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「町田ノイズ35周年」

村上 潔 2015/11/24

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last update: 20151129


 2015年11月21日(土)昼12時半すぎ。現在、町田ノイズのカウンター席でこれを書いています。
 昨晩はこの同じカウンター席から、cro-magnonのライブを観たのでした。目の前での演奏。格別でした。心身が軽くなって、余分な力が抜けた感じ。演者も、聴衆も、もちろんスタッフも、自然な「ホーム」感を醸成し、共有していて、本当に気持ちのよい2時間+αでした。オープンでありながら親密さをたたえている。アイデンティティを強く意識させることはないが、ある一定の共通の感覚を確認できる。そういう空間でした。そしてそれは、ライブという特別なときに限らず、いつもの・ふだんのノイズに流れている時間のありかたでもあります。
 ノイズは「ジャズが流れる喫茶店」であり、「ジャズ喫茶」ではありません。ティーン女子向けのファッションビルのいちばん奥にあり、このビルの中に唯一存在する「うす暗い」空間です。ジャズ愛好者も来ますが、お客さんはショップ店員やサラリーマンや学生や主婦が多いです。したがって、共通の趣味をもつ人だけが集まるところではありません。かなり雑多な空間です。仕事や勉強をしている人もいれば、商談/打ち合わせをしている人もいれば、恋バナをしている人もいます。一人で黙ってただ煙草をふかしている人も、ひたすらビールを飲んでいる人も。でもバックにはいつもジャズが流れていて、目を上げればレコードのジャケットが目に入る。それはどんな人にも共通の条件。ジャズが好きな人も興味ゼロな人も、オシャレを求める人もアングラ趣向の人も、この空間に身を置き、時間を過ごしている、ただそれだけでどこか、つながっているのです。不思議な感覚です。
 誰にも干渉されない。でも人といっしょにいる安心感を感じる。「あ、あの人、ジャークチキンライス食べてる、おいしそうだな、あっちにしとけばよかったかな、まあいいか、Aランチおいしかったし、でも次はジャークキチン食べよう……」そんなことが頭に浮かび、そして次の瞬間には消えていきます。いつもは大嫌いな煙草のにおいも、ノイズで嗅ぐと不思議と自然に受け入れられたり。「ああ、子どもの頃は煙草のにおいを嗅ぐとオトナの世界に触れたようでうれしい気持ちになっていたなあ……」なんてことを思い返したり。ふとノスタルジーにも向かいつつ、でもセンチメンタルというよりはクールであって。とりとめもない薄い記憶と思考が、頭をよぎっては去っていきます。
 ライブを聴いている最中も、そういう状態でした。音と、煙草のにおいと、ほのかに漂ってくる料理のにおいと、うす暗い灯りと。それが、耳と、鼻と、目と、頭と、心と、体を、ぐるぐる循環して、自然と全体のバランスが調和している状態。自分の内面と外の世界の境界が曖昧になっていく感覚。それが心地よく。
 アイスコーヒーの氷が溶けて、カランと音がしたら、いまの現実に戻る合図。また町田の街の喧騒に入っていきます。こんなことが、ずっと繰り返されてきました。これからもずっと繰り返したいと、ただそう思います。こうした空間は、一人の人の意識や努力や才能だけでは作れません。街と、たくさんの人々と、そして十分な時間が作るものです。その要素を手放してはいけない、そう思います。町田が町田であり続けるために。
 なにはともあれ、町田ノイズの35周年をお祝いします。


*作成:村上 潔
UP: 20151129 REV:
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