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「『母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針(案)』に対する意見」

生殖医療と差別・Kamishibaiプロジェクト 20130121
[Korean]

last update: 20130531


 私たちは、先に、貴会あてに「新型出生前診断の臨床実施開始に対する意見書(2012年10月25日付)」を提出し、新型出生前診断が広範に実施されるようになれば、今以上に障害や病をもつ人々は生まれるべきではないという風潮が強まり、障害や病とともに暮らしていくこと、女性(カップル)たちが子どもを安心して産み育てることがより困難になるのは明らかであるとして、本検査の国内での臨床実施開始に反対である旨を申し述べました。反対の理由として、(1)新型出生前診断が主な対象としているダウン症をもつ人たちは、現在も、周囲の人々とともにその人らしく充実した日々を過ごしている。今、必要なのは、障害をもつ子を産まないための検査技術ではなく、障害をもつ子の安全な出産や育ちを保障する医療・福祉体制であり、当たり前に地域で暮らしていくための社会的支援体制の充実であること、(2)現在、障害児やその家族へのサポート体制の不備、障害や遺伝病への差別・偏見が、障害をもつ子の出生を回避すべきという強い圧力となって、女性やカップルの選択を方向づけている。今、子どもを産もうとする女性(カップル)が必要としているのは、高齢妊娠であろうとなかろうと、また、生まれてくる子どもに障害があろうとなかろうと、安心して産み育てることのできる支援の充実であること、(3)遺伝カウンセリング体制の整備・充実のみをもって、新型出生前診断の実施は正当化できるとの論調への懸念、(4)本検査に関する幅広い議論を、時間をかけて行う必要があること等を述べました。
今回の「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針(案)」についても、同様の理由から、本検査の実施自体に強く反対するものです。その上で、今回の指針案について、私達の意見を述べます。

1. 指針案の対象を、特定の染色体異数性の検査に限定していることについて
――「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」があらゆる遺伝子の変化を対象としたスクリーニング検査になりうること、本指針がその端緒を開くことを踏まえて、さらなる慎重な審議を求めます
 今回の指針案では、「本指針で対象としている『母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査』とは、13番、18番、21番の3つの染色体の数的異常を検出する非確定的検査」であるとしています。しかしながら、「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」の範囲は、これら特定の染色体異数性にとどまらず、性別判定、性染色体「異常」、複数の遺伝性疾患の診断等に適用されており、今後、その範囲はさらに拡大するものと予想されます。本検査の実施は、妊娠早期に、妊婦の血液検査という簡便かつ普及しやすい形で、網羅的な遺伝子解析・検査手法を出生前診断として用いることであり、社会に及ぼす影響は甚大です。お腹の中の子どもの遺伝的特質を知った後に、初めて妊娠を受け入れるという事態を招くかもしれないなど、人々の生命観にも大きな影響をもたらすものです。今回の指針は、そのような検査の実施にゴーサインを出すことです。
しかしながら、「第3回母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会」議事録によれば、これら3つのトリソミーに限定したことに関して、「最初は対象を限定しておいて、様子を見ながら徐々に対象を広げていった方がよい」「(タイトルは広い形にして)今後、変更が必要になった時には、同じタイトルのまま内容を変えていく」との発言に見られるように、本検査の実施が及ぼす社会的影響やその意味について深く掘り下げ、慎重に審議されたとは到底思えません。
本検査があらゆる遺伝子の変化を対象としたスクリーニング検査になりうること、本指針がその端緒を開くことを踏まえて、検討委員会で再度、審議して下さい。そして、洗い出した問題点を広く提示し、このような検査を自分たちの社会に導入するかどうかについて、多くの女性、障害者やその親、市民を交えた熟議が行われるよう図って下さい。

2. 「III 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の問題点」について
――正確で分かりやすい情報が提供されないことが問題です
 今回の指針案では、「III 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の問題点」として、「妊婦が十分な認識を持たずに検査が行われる可能性があること」、「妊婦が得られた結果を確定的なものと誤解し、その誤解に基づいた判断をくだす可能性がある」等が列挙され、問題の全ての原因は妊婦にあるかのように書かれています。しかしながら、妊婦が十分な認識が持てず誤解させられるとすれば、正確で分かりやすい情報が提供されないからです。
それは、本検査をめぐるマスコミ報道や、それへの貴学会および医療サイドの不適切な対応がもたらした結果をみても明らかです。昨年8月末以降、「妊婦の血液検査だけで、99%以上の精度でダウン症かどうかがわかる」「検査による流産の危険性もなく、女性の心身への負担も少ない」と繰り返し報道され、ダウン症が出生前診断の対象とされることを自明視したうえで、本検査が安全で確定的な出生前診断であるといった誤った認識が急速に浸透してしまいました。その間、貴会はじめ医療サイドからの積極的な訂正は行われず、貴会が、陽性的中率は高齢妊婦の場合でも8割、若年の一般妊婦ではもっと下がるとして、確定診断のためには羊水診断が必要と発表したのは10月初旬になってからでした。遅きに失したと言わざるを得ません。
 本検査の問題点を、「情報が与えられず、妊婦が十分な認識を持つことができずに検査が行われる可能性がある」「検査結果について妊婦に誤解や不安を与える可能性がある」と捉え直すこと、なかんずく、広範に浸透してしまった本検査についての誤った認識を払拭するための最大限の努力を早急に行うことを求めます。

3. 遺伝カウンセリングについて
――障害をもつ子が実際に育っていく道筋や、障害をもつ人々と共に生きる醍醐味を伝えてください
 指針案では、十分な遺伝カウンセリングの提供が必要だとして、検査の前後に行われるべき遺伝カウンセリングの内容について詳細に定めています。しかし、どんなに言葉を尽くして検査の問題点や説明項目を並べても、明らかにダウン症等のトリソミーをターゲットにした検査でありダウン症は生まれるべきでないと否定されていると思うのは、従来の出生前診断でも、あるいは本検査が既に行われている欧米においても、実際に出生前診断でダウン症と診断された胎児の多くが中絶されている事実があるからです。
 検査前後の遺伝カウンセリングにおいて、なにより必要とされているにもかかわらず、現在最も不足しているのは、障害をもって生まれた子がどのように育ち、生きているのか、その家族がどのような暮らしをしているのかについての情報です。障害をもつ子が実際に育っていく道筋を伝え、障害をもつ人達と共に生きる知恵やその醍醐味を伝えることです。本検査を実施する施設の条件として、認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職が必ず在籍していることと改めるともに、臨床遺伝専門医も含めて、彼らが、障害とともに生きることへの共感をもてるような教育・研修を行ってください。さらに、カウンセリングの中で、必ず、障害者本人や親の会、支援団体の存在やその情報を伝えること、および、障害者本人や親、周囲の人々がカウンセリングに参加できる仕組み作りを求めます。
 また、これら遺伝カウンセリングは、障害児を産み育てることを支援する医療・福祉・教育等の社会的資源が充実し、しっかりとした受け皿があってこそ意味をなすことに留意し、医療の中での遺伝カウンセリングシステムの整備のみをもって、本検査の実施を正当化することのないよう求めます。

4. 「IV 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対する医師、検査会社の基本姿勢」について
――検査会社による不特定多数の妊婦への広報・宣伝の禁止を盛り込んで下さい
 今回の指針では、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対する医師、検査会社の基本的姿勢として、この検査を「医師が妊婦に積極的に知らせる必要はない…安易に勧めるべきではない」、「検査会社がこの検査を勧める文書などを作成し不特定多数の妊婦に配布することは望ましくない」としています。
「医師が妊婦に積極的に知らせる必要はない…安易に勧めるべきでない」との記述は、1.で述べたように、昨年来のマスコミ報道によって本検査の存在が広く知れわたった現在、1999年の厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会の「母体血清マーカーに関する見解」が果たしたほどの効果が望めるとも思えません。しかしながら、医師が妊婦に対する説明義務があると考え、事後のトラブルを防ぐために本検査について知らせねばならないと考えるのを防ぐという意味ではとても大切です。
また、検査会社については、本検査の商業的利用およびマス・スクリーニング化を防止するためにも、「検査会社等がこの検査を勧める文書などを作成し不特定多数の妊婦に配布してはならない」と、より強い姿勢で臨むことを求めます。



*作成:青木 千帆子 更新:小川 浩史
UP: 20130520 REV: 20130531
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