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「JDF被災地障がい者支援センターふくしまにおける提言――交流サロン「しんせい」の取り組みを中心に」
権藤 眞由美
2012/11/23 障害学国際セミナー2012,ポスター報告,於 韓国ソウル特別市イルムセンター
川端 美季
・
吉田 幸恵
・
李 旭
編 20130322
『障害学国際セミナー2012――日本と韓国における障害と病をめぐる議論』
,生存学研究センター報告20,pp.263-72.
last update: 20131015
「JDF被災地障がい者支援センターふくしまにおける提言――交流サロン「しんせい」の取り組みを中心に
権藤 眞由美
(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
1 はじめに
2011年3月11日の震災後の原発事故によって、福島の地に住む人々は「未来」をかたちつくること、思い描くことが困難な状況になっている。放射性物質が飛ぶ中での生活は、決して安全とは言い難い。原発の問題がある以上、移住をした方がいいことは明らかではあるが、目に見えない放射性物質におびえつつも個々が生きてきたコミュニティ、仕事、子育て、生活資金を思うと生活基盤をかえることができない。それは、障がいを持つ・持たないにかかわらず、福島県民は同じ状況に置かれている。
「JDF被災地障がい者支援センターふくしま」(以下、支援センター)は、障がい者で移住を希望する人を対象に福島から神奈川県相模原市に移住計画を徐々に進行させている。今回の「震災」で、災害時要援護者
1)
である障がい者の避難が容易でないことは彼らが身をもって感じたことだった。したがって、いつでも「避難」「移住」できる体制を視野に入れ、福島県の障がい者県外避難支援では、神奈川県相模原市に避難拠「シャローム」を設置し障がいに合った「避難プログラム」を作成し、「避難訓練体験ツアー」を実施している。
だが、「移住しない、できない」選択をした人々もいる。その人たちのために交流サロン「しんせい」(以下、交流サロン)は、高齢者も障がい者も誰もが住みやすい街 である「新生」福島を福島の地でつくりあげていこうとしている。
東日本大震災から1年半が経過したが、被災地では「復興」「復活」を目指しつつも障がい者の生活は今もなお多くの問題を抱えている。本報告の目的は、支援センターが行っている数々の支援から浮かび上がった問題に対する提言と、それに伴う今後の障がい者支援等、交流サロンにおける連携事業と現在の活動を中心にとりあげることで、障がい者の生活問題が浮き彫りになると思われる。また、交流サロンが果たしている活動の成果も明らかにする。
方法は、支援センターに関する文献および支援センター日誌2011年4月8日?2012年2月10日、2012年3月2日?10月6日、交流サロン日誌 2011年11月1日?2012年10月13日、2012年10月14日?16日に交流サロンスタッフへのインタビュー調査をおこなった。
2 東日本大震災による障がい者の被災
2011年の厚生労働省の人口動態統計
2)
によれば、東日本大震災による死者は1万8877人と報告された。2012年9月7日の毎日新聞に記載されている死者の60歳以上は1万2006人で、全体の約6割を占めており男性8693人、女性1万184人であった。県別でみると岩手5642人、宮城1万483人、福島1757人であった。2012年9月5日の警視庁のまとめでは、2846人が行方不明者数となっている。
共同通信が障害者支援団体「日本障害フォーラム宮城」の資料から集計したものによると、宮城県沿岸の13の自治体で障害者手帳所持者の3.5%にあたる1027人が亡くなったことが明らかになった。実に、障害者手帳保持者の死亡率が宮城県沿岸の住民全体の2.5倍に上ったことがわかった。
その死亡原因は、津波による溺死とみられ、死亡率が15%以上の自治体もあり、沿岸部に住む多くの障がい者が逃げ遅れた可能性があるという。福島県でも沿岸部の10の自治体において100人以上の障がい者が死亡した(『共同通信』2012.7.30.)。
3 被災地障がい者支援センターふくしまの取り組み
支援センターでは、活動を通して明らかになった以下の問題解決へ向けて提言をしている。一つ目は震災が起きた際に個人情報保護法が障がい者の安否確認と敏速な避難の誘導の妨げとなったことを受け、被災地における障がい者の名簿開示
3)
を求めている。二つ目に、避難所のあり方だが、避難所は障がい者にとってトイレ、プライバシーの確保などバリアーが多く避難所で生活することを諦め自宅へ戻り、車中で生活した人もいた。避難所に指定された全ての建築物は
バリアフリー
構造に改修し、誰もが安心して避難できる場所にすることを求めている。三つ目に仮設住宅、復興住宅、一般住宅のあり方をあげている。仮設住宅は、
ユニバーサルデザイン
になっておらず、限られた数のスロープがついた仮設住宅に障がいを持っていない人が住むことになる事態が起きた。また、車椅子を使用する人にとっても出入り口や部屋に段差があり、住みがたい建物となっていた。今後、一般住宅や仮設住宅においても
ユニバーサルデザイン
化を図ることも強く主張している。四つ目に、震災において重度障がい者のサービス支給時間が増える人が多くなることは、避けられなかった。個々の変化によって臨機応変に必要とされているサービス支給時間の増加を認めるべきであり、さらに障がい者福祉サービスの充実を求めている。五つ目に、我が国の障がい者の人権の確立、六つ目に原発に頼らない平和な日本・世界を創ることを提言としている。
以上の提言は、震災直後から支援センターが行った障害者の安否確認と被災状況の調査、障害者の避難先での物資搬入とニーズ調査、避難所における支援センターの周知とニーズ調査を実施し明らかになった問題を検討し提言に至っている。
3.1 支援センターの事業一覧
以下の一覧表(白石 2012)は、支援センターが震災後に直面した問題に対して取り組み、その後事業として行っているものである。一部の事業は、福島県からの委託、補助事業であり県と協力しながら問題に関する早期対応と解決を図っている。
【事業名】 福島県福祉・介護職員マッチング事業(福島県補助事業)
目 的:福島県内の福祉・介護職員の確保
内 容:福島県外の障がい者福祉サービス事業所と職員派遣に関わる調整
県内の人材確保、福祉・介護職員の雇用支援
【事業名】福島県障がい者相談支援充実・強化事業(家庭訪問等事業)
委託先「NPO法人あいえるの会」(福島県委託事業)
目 的:「障がい福祉サービスの情報提供」「障がい者自立支援法の改正状 況に関する情報の周知
内 容:障がい者福祉サービスに繋がらない障がい者への家庭訪問
相談支援の充実・強化
【事業名】サテライト自立生活センター
目 的:福島県の障がい者県外避難支援
自立生活センター活動拠点
内 容:神奈川県相模原市 避難拠「シャローム」設置
障がいに合った「避難プログラム」作成、「避難訓練体験ツアー」
実施
【事業名】東電賠償学習会
目 的:障がい者が抱えている原発事故の問題、悩みなど具体的事例につ
いて弁護士からの説明
内 容:東電に対する損害賠償請求について弁護士が説明・解説を行う
【事業名】福島県障がい者自立支援拠点整備事業(福島県委託事業)
目 的:「被災を受けた障がい者の自立につながる支援」及び「被災した
就労系の事業所等の支援
内 容:被災した障がい者への自立・就労に繋がるサービスの提供
被災した就労系事業所の経営相談・広報活動・事業所の立上げ支援
支援センターでは、震災後から障がい者の安否確認や避難後の所在確認も行ってきた。自立生活を送っていたであろう障がい者が施設へ入所したままとなり、「地域」で生活することから遠ざかってしまった人も多い。そこで、交流サロンではサロンを拠点に障がい者の自立生活に向けての支援活動を行っている。
次の章では、上記の事業の一つである福島県障がい者自立支援拠点整備事業で行っている交流サロンについて活動内容の詳細を述べる。
4 交流サロン「しんせい」と連携プロジェクト
交流サロンは、上記の福島県委託事業である福島県障がい者自立支援拠点整備事業として2012年1月より活動を開始した。事業の目的は、「被災を受けた障がい者の自立につながる支援」及び「被災した就労系の事業所等の支援」である。事業内容は、被災した障がい者への自立・就労に繋がるサービスの提供と被災した就労系事業所の経営相談、広報活動、事業所の立上げ支援である。その他に、交流サロンでは交流イベントや授産製品展示販売も行っている。交流サロンが、協力団体と福祉事務所、事業所の連携で行っている6つのプロジェクトは、以下の通りである。
UF-787プロジェクトは、ヤマト福祉財団の協力で土の浄化、除染、仕事おこし、ひまわりから抽出した油を使用し製品化にむけて思案中である。また、象徴としてのカンバッチを製造している。「うつくしいふくしま、暮らしと仕事を取り戻すプロジェクト」を目的としている。
ハッピーウォータープロジェクトは、障がい者の仕事として、商品のシール貼り、南相馬の子どもたちへ水の配布を株式会社バンブー東北応援隊の協力をもとに行っている。
ごちそうぱくぱくネットワークは、難民を助ける会の 協力で、放射能測定器、金属探知機、細菌調査機を用いて、食べ物の安心ネットワークを広げている。
他にSNB(須賀川市B型ネットワーク)では、クラフト関係商品の開発・販売・立ち上げを行い、日本セルプセンター、法人サンフェイスの両団体の協力を得ている。
つながり∞ふくしまは、働く場をつくる、賃金をアップする、あの空・海・大地を取り戻すことを目指しその活動趣旨として、一つ目に障がいを持つ仲間の働く場を共に作る、二つ目に障がいを持つ仲間の自立を共に考える、三つ目に「うつくしいふくしま」を共に創っていくことをあげ上記の各プロジェクトと連携関係にある。
つながり∞ふくしま×アートは、協力団体であるエイブルアート・カンパニーと共にカンバッチデザインコラボ、Tシャツコラボを中心に制作している。障がい者がデザインした絵を採用し定期的に新商品を開発、販売拡大を展開させている。放射能測定チームは、郡山市内線量計測を随時行っており山北調査設計事務所の協力で活動を継続している。
4.1 交流サロンの活動
様々な交流イベントがあるが、サロン来客者と交流の他に、どぶろく仕込み、ヨガ教室、フェイスブック勉強会、シネマカフェ、フルート演奏会、橋本広芳
4)
さん講演会、移動カフェ、オペラコンサートなどを開催している。また、サロンで働くスタッフは、授産製品展示販売、仮設住宅のポスティング、福島県の仕事おこし、相談支援、郡山駅周辺で缶バッチ販売を行ない幅広い活動をみせている。
交流サロンでは、職員がサロン利用者の様子や会話、自らが感じた思いなどを記録として手書きで日誌をつけている。2012年2月21日の日誌によると音楽鑑賞(フルート演奏会)では「本日は車イスの方5人、杖の方1人、子ども1人、その他15人、計22名が参加。演奏後、コーヒーや紅茶を飲みながら、歓談した。オープンサロン寅さんの利用者の方も楽しかった、にこにこしていた。」というように他のサロンとの交流の場ともなっている。また、2012年4月27日の日誌によると、移動カフェでは「若宮前仮設訪問、移動カフェ おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に輪投げをしながら、温かいひとときを過ごすことができました。ダウン症の男性の話がありましたが、今は仕事にもつけ、借り上げに引っ越しされ落ち着いているそうです。」この移動カフェの活動は、震災時から障がい者に関する少ない情報を得ることもできている。他にも、2012年7月13日の日誌によると、田村市の仮設住宅へ出向いたはじめてのお茶会では、移動カフェスタッフは「私たちの到着前からお待ちでとても楽しみにして下さったそうです。」と記している。仮設住宅からの移動が不便なことから、物品販売や人が集う移動カフェで会話ができることは、仮設住宅に住む人々にとって気分転換となっている。交流サロンのスタッフが、交流サロンの場だけでなく、外へ出て交流をはかることで、様々な情報を得ることができさらに支援へとつながり交流サロンの活動を知ってもらう機会にもなっている。また、交流サロンでは、定期的に遠方から仕入れた野菜や果物を販売する場としてフロアーを提供している。そこへ足を運ぶ多くの人は、子どもを持つ母親や父親である。障がい者に関する問題だけでなく、原発事故後の福島では障がい者であろうとなかろうと、福島に住む人々が背負わされている問題はまだ収束も解決もしていない。彼らの問題を社会問題として捉え共有の場で語りあうことにおいても交流サロンがある意味は大きい。
5 おわりに
交流イベントの有無にかかわらず、サロンには日々利用者がいる。白石清春氏
5)
へのインタビューによれば、サロンに来ることができない人には、シェルパ(移動カフェ)の活動において仮設に住む障がい者の方に関する情報収集と支援は継続して行われていくようである。
今後も、県外の施設で避難生活をしている障がい者の方を招き、交流会を計画しており、施設から自立生活を営むためのきっかけづくりも行われている。福島県内の事業所に所属する相談員や社会福祉協議会、社会福祉事業協会とも連携して交流企画を立てることで、福島に住む地元の人たちの力で「地域」において共に生きる障がい者の姿が、少しずつ取り戻されつつある。サロンの場と移動カフェ、プロジェクトとの連携により人と人をつなぎ、サロンの成果は現にあらわれている。今後も「地域」で生活する中でサロンでの交流が、障がいを持つ人、持たない人がつながる拠点となることは、何よりも望ましいかたちであると考える。
[注]
1)「災害時要援護者」とは、必要な情報を敏速かつ的確に把握し、災害から自らを守るために安全な場所に避難するなどの災害時の一連の行動をとるのに支援を要する人々をいい、一般的に高齢者、障害者、外国人、乳幼児、妊婦等があげられている。
2)厚生労働省,2011,「統計表人口動態統計からみた東日本大震災による死亡の状況について」『平成23年(2011)人口動態統計(確定数)の概況』(2013年1月6日取得,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei11/ ).
3)内閣府「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」・「災害時要援護者対策の進め方について(報告書)」では市町村が保有する個人情報の取扱は、(中略)基本的には、個人情報保護法制に抵触することなく、要援護者情報を目的外利用・第三者提供として、行政外の関係機関などへ提供することができる(内閣府 2006)としている。総務省消防庁「災害時要援護者避難支援プラン作成に向けて」においては目的外利用・提供ができる場合がある」としつつも、「第三者への要援護者情報の提供については、情報提供の際、条例や契約、誓約文の提出等を活用して、要援護者情報を受ける側の守秘義務を確保することが重要である(総務省消防庁 2006)としており「機関で考えに差があることで災害時の要援護者個人情報の目的外利用が浸透せず、個人情報保護法が要援護者支援の妨げとなった。」(青木・権藤 2011)
4)郡山市で一人暮らしをしておられ、神奈川県にある「シャローム」へ行き避難訓練体験ツアーを利用しプログラム作成にも携わっている。
5)郡山市にある「法人あいえるの会」理事長、2011年東日本大震災によりJDF被災地障がい者支援センターふくしまを立ち上げ代表を務める。
[文献]
青木千帆子・権藤眞由美,2011,「被災した障害者の避難をめぐる困難について」グローバルCOE「生存学」創成拠点 国際プログラム第2回 障害学国際研究セミナー口頭報告.
JDF被災地障がい者支援センターふくしま,2011交流サロン「しんせい」ホームページ,(2012年12月27日取得,http://saronsinsei.jimdo.com/).
南相馬ファクトリー,つながり∞ふくしまホームページ,(2012年12月27日取得,http://www.tsunagarimugen.com/).
南相馬ファクトリー通信,2012,「福島から避難の状況 ふるさとを離れる人」『南相馬ファクトリー通信2号』.
内閣府2006『災害時用援護者避難支援ガイドラインについて』(2013年1月3日取得,http://www.bousai.go.jp/hinan_kentou/060328/hinanguide.pdf).
内閣府,2011『防災白書』財務省印刷局(2013年1月3日取得,http://www.bousai.go.jp/hakusho/h23/index.htm).
白石清春,2012,「被災地障がい者支援センターふくしまの活動から」『福祉労働』135 :37-44.
総務省消防庁2006「災害時要援護者避難支援プラン作成に向けて──災害時要援護者の避難支援アクションプログラム」(2011年10月24日取得,http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/180412-3/180412-3puran.pdf).
*作成:
小川 浩史
UP: 20130425 REV: 20131015
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障害者と政策
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災害と障害者・病者:東日本大震災
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