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障がい等を有する福島原子力発電所事故被害者に対する損害賠償について特別の配慮を求める会長声明

日本弁護士連合会会長 宇都宮 健児 2012/04/03
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120403.html


当連合会は、日本最大の障害者団体である日本障害フォーラム(JDF)、福島県弁護士会と共催で、障がい等を有する福島原子力発電所事故被害者に対する賠償問題に対する取組を進め、本年1月29日に福島県郡山市内において、「障がい者のためのわかりやすい東電賠償学習会」を開催したところ、多数の被害を受けた障がい者が来場し、熱心に受講し、今後も本取組を継続してほしいとの声を受け、5月にはいわき市内、6月に南相馬市内等で同様の取組を予定しているところである。

これらの取組の過程で、当連合会に対し、被害を受けた障がい者らから賠償に関する情報が障がいゆえに届かないという悲痛な訴えが寄せられ、そのため、当連合会は、本年3月14日付けで内閣総理大臣、経済産業大臣、原子力損害賠償紛争解決センター及び東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)に対し、「原子力損害賠償請求における障がいを有する被害者に関する要望書」を提出し、障がいを有する福島原子力発電所事故被害者に対しては、その障がい特性に応じた情報提供及び権利行使支援を行うことを求めたところである。

また、これらの取組を通して当連合会が確認、把握しているところでは、そもそも、東京電力においても政府においても、障がい者、高齢者及び持病を有する者等(以下「障がい者等」という。)である被害者が受けた被害の実態、すなわち、障がい者等は、受けた被害の内容が一見同じであったとしても、障がい等のない被害者に比べて格段に損害の程度が甚大、深刻かつ複雑である場合が多いことや、障がい者等ならではの特有の損害を受けていることについて、十分な検証・配慮がなされていないことである。

その一例として、当連合会の得た情報によると、浜通り地区在住の人工透析患者は、政府の定めた避難等対象区域外に居住していた者であっても、事故の影響による地元医療施設の閉鎖や器具、薬剤の不足によって、これまで通っていた施設での透析を受けられなくなったため、中通り地区などの医療施設への長距離通院や、他地域への転院を余儀なくされている。また、中通り地区の医療施設でも、避難等対象区域などから多数の透析患者が避難してきたことや、風評被害の影響により器具や薬剤が入手しづらくなったことにより、物的・人的体制に支障を来たし、透析患者1人当たりの透析回数や1回当たりの透析時間を短縮せざるを得ない事態が生じた。さらに、中通り地区の患者が会津地区の医療施設への長距離通院を余儀なくされることによって、会津地区でも同様の支障が生じるなど、いわば間接的・玉突き的な損害を被ることになった事例があるとのことである。

いうまでもなく、患者にとって必要な透析が受けられなくなることは、健康・生命に関わる重大問題であって、これ以上の被害拡大は許されず、被害救済は焦眉の課題であるにもかかわらず、このような被害の実情が広く知られているとはいえない。そしてこのような深刻な事態は、障がい者、高齢者、医療的なケアを不可欠とする他の病気、難病等を抱える患者等である被害者にも、同様に生じている。

原子力損害賠償紛争審査会が定めたいわゆる中間指針(追補も含む)では、政府の定めた避難等対象区域に基づいてその損害の範囲等を定めており、上記の人工透析患者の例のように、区域外の被害者の受けた損害については、具体的には定められていない。また、間接被害・いわゆる風評被害についても、取引先などの避難や忌避による営業損害・就労不能損害以外は、具体的には定められていない。しかしながら、中間指針では、指針は「賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示したものであるから、中間指針で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る」と記載しており、原子力損害賠償紛争解決センターが本年2月14日に公表した総括基準(精神的損害の増額事由等について)には、「要介護状態にあること」「身体または精神の障害があること」「重度または中程度の持病があること」等の事由がある場合には精神的損害の賠償額を増額することができること、いわゆる「日常生活阻害慰謝料」以外に本件事故と相当因果関係のある精神的苦痛が発生した場合には別途賠償の対象とすることができると明記されていること等も踏まえると、上記の例について相当因果関係があると理解することは十分可能であると考えられる。しかも、この被害は、生命・健康に関わるものであって、調査と対応が迅速適切に行われなければ、後の金銭賠償のみでは取り返しのつかない結果を生じさせかねない。

よって、漫然と画一的な賠償基準に留めることは許されず、当該障がい者等の置かれた被害の個別事情に即した適切な賠償を行うべきである。

したがって、当連合会は、政府に対し、日本障害フォーラム(JDF)を始めとする関連団体の協力を得た上で、障がい者等の被害の実態を早急に把握し、必要な施策を講じることを求める。また、東京電力株式会社に対して、本声明の提起する深刻な被害の実態が存在することを重大な問題として受け止め、とりわけ自ら被害の声を上げにくい障がい者等の訴える被害に関し、自らの定めた請求手続、書式等によらない請求に対しても、また、画一的な賠償基準にとらわれることなく、柔軟に対応し、速やかに適切な賠償を行うことを求める。

2012年(平成24年)4月3日
日本弁護士連合会会長 宇都宮健児

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UP: 20120412 REV:
災害と障害者・病者:東日本大震災  ◇全文掲載 
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