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「ヨーロッパにおける書籍へのアクセシビリティをめぐる現状と課題」

青木 千帆子
2013/9/14-15 障害学会第10回大会 於:早稲田大学

last update:20130912

  ※「ヨーロッパにおける書籍へのアクセシビリティをめぐる現状と課題」ポスターはこちら

1 研究目的

 本報告の目的は次に述べる2点である。一つは、国際機関における書籍アクセシビリティをめぐる議論の現状を紹介すること。もう一つは、本報告においてはドイツ・イギリス、続く菊池氏による報告「フランスにおける障害者向け電子図書サービス」においてはフランスにおいて、書籍へのアクセスがどのように保障されているのかを明らかにすることである。

2 研究の背景

 研究の背景に関しては、発表要旨に記載したのでここでは省略する。確認しておきたい点は、電子書籍の登場は書籍のアクセシビリティを高める絶好のチャンスであるにも関わらず、@電子書籍の著作権問題を視覚障害者、上肢等に不自由のある人、読字障害の人(以後、読書障害者)の読書の問題と関連づける議論は希少であり、A個別の技術はすでに活用可能な水準に到達しているにもかかわらず、その組み合わせが不適切な状況が発生している。また、B出版社・福祉団体・図書館・教育機関が相互に議論し、情報を共有する仕組みが存在していないことが、報告者らがこれまでに実施した書籍のアクセシビリティをめぐる調査から明らかになっているということである(山口・植村・青木, 2012)。

3 方法

 2013年8月にイギリスとドイツの各都市を訪問し調査を実施した。イギリスにおいては、The British Library、Royal National Institute for the Blind、The Publishers Associationを訪問した。ドイツにおいては、Technische Universitat Dortmund、Karlsruhe Institute of Technology、Deutsche Zentralbucherei fur Blinde、Bayerische Staatsbibliothek、Bayerische Blindenhorbucherei e.V.、Bayerischer Blinden- und Sehbehindertenbund e.V.を訪問した。
 この他、書籍のアクセシビリティや視覚障害者の読書に関連する資料を収集し、議論の状況を確認した。なお、本調査は、JSPS科研費24700243の助成を受け実施している。

4 結果

4.1 ドイツにおける書籍アクセシビリティの現状

4.1.1 書籍のアクセシビリティを確保する現行のしくみ

法律
 ドイツにおける書籍のアクセシビリティに関連する法律は、2002年障害者平等法(Gesetz zur Gleichstellung behinderter Menschen)、2006年平等待遇原則の実現のための欧州指令を実施するための法律(Gesetz zur Umsetzung europaischer Richtlinien zur Verwirklichung des Grundsatzes der Gleichhandlung Vom 14. August 2006)により、障害者に対し差別的な対応をすることを禁じたのに加え、2003年著作権法(Urheberrechtsgesetz)改正の際、視覚障害者の利用のためのアクセシブルな形式への複製が権利侵害に当たらないことが定められた。2003年著作権法改正以前は、視覚障害者の読書に関する法律は存在せず、教育に関する法律にも図書館に関する法律にも、書籍へのアクセスに関する法律は存在しない。

MEDIBUS(Medieugemeinschaft fur Blinden und sehbehinderte meuchen e.V.)
 このドイツ著作権法45a条で想定される形式で、視覚障害者の利用のための複製を担っているのは、1つの公立視覚障害者用図書館と、6つの民間視覚障害者団体である。この7つの組織が蔵書目録を共有して共同運営している組織がMDEIBUS(Medieugemeinschaft fur Blinden und sehbehinderte meuchen e.V.)である。7つの組織は、各図書館の蔵書目録及び書籍データを加盟図書館同士で共有している。
 ただし、現行のドイツ著作権法では公衆送信が認められていないため、オンラインでデータを共有しているのは図書館同士のみで、利用者にはCDで配達しオンラインでのダウンロードサービスは実施していない。また、著作権法45a条(2)では、アクセシブルな形式への複製に際してライセンス料金を納めることが規定されており、複製の主体はVerwertungsgesellschaft WORT(以後、VG WORT)に対し1著作ごとに15ユーロを納めている。また、現在議論中であるが、今後複製の主体による公衆送信が認められるようになった際には、1ダウンロードごとに0.12ユーロを支払うことになる見込みであるとのことだった。
 一方、図書館や教育機関における印刷物の貸与に関しては、それぞれ著作権法27条および54条により、VG WORTに対しBibliothekstantiemeと呼ばれるライセンス料金を納めることになっている。つまり、27条、45条、54条はそれぞれ重複しない別の主体が想定されているのであり、視覚障害者の利用のための複製が認められている団体は、教育機関でも図書館でもない、福祉的機関であると想定されていると考えられる。
 その他、ドイツにおける書籍のアクセシビリティを確保する現行のしくみに関しては、青木(2012)を参照されたい。

4.1.2 書籍のアクセシビリティを向上しようとするとりくみ

Sehcon
 上述した既存の体制に加え、書籍のアクセシビリティをさらに向上しようとするとりくみとして、ドルトムンド工科大学図書館を中心に運営されるSehconが存在する。Sehconとは、19の大学図書館などによる組織が、主に高等教育機関に所属する読書障害者の利用のために蔵書目録およびデータを共有しているオンラインデータベースである。
 Sehconは、1984年ドルトムンド工科大学リハビリテーション学科と障害学生支援室とが共同で実施したResearch Initiativeをきっかけとして始まる。翌年、この研究プロジェクトは視覚障害を有する学生への文献目録(Zentralkatalog der Medien fur Sehgeschadigte: ZKMeSe)として図書館に運営が引き継がれ、ドイツ語使用圏(ドイツ全土及びオーストリア、スイスの一部)の大学図書館間目録共有データベースの一部として運営が始まった。
 2002年にドルトムンド工科大学のリポジトリELDORADOにサーバーを設置し、ZKMeSeをウェブベースのものに移行、名称をSehconとした。また、学術書以外に学術雑誌のデータ、またテープだけでなくデジタルデータも収録している。現在は、282人がユーザー登録し、データ総数は13378件、うちデジタルデータは5367件登録されている。
 デジタルデータは、登録した利用者がメールアドレスとパスワードを入力することで直接ダウンロードできるようになっており、フォーマットはPDF、docx、rtfが中心である。ドイツ全土で視覚障害者が共通して利用している形式でコード化されているという。SfBS (Service fur Blinde und Sehgeschadigte)という、ドルトムンド工科大学図書館で視覚障害を有する学生へのサービスを担当する部署のスタッフが管理運営しており、データにはDRMやWatermarkは付与されていない。また、データの登録はドルトムンド工科大学だけでなく、メンバーとなっている組織それぞれがデータを作った際にSehconに登録しているとのことだった。
 また、Sehconに蔵書がない本のリクエストがあった場合、SfBSのスタッフが出版社に申請してPDFデータをもらっているという。多くの場合出版社は無償でPDFファイルを提供してくれるか、一部の出版社は紙の書籍と同額の支払いを要求する。たまにデジタルデータの提供を拒否する出版社もあるが、それはほんの一部とのことだった。出版社や著作権者への連絡は、SfBSのスタッフが個別に直接とっており、中間的に集約する組織があるわけではない。また、VG WORTに著作権法45条にもとづくライセンス料金を支払うこともない。出版社とのやりとりに関しては、多くの出版社は好意的に対応してくれるのでこれといった対策はなく、相互の信頼に基づいてやり取りしているという話だった。

4.2 イギリスにおける書籍アクセシビリティの現状

4.2.1 書籍のアクセシビリティを確保する現行のしくみ

法律
 イギリスにおける書籍のアクセシビリティに関連する法律は、1995年障害者差別禁止法においてサービス提供者が差別的な対応をすることを禁じたのに加え、2002年著作権法改正の際、視覚障害者の利用のためのアクセシブルな形式への複製が権利侵害に当たらないことが定められた。その後、1995年障害者差別禁止法に代わる形で2010年平等法が定められ、申立人の範囲がより包括的なものとなった。(インタビューにおいて出版社協会の担当者は、2010年平等法により視覚障害者だけでなくあらゆる読書障害者に対しアクセシブルなコピーを提供する義務が発生したと語っている。)
 また、著作権法において視覚障害者の利用のための複製が認められている団体は、教育機関および非営利団体とされ(31B条12項)、商業的に利用可能な書籍がある場合、複製は認められないことが定められている(31B条4項)(三井情報開発株式会社総合研究所, 2006)。現在、イギリス国内では、著作権法における権利制限の対象として、視覚障害だけでなく全てのインペアメントにより読書に困難を経験している人々をふくめるよう見直しが行われている。

RNIB National Library Service
 1882年に始まった世界初の点字図書館National Library for the Blindは、2007年よりRoyal National Institute for the Blind (以後、RNIB) に移管し、RNIB National Library Serviceと名称を変更し運営を続けている。RNIBはイギリスにおいておそらく最も老舗かつ規模の大きい視覚障害者団体であり、点字本や音声本などの図書館運営だけでなく、視覚障害者に対するリハビリテーションや支援機器、技術の提供も行っている。その活動は日本における点字図書館やライトハウスのものと類似している。

4.2.2 書籍のアクセシビリティを向上しようとするとりくみ

Publisher Guideline  http://goo.gl/f8pymp
 2007年にPublisher Guidelineという出版社向けガイドラインがPublisher Association(以後、PA)により発行されている。このガイドラインに関しては現在も見直しが継続しているが、その基本的な概要は次の通りである。
 障害者差別禁止法や平等法にもとづいて、出版関係者は読書に困難を経験する人々に対し差別的な対応をしてはいけない。差別的対応にならないためには、すなわち合理的配慮をしなければならない。つまり印刷物を刊行する際にアクセシブルなコピーを提供することが、法で定められた責務である。また、Publisher Guidelineでは、アクセシブルなコピーに関するリクエストがあった際の対応方法の解説も掲載されている。
 このようなガイドラインを策定するにあたっては、PA内部にCopyright publishers groupが発足している。2007年以前から、障害のある個人からの直接的なリクエストだけではなく、高等教育機関や図書館から間接的なリクエストが来るようになっていた。これを受け、PA内部でアクセシブルなコピーのリクエストの件数を数えはじめ、multiple copiesの問題を考える必要性が明確に示されたという。
 PAの認識としては、個人や教育機関、図書館の努力によって書籍をアクセシブルにするのはとても難しく時間を食ってしまう。一方で、出版社側で書籍をアクセシブルにするためには最初の設計段階からアクセシビリティを視野に入れて進めることが大切であり、多くの出版社はこの点を共有した段階に来ていると、担当者は話してくれた。

JISC TechDis
 JISC TechDisは、電子技術、情報通信技術を高等教育の場面で活用するためのコンサルタントを行うJoint Information Systems Committeeというチャリティー機関の一部であり、高等教育機関に所属する障害者の学習において有用な技術に関する情報を集約し発信している組織である。今回の訪英においてJISC TechDisは訪問していないが、次に報告するRNIBの担当者からの紹介をうけ、その活動に関しメールにて質問する機会を得た。様々な組織と共同での啓発活動が数多くみられ、高等教育における書籍アクセシビリティに関して大きな推進力になっている。
 JISC TechDisが発信している高等教育機関に所属する支援者への手引きとしては、以下のようなものが公開されている。読書に困難を持つ学生の教材を確保するためにどのような方法があるのか、また出版社に問合せをする際の各社窓口は誰なのかといったことが紹介されている。
・ Obtaining Textbooks in Alternative Formats: http://goo.gl/4nhXKH
・ Publisher Lookup UK: http://www.publisherlookup.org.uk/whattoexpect.php
 出版関係者への手引きとしては、以下のようなものが公開されている。通常の書籍におけるアクセシビリティはもちろん、教育の文脈において教材のアクセシビリティは、読書障害者にとって死活問題である点が示されている。
・ Accessible Publishing: http://goo.gl/dnNhrk
・ Educational publishing and accessibility: http://goo.gl/Xee0uQ
・ Supporting publisher training: http://www.jisctechdis.ac.uk/techdis/keyinitiatives/pubtrain

Royal National Institute for Blind
 今回の訪英におけるインタビューに対応してくれたのは、media development officerという肩書の人であり、主に電子書籍に関しその技術とアクセシビリティの進捗状況や、供給サイドへの啓発・交渉を担っているとのことだった。
 RNIBが公表している資料には以下のようなものがある。とりわけ、Can Everyone Read Your Books?という問いかけの仕方は、出版関係者の視野の外にいると思われる読書障害者の存在を浮き上がらせるのに有効な問いであると思われる。また、2012年度に刊行された電子書籍売り上げ上位1000冊のうち、アクセシブルな形式のものがすぐに入手可能であったものが8割を超えていたことを示すという調査手法も参考にすべきである。
・ Can Everyone Read Your Books? http://goo.gl/dLcVgd
・ Accessibility of top 1,000 titles of 2012  http://goo.gl/Xu2t1W

Right to Read Alliance
 上に示した機関によるとりくみや公表物は、全てが単一の機関によってなされたとりくみというわけではなく、Right to Read Allianceというグループの活動の一環として行われている。Right to Read Allianceとは、23の視覚障害者だけではなく、弱視や視野欠損、ディスレクシアの人々によるチャリティーによって形成されている。
 RNIBの担当者の解説によると、それまではそれぞれの団体がそれぞれにキャンペーンをはる運動が中心だったのが、それぞれの団体の主張を調整した上で一つの声を持つようになり、権利者サイドにとって対応しやすくなったことが、アドバンスの一つであるとのことだった。また、Right to Read Alliance結成により各団体に所属する多様な分野の専門家と情報交換する機会が増えたこともメリットであり、それぞれの専門とネットワークを生かし、多くの業界や著作権者団体と共同してパートナシップを組む形に運動が変化とのことだった。

Accessibility Action Group
 また、チャリティー機関同士だけではなく、出版関係者も参加するグループが存在する。Accessibility Action Groupとよばれるもので、PA本部が組織し、結成から4年たったとのことである。Accessibility Action Groupには、PAの他、RNIB、JISC TechDis、Dyslexia Action、EDItUER、Publishers Licensing Societyが参加している。
 RNIBの担当者によると、4年前、Kindleが登場したばかりの頃、出版社が電子書籍をアクセシブルにするためにどんなことをすればよいのかに興味を持ち始め、TTSやその他の技術についての勉強会を開くことから始まったという。サプライチェーン全体に共通してある問題について話し合う機会を重ねるうちに、相互に支持したいという雰囲気が醸成されてきたとのことだった。
 このグループは昨年のロンドンブックフェアにてDigital Publishing Forum on Accessible Publishingというイベントを共同開催し、Joint Statement(http://goo.gl/Al1HIy)を公表している。Joint StatementはRNIB、JISC TechDis、Dyslexia Action、EDItUER、Publishers Licensing Societyが共同して、アクセシビリティ向上に取り組むことを宣言した。

Print Disability License
 PA内部におけるアクセシビリティに関する議論のきっかけが、教育機関や図書館の支援担当者からの依頼が増えたことであった点を先に述べた。このことは、私的複製の範囲を超えるmultiple copiesに関する許諾の仕組みを考える必要を示すものだった。この教育機関や図書館に所属する読書障害者のためのmultiple copies licenseとして、Accessibility Action Group とRight to Read Alliance との協議の下、Copyright Licensing Agencyが2010 年にPrint Disability Licenseを設置した。これは、2002年改正著作権法が権利制限の対象として認定する視覚障害者の範囲を超え、読書に困難を持つ全ての障害者に対し、無料でアクセシブルな形式への複製を認めるライセンスである。
 このようなとりくみは、アクセシビリティの高い書籍が出回ったとしても、書籍の売り上げ自体に影響がないことが消費者調査や統計において示されていることから承認をうけ続けているという。
・ 例:Publishing Industry Continues to Grow with Sales of Consumer ebooks rising by 134% Print (01 MAY 2013 Publishers Association)http://goo.gl/2JyfCG

4.3 国際機関における書籍アクセシビリティをめぐる議論

4.3.1 Memorandum of Understanding: MoU

 また、イギリス、ドイツといった国単位でのとりくみと並行して、EU圏としての書籍アクセシビリティを向上するためのとりくみもあることが分かった。
 例えば、Memorandum of Understandingは、Federation of European Publishers、European Blind UnionなどによるEU圏全体での合意文書であり、Trusted Intermediaries(Authorized Entitiesと同義であると思われる)を介しての相互利用を前提に議論が進んでいる模様である。
・Welcoming a new chapter of greater access to books for people with print disabilities http://goo.gl/W1e0el
 一方、当初注目していた欧州アクセシビリティ法は、議論があまり浸透していないようだった。

4.3.2 マラケシュ条約

 (紙幅の関係から、マラケシュ条約に関しては別の機会に回すべきと考えられるが、障害学会での発表申込みの際に言及しているため、一言)。イギリス、ドイツ、EUといった境界すべてをとり払って書籍へのアクセシビリティを向上していこうとする取り組みがマラケシュ条約だといえる。国際的なとりくみにおいて障壁となるのは、各国における著作権の範囲や著作権権利制限のあり方が異なる点である。マラケシュ条約とは、このような障壁を取り除き、読書障害者のために制作されたアクセシブルな型式の複製物の国境を越えた相互利用を可能にすることを目的として制定された条約である(カレントアウェアネス, 2013)。
 2013年6月にマラケシュにて世界知的所有権機関(WIPO)が外交会議を開催し、「盲人、視覚障害者及び読字障害者の出版物へのアクセス促進のためのマラケシュ条約」が日本を含む186の全加盟国の合意を得て成立した。この際、World Blind Unionは「著作権者の利益よりも公共の利益を尊重した初めての知的財産法である」と評価した(WBU, 2013)。今後、20か国が批准すると効力を持つ条約であり、文化庁が公開している議事録によると、日本が締結するには法改正が必要である可能性が高いと考えているようである(文化庁, 2012)。

5 まとめ

 以上、イギリス、ドイツ、国際機関における1)書籍へのアクセスを確保するための現行のしくみや法律、および2)それをさらに拡大していこうとする取り組みについて報告した。今回の調査からは、いずれの国においても多少の差はあれども点字図書館の類が存在し、点字本や音声本を提供していることが分かった。また、既存の仕組みを超えて、書籍のアクセシビリティを向上していこうとする非常に積極的なとりくみも存在している。
 なお、今回の調査においては、どちらかというと2)書籍のアクセシビリティを既存の枠を超えて拡大していこうとする取り組みに注目してインタビューが進められた。このような聞き取りからは、差別禁止法が大きな要因となっていることが明らかになった。また、製版プロセスの電子化や電子書籍の登場も書籍のアクセシビリティを向上するための議論のきっかけであると認識されており、情報通信技術の存在感の大きさを感じる結果となった。
 ただし、差別禁止法や情報通信技術の存在が大きいのは確かであるが、同時に、多様な組織による積極的な議論も存在する。このような議論の結果、著作権法が定める範囲よりも広い権利制限を著作権者が認めている事例もみられた。このような出版社・福祉団体・教育機関による議論に関し、対応してくれた担当者らは次のように語っていた。

・ ただ「アクセシブルにしろ」というのは簡単だが、(そうではなく)時間をかけて話し合ってきたことが今につながっていると思う(RNIB担当者)
・ アクセシブルなコピーを提供することはマーケティングとして意味がある。(中略)商業的な成功も大事だが、出版社はハイブリッドな価値観を持っている。より質の高い仕事をしたいと思っている。そういうものがバッファになっている可能性はあると思う。(PA担当者)

 つまり、冒頭に研究の背景として指摘した、日本における@著作権問題を読書障害者の読書の問題と関連づける議論の不在、A技術の組み合わせの不一致、B出版社・福祉団体・図書館・教育機関が相互に議論する仕組みの不在という問題点のうち、Bを重点的に補っていくことが@やAに指摘した問題を補ううえでも必要であり、今回の調査で得られた情報は、B多様な組織が相互に議論することの重要性を十分に例証するものであったと考えられる。

引用

青木 千帆子 2012 「ドイツにおける電子書籍のアクセシビリティをめぐる現状と課題」障害学会第9回大会 http://www2.kobe-u.ac.jp/~zda/jsds/details/aoki-detail.txt
文化庁 2012 「文化審議会著作権分科会国際小委員会(第3回)議事録」http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/kokusai/h24_03/gijishidai_121204.html
カレントアウェアネス-E(デイジーコンソーシアム理事・河村宏) 2013「E1455 - 障害者のアクセス権と著作権の調和をはかるマラケシュ条約」http://current.ndl.go.jp/e1455
三井情報開発株式会社総合研究所 2006 「知的財産立国に向けた著作権制度の改善に関する調査研究――情報通信技術の進展に対応した海外の著作権制度について」 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/0603_mitsui_copyright_research/index.html(最終アクセス日 2013年9月3日)
山口翔・青木千帆子・植村要 2012 「視覚障害者向け音声読み上げ機能の評価――電子書籍の普及を見据えて」『情報通信学会誌』30(2):85-98.
World Blind Union 2013 "WBU Statement on Marrakesh Treaty" http://www.worldblindunion.org/English/news/Pages/WBU-Statement-on-Marrakesh-Treaty.aspx


*作成:青木 千帆子
UP: 20130912 REV:
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