HOME > 全文掲載 >

「アフリカ医療・感染症レポート――三大感染症・顧みられない熱帯病・エボラ出血熱を知る」

新山 智基 20150325 新山 智基『アフリカの病・医療・障害の現場から――アフリカセミナー「目の前のアフリカ」での活動を通じて』生存学研究センター報告23,pp.68-97.

Tweet
last update: 20150805


はじめに

本稿では、グローバルに影響を与えている(与える恐れのある)感染のなかでも三大感染症といわれるHIV/エイズ、マラリア、結核および17の感染症群からなる顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)、そして2014年世界に大きな震撼を与えたエボラ出血熱について取り上げてみたい。

第1節では、三大感染症(HIV/エイズ、マラリア、結核)および顧みられない熱帯病(ブルーリ潰瘍、シャガス病、嚢虫症、デング熱、ギニア虫症(メジナ虫症)、包虫症(エキノコックス症)、風土病トレポネーマ症、食物媒介吸虫類感染症、アフリカ睡眠病、リーシュマニア症、ハンセン病、フィラリア症、オンコセルカ症、狂犬病、住血吸虫症、土壌伝播寄生虫症、トラコーマ)の概要(感染地域の分布、症例数など)、症状、治療方法に加え、アフリカ(サハラ以南アフリカ)地域における状況について明らかにしていく。第2節では、エボラ出血熱の概要(最初の発生、症状など)に加え、はじめて発生が確認された1976年から2012年までの状況や、2014年から現在までの西アフリカ流行状況について述べる。第3節では、エボラ出血熱から見えた諸課題として、近隣諸国の実態をもとに医療体制や社会や文化、慣習などの影響、またグローバルな影響について考えてみたい。

筆者はこれまでに、ギニア、リベリア、シエラレオネでの調査を実施したことはないものの、隣国ガーナ、トーゴ、ベナンでの医療・感染症に関する調査を行ってきた。本調査においてはエボラ出血熱問題にみられる諸課題に通ずるものがあることから、これらの地域での調査も盛り込みながら現地の実態を明らかにしていく。


1.三大感染症と顧みられない熱帯病

アフリカ地域(特にサハラ以南アフリカ)では、依然として感染症が原因の死亡者が多く出ている。WHOが発表(World Health Organization(2014), Global Health Estimates 2014 Summary Tables: Deaths by Cause, Age and Sex, by WHO Region, 2000-2012.)した2012年のアフリカ地域の死亡原因(表1参照)を見てみてもわかるように、上位の多くの死因が感染症である。


表1:アフリカ地域の死亡原因(2012年)
死亡原因 死亡者数(人)
1 HIV/ エイズ(HIV/AID) 1,088,252
2 下気道感染症(Lower respiratory infections) 1,039,332
3 下痢性疾患(Diarrhoeal diseases) 602,717
4 マラリア(Malaria) 553,869
5 脳卒中(Stroke) 436,808
6 早産による合併症(Preterm birth complications) 371,660
7 仮死産と分娩時外傷(Birth asphyxia and birth trauma) 336,318
8 虚血性心疾患(Ischaemic heart disease) 312,306
9 蛋白質エネルギー栄養障害(Protein-energy malnutrition) 284,298
10 髄膜炎(Meningitis) 246,196
11 結核(Tuberculosis) 217,582
12 交通事故(Road injury) 200,841
13 糖尿病(Diabetes mellitus) 182,648
14 新生児敗血症と感染症(Neonatal sepsis and infections) 173,901
15 産科疾患(Maternal conditions) 171,215
16 肝硬変(Cirrhosis of the liver) 135,623
17 対人暴力(Interpersonal violence) 127,420
18 火、熱と熱い物質(Fire, heat and hot substances) 121,611
19 内分泌、血液、免疫疾患(Endocrine, blood, immune disorders) 115,124
※死亡者数10万人以上のものを抜粋。
※具体的は原因ではかなった「その他の感染症/Other infectious diseases(193,374)」および「その他の不慮の事故/Other unintentional injuries(175,428)」、「その他の消火器疾患/Other digestive diseases(149,746)」を除く。
<出所>World Health Organization(2014), Global Health Estimates 2014 Summary Tables: Deaths by Cause, Age and Sex, by WHO Region, 2000-2012.

では実際にどのような感染症が影響を与えているのだろうか。以下、HIV/エイズ、マラリア、結核の三大感染症に加え、顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)として挙げられる17の感染症について取り上げてみたい。下記の情報に関しては、World Health Organization(WHO:世界保健機関)(http://www.who.int/en/)、Centers for Disease Control and Prevention(CDC:アメリカ疾病管理予防センター)(http://www.cdc.gov/)、厚生労働省(http://www.mhlw.go.jp/)、国立感染症研究所(http://www.nih.go.jp/niid/ja/)などの疾病関連の情報をもとに作成したものである。



三大感染症
HIV/エイズ、マラリア、結核は、感染症のなかでもとくに国際的に緊急を要する課題として取り上げられることの多いものである。三大感染症で年間に300万人を超える死者が出ている。国際的な枠組み、例えばミレニアム開発目標においても、「目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止」という項目が設けられる(結核についても指標内で取り上げられている)など、対策が急務なものとして認知されている疾病である。
HIV/エイズ
HIV:Human Immunodeficiency Virus
AIDS:Acquired Immune Deficiency Syndrome
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染することによって免疫機能が低下し、その結果起こる様々な病気(23の病気のうち、1つ以上の病気が発症した状態をエイズと呼ぶ)を引き起こす。感染経路には、性的感染母子感染、血液感染がある。HIVウイルスを完全に除去する治療法はなく、現在、抗レトロウイルス薬によって、ウイルスの増殖を抑え、エイズの発症を遅らせることが可能となっている。

サハラ以南アフリカの状況(2013)】
・HIV陽性者数:2,470万人(3,500万人)
・新規HIV感染者数:150万人(210万人)
・エイズによる死亡者数は年間110万人(150万人)
抗HIV治療を受けている人々は世界全体で1,290万人》
※()内は世界全体の数値を指す
マラリア
Malaria
世界100ヵ国を超える国で流行し、年間約2億人が感染、死亡者は約62万にのぼる(2013)。熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫がハマダラカを媒介としてヒトに感染する。発症すると発熱、頭痛、悪寒、嘔吐などの症状が出る。なかでも熱帯熱マラリアは重篤となる危険性がある。予防には、殺虫剤処理された蚊帳(Insecticide-Treated Nets: ITNs)や屋内残留殺虫剤噴霧(Indoor Residual Spray:IRS)が有効である。

サハラ以南アフリカの状況】
死亡者のうち約9割がサハラ以南アフリカである。しかし、2000年以降アフリカでは死亡者数が49%(世界全体で45%)減少した。とくにアフリカの小児への影響が深刻で、1分間に一人の小児が死亡している計算となる。
結核
Tuberculosis
全世界で約20億人(約3分の1)が感染し、年間の新規患者数は1,100万人、死亡者数は約110万人にのぼる(2013)。患者の95%以上が発展途上国に集中している。結核は、結核菌が体内に入り込むことによって起こり、あらゆる臓器に感染する。代表的なものには肺結核がある。発病すると、咳、たん、微熱などの症状が長く続く。治療には半年間、3〜4種類の薬の服用が必要。予防策には、発症・重度化を防ぐためのBCGワクチンがある。

アフリカ地域の状況(2013)】
・2013年に報告された症例数のうち、約3割がアフリカ地域で確認されている。
・新規感染者数:280万人(1,100万人)
・死亡者数:39万人(110万人)
※()内は世界全体の数値を指す
顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)
2015年1月現在、17の疾病が顧みられない熱帯病(総称)としてWHOによって指定されている。これらの疾病で約14億人が感染し、年間50万人にのぼる死者が出ているといわれている。その多くは、アフリカや東南アジア、南米などの熱帯地域に集中しているが、熱帯地域の拡大が今後世界全体に熱帯病の流行を招く恐れがある。顧みられてこなかった背景には、エイズやマラリア、結核と比べ死亡率が低いため軽視される傾向にあったことや、社会・経済、政治、歴史、研究開発など様々な要因が複雑に絡み合っている。 以下、17の疾病の概要である。
ブルーリ潰瘍
Buruli Ulcer
西アフリカや中央アフリカ諸国、東南アジアなどの熱帯・亜熱帯地域を中心に少なくとも33の国と地域から症例が報告されている。発病すると潰瘍に伴う皮膚病変が現れる。発病の原因となる病原菌は判明しているが、感染源や感染経路は完全には解明されていない。患者は15歳未満の子どもが多い。治療方法は、患部の切除もしくは切断のみである。治療薬はないものの、複数の抗生物質を併用することで潰瘍が縮小することが確認されている。

アフリカ地域の状況】
多くの症例は西・中央アフリカのガーナ、カメルーン、コートジボワール、コンゴ民主、ベナンで報告されている。ガーナでは1993年以降、11,000症例以上が確認されており、近年の流行地域(南部)での発生率は10万人に対して150例と推定されている。
シャガス病
Chagas Disease
流行地域は中南米の21ヵ国が大部分であり、推定700〜800万人が感染している。病原体であるクルーズトリパノソーマをサシガメが媒介し感染する。感染後は無症状の場合も多く、数十年後に発症するケースもある。患者の30%は心臓肥大や心不全などの重度な慢性的な病状が現れ、10%は食道や結腸の肥大が起こる。治療には駆虫薬を用いることで効果があるが、副作用が起こる可能性が高い(治療者の40%に発生)ことが懸念されている。
嚢虫症 Cysticercosis

※腫瘤:しこり・こぶ
※水頭症:頭蓋内に循環障害等によって脳脊髄液が溜り、脳(脳室)の肥大が生じる病気
サハラ以南アフリカや南・東南アジア、ラテンアメリカを中心に約4,000万人が感染している。有鉤条虫の寄生した豚(肉)を、人が生または不十分な加熱のまま食べることによって成虫が腸に感染し、腸内で産卵・孵化すること体内に嚢虫が形成される。筋肉や皮下に寄生した場合には腫瘤ができ、脳の場合脳腫瘍に似た症状(けいれんや麻痺等)や水頭症などが起こる。治療法には、抗寄生虫薬を用いるほかに、嚢虫を外科手術によって摘出する方法がある。

サハラ以南アフリカの状況】有病率が高い国には、コンゴ民主、ザンビア、セネガル、タンザニア、ブルキナファソ、南アフリカ、モザンビークなどが挙げられる。アフリカのみならず、発展途上国の農村社会への健康・生活面での影響が懸念される。
デング熱
Dengue/dengue Haemorrhagic Fever
現在世界的な拡がりを見せ、年間5,000万〜1億人が感染し、世界人口の40%に当たる25億人以上にデング熱のリスクがあると考えられている。デングウイルスがヒトスジシマカやネッタイシマカを媒介として感染し、重症型のデング出血熱を発症するケースもある。発病すると、高熱に加え、激しい頭痛や関節痛、発疹などの症状が現れる。治療薬はなく、対症療法が主である。

【アフリカ地域の状況】
22ヵ国でデング熱の症例が報告され、12ヵ国では旅行者に限定された症例報告が確認されている。医療従事者の知識不足から他の熱帯病(例えばマラリアなど)と間違えるケースもあり、正確な症例数を把握することは困難である。
ギニア虫症(メジナ虫症)
Dracunculiasis(guinea-worm disease)

※腫瘤:しこり・こぶ
1980年代中頃には、アフリカなど20ヵ国で350万人の感染者が発生していたが、2013年には年間148人(4ヵ国)まで感染者は減少している。ギニア虫(幼虫)に感染したミジンコを、飲み水を通して摂取することによって人に感染する。体内に取り込まれたギニア虫は皮下組織を移動しながら成長(60〜100cm)を続け、下肢で水ぶくれや腫瘤ができ、体外へ出ていく(10〜14ヵ月かかる)。有効な治療薬はないが、衛生的に安全な飲み水を確保することが最も効果的な予防策である。

【サハラ以南アフリカの状況】
1980年代中頃には、20ヵ国中17か国がアフリカ諸国で症例が確認された。2013年に症例が報告された4ヵ国はいずれもアフリカで、エチオピア、チャド、マリ、南スーダンの4ヵ国である。そのうち、76%は南スーダンで発生している。
包虫症(エキノコックス症)
Echinococcosis
世界で100万人以上が感染し、症例の多い地域には北アフリカ、中央アジア南米南部、地中海東部、ヨーロッパ南部・東部、シベリア、中国西部がある。エキノコックスの条虫が寄生することによって起こる感染症で、犬やキツネなどの野生動物を宿主とし、排泄物や水から虫卵を摂取することで感染する。症状が出るまでに十数年かかることもあり、腹痛、嘔吐、黄疸、肝機能障害などが現れる。治療には手術のほか、近年では薬物療法も採用されている。

【アフリカ地域の状況】
北アフリカ地域であるアルジェリア、チュニジア、モロッコ、リビアは流行地域である。この地域では、羊、ヤギ、牛、ラクダなどの感染も確認されている。アフリカ大陸ではほとんどの地域で症例が発生している。
風土病トレポネーマ症
Endemic Treponematoses
(yaws, pinta, endemic syphilis…)

※英語ではyaws、ドイツ語やオランダ語ではframboesia、フトレポネーマという人にのみ感染する細菌(スピロヘータ)によって、フランベジア(イチゴ腫)やベジェル(風土性梅毒)、ピンタが引き起こされる感染症である。初期には乳頭腫(腫瘤)が生じ、晩期になると鼻や骨に変形がみられ、掌や足の裏が肥厚し、歩行が困難になるケースがある。治療には2種類の抗菌薬(抗生物質)が用いられる。ランス語ではpianと呼ばれる。
症例が確認されている。感染者の約75%は15歳未満の子どもである。トレポネーマという人にのみ感染する細菌(スピロヘータ)によって、フランベジア(イチゴ腫)やベジェル(風土性梅毒)、ピンタが引き起こされる感染症である。初期には乳頭腫(腫瘤)が生じ、晩期になると鼻や骨に変形がみられ、掌や足の裏が肥厚し、歩行が困難になるケースがある。治療には2種類の抗菌薬(抗生物質)が用いられる。

【サハラ以南アフリカの状況】症例が報告されている国は、ガーナ(18,702[2013])、カメルーン(97[2013])、コートジボワール(2,256[2013])、コンゴ(197[2012])、コンゴ民主(383[2008])、中央アフリカ(230[2012])、トーゴ(15[2010])、ベナン(11[2012年])の8ヵ国である。
※()内は症例数と年
食物媒介吸虫類感染症
Foodborne Trematode Infections
東南アジアや中南米で感染が多く報告され、70ヵ国以上で5,600万人が感染していると推定されている。吸虫を有している魚や貝、甲殻類などを食することによって感染する。病気の原因となる吸虫によって肝吸虫症、肝蛭症、オピストルキス症、肺吸虫症が起こり、臓器に炎症や線維化、また咳や胸痛などの症状が現れる。治療には駆除薬が用いられる。

アフリカ地域の状況】肝吸虫症および肝蛭症については、アフリカの中西部を中心に症例が確認されている。しかし、食物媒介吸虫の疫学的状況に関する情報は限られており、実態把握は困難な状況である。
アフリカ睡眠病
Human African Trypanosomiasis
アフリカ大陸(サハラ以南アフリカ)でのみ感染が確認され、36ヵ国で症例が報告されている。2009年に50年間ではじめて感染者数が1万人を下回り9,878人となり、2012年の段階で新規感染者数は7,216人であった。しかし、実際には感染者数は2万人、感染のリスクに晒されている人々は7,000万人と推定されている。ツェツェバエを媒介とし、初期段階では発熱、頭痛、関節痛などを伴い、症状が進行する(中枢神経に達する)と混乱、感覚障害などが現れる。治療は薬剤が用いられるが、症状が進むほど強い副作用を引き起こす薬剤が使用される。

●1,000例以上の症例報告国:コンゴ民主(2012年に報告された症例の83%、過去10年間のうち70%を占める)
●100〜500例の症例報告国:中央アフリカ、チャド、南スーダン
●100例未満の症例報告国:アンゴラ、ウガンダ、ガーナ、ガボン、カメルーン、ギニア、ケニア、コートジボワール、コンゴ、ザンビア、ジンバブエ、赤道ギニア、タンザニア、ナイジェリア、マラウイ
●以外の17ヵ国では過去10年間新規感染者は報告されていない。
リーシュマニア症
Leishmaniasis
※内臓リーシュマニア症はカラ・アザールとも呼ばれる。
90ヵ国以上で約1,200万人が感染し、1年間に130万人が新たに感染、2万〜3万人が死亡していると推計され、感染のリスクに晒されている人々は3億人を超える。アフリカ、アジア、中南米、地中海沿岸などの地域で症例が報告されている。病型には、@内臓リーシュマニア症(発熱、体重減少、肝臓や脾臓の肥大(肝脾腫))、A皮膚リーシュマニア症(潰瘍)、B皮膚粘膜リーシュマニア症(鼻、口、咽喉の粘膜の破壊)の3種類がある。治療には主として薬剤が用いられる。

サハラ以南アフリカの状況】東アフリカのエチオピア、ケニア、南スーダン、スーダンでは、内臓リーシュマニア症の再発・流行が確認され、高い罹患率と死亡率を引き起こしている。同病型のうち、新規患者90%以上は6ヵ国が占め、そのうち3ヵ国(エチオピア、南スーダン、スーダン)はアフリカ地域である。
ハンセン病
Leprosy
これまでに世界的に感染者が確認され、2012年末現在、115ヵ国で有病者数は189,018人、同年に発見された感染者数は232,857人である。らい菌が人に感染することによって起こる感染症で、治療が遅れた場合、顔や手足、神経などに障害が残ることがある。治療には多剤併用療法が用いられる。

アフリカ地域の状況】
2012年にはアフリカの29ヵ国で患者が報告されている。高い地区流行が確認される国には、アンゴラ、エチオピア、コンゴ民主、スーダン、タンザニア、ナイジェリア、マダガスカル、モザンビーク、南スーダンなどが挙げられる。
フィラリア症
Lymphatic Filariasis

※フィラリア症は象皮病とも呼ばれる。
世界73ヵ国で約14億人が感染のリスクに晒されており、1億2,000万人が感染している。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯・亜熱帯地域に症例が報告される。蚊(イエカ、ヤブカ、シマカなど)を媒介とし、フィラリアという寄生虫が人に感染し、リンパ腫脹や足が象のように腫れ上がる(象皮病)症状が現れる。症状には治療薬が用いられるが、事前に感染リスクのある地域住民を対象に集団で毎年2種類の薬剤を単回投与することで予防可能である(4〜6年間の継続)。
【アフリカ地域の状況】
感染リスクの危険性のある人々の約80%は10ヵ国に集中している。アフリカ地域では、エチオピア、コンゴ民主、タンザニア、ナイジェリアが挙げられる。
オンコセルカ症
Onchocerciasis

※オンコセルカ症は河川盲目症とも呼ばれる。
アフリカやラテンアメリカ、イエメンなどで症例が報告されているが、サハラ以南アフリカ31ヵ国で感染者の99%以上を占める。2,500万人が感染し、約1億2,000万人が感染のリスクに晒されていると推定されている。ブユを媒介とし、回旋糸状虫という寄生虫が人に感染することで、皮膚のかゆみや炎症、また視覚障害や失明に至るケースもある。治療には駆虫薬が用いられる。

[症例が報告されているサハラ以南アフリカの31ヵ国]アンゴラ、ウガンダ、エチオピア、ガーナ、ガボン、カメルーン、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、コートジボワール、コンゴ、コンゴ民主、シエラレオネ、スーダン、赤道ギニア、セネガル、タンザニア、チャド、中央アフリカ、トーゴ、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、ブルンジ、ベナン、マラウイ、マリ、南スーダン、モザンビーク、リベリア、ルワンダ
狂犬病 Rabies

※亢進:気持ちなどが高ぶり進むこと。
※易興奮性:ささいなことに対しても激しく反応しやすい状態のこと。
これまでに150ヵ国を超える国や地域で症例が報告され、毎年5万人以上の死亡者が発生している。多くの症例はアジア、アフリカで報告され、これらの地域では30億人以上が潜在的な脅威にさらされている。犬やコウモリ、キツネなどを媒介とし、狂犬病ウイルスが人に感染することで、初期段階では発熱や灼熱感(知覚異常、症状が進行すると中枢神経を通じて脊髄や脳に炎症が生じ、亢進や易興奮性、恐水症等の症状が現れる。感染後には早期治療が必要であり、狂犬病ワクチンを必要回数摂取することで発症と死亡を防ぐことが可能である。

【アフリカ地域の状況】アフリカ大陸全土で症例が報告されている。アフリカ南部を除き、多くの国が高リスク国となっている(2011年)。
住血吸虫症
Schistosomiasis
2012年には推定2億4,900万人が感染しており、4,210万人が治療を受けている。症例の多くは熱帯・亜熱帯地域にみられる。住血吸虫という寄生虫が淡水の貝(中間宿主)を通じて人に感染し、腸(腹痛、下痢、血便)や泌尿生殖器(血尿)に症状が現れ、肝臓や脾臓などの臓器に影響を与える。腸管に寄生するマンソン住血吸虫、日本住血吸虫、メコン住血吸虫、インターカラーツム住血吸虫と、泌尿生殖器に寄生するビルハルツ住血吸虫に大別される。治療には駆虫薬が用いられる。衛生的な水へのアクセス確保などが有効的な予防策となる。

【サハラ以南アフリカ地域の状況】
サハラ以南アフリカでは毎年20万人以上が死亡していると推計されている。治療が必要な人々の少なくとも90%はアフリカ地域が対象である。
土壌伝播寄生虫症
Soil-transmitted Helminthiasis
世界で約20億人が感染しており、サハラ以南アフリカ、東アジアなどの熱帯・亜熱帯地域やアメリカ、中国などでも多くの症例が報告されている。病気の原因となる寄生虫は、主に回虫、鞭虫、鉤虫であり、野菜や水源等から虫卵を摂取することで感染する。重度な場合、腹痛や下痢、また認知障害や発達障害などを引き起こす可能性がある。なかには子どもに多くみられる症状もある。治療には駆虫薬が用いられる。
サハラ以南アフリカ地域の状況】サハラ以南アフリカ全土で症例が報告され、多数の国が子どもへの感染リスクが高いことから、予防治療・予防策(駆虫薬や衛生面の向上など)が必要である。
トラコーマ
Trachoma
世界53ヵ国で症例が報告され、約220万人の視覚障害患者の原因となっており、2億2,900万人が感染のリスクに晒されていると推定される。アフリカ、アジア、中南米、オーストラリア、中東地域で感染が確認されている。クラミジア・トラコマチスという微生物がハエを媒介として人に感染し、結膜炎を引き起こす。症状が進行(逆さまつげの状態)すると角膜が瘢痕化し、失明に至ることがある。治療には抗生物質、また逆さまつげの状態の場合手術による治療が用いられる。

アフリカ地域の状況】
アフリカで症例が報告されている29か国に対して、2012年には470万人が抗生物質を用いた治療を受け、169,000人が逆さまつげ治療のための手術を受けている。


2.エボラ出血熱

(1)エボラ出血熱とは

エボラ出血熱(現在ではエボラウイルス病(Ebola virus disease)と称される)が世界ではじめて発生が確認されたのは、1976年6月のスーダン共和国(現在の南スーダン共和国)であった。ヌザラ(Nzara)の綿工場に勤める男性が発症、その他にも同工場内で2名の感染が確認され、この3人によって家族、医療従事者等へ感染は拡大した。その結果、284名が感染し、151名が死亡、致死率は53%に上った。また、同年8月には、コンゴ民主共和国(当時のザイール)のヤンブク(Yambuku)で感染が発生し、感染者318名、死者280名、致死率88%を引き起こしている。

病名のエボラ(Ebola)は、感染者が発生したヤンブクの近くを流れる川の名前であったエボラ川が由来となっている。病原体であるエボラウイルスには、ザイールエボラウイルス、ブンディブギョエボラウイルス、スーダンエボラウイルス、レストンエボラウイルス、タイフォレストエボラウイルスの5つの類型(株)が存在している(表2参照)。なかでも、これまでにアフリカで流行を引き起こしてきたものはザイール株、ブンディブギョ株、スーダン株の3つである。2014年の西アフリカでの流行はザイール株が原因となった。


表2:エボラウイルスが属しているフィロウイルス科の分類
フィロウイルス科 クウェバウイルス属
Cuevavirus)
マールブルグウイルス属
Marburgvirus)
エボラウイルス属 Ebolavirus)
※エボラウイルス属には5つの種類が存在する。○○型・○○株と称される。
例:ザイール型(株)
●ザイールエボラウイルス
(Zaire ebolavirus)
●ブンディブギョエボラウイルス
(Bundibugyo ebolavirus)
●スーダンエボラウイルス
(Sudan ebolavirus)
●レストンエボラウイルス
(Reston ebolavirus)
●タイフォレストエボラウイルス
(Tai Forest ebolavirus)
<出所>WHO / Ebola virus disease Fact sheet(2014年9月)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs103/en/ をもとに作成。

感染経路には、エボラウイルスに感染し、発症また死亡したチンパンジー、ゴリラ、コウモリ、サルなどの血液、分泌液、臓器などに濃厚に接触することでヒトに感染する。ヒトからヒトへの感染には、血液、分泌液、臓器、体液などに加え、これらに汚染された付着物(例えば、衣類など)に直接接触することで感染が広がる。ヒトに感染し、発症するまでの潜伏期間は2日から21日間で、重症急性ウイルス性疾患であるエボラ出血熱の初期症状には発熱や倦怠感、筋肉痛、頭痛、咽頭痛、吐き気などが起こり、その後、嘔吐や下痢、発疹、腎臓や肝臓の機能障害、内出血や外出血等の症状が現れる。2014年末現在、治療に有効的なワクチンはなく(開発段階)、対症療法1や支持療法2が主である。

(2)2014年以前のエボラ出血熱の発生状況

1976年にエボラ出血熱の発生が確認されて以来、表3のようにコンゴ民主共和国、スーダン共和国、ガボン共和国、ウガンダ共和国、コンゴ共和国のアフリカ大陸中央部の国々に症例報告が集中している状況であった。それぞれのケースで致死率にばらつきはあるものの、ほとんどのケースで感染症者の50%以上が死に至っている。2012年までのケースを平均すると致死率は約80%にのぼる。


表3:これまでのエボラ出血熱発生状況
国名 エボラウイルスの種類 感染者数 死亡者数 致死率
1976 コンゴ民主 ザイール 318 280 88%
1976 スーダン スーダン 284 151 53%
1977 コンゴ民主 ザイール 1 1 100%
1979 スーダン スーダン 34 22 65%
1994 ガボン ザイール 52 310 60%
1994 コートジボワール タイフォレスト 1 0 0%
1995 コンゴ民主 ザイール 315 254 81%
1996(1-4 月) ガボン ザイール 31 21 68%
1996(7-12 月) ガボン ザイール 60 45 75%
1996 南アフリカ(※) ザイール 1 1 100%
2000 ウガンダ スーダン 425 224 53%
2001-2002 ガボン ザイール 65 53 82%
2001-2002 コンゴ ザイール 59 44 75%
2003(1-4月) コンゴ ザイール 143 128 90%
2003(11-12月) コンゴ ザイール 35 29 83%
2004 スーダン スーダン 17 7 41%
2005 コンゴ ザイール 12 10 83%
2007 コンゴ民主 ザイール 264 197 71%
2007 ウガンダ ブンディブギョ 149 37 25%
2008 コンゴ ザイール 32 14 44%
2011 ウガンダ スーダン 1 1 100%
2012 ウガンダ スーダン 24 17 71%
2012 ウガンダ スーダン 7 4 57%
2012 コンゴ民主 ブンディブギョ 57 29 51%
合計 2,387 1,879 79%
※ガボンの感染者より感染したケース
<出所>WHO/Ebola virus disease Fact sheet(September 2014)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs103/en/ をもとに作成。

(3)西アフリカでのエボラ出血熱流行状況(2014年)

西アフリカで流行しているエボラ出血熱は2015年2月8日現在で、9ヵ国22,894人にエボラ出血熱の疑いを含む感染者を確認し、9,177人が死亡しているとWHOは発表している(表4参照)。


表4:西アフリカのエボラ出血熱発生状況(2015年2月8日現在)
国名 感染者数 死亡者数
リベリア 8,881 3,826
シエラレオネ 10,934 3,341
ギニア 3,044 1,995
ナイジェリア 20 8
マリ 8 6
アメリカ 4 1
セネガル 1 0
スペイン 1 0
イギリス 1 0
合計 22,894 9,177
<出所>WHO, Ebola response roadmap situation report(11 February 2015)
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/152219/1/roadmapsitrep_11Feb15_fre.pdf

西アフリカでの流行は、2013年12月にギニアのゲケドゥ(Gueckedou)の2歳の男児が感染したことがはじまりとみられている。ギニア保健省からWHOに報告され、第1報が出されたのは2014年3月23日であった。3月24日時点で、ギニアでは感染者数86人、死亡者数59人が報告されている3。3月末の段階で、ギニア、リベリア、シエラレオネで症例が報告され、西アフリカ諸国経済共同体(Economic Community of West African States:ECOWAS)による国際的な支援が必要との声明が発表された。また、6月23日には、国境なき医師団が「制御不能」と表明した。WHOが専門による緊急委員会を開催し、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC)」を宣言したのは8月8日である4。現在までに、ギニア、リベリア、シエラレオネに加えて、7月にナイジェリア、8月にセネガル、9月にアメリカ、10月にスペイン、マリで、それぞれの国における最初のエボラ出血熱症例が報告されている。

2014年末現在までに多くの感染者が報告されているギニア、リベリア、シエラレオネの3ヵ国では、図1・2・3に示したように症例数および死亡者数は現在もなお増加傾向にある。


図1:ギニアにおける症例数および死亡数の推移 図1
<出所>CDC, Cumulative reported cases in Guinea, Liberia, and Sierra http://www.cdc.gov/vhf/ebola/outbreaks/2014-west-africa/cumulative-cases-graphs.html


図2:リベリアにおける症例数および死亡数の推移 図2
<出所>CDC, Cumulative reported cases in Guinea, Liberia, and Sierra http://www.cdc.gov/vhf/ebola/outbreaks/2014-west-africa/cumulative-cases-graphs.html


図3:シエラレオネにおける症例数および死亡数の推移 図3
<出所> CDC, Cumulative reported cases in Guinea, Liberia, and Sierra http://www.cdc.gov/vhf/ebola/outbreaks/2014-west-africa/cumulative-cases-graphs.html

では、なぜこのように最初の感染が確認され、3月にWHOに一報が入り、約1年にもわたる取り組みを実施しているにも関わらず、感染者数や死亡者数を抑えることができないのだろうか。次項で、アフリカの多くの地域が抱える諸問題について明らかにしていきたい。


3.エボラ出血熱から見えた諸課題

筆者はこれまでにギニア、リベリア、シエラレオネでの調査を実施したことはないが、西アフリカの隣国ガーナ、トーゴ、ベナンの3ヵ国における医療・感染症に関する調査を行ってきた。ここで得られた情報はアフリカの多くの地域で見られることであるため、エボラ出血熱問題にみられる諸課題に通ずるものがある。本項では、これまで実施した調査において得られた情報をもとにアフリカのかかえる諸課題・実態について迫ってみたい。

●医療従事者の病気に対する知識不足

エボラ出血熱の診断において、医療従事者の知識不足から他の感染症と診断してしまうケースがある。マラリア、腸チフス、細菌性赤痢、コレラ、ペスト、髄膜炎、肝炎などと鑑別する必要がある。検査方法には、ELISA法(酵素免疫測定法(antibody-capture enzyme-linked immunosorbent assay)、抗原検出法(antigen-capture detection tests)、血清中和試験(serum neutralization test)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(reverse transcriptase polymerase chain reaction(RT-PCR)assay)、電子顕微鏡法(electron microscopy)、細胞培養によるウイルス分離(virus isolation by cell culture)などがある。5限られた施設での検査となれば早期に診断することは難しい。また、医療従事者がエボラ出血熱を診察することが初見である場合、上記の感染症と診断してしまうことがある。こうした場合、適切な方法(血液や体液に直接触れない方法)での治療を行うことができず、医療従事者に感染するケースもある。加えて、治療に対するガイドラインが徹底されておらず(できないため)、2015年2月11日に発表されたWHOの報告では流行3ヵ国で830人の医療従事者の感染が確認され、488人が死亡している。国別でみると、ギニア166人(死者88人)、リベリア371人(死者179人)、シエラレオネ293人(死者221人)の医療従事者が感染、死亡している6

●医療体制・医療インフラの欠如

医療体制・管理ガイドライン、医療施設・器具(防護服を含む)に加え、医療従事者の不足は、エボラ出血熱を封じ込めるための大きな障壁となっている。もともと内戦等によって医療体制においても疲弊した状態であったため、整った医療環境下での体制構築は進んでいない状況であったことが推察される。また、管理ガイドラインも徹底されておらず、何からの形で血液・体液等に触れ、医療従事者の間に感染が拡がった。加えて、医療従事者への感染は貴重な戦力を失い、医療従事者の不足を招く結果となっている。

こうした医療従事者の感染拡大には医療施設・器具の不足も起因している。血液や体液へ接触することを防ぐための防護服(フェイスシールド、ゴーグル、手袋、ガウン、ゴムまたはラバー製の長靴など)は不足しており、病床も慢性的に数が足りない状況が続いている。また、医療施設そのものが不足しているため、仮設病院が増設されているが、それでも感染者全員が治療を受けられる状態にはない。こうしたことから、家族が自宅で看病をするケースもあり、防護服もないことから感染を拡大させる原因ともなっている。

●葬儀・埋葬、食生活などの文化的な要素

西アフリカでのエボラ出血熱の流行には文化的な要素が大きく影響している。例えば、葬儀・埋葬への儀礼が挙げられる。葬儀では参列者が直接死体に触れる儀礼があることや、埋葬の際には土葬となるため死体に接触することから感染のリスクが高まる。また、食生活も感染リスクを高める要因となり得る。エボラウイルスはコウモリ、サルなどの野生動物にも感染するため、これらの動物を狩猟し食することで感染する可能性がある。7こうした地域の儀礼・風習の文化的な要素が感染経路の一旦となり、感染拡大を招く要因となるのである。

●伝統的な慣習

エボラ出血熱のケースだけでなく多くの病気において、現代的な医療を利用せず、呪術や精霊信仰、薬草などを用いた伝統的な医療に頼る慣習が残っている。こうした伝統的な慣習が色濃く残る地域では、発見・治療・感染拡大を防ぐ対策が遅れることになるため、治療を司る伝統医療師や伝統的医療に頼る住民に対する現代医療への理解や協力を得るためのアプローチが各地で展開されている。

実際に筆者が2011年にガーナ大学医学部附属野口記念医学研究所で行った聞き取り調査では、病気に対する治療方法としてハーブ(薬草)によるものが盛んに行われている事実を確認した。こうした伝統的な医療に対応するためのひとつの方法として研究所では、薬草の効果・効能の検証を行い、緩和等の有無を分析したうえで、その結果を伝統医療師に提供し(理解を求め)、効果のある治療方法を促す取り組みを実施している。

●グローバル化の影響、交通網の発達

交通網(航空網)の発達は多くのモノ・人を運ぶとともに、感染症を全世界へ拡散することになった。例えば、航空機に潜んでいた蚊によってマラリアが流行地からこれまでに感染例のない地域へと運ばれたケースや、感染した人によって感染例のない地域に運ばれる場合8も確認されている。エボラ出血熱も感染者によって流行地域から遠く離れた地域へと運ばれている。9月にアメリカではじめて確認された感染者は、帰国後に発症しているため、事前に感染を確認することが困難であった。エボラウイルスに感染し、発症するまでの潜伏期間は2日から21日とされるため、現地で感染し、帰国後に発症するケースが今後も起こることが考えられる。このように交通網の利便性があがった一方で、短期間のうちに感染症を世界各地に拡散させる要因ともなっているのである。


むすびにかえて

現在、西アフリカで猛威を振るっているエボラ出血熱もまた中央アフリカを中心とした風土病のひとつとして考えてられてきた。移動手段(交通)の高速化、グローバル化の加速は多くの人やモノの移動を拡大させた一方で、感染症を瞬く間に拡散される手立てとなった。2014年に西アフリカで発生したエボラ出血熱の流行は、同地域内に留まらず、ヨーロッパ・アメリカで感染者が報告され、また感染の疑いのある症状が発症した人の報告は世界各地で確認されている。こうした状況からも西アフリカでの流行が終息しない限り、今後も世界各国での感染者が報告される可能性が高い。

現地での対策は進められているものの、「エボラ出血熱から見えた諸課題」で明らかにしてきたような医療体制や社会や文化などの影響は対策・援助を遅らせる結果となっている。ここで取り上げた課題はほんの一部であるが、エボラ出血熱のみならず、顧みられない熱帯病やその他多くの病気において共通していえる課題である。

筆者はこれまでに西アフリカのガーナ共和国、トーゴ共和国、ベナン共和国の医療・支援に関連する調査を実施してきた。2014年末現在、この3ヵ国ではエボラ出血熱の発生は確認されていないが、隣国の状況や西アフリカ地域における人の移動、国境のチェック体制等を鑑みた場合、いつ症例が報告されてもおかしくない状態といえるだろう。こうしたことから、これまでの調査をもとに関連する情報をまとめるに至った。

人類の歴史上幾度となく新たな感染症が誕生し多くの命を奪っている。今日の感染症の拡散は、グローバルな規模での対策の必要性が増したとともに、地球上どこの場所に居てもその脅威を感じることにつながっている。今後も多くの新たな感染症が現れるなかで、エボラ出血熱への対応で明らかとなった課題(これまでの感染症対策として幾度となく議論されている)に対する取り組みが急務である。


<資料>

2014年西アフリカで流行したエボラ出血熱に関する年表

(2014年12月31日現在)
年月日 出 来 事
【2013年】
12月6日
ギニアのゲケドゥで2歳の男児がエボラ出血熱に感染、死亡が確認される
【2014年】
2月9日
ギニアで謎の感染症による死亡例が確認される
3月22日 ギニア政府はエボラ出血熱が発生・確認されたことを発表
3月23日 WHOはギニアでのエボラ出血熱発生を宣言
3月24日 リベリア、シエラレオネの国境付近で疑いのある症例が報告される
3月25日 WHOの医療チームがギニアに派遣
3月28日 欧州委員会は50万ユーロの資金提供
3月30日 西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は25万ドルの支援を発表国際的な支援が必要と声明
3月31日 CDCはギニアに5名のサポートチームを派遣
6月23日 MSF(国境なき医師団)が流行を「制御不能」と表明
7月2・3日 WHOはガーナの首都アクラで11ヵ国(ウガンダ、ガーナ、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、コートジボアール、コンゴ民主、セネガル、シエラレオネ、マリリベリア)の保健大臣を集めた緊急会議を開催
7月22日 ナイジェリアにおいて初の感染者が確認される
7月30日 シエラレオネで非情事態宣言を発表
8月4日 世界銀行グループは最大2億ドルの緊急支援を発表
8月6日 リベリアで非情事態宣言を発表
8月8日 WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言
8月8日 ナイジェリアで非情事態宣言を発表
8月11日 WHOは死者数が1,013人に達したと発表
8月12日 WHOは開発中の治療薬使用を条件付きで容認
8月13日 ギニアで非情事態宣言を発表
8月16日 ケニア政府は感染者の多い3ヵ国からの入国を禁止すると発表
8月21日 南アフリカ政府は感染者の多い3ヵ国からの外国人の入国禁止を発表
8月21日 セネガル内務省はギニアとの国境を封鎖したと発表
8月23日 コートジボワール政府はギニアとリベリアとの国境を封鎖したと発表
8月28日 WHOは封じ込めに向けた「Ebola response roadmap」を発表。6〜9ヵ月以内に国際的な感染拡大防止を目指すことが明記される。
8月29日 セネガル保健省は同国において初の感染者が確認されたことを発表
9月5日 WHOは死者数が2,000人を超えたと発表
9月9日 アフリカ連合は渡航制限の解除を要請
9月16日 オバマ米大統領は米兵3,000人を派遣することを表明
9月17日 国連はエボラ緊急対応ミッション(UN Mission for Ebola Emergency Response) を設置することを表明
9月18日 国連安全保障理事会は西アフリカのエボラ出血熱の流行やその影響について深刻な懸念を表明した安全保障理事会決議2177を採択
9月19〜21日 シエラレオネでは感染拡大阻止と感染者発見を目的とした3日間の外出禁止措置を実施。約3万人のボランティアスタッフが全国民(約600万人)を対象に戸別訪問を行う。
9月25日 世界銀行グループは対策支援増額を発表。総額4億ドルとなる。
9月26日 WHOは死者数が3,091人に達したと発表(9月23日時点)
9月26日 IMF(国際通貨基金)は流行3ヵ国に1.3億ドルの緊急支援を正式決定
9月30日 CDCはアメリカで初の感染者が確認されたことを発表
10月6日 スペイン保健・社会サービス・平等省は看護助手が感染、発症したことを発表。アフリカ以外での初となる二次感染と見られる。
10月10日 WHOは死者数が4,033人に達したと発表(10月8日時点)
11月13日 リベリアの非常事態宣言解除を発表
10月17日 WHOはセネガルにおける流行終息を宣言
10月20日 WHOはナイジェリアにおける流行終息を宣言
10月21日 WHOはワクチンの臨床試験開始を発表(11月上旬までにスイスで着手)
10月23日 マリ保健省は同国において初の感染者が確認されたことを発表
10月24日 EUは対策支援を10億ユーロに拡大することを合意
10月25日 WHOは感染者(疑い例を含む)が1万人を超えたと発表
10月27日 オーストラリア政府は流行国へのビザ発行を停止
10月30日 世界銀行グループは1億ドルの追加支援を発表
10月31日 カナダ政府は流行国へのビザ発行を停止
11月12日 WHOは死者数が5,160人に達したと発表(11月9日時点)
12月2日 WHOは死者数が6,070人に達したと発表(11月30日時点)
12月19日 WHOは死者数が7,388人に達したと発表
12月29日 スコットランド自治政府は感染者が確認されたことを発表。イギリスでは初の感染者発生
12月29日 WHOは流行3ヵ国で感染者(疑い例を含む)が2万人を超えたと発表
12月31日 感染者は20,206人(9ヵ国)、死亡者数は7,905人にのぼる
      は対策・援助関連の項目を指す。
※世界銀行グループは、@国際復興開発銀行、A国際開発協会、B国際金融公社、C多数国間投資保証機関、D投資紛争解決国際センターの5つ機関から構成されている。


[注]


<参考文献>


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

[個別の疾病情報]

●HIV/エイズ

●マラリア

●結核

●ブルーリ潰瘍

●シャガス病

●嚢虫症

●デング熱

●ギニア虫症(メジナ虫症)

●包虫症(エキノコックス症)

●風土病トレポネーマ症

●食物媒介吸虫類感染症

●アフリカ睡眠病

●リーシュマニア症

●ハンセン病

●フィラリア症

●オンコセルカ症

●狂犬病

●住血吸虫症

●土壌伝播寄生虫症

●トラコーマ

※HP情報は2014年11月21日閲覧・取得

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

[エボラ出血熱に関する情報]


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

[顧みられない熱帯病を知るための資料(参考文献・参考Webサイト)]


<アフリカ医療関連の写真>


画像「処置室」
処置室(ガーナ共和国にて筆者撮影、2011年8月31日)


画像「処置室・医療器具」
処置室・医療器具(ガーナ共和国にて筆者撮影、2011年8月31日)


画像「啓発用ポスター」
啓発用ポスター(ガーナ共和国にて筆者撮影、2011年8月31日)


画像「一般病室」
一般病室(ベナン共和国にて筆者撮影、2010年3月18日)


画像「病院施設内の炊き出し場」
病院施設内の炊き出し場(ベナン共和国にて筆者撮影、2010年3月18日)

※アフリカの多くの病院では、入院時に食事の提供がないため、家族(主に母親)が病院施設内にある炊き出し場で自炊している姿を見かける。


*作成:小川 浩史
UP: 20150805 REV:
アフリカ  ◇医療人類学 全文掲載
TOP HOME (http://www.arsvi.com)