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「1990年以降における作業療法学の理論・言説化の動向」

田島明子(聖隷クリストファー大学) 20120520 第38回日本保健医療社会学会 於:神戸市立看護大学

last update:20120614


【はじめに】

近年の医療と介護の制度上の変容は顕著であるが、そのような状況下においてコメディカルにおける言説生成状況と制度上の変遷の連関を考察のための基礎資料とするために、本研究ではリハビリテーションの一業種である作業療法学における近年の理論化の動向を調査する。作業療法学で特に1990年以降に理論化の機運が高まったので、その期間における理論化の動向を、論点の肯定/否定・不足のポイント、それら肯定/否定・不足のポイントにおける対立状況を確認することで整理したい。

【対象と分析方】

1991年から2010年までの『作業療法』『作業療法ジャーナル』を対象とした。題目に「理論」「枠組み」、具体的な理論名、「クライエント中心」等の理念を示すKey wordが含まれる文献を選出した。全部で21文献あった。作業療法の包括的な理論枠組みについて、近年の動向に至った経緯、特徴・動向、構造的理解のための分析的視点、他の関連枠組みとの連関について記述がなされている箇所を抜粋し、基礎データとした。

【結果――論点の肯定/否定・不足のポイントと対立状況】

肯定/否定・不足のポイントの詳細は学会報告時に行うが、調査した理論はすべて還元主義的な人間理解に対する否定的見方をしていたことは共通していた。また、それらの対立状況については次の3点に集約された。1点目は「客観/主観の対立」である。効果の客観性・科学性を重視し、それとの関連で理論的記述が必要であると主張する立場と、作業の持つ固有の意味・価値を対象者の生活世界の文脈で解釈する生活世界・臨床の論理・理論の組み立てが必要と主張する立場の相違を表す。2点目は対象者の有能感・達成感などの内発的動機を作業療法の目的・効果として全面的に据えることへの異議である。3点目は「治療/非治療の価値」である。作業療法と作業科学(治療的価値に留まらない作業の意味を探究する基礎科学)を対比させる文献にそのような対立状況があった。

【考察】

作業療法学の理論化の動向は「作業」の持つ「意味性」から「治療/非治療のフィールド」の模索の地点に立ったと捉えられると考えるが、一方「意味性」を探索するための解釈学的な測定法・研究手法については客観性を擁護する立場からすると非科学的と評価される状況にあり、医療言説のメインストリームを争う上では政治的劣勢にある葛藤状況も浮上した。
作業を治療的に用いるという命題を作業療法は持つが、このことは科学的基盤を構築することの困難を経験してきた作業療法の歴史が物語っているように、医療のなかでも特異なものである。作業療法は医療言説的・医療経済的にみても影響力の薄いポジションではあるが、本研究の結果を見てもわかるように、科学−非科学、医療−生活、専門知−当事者知を接続する言説を生成しやすい医療であり、そういう意味において、介護保険制度施行以降の医療と生活の近接化の動向に作業療法学の言説化・理論化の動向は影響を与えやすい/利用されやすいものではないかと考える。






*作成:小川 浩史
UP: 20120613 REV: 20120614
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