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V.トレンド「TTSの活用によって市場掘り起こす――電子書籍のアクセシビリティ向上に向けた取り組み/下」

2013/04 『M&D Report』2013年4月号, MM総研.

last update:20130326

p21
 前号(201号)に続き「電子書籍のアクセシビリティ」をシリーズで扱う本稿では、TTS(Text to Speech)とオーディオブックに焦点を当てる。一般社団法人「電子出版制作・流通協議会」(AEBS)の岡山将也TTS研究部会・部会長、AEBS事務局の池田敬二氏、EPUB形式の電子書籍オーサリングソフト「FUSEe®」を開発・販売するフューズネットワークの池田実社長への取材をもとにレポートする。

  ■「朗読少女」は100万DLを突破
 オーディオブックを広める有力な手段としてエンターテインメントとのコラボレーションがある。フューズネットワークの池田社長は一例を紹介する。音声合成ソリューションを提供するエーアイ(東京都文京区)の試みで、ネスカフェのキャンペーンサイトにユーザーが文書を入力すると、その文章を俳優の大沢たかお氏の声で読み上げてくれるサービスだ。ただ、どんな文章でも読み上げるわけではなく、「アダルト風な文章が入力された場合には読み上げないなど、条件を付けている。それがオーディオブック開発の制約条件にもなっており、越えなければならない壁だ」(フューズネットワークの池田社長)と指摘する。岡山部会長はオーディオブックに期待する一人。有名人の声で小説などが楽しめるなら、メリットが大きいからだ。
 「例えば、有名タレントが小説を朗読しているオーディオブックができたら、プロモーションに利用できる。握手会などの特典を募集すれば若い人やファンなどがたくさん応募してくれるはず。今まで本を読まなかったユーザーも取り込むことができる」。このためにはオーディオブックを制作する側の出版社などが事前に芸能プロダクションなどに対して「このコンテンツで公開してもよいか」と許可を取る必要がある。「手続き的には面倒だが、市場拡大の意味では価値がある」と岡山氏。
 AEBSの池田氏も「いわゆるオタクと呼ばれる潜在ユーザーがオーディオブック市場を切り開く可能性がある」と期待する。
 成功事例も登場している。オトバンク(東京都文京区)の女子高生キャラクターが朗読するアプリ「朗読少女」は12年12月に100万ダウンロード(DL)を突破するなど驚異的な伸びを示しており、エンターテインメントとのコラボレーションによる代表的な事例となっている。

  ■通勤ラッシュでも耳で“読書”が楽しめる
 通勤ラッシュ時でも本や新聞などが耳で楽しめれば便利と思うユーザーも多いに違いない。AEBSの池田氏は「読み上げ機能が電子書籍端末に付けば可能だ。日経新聞の『聴く日経』などのように速報性のあるコンテンツはオーディオブックに適しているのではないか」と指摘する。岡山部会長も「興味のある見出しをインデックス化することで、クリックすると該当記事に飛んだ上、読み上げ機能を実装することは簡単だ。ただし、ビューワの仕掛けが必要となる」と語る。
 ビューワの仕掛けについて、フューズネットワークの池田社長は「今後のビューワの実装で、TTSやSMIL(スマイル)を積極的にサポートし、音声に関連したナビゲーションに配慮した製品が発表されることを期待している」。

  ■「紙の発想」から転換必要
 オーディオブックは現在、俳優、声優など特定の人物の声で読み上げているが、岡山部会長は「次は自分の好きな声で自由に再生する世界が来るのではないか」と見ている。声の制作には多額の費用が必要であり、技術革新によってどう価格を下げるかが課題ではある。人間の声のパターン化も確率論などを応用した研究が進んでおり、今後が期待できる。「歴史上の人物などの声をパターン化で復元できれば、エンターテインメントへの応用も可能だ」と語る。
 AEBSの池田氏はオーディオブック普及のためには視点を変えるべきとも指摘する。「小説を軸足に置くと『あれもこれもできない』となってしまいがち。出版市場に占める文学ジャンルは金額と発行点数でも多くて 3割程度だ。TTSビジネスの将来を考えるなら、ビジネス書など特定のジャンルから普及させて市場を作ってしまう手もある」。
 そのアプローチとして AEBSの池田氏が掲げるのが、数時間で読めるオリジナル電子書籍「イーシングル」。オーディオブックの場合、1冊の本を丸ごと音声化しないといけないといった考えに囚われがちだが、米国ではイーシングルが台頭してきており、短時間ですばやく知識を吸収できるイーシングルは普及の手助けになる可能性を秘める。
 AEBSの池田氏はそのほかの例を紹介する。朝日新聞は新聞連載をテーマごとに読めるサービス『朝日新聞デジタルSELECT』を楽天やソニーの電子書籍ストアで展開し、週刊ダイヤモンドも特集 BOOKSとして Kindleなどでイーシングルに参入した。米国の電子書籍ベンチャーSlicebooks社は電子書籍ファイルをセクション単位に自動分割したり、それらを組み合わせてまったく別の 1冊の作品ファイルに統合したりできるサービスを開始している。
 「出版社は紙の書籍をそのまま電子書籍化しようと考えるが、電子書籍の世界は全く別のメディア」と指摘する岡山部会長。TTSという“目”の登場で、これからは電子書籍の世界も一気に多様化が進むと期待する。(ネットワーク・ソリューション研究グループ/山口泰裕)

※「TTSの活用によって市場掘り起こす――電子書籍のアクセシビリティ向上に向けた取り組み/上」はこちらからご覧いただけます。

*作成:青木 千帆子
UP: 20130326 REV:
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