式(★16)で販売されている電子書籍を対象に、アクセシビリティ機能対応状況を確認した。確認の対象とするアクセシビリティ機能は、別途開催した「電子書籍ビューアーのアクセシビリティ機能に関する関係者会議(★17)」における議論を踏まえ、前年検証した、
     1.文字サイズを調整することができる
     2.文字や背景の色を選択することができる
     3.輝度を調整できる
    の3項目に加え、以下の6項目について、対応状況を確認した。
     4.音声読み上げ機能を有効化できる
     5.音声読み上げ機能を用いて、ストアに行き本を購入することができる
     6.音声読み上げ機能を用いて、書棚を開き、書籍を選択できる
     7.音声読み上げ機能を用いて、表示されている順序で読むことができる
     8.音声読み上げ機能を用いて、文字ごとに読み進めることができる
     9.指定した箇所から、音声読み上げ機能を用いて読み進めることができる
     また、確認に際しては、オペレーションシステムとしてAndoroid6.0.1を搭載したNEXUS 5、及びオペレーションシステムとしてiOS9.2.1を搭載したiPod touchを使用した。Andoroid6.0.1およびiOS9.2.1には、それぞれTalkBack、VoiceOverとよばれる音声読み上げ機能が、いずれも標準装備されている。
     3)併せて、2)に述べたストアにおいて、販売している電子書籍のフォーマットに関する表示の有無、及び、対応しているアクセシビリティ機能に関する手がかりの有無を確認した。

    3 結果

    3−1 電子書籍販売ウェブストアの売上ランキング上位を占める電子書籍の納品時フォーマット

    表2 売上ランキング上位の電子書籍フォーマット
    フォーマット 件数 割合
    EPUBリフロー 425 90.8%
    EPUBフィックス 20 4.3%
    XMDF 18 3.8%
    MCC 3 0.6%
    .book 1 0.2%
    HyC 1 0.2%
    テキスト付PDF 0 0.0%
    画像PDF 0 0.0%
    合計 468
     2015年に販売された電子書籍で、有料のもの、かつ「文字もの」とよばれる文芸書、ビジネス書等の電子書籍に関し、出版社から納品された時点でのフォーマットに関し、電子書籍販売ウェブストア5社から回答を得た。各ストアから寄せられたフォーマットに関する回答総数は468件であった。なお、これらのうち同一タイトルのものが一定程度含まれる可能性があるが、今年度はタイトルごとにフォーマットを回答いただくのではなく、フォーマットごとに件数を回答いただくという方法をとったため、重複件数を把握していない点は留意いただきたい。
     表2に売上ランキング上位を占める電子書籍のフォーマット一覧を示した。最も多いフォーマットはEPUBリフロー形式で425件(90.8%)であり、続いてEPUBフィックス(★18)形式が20件(4.3%)、XMDF形式(★19)が18件(3.8%)、.book形式(★20)が1件(0.2%)、HyC形式(★21)が1件(0.2%)であることが示された。列挙したフォーマットのうち、アクセシビリティ機能に必要な文字情報を含むと断定できるフォーマットはEPUBリフロー形式である。重複するタイトルがあるため単純に加算することはできないが、現在販売されている書籍の売り上げランキング上位を占める電子書籍の9割が、アクセシビリティ機能に対応可能なフォーマットで販売されているといえる。
     なお、今回の調査において、新しく制作される電子書籍のほとんどがEPUBで作られるようになっていることが複数のストア担当者から指摘された。EPUBが多数を占めている背景として、前年の調査の際、いずれのストアでも受け付けるフォーマットがEPUBであるためという説明があった。これに加え、EPUBはオープンソースであるため加工がしやすく、中間フォーマットのような役割を果たしている現状があるという説明がされた。

    3−2 電子書籍販売ウェブストアにおける電子書籍のフォーマットに関する表示の有無

     表3にフォーマット表示の有無に関する結果を示した。
    表3 フォーマット表示の有無と表示例
    ストア 表示 表示例 試し読み
    Amazon Kindleストア あり フォーマット: Kindle版 可能
    BookLive! あり コンテンツ形式:EPUB 可能
    BOOK☆WALKER なし (取り扱いはEPUBのみ) 可能
    Google Play Books あり 特徴:フローテキスト 可能
    honto あり コンテンツタイプ:EPUB 一部可能
    iBooks Store なし 可能
    紀伊國屋書店Kinoppy あり ファイル:EPUBリフロー形式 一部可能
    楽天Kobo なし (取り扱いはEPUBのみ) 可能
     販売画面において電子書籍のフォーマットが表示されているストアは、Amazon Kindleストア、BookLive!、Google Play Books、honto、紀伊國屋書店 Kinoppyの5つのストアである。表示内容は、「Kindle版」「EPUB」「フローテキスト」「EPUBリフロー形式」といった内容である。
     前年の調査において、「点字や音声での出力機能に対応可能なフォーマットはEPUBリフロー形式とKindleリフロー形式である点をふまえると、アクセシビリティ機能を用いて読む人々にとって購入した電子書籍が読めるものであるかどうかは、その電子書籍がEPUB形式あるいはKindle形式であることに加え、リフロー形式であるか否かを判断できることが重要になってくる」という指摘をした。この点に関してみるならば、紀伊國屋書店Kinoppyの「EPUBリフロー形式」、あるいはGoogle Play Booksの「フローテキスト」といった形の表示があることが理想的であるといえる。
     加えて、2015年に入り、試し読みを可能にするサービスを提供する電子書籍ストアが現れた。アクセシビリティ機能を用いて読む人々にとって、この試し読み機能が重要な手掛かりとなる。それは、購入する前に試し読みをすることで、その電子書籍がどのアクセシビリティ機能に対応しているのかを判断することができるからである。試し読みについては、調査時点ですべてのストアが対応している。

    3−3 電子書籍ビューアーのアクセシビリティ機能に関する対応状況

     2015年時点の、電子書籍販売ウェブストアが提供している電子書籍ビューアーのアクセシビリティ対応状況を表4に示す(★22)。
    表4 2015年度時点におけるビューアーのアクセシビリティ対応状況
    文字拡大 色の変更 画面輝度 音声有効化 音声購入 音声書棚 音声読み順 音声文字読 音声位置指定
    Amazon Kindleストア Android
    iOS
    BookLive! Android
    iOS
    BOOK☆WALKER Android
    iOS
    Google Play Books Android
    iOS
    honto Android
    iOS
    iBook Store iOS 選択行
    紀伊國屋書店Kinoppy Android
    iOS
    楽天Kobo Android
    iOS 選択行

     まず、アクセシビリティ機能として期待されており、すでに実装されている要素として挙げられた文字サイズ、背景色、輝度の調整機能(項目1〜3)については、いずれの電子書籍ストアのアプリとオペレーションシステムの組み合わせにおいても対応済みである。
     また、音声読み上げ機能の有効化(項目4)に関し、電子書籍ストアのアプリが阻害する事例は一つもなかった。音声読み上げ機能を用いての購入(項目5)も、楽天koboを除いてすべてのストアにおいて可能であった。楽天koboについては、ストア内で音声読み上げ機能を用いて書籍を検索するといった基本的な操作は可能であるが、書籍を購入するボタンに代替文字(alt属性の内容)が付与されていないため、購入することができなかった。
     一方、項目6にあげた「書棚を開き書籍を選択できる」については、Amazon KindleストアのAndroid用アプリ・iOS用アプリ、Google Play BooksのAndroid用アプリ・iOS用アプリ、hontoのAndroid用アプリ、iBook StoreのiOS用アプリ、楽天KoboのAndroid用アプリにおいて操作可能であった。
     項目7にあげた「表示されている順序で読み上げる」機能については、Amazon KindleストアのAndroid用アプリ・iOS用アプリ、Google Play BooksのAndroid用アプリ・iOS用アプリにおいて実装されている。操作性がやや劣るのであるが、iBook StoreのiOS用アプリ、楽天KoboのiOS用アプリにおいても、触れている箇所を行ごとに読み上げることが可能であった。
     項目8に挙げている文字ごとに読み上げる機能については、Amazon KindleストアのiOS用アプリにおいてのみ可能である。また、音声機能を用いて指定した箇所から読むことができる機能(項目9)については、Amazon KindleストアのAndroid用アプリ・iOS用アプリ、Google Play BooksのAndroid用アプリにおいてのみ可能であった。

    3−4 電子書籍販売ウェブストアのアクセシビリティに関する今後の展望について

     電子書籍のフォーマットに関する情報提供を依頼した際に併せて実施した、電子書籍販売ウェブストアのアクセシビリティに関する今後の展望に関するアンケート調査に対しても、5社からの回答を得た。
     問1の「顧客からアクセシビリティに関する要望が寄せられることはありますか」という質問に対しては、あると回答したストアが2社、ないと回答したストアが3社であった。顧客からの要望の内容(問2)については、「文字拡大機能に関する要望」が1社、「音声読み上げ機能に関する要望」が2社である。
     問3の「出版社からアクセシビリティに関する要望が寄せられることはありますか」という質問に対しては、あると回答したストアが1社、ないと回答したストアが4社である。あると回答した一社に対する具体的な要望の内容(問4)は、「音声読み上げ機能に関する要望」「書籍本文のデータ提供に関する要望」である。この会社は、ストアの運営だけでなく、出版社の依頼に基づいて電子書籍を製作する業務も行っている会社であるため、「書籍本文のデータ提供に関する要望」が出版社から寄せられたようである。また、「音声読み上げ機能に関する要望」については、要望というよりは「どこまでできるか?」という質問や相談に近いものであり、「こういった仕様で作ってくれ」といった要望の形にはなっていないとのことであった。
     問5の各電子書籍販売ウェブストアにおいて、アクセシビリティに配慮した電子書籍の出版を検討いるかという質問に対しては、「検討している」が4社、「検討していない」が1社である。検討しているアクセシビリティ対応方法について(問6)は、「ビューアーの文字拡大機能への対応」が2社、「ビューアーの音声読み上げ機能への対応」が2社、その他、「業界の動向を見ながら、プライオリティに応じて順次実装を検討」が1社、「朗読データ付き電子書籍の販売」が1社である。また、「検討していない」と回答したストアも、「ユーザーや出版社から要望があがってきた場合には検討する」との回答であった。

    4 まとめ

     以上、電子書籍のフォーマット、フォーマットに関する表示、ビューアーのアクセシビリティ機能への対応状況、展望の順に調査結果を報告した。
     電子書籍のフォーマットに関する調査からは、2015年に販売され、売り上げランキング上位を占める電子書籍の9割近くが、アクセシビリティ対応可能なフォーマットで販売されていることが明らかになった。前年と比べて10%の伸びは、大きな前進ということができるだろう。
     また、購入する電子書籍のフォーマットに関する表示の有無についても、前進が見られた。2014年度の時点では、電子書籍を販売するウェブストアの半数がフォーマットに関する情報を書誌情報として掲載しておらず、掲載しているストアにおいても、リフロー形式であるか否かの情報がない状況であった。つまり、ユーザーは購入してみるまでは、その電子書籍がアクセシビリティ機能に対応しているか否かを判断できない状況にあった。しかし、リフロー形式であるか否かの情報をストアが掲載し始めたことに加え、試し読みを可能にするサービスを提供する電子書籍ストアが増えたことにより、その電子書籍がどのアクセシビリティ機能に対応しているのかを購入前に判断することができるようになっている。
     一方、電子書籍を閲覧するビューアーに関しては、音声読み上げ機能に関する対応について前進が見られないままであった。デバイスにおけるアクセシビリティに関する要件はほぼ達成されていることから、やはり、課題はビューアーに残されているのである。
     ビューアーは、電子書籍販売ウェブストアがそれぞれに独自のものを準備し、配信している。このため、ビューアーのアクセシビリティ機能実装については、ストアの判断に依存するものとなっている。このことから、本調査ではストアに対しアクセシビリティに関する今後の展望について尋ねている。アンケート調査からは、昨年に引き続き、ユーザーや出版社からのアクセシビリティ機能に関する要望が少ないことが示された。また、自由記述された内容を集約するならば、アクセシビリティ機能の改善はいずれのストアにおいても検討課題にはなっているものの、「何ができるか」という段階にとどまっており、「こういった仕様で」という形になっていないため、まだ、「業界の動向を見ながら、プライオリティに応じて順次実装を検討」しているという状況にあるということができるだろう。
     であるならば、ここで具体的な仕様を提案したい。3−3において検証項目として示しているように、既に実装されている、
     1.文字サイズを調整することができる
     2.文字や背景の色を選択することができる
     3.輝度を調整できる
    に加え、
     4.音声読み上げ機能を有効化できる
     5.音声読み上げ機能を用いて、ストアに行き本を購入することができる
     6.音声読み上げ機能を用いて、書棚を開き、書籍を選択できる
     7.音声読み上げ機能を用いて、表示されている順序で読むことができる
     8.音声読み上げ機能を用いて、文字ごとに読み進めることができる
     9.指定した箇所から、音声読み上げ機能を用いて読み進めることができる
    という要素について、ビューアーへの実装を進めていただきたい。
     以上の結論に至る検討の経緯や詳細をここで述べることは省略するが、紙の出版物が1年間に発行される書籍は80000タイトルを超える(★23)。一方、福祉施設やボランティア団体の手作業により点字や音声等でアクセス可能な形式に変換される出版物は、年間約20000点である(★24)。このような差異を考えるならば、通常の電子書籍として発売されたものがリアルタイムで音声読み上げできるためにもう一歩踏み出すことは、意義があると考える。
     これまで、書籍は文化の中核をなし、多くの人々の暮らしに影響を及ぼしてきた。同時に、紙という媒体の特性ゆえに、読書障害者の暮らしや人生設計において障壁となってきた。これに対し電子書籍は、これまで直接書籍を読むことがかなわなかったユーザー層にも平等なアクセスを担保し、文化を共有する道具になる一歩手前まで来ているのである。4−3においてユーザーや出版者からの要望が少ないという実態も明らかになったが、そもそも従来の紙の書籍の出版において、紙媒体のままでは読めない人々はユーザーとして想定されていないため、要望を伝える機会が少ないという背景がある。障害者基本計画(第3次)の項目6−(2)−4において、「電子出版は,視覚障害や学習障害等により紙の出版物の読書に困難を抱える障害者の出版物の利用の拡大に資すると期待されることから,関係者の理解を得ながら,アクセシビリティに配慮された電子出版の普及に向けた取組を進めるとともに,教育における活用を図る。」とあるように、実際には、障害者施策としても、ユーザーとしても、アクセシビリティ機能の実装が期待されているのである。
     従って、電子書籍販売ウェブストア各社に対しては、上記項目4〜9に関する音声読み上げ機能のビューアーへの実装を、ぜひご検討いただきたい。また、出版社、支援者、そして未来のユーザーとなる読書障害者にも、この1年間で見られた前進や、その背後にあるストアの努力を評価しつつ、残されているアクセシビリティ機能である音声読み上げ機能の実装を、ストアに対し求めていくことを期待したい。

     本調査にご協力いただいた、BookLive!、BOOK☆WALKER、honto、紀伊國屋書店Kinoppy、楽天Kobo、サピエ事務局ご担当者に心から御礼申し上げます。

    注釈

    ★1 本調査はJSPS科研費 26730165の助成を受けた研究の一環として実施された。
    ★2 国立国会図書館 2016「視覚障害などの理由で印刷物を読むことに困難のある方を対象としたインターネット利用に関するアンケート調査結果」http://www.ndl.go.jp/jp/service/support/questionnaire/result.html
    ★3 青木千帆子2015「2014年電子書籍フォーマットのアクセシビリティ対応状況に関する実態調査」http://www.arsvi.com/2010/1502ac.htm
    ★4 楽天リサーチ株式会社 2015「電子書籍に関する調査」http://research.rakuten.co.jp/report/20151021/
    ★5 ただし、OS XおよびWindows 8以上に限る
    ★6 KANTAR WORLDPANEL “Smartphone OS market share” http://www.kantarworldpanel.com/global/smartphone-os-market-share/
    ★7 http://www.amazon.co.jp/b/ref=sv_kinc_2?ie=UTF8&node=2275256051
    ★8 http://booklive.jp/
    ★9 http://bookwalker.jp/
    ★10 https://play.google.com/store/books?hl=ja
    ★11 http://honto.jp/ebook.html
    ★12 http://www.apple.com/jp/ibooks/
    ★13 https://www.kinokuniya.co.jp/disp/CSfDispListPageTop.jsp?dispNo=004002003
    ★14 http://books.rakuten.co.jp/
    ★15 EPUB形式とは、アメリカの電子書籍の標準化団体International Digital Publishing Forumが普及促進しているフォーマットであり、英語圏における電子書籍のフォーマットとしては最も普及したものとなっている。
    ★16 リフロー形式とは、紙の本とは異なり、文字等のレイアウトが流動するものを指している。このため、リフロー形式のフォーマットにおいては、文字サイズを拡大すると表示される文字数が減り、次の画面(ページ)に流動するなど、端末の画面サイズや文字サイズ設定等に応じてレイアウトが流動する仕組みになっている。また、文字情報をデータで含むため、文字色と背景色の変更機能、フォントの変更機能、音声読み上げ機能等、幅広いアクセシビリティ機能への対応が可能である。
    ★17 青木千帆子 2016 「電子書籍ビューアーのアクセシビリティ機能に関する関係者会議」http://www.arsvi.com/2010/1602ac1.htm
    ★18 フィックス形式とは、「紙の本」と同じように文字等のレイアウトが固定されているものを指している。アクセシビリティ機能としては、文字拡大機能に対応可能であるが、文字サイズを拡大すると、レイアウトされた面全体が拡大され、端末の画面に表示しきれない箇所が生じてしまうといった特性がある。
    ★19 HyC形式とは、インフォシティが開発したフォーマットであり、主にコミックに採用されている。
    ★20 .bookはボイジャーが開発したフォーマットであり、携帯電話向け電子書籍で多く採用されている。
    ★21 XMDFとは、シャープにより提唱されているフォーマットであり、GALAPAGOS等で多く採用されている。
    ★22 表中の「文字拡大」とは、手続きにおいて述べた項目1の「文字サイズを調整することができる」を指す。同様に、「色の変更」とは2.文字や背景の色を選択することができる、「画面輝度」とは3.輝度を調整できる、「音声有効化」とは4.音声読み上げ機能を有効化できる、「音声購入」は5.音声読み上げ機能を用いて、ストアに行き本を購入することができる、「音声書棚」は6.音声読み上げ機能を用いて、書棚を開き、書籍を選択できる、「音声読み順」は、7.音声読み上げ機能を用いて、表示されている順序で読むことができる、「音声文字読」は5.音声読み上げ機能を用いて、文字ごとに読み進めることができる、「音声位置指定」は8.指定した箇所から、音声読み上げ機能を用いて読み進めることができる、を指している。また、対応済みの項目を「○」、動作が確認できない項目を「−」で示している。
    ★23 出版年鑑編集部編 2015『出版年鑑』出版ニュース社
    ★24 2015年の実績について問い合わせた際のサピエ事務局による回答。ただし、同一タイトルで異なる形式のものも含まれている。

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     Eメール:caokamoto☆gmail.com(☆→@)


    *作成:青木 千帆子
    UP: 20160229 REV:
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