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「ワンプラスワン(一加一)報告書: 中国における国連『障害者の権利条約』の実施状況」

一加一(北京)残障人文化发展中心 201203
联合国残疾人的权利委员会 第7次会议,於日内瓦,2012/04/16-20
=真殿 仁美 監訳,張 永祺(チョウ・エイキ [Zhang Yongqi])校閲,張 辰飛(チョウ・シンヒ [Zhang Chenfei])・沈 骜(シン・オウ [Shen Ao])訳,22p.

last update: 20180216

■原文情報

◇一加一(北京)残障人文化发展中心 201203 「一加一报告: 联合国《残疾人权利公约》中国实施情况」,联合国残疾人的权利委员会 第7次会议,於日内瓦,2012/04/16-20 (One Plus One (Beijing) Disabled Person's Cultural Development Center 201203 "One Plus One Report: Implementation in China of the United Nations Convention on the Rights of Persons with Disabilities," The 7th Session of the Committee on the Rights of Persons with Disabilities, Geneva, 2012/04/16-20)

中国語
http://www.ohchr.org/Documents/HRBodies/CRPD/7thsession/ngos/OnePlusOneBeijing-Report-CHI.doc
英語
http://www.ohchr.org/Documents/HRBodies/CRPD/7thsession/ngos/OnePlusOneBeijing-Report-ENG.doc

◇国連障害者の権利委員会 第7回会議
http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/CRPD/Pages/Session7Old.aspx

■関連企画

◇2013/10/31
「中国と障害者に関する研究会 ―中国の市民社会における障害者の権利条約への取り組みに焦点をあてて―」
主催 生存学研究センター、会場 立命館大学衣笠キャンパス 学而館第2研究会室
http://www.ritsumei-arsvi.org/news/read/id/530

■目次(翻訳本文)

前書き
第一条から第四条まで 目的、定義、一般原則、一般的義務
第五条 平等及び無差別
第六条 障害のある女子
第七条 障害のある児童
第八条 意識の向上
第九条 施設及びサービスの利用の容易さ
第十条 生命に対する権利
第十二条 法律の前にひとしく認められる権利
第十三条 司法手続の利用
第十四条 身体の自由及び安全
第十六条 搾取、暴力及び虐待からの自由
第二十一条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会
第二十三条 家庭及び家族の尊重
第二十四条 教育
第二十七条 労働及び雇用
第二十八条 相当な生活水準及び社会的な保障
第二十九条 政治的及び公的活動への参加
脚注


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前書き

 2006年12月13日、第61回国連総会において『障害者権利条約』(以下『条約』と略す)が採択された。それは史上初の障害者の人権保障の法的拘束力のある国際条約であり、国際社会による障害者の人権保護と促進のための新たな努力でもある。2008年6月26日、中国全国人民代表大会常務委員会が『条約』を承認し、同年8月31日、中国で『条約』が発効した。
 中国は最初に『条約』に署名し、共同提案国として積極的に障害者人権に関する国際条約の策定を積極的に提唱し推進した国の一つである。中国は『条約』の誕生に重要な貢献を果たした。また同時に、中国が『条約』に署名したため、中国の障害者人権保障が国際的な人権メカニズムに合流し、国際社会の検査と監督を受けることになる。国際社会の新たな理念と有益な経験の導入により、中国において障害者に関する法の体系が改善され、国内の障害者事業および障害者人権保障事業の発展が加速した。『条約』を履行するため、中国政府はより積極的な行動をとり、障害者の置かれている状況を改善し、障害者の基本的人権の保障を促進するであろう。
 『条約』第35条に基づき、2010年8月31日、中国は締約国として国連障害者の権利委員会に第1回目の『条約』履行報告書を提出した。それを機に、ワンプラスワン(北京)障害者文化発展センター(以下ワンプラスワンと略す)は履行状況に関する報告書を作成した。ワンプラスワンが中国大陸の一部地域で行われたプロジェクトと障害者メンバーの実経験に基づき、第三者の立場で中国障害者と障害者団体の視点から、成果と不足点を分析し、関連機関が障害者人権保障を強化するよう建設的な意見を述べた
 ワンプラスワンは2006年に中国で設立され、主に障害者で構成され、障害者の自助グループ運営による非営利の障害者団体(Disabled People’s Organization、以下DPOと略す)である。ワンプラスワンは障害者専門の独立系メディアとして、中国障害者の自助グループ運営団体の発展と障害者人権保障の改善に尽力している。
 中国で最も発達したDPOの一つとして、ワンプラスワンは使命感と責任を感じている。ワンプラスワンは積み重ねたプロジェクト経験と障害者メンバーの実経験を踏まえ、中国障害者連合会、セーブ・ザ・チルドレン?、ハンディキャップ・インターナショナル、国際労働機関、China Vision、Right to Play China、ハーバード大学、北京大学等のパートナー及び政府機関と協力しながら障害者人権保障分野の模索から得た見解と経験を取りまとめ、『条約』履行状況に関する報告書を作成した。中国本土DPOの声を国際社会に届けるため、本報告書では中国の事情と障害者の状況を考慮し、障害者とDPOとしての意見を述べた。
 中国における『条約』の実施状況と本報告書の起草は2011年9月より始まり、2012年3月に本報告書が完成した。本報告書では、『条約』の一部条項のみを論評し、ワンプラスワンの建設的な意見を述べた。また、国連障害者の権利委員会が策定した締約国の定期報告書の様式および内容に関する要求に従い、併せて本報告の構成に対する要求にも応じ調整を行なった。ただし、ワンプラスワンが中国で実施しているプロジェクトでカバーできる地域や人たちには限りがあり、また、我々の『条約』に対する理解には限界もある。したがって、第1回目の報告書として、本報告書の内容は中国大陸における障害者の人権保障事業のすべてを代表しているものではないことを申し述べておく。今後より良い報告書を提供するため、貴重なご意見を頂ければと思う。


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第一条から第四条まで 目的、定義、一般原則、一般的義務

1.中国社会における障害者に対する意識が徐々に向上している。障害者を表す言葉の変化を観察することで、意識の変遷は明白である。1980年代に障害者を表す言葉は「残廃』であった。国連総会は、1981年を国際障害者年と宣言した。そのため、1981年11月10日に元郵電部がJ72国際障害者年記念切手(一種類)を発行した。これは中国が初めて障害者をテーマにした切手であったが、当時、中国において障害者事業は広がりが見られなかった。1981年には国連が障害者を支援する活動を提唱した。が、中国では不適切にも「国際残廃人年」と翻訳された。1984年に中国残疾人福利基金会が設立した後、明確に障害者と健常者が同様に物質文明と精神文明の創造者であることを主張した。その後、『残廃人』という表現が廃止された。
2.『中華人民共和国障害者保障法』(以下『保障法』と略す)は中国の障害者分野における最も重要な法律である。『障害者教育条例』と『障害者就業条例』等の行政法規も『保障法』の理念と枠組みに基づき制定された。2008年に改正された『保障法』総則第一条では、憲法の考えに基づき、障害者の合法的権益を保障するために、障害者に関する事業を促進し、障害者が平等に社会の一員として生活し、並びに共有資源を享有することを名文化し、『保障法』の理念と枠組みを定めた。一方、『条約』の趣旨は、すべての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保障し、確保する。障害者の固有の尊厳の尊重を促進することである。
3.『保障法』における「合法的権益」は法律により定められた権益であるが、権益の実現が政府に大きく左右される。障害者にとって優遇施策と社会福祉等の権益は一時的な援助になるかもしれないが、社会発展により調整される権益は権利ではない。一方、『条約』では、すべての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保障し、確保すること、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することが定められる。『条約』における「人権」は人間が生まれつき有しているものであり、奪われないものであり、人間にとって不可欠なものである。「権利」が合法的かどうかという問題ではない。障害者にとって合法的権益と福祉は有益であるが、前提としては彼らの基本的人権が保障され、重視されるべきである。『条約』序文(三)では、すべての人権及び基本的自由が普遍的であり、不可分のものであり、相互に依存し、かつ、相互に関連する。障害者が差別されずにすべての人権及び基本的自由を享有することを保障すべきだと定める。
4.『保障法』第二条では障害者が以下のように定義された:障害者は心理、生理、人体構造におけるある器官の機能喪失又は機能不全で、一般的な活動に従事する能力がすべてあるいは部分的に失われている者を指す。『保障法』における障害者の定義は、個人の心理と生理における機能喪失又は機能不全(つまり、個人の身体機能の欠損と疾病)を強調する。一方、『条約』は、障害者が社会活動に参加する際に制限され、排除される原因は、彼らが障害を有しているからではなく、障害以外にあるという見方を示している。その上で、障害者が平等に社会活動に参加することを妨げたのは有形障害と無形障害(障害者に対する旧観念、否定的態度)また、法律を執行する際にこれらの旧観念および態度により生じた障害であるとしている。
5.条約締結後、中国で2008年北京パラリンピック競技大会等のイベントを開催した際、法律、政策指導綱要及び日常生活における障害者を表現する言葉の不統一の問題が指摘された。中国の法律や規則、政策、指示文書では、「残疾」や、「残障」、「身心障碍」、「傷残人士」、「障碍人士」等が混在している。特に、マスメディア及び社会管理イノベーション等の分野においては「残障」が一般的に使用されている。
6.2008年に改正された『保障法』は最初に「障害を理由とする差別の禁止」の理念を中国の法制度に導入した。この理念の導入は中国(障害者の権利保障事業)にとって重大な進展であったが、障害を理由とする差別の定義及び差別行為に対する罰則を明確化しなかった。一方、『条約』における障害を理由とする差別の定義は、あらゆる形態の差別、不平等、及び合理的配慮の否定を含むことである。このように差別の定義を明確にすることで、何が差別であるのか推し量ることができる。
7.2011年、ワンプラスワンは障害に関する検索キーワードに基づき、四半期単位で障害分野のメディア報道における障害の表現について調査を行った。その結果、障害者に関する報道の中、「残障」という表現の比率は、第1四半期5%、第2四半期6%、第3四半期7%となり、増える傾向を示した。
提案
8.改正された『保障法』に基づき、障害者の福祉サービスの提供ではなく、障害者に関する権利と義務を強調し、障害者の人権保障を『保障法』の目的とすること。
9.改正された『保障法』に基づき、『条約』の目的と定義を参考に、『保障法』、及び他の障害関連の法律と政策における障害の定義を見直すこと。
10.公式用語、法的効力のある文書、及び行政文書において、「残疾」という言葉を徐々に廃止し、マスコミを含む社会全体に「残疾」の廃止を提唱すること。


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第五条 平等及び無差別

11.近年、中国社会の発展と共に、障害者の生活環境等が著しく改善された。各政策と法律の制定を通して、障害者の生活、医療及び就業等の基本的需要から、自己発展及び公共、政治、社会生活に参加することまで、中国政府は障害者に合理的配慮を提供し、障害者が他の者と平等にすべての人権を享受できるよう努力している。
12.中国には障害者差別禁止を定めた法律や規則は数多くある、しかしいずれも曖昧な記述である。法律における差別の定義が欠けていることで、どのような行為が何の形で障害を理由とする差別になるかが判断できない。また、差別行為に対する罰則は明確化されていない。更に、差別が発生した場合、責任の所在、並びに差別された障害者が如何に権利を主張するかを定めていない。
13.合理的配慮は『条約』における重要な概念である。しかし、中国の法律・法規では、合理的配慮の定義は明確化されていない。合理的配慮を実行する際、異論が出て、概念混同などの問題が起きた。法律における権利と義務の関係の課題により、意味が異なる「合理的配慮」と「バリアフリー」が入り混じって用いられている。また、最近改正された『保障法』の立法根拠は医学モデルから権利モデルに転換している傾向が見られ、将来障害者の権益保護は福祉サービスの提供から権利保障に切り替える可能性が高い。
提案
14.民族、宗教、性別、社会的地位、年齢及び障害を理由とする差別の問題を総合的に考慮し、差別の定義、差別禁止の適用範囲、責任の所在、及び処理制度を明確化すること。また、差別禁止法の制定を促進すること。
15.障害を理由とする差別の定義について、行政訴訟法及び民事訴訟法を改正し、差別禁止を訴訟の範囲に追加すること。また、『保障法』の法律責任の部分を改善し、各地における『保障法』の実施細則で障害者差別に対する罰則及び被差別者の救済措置を明確化すること。更に、既存の法律・法規における差別に基づく条項を削除すること。
16.学校教育、マスコミ等を通じて、平等意識と差別禁止の普及を強化すること。
17.国際的な経験を参考にして中国の状況を踏まえ、合理的配慮の定義及び内容の明確化により、障害者の事実上の平等を促進し、判断基準を提供すること。


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第六条 障害のある女子

18.中国における男女平等の進展と共に、政治、生活等に関する女性障害者の権益が改善された。しかし、女性かつ障害者ということで、複合的な差別を同時に経験しているケースが多い。男性障害者と女性障害者の医療、教育、社会保障及び就業に関する指標を比較した結果、女性障害者の方が著しく低い。例えば、障害者の就業者に占める比率は、女性35.8%、男性64.2%となる。障害者の未就業者に占める比率は、女性55.6%、男性44.4%となる 1
19.女性かまたは障害者と比べると、女性障害者が直面している身体と婚姻状況、学歴、就業率、社会保障、高齢化等の問題はより複雑である。現在、障害者に関する政策と法律の制定は性別に配慮していない、女性障害者が確実に政策の恩恵を直接に受けられるとは言えない。
20.『条約』は女性・女子障害者が複合的な差別を受けていることを認識する。家庭内と家庭外において、女性障害者は暴力、虐待等に陥る危険性が高い。しかし、現時点で被害相談の件数等の被害状況を把握するためのデータは公表されていない。女性障害者はあらゆる暴力の被害にあっても(身体的暴力、性的暴力、精神的虐待など)、障害の関係上証人として証言することが困難である。
提案
21.障害者に関する政策において性別の違いを強く認識し、政策策定前の性別による分析及び政策実行中の性別統計を重視すること。併せて、社会政策を評価する際、性別の違いを配慮に入れるべきであろう。
22.制定中の『中国婦女発展要綱(2011-2020年)』及び『中国児童発展要綱(2011-2020年)』に基づき、女性障害者の人権保障の実施細則を追加すること。また、2012年に立法計画に組み入れられた『反家庭暴力法』に女性障害者に関する内容を追加すること。更に、中国障害者連合会と婦女連合会が衛生、教育、民政等の政府機関との連携を強化し、責任の所在を明確にすること。
23.女性障害者の社区(地域)リハビリテーションと支援を推進し、社交、生活支援、メンタルケア、補助金等、就業支援を含む社会支援ネットワークを構築すること。女性障害者の自助グループの設立を積極的に促進し、女性障害者の需要に応えるサービス、施設と就業支援を提供すること。


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第七条 障害のある児童

24.2006年中国全国障害者サンプリング調査により、中国には障害児が504.3万いることが明らかになっている。この人数は障害者人口の6.08%を占めている。障害児童の男女比は、男児は59.04%、女児40.96%である。男女の性別比は144.17:100となる。また、都市部の障害児は障害児全体の19.20%で、農村部が80.80%である。2 現在、障害児が直面している問題は、障害そのもの、および児童であることこの両者の問題がその他の分野に連鎖し影響していくことである。例えば、経済的貧困と社会的差別などである。
25.中国では伝統文化や教育方法、また社会認識等による影響が、障害児の社会参加意識や社会参加能力に大きく表れている。多くの障害児は両親、教師、ソーシャルワーカー提供者等からの叱責、非難や溺愛等の影響を受けて、自己意識が弱くなる。福祉施設、リハビリテーション機関、学校等では、障害児に関する問題を議論する際、障害児或いは親に意見を求めることなく、また障害児童への影響を考慮することもなく政策を制定している。教育関連部門および国民等は依然として障害児の権利、社会参加に対して意識が乏しい。現在、社会全体に広く認められ普及しているような障害児の社会参加を保障、促進するメカニズムは存在しない。
26.2008年5月12日、四川大震災後、中国政府と社会のあらゆる業界は被災者、特に障害児に強力な援助を提供した。二次災害防止及び被災地再建において、中国政府と社会各界は障害児に対する保護と救助を行った。しかし、被災地における救助では、児童の最大利益に反する手法が見受けられた。一部のメディアはインパクトのみを求めるため、過剰な取材と報道により、救助現場の状況を必要以上に公開し、被災地の障害児の気持ちを考慮せずにつらい記憶を思い出させ、被災地の児童に精神的なダメージを負わせた。このような手法は児童の最大利益に背くものであろう。
提案
27.改正された『中華人民共和国未成年者保護法』と『保障法』に基づき、『中華人民共和国未成年者保護法』と『保障法』における罰則及び救済措置を明確化し、責任の所在、実行に対する監督を強化すること。
28.政府は専門の児童福祉部門を設立し、障害児を含む児童全体に関する事業の企画、管理、政策実施を統括すること。基層社会レベル(都市部における町会、コミュニティ委員会、農村村民委員会等)では、社区や自然村を拠点にした障害児童の保護に取り組み、併せて総合的な児童保護事業やネットワークに組み入れることも必要であろう。
29.障害児を保護するための法の体系を更に改善し、地方政府が地元の情況に応える実施細則の制定を促進すること。特に各地方の『保障法』の実施細則に単独で条項を追加すること。また、障害児の保護に関する内容、措置、並びに条件を細分化し、障害児のリハビリを社会福祉システム(医療と救済を含む)に組み入れること。障害児の権利を完全に守るため、法的根拠を提供し、政府によるサービスの買い入れ方式を通じて障害児に専門サービスを提供すること。
30.資金、技術、及び職員等を含むリハビリテーション資源を障害児に合理的に配置し、地域間格差を縮小させること。国レベル及び省レベルにおけるリハビリテーションセンターの建設は減らす、または見合わせ、末端行政単位における障害児のためのリハビリテーション施設を増加させ、職員の養成を強化すること。
31.各県、市、町、村の衛生部門、教育部門、民政部門と障害者連合会が共同で障害児のデータベースを作り、情報収集、測定、研究、障害児の義務教育とリハビリテーション等の支援に力を入れること。また、国家による三段階の障害予防システムにおいて、第三段階障害予防活動にさらに力を入れて取り組むこと。これはすなわち、障害発生後のリハビリテーション支援を強化することにつながる。更に、コミュニティを基本とする障害予防を改善し、コミュニティにおける一般医師、婦幼保健所職員によるコンサルティングや紹介サービス、および両親にリハビリ、介護等に関する知識の提供にも取り組む必要がある。
32.コミュニティにおける保護者向けの教育(保護者学校)あるいは学校での保護者クラスの設置を強化すること。また、既存の後見人制度を改善し、法定後見人が責任を放棄し、または障害児の権利を侵害するような場合、障害児を守るための行政介入及び法的手段をとるよう改めること。


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第八条 意識の向上

33.近年、2007年上海スペシャルオリンピックス及び2008年北京パラリンピック競技大会を含む障害者のための大規模イベントが開催された。これにより国民、特に都市部の市民は障害者に対する関心は高まっている。国民の関心は、毎年の障害者の日、国際視覚障害者の日、聴覚障害者の日、及び国際障害者の日等の記念日にも向けられている。これは政府が主導した国民への障害者支援活動の宣伝効果によりもたらされた効果である。
34.しかし、注意しなければならないは障害者の日に用いられた“助残”(障害者支援)という言葉、及び「百万人の青年ボランティアによる障害者支援計画」等の宣伝内容が健常者による障害者支援を強調し、障害者の権利、能力、及び彼らが社会に貢献していることを見落としている点である。これも現時点における国民への障害者支援を呼びかけるなかで見られる共通の課題である。
35.主流メディアにおける障害者に関する報道が増加している。障害者の情況を理解する機会が多くなったが、大半の報道は「生活が難しい」、「自ら努め励んでやまない」、「体に障害があっても志は堅い」等を強調する。障害者に同情が寄せられるが、障害者に対する尊重及び積極的な見方は感じられない。このような報道の仕方では、障害者の弱い立場を強調し、固定観念を持たせることになり、社会が障害者に対する正しい認識を形成するのに影響が生じる。マスメディアは障害者に対する適切な考えを培うための教育が不足し、『条約』の理念に基づく報道倫理に一致しない。
36.マスメディアは公衆にとって障害教育における最も重要な手段の一つである。マスメディア従事者の障害者及び『条約』に対する理解は国民に直接に影響を与える。ワンプラスワンは『条約』の理念に基づき、『マスメディアが如何に障害者について報道をするか』というマニュアルを作成し、研修を展開している。また、ワンプラスワンは2011年から定期的に『障害についてマスメディア報道の観測レポート』を作成し、主流メディアが『条約』の理念に遵守し、障害者関連報道をしているかどうかを評価している。
37.障害者に対する社会的認識を向上させるのは長期にわたる。特に各段階の教育システムにおける障害者の権利を尊重する姿勢培うことが重要である。中でも、小さい頃からこのような姿勢を育んでいくことである。残念ながら我々の知る限りでは義務教育段階及び高等教育段階において、『条約』の理念に基づく障害者に対する認識向上の授業がなさそうである。また、高等教育における社会福祉専攻のカリキュラムに障害者の権利を詳しく述べる授業は存在しない。
提案
38.毎年の8月31日を『条約』推進デーに決定し、2008年8月31日に『条約』が中国で正式に発効したことを記念して、障害者の権利を尊重する普及教育を推し進めること。
39.毎年の「全国障害者の日」を「中国障害者の日」に変更し、障害者に対する「能力の不足」及び「同情すべき」等の固定観念を解消する。
40.中国において定期的に開催される中国障害者事業の報道賞に加え、全国ジャーナリスト協会、中国障害者連合会等の組織が主導し、各ジャーナリズム学院、メディア、マスコミ観測機関、民間団体等が障害者に関する報道を観察、研究、分析し、定期的に『条約』の理念に基づくメディア観測報告、報道指針を出版すること。
41.ジャーナリズム関連専攻の履修項目に『条約』の内容に関する授業を加え、『条約』をメディア業界に従事する人たちのOJT内容に組み入れ、定期的に『条約』に関する研修を行うこと。
42.『条約』の理念に基づき、障害者に関する意識向上のための教科書と授業を設け、小中学校における障害関連授業と活動を強化すること。初等教育から障害者の権利を尊重する態度を育成すること。
43.障害者自助団体と協力し、『条約』の根本的原則である「差異を受け入れ、差異を尊重する」を新たな社会的価値観として提唱する。また、障害者自助グループと協力し、主流メディアに財政的支援を行い、コラム・番組を長期にわたって開設する。この開設する版踏みにおいて障害者の立場を広く国民に知らしめ、障害者に対する固定観念を解消することを目指す。


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第九条 施設及びサービスの利用の容易さ

44.中国政府はバリアフリーに関する法の体系と政策の制定に努力している。各業界において、積極的にバリアフリー技術基準とその応用を推進している。また、各国際コンテスト及びイベント等を主催することをきっかけに、都市部におけるバリアフリーの環境を改善している。関連研究により、2007-2010年度都市部における障害者のためのバリアフリー施設及びサービスに対して、大変満足と満足している人の割合が上昇し続け、2010年度の満足度は69.4%に達した。3
45.改正中の『バリアフリー環境建設条例』 4 は以前の内容に比べて改善された。第三十八条と第四十一条で明確に法的責任の所在及び具体的な罰則を追加したが、以前の経験を踏まえ、条例の実行、管理及び監督等を更に強化する必要がある。例えば、明確でない罰則及び責任不明の監督部署により、政府を含む公共機関におけるバリアフリー施設が不足し、障害者の出入りが妨げられることもある。
46.また、改正の途上にある『バリアフリー環境建設条例』第十四条では、市レベル以上の政府が優先的にバリアフリー施設改造を行う機関、場所のリストに、通常学校が入っていない。これはインクルーシブ教育(融合教育)を推し進めるためのバリアフリー施設の導入を妨害している。更に、条例では、「優先」という言葉が使用されている。国家機関の公共施設の改造は「優先的」ではなく、「アクセスは義務」にするべきである。マスメディアの報道から、我々も障害者連合会によるバリアフリー環境建設事業への努力を知ることになった。5
47.改正中の『バリアフリー環境建設条例』第十一条では、建築物と道路を新築、改築、増築する際、工事の建設基準に基づき、バリアフリーの施設を建設すべき、と規定している。これにより、図面と計画段階で建築士や設計士に建物のバリアフリーに関する知識と設計能力が求められることになる。しかし、中国国内の高等教育における建築専攻では、バリアフリーに関する授業或いは授業時間が不足している。また、多くのバリアフリー施設が建設された後、管理と維持が不足し、使われない或いは不法占用される情況は時々発生している。6
48.情報通信のバリアフリーは『条約』における「アクセシビリティ』の重要な構成部分である。政府が技術の国家基準及び業界基準を制定したが、基準の実行及び監督・管理の強化を行う必要がある。バリアフリーのページを備える上海政府サイト 7 という例があるが、視覚障害者にとっては、他の多数の政府公共部門のウェブサイトは閲覧しにくい。また、民間ウェブサイトを訪問する際の「確認コード」は情報のバリアフリーの重大な問題となっている。
49.障害者は公共病院で診察を受ける際、数多くの困難に直面している。多数の病院では電子掲示板或いは手話の翻訳サービスが存在しない。したがって、聴覚障害者が独自で診察を受けることはできない。8 既存の外来診察の電話サービスは聴覚障害者が利用できず、携帯電話SMS予約のような代替のサービスも提供されていない。また、既存の薬品の包装と使用説明書は視覚障害者の需要に配慮していない。視覚障害者は各薬物それぞれの用途、用法と用量を読むことができないため、他者の支援が必要であり、極めて不便である。
提案
50.政府部門、学校、病院、文化の場所等の公共施設はバリアフリー化改造を行うこと。もし短期的に改造できない施設があれば、必ず障害者が支障なく利用できるよう、代替案を制定すること。
51.バリアフリー法案における罰則を補充し、罰則及び監督機関を明確化すること。障害者が法的手段をとり、救済を受けることを実現すること。
52.新築、改築、増築の建築物及び道路のバリアフリー化の方案を制定する際、必ず障害者に意見を求めること。既存のバリアフリーの施設の管理維持制度を設けること。障害者からの監督と苦情受理システムを確保すること。
53. コンピュータ、建築、通信、交通運輸、デザイン等の専攻のカリキュラムにバリアフリーに関する授業を開設し、または関連授業の時間を増やし、学習効果評価システムにおけるバリアフリーに関する授業の重要性を増加すること。また、各デザイナー及びエンジニアの職業資格試験におけるバリアフリーの理念に関する問題を追加すること。
54.情報バリアフリーの重要性を明確にすること。法律によりネットワークのバリアフリー化技術基準を定め、罰則を明確化し、監督、苦情受理及び処理制度を担当する部署を設立すること。
55.政府、病院等の公共施設のウェブサイトはバリアフリーのサポートを提供しなければならない。もし短期的に改造できないサイトがあれば、必ず障害者が支障なく利用できるよう、代替案を制定すること。
56.すべての公立病院は適切な電子掲示板、手話の翻訳サービスを設置すること。また、外来診察の聴覚障害者が予約するための電子メールと携帯電話SMS予約サービスを提供すること。更に、視覚障害者が各薬物を区分できるよう、専門の薬袋を提供すること。


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第十条 生命に対する権利

57.中国は社会開放及び経済的成長にともなって、人口の地域間の流動がふえている。流動人口と留守人口の中の障害児の多くは農村部、過疎地域と貧困地域からの者である。これらの障害児は、自立するための方法を知らないことや家族の貧困、偏見及び差別のため、よく人身売買、誘拐の対象となり、家族に捨てられている。9 彼らはしばしば労働力として搾取され、窃盗や物乞いを強要されている。その結果、彼らは身体と精神をひどく傷つけられ、様々な虐待を受け、差別され、自由と尊厳を失うことになる。
提案
58.国内外の法律における人身売買の定義が異なることに鑑み、法律の統一性を明確に規定し、強制労働なども人身売買とみなし処罰を与えること。また、早期介入やコミュニティ回帰などに向けた活動も打ち出す必要がある。介入、処罰、保護、支援を一体化し、また長期的に持続可能なメカニズムを築くことで、損害を受ける障害者とその家族に、コミュニティに回帰するときに必要な資金やリハビリテーション等の保障を提供することができる。


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第十二条 法律の前にひとしく認められる権利

59.『治安管理処罰法』によると、中国では、「治安管理に違反する視覚障害者と聴覚言語障害者は、処罰が軽減されるかまたは処罰されない」と規定している。これは、中国の『憲法』による「法の下の平等」と矛盾している。中国国民である視覚障害者、聴覚障害者,又は言語障害者が犯罪行為を行なったとき、身体状況を理由にその違法行為への処罰を軽減されるべきではない。
60.障害者は銀行ローンや担保貸付などあらゆる種類の貸付を平等に受ける権利がある。中国の法律には、障害者の貸付に関する差別的な規定がないが、実際、視力障害者が銀行のサービスを受ける時、平等な権利が保障されていない。10
提案
61.立法機関は視覚障害者、聴覚障害者と言語障害者の国民としての基本的権利と義務を十分考慮に入れ、一部行き過ぎた保護の内容を含む条項を慎重に扱ったうえで、改正すること。
62.金融保険などの業界における障害者への差別に対し、各業界の協会を障害者の権利について検討、対応させると同時に、障害者がその検討と処理に参加することも確保すること。


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第十三条 司法手続の利用

63.中国では、障害者に対する法的な支援及び救済制度が設立された。先行研究によると、2007?2010年度に、法的な支援や救済を求める障害者は年々増えてきた。権利意識の向上とともなって法律知識の勉強や宣伝活動に参加する障害者も増加している。しかし、2010年度に、法的な支援及び救済を受けた障害者の割合がわずか2.6%に過ぎず、これらの障害者の中でも、不満をもつ比例が少し増えた。つまり、法的な支援及び救済はまだ改善する余地があると示している。11
64.中国では省、市、地と県で、2870個の障害者向けの法的支援(サービス)センターが設立されたが、一部の法的支援センターが経費不足のため、編成なし、経費なし、スタッフなし、オフィスなしという問題が発生している。また、現存の法的支援センターはほとんど一般の経済紛争や民事紛争に携わり、障害者の入学や就職における権利侵害案件がめったにない。
提案
65.司法機関の人員が障害者を尊重する意識を高めること。各地における弁護士協会で、障害者の専門委員会を設立し、委員会のメンバーに障害者の権益保障に関する法律知識のトレーニングを受けさせること。また、各障害者連合は積極的に弁護士事務所や大学法律研究・援助センター、民間法的援助機構との協力を促進し、各自の特徴と能力を発揮させること。
66.各法的支援(サービス)センターの経費を確実に保障し、農村部や過疎地域、貧困地域で法的支援(サービス)センターを設立、投入、また従業員をトレーニングすること。


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第十四条 身体の自由及び安全

67.近年、中国で多発した知的障害者の奴隷労働事件 12 に対し、公安部を含む中国司法機関は各部門と共同で、障害者の弱い地位を利用し彼らの人身の自由を侵害する犯罪の根絶運動により力を入れたことで、広範な社会影響と効果を挙げることができた。中国知的障害者及び家族友達の協会など多くの社会組織は、知的障害者を侵害することに対して厳しく非難する声明を出し、知的障害者(被害者)への支援を表明した。13
提案
68.『刑法改正案(六)』に、障害者や障害児を組織的に物乞いさせる犯罪を取り締まることを具体的に盛り込み実施すること。過疎地域と貧困地域における法の実行や宣伝、犯罪の根絶運動により力を入れること。また、底辺のコミュニティや社会団体、農村委員会等の総合保護メカニズムとネットワークを設立すること。


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第十六条 搾取、暴力及び虐待からの自由

69.国家教育委員会や国家計画生育委員会などの部門は児童や青少年の性教育において、かなりの力を注いできているが、知的障害者に対して、性教育が不足している。女性の知的障害者、特に軽度と中度の障害者は誘導と強迫で性交させられやすいため、知らないままに性暴力にさらされることがある。このような事件は時々発生している。14
提案
70.障害者(特に知的障害者)が性的侵害を受けている現状を正視したうえで、これらの犯罪(特に女性の知的障害者が侵害を受けている時)に対する量刑を高めると同時に、障害者に対する性教育を推進することで、女性障害者を保護すること。


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第二十一条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

71.政府政策の影響と人々の障害者に対す再認識により、中国における公共情報取得のアクセシビリティはある程度改善できた。しかし、数多くの公共情報サービスのアクセシビリティは中国の大都会でも十分普及しておらず、農村部と中西部をはじめとする中小都市では更に乏しい。その原因は主に二つあり、まず中国社会の不均衡な発展が挙げられる。また、地方政府におけるサービス精神とアクセシビリティ理念の不足である。
72.中国中央政府と中国障害者連合会ウェブサイトは率先して障害者の情報取得における一部のアクセシビリティを実現したが、他の政府のウェブサイトやホームページはほぼ進展していないため、障害者、特に視覚障害者はこれらのウェブサイトから情報を取得しにくいのが現状である。2008年北京パラリンピックが行われた頃、一部のウェブサイトは政府の呼びかけに応じて、特定のページをアクセシブルにしたが、その後、これらのページも次第に消滅または更新を停止している。
73.2008年5月1日から実施されている『中華人民共和国政府情報公開条例』の第二十八条によると、読み、視覚、聴覚障害がある市民に対し、行政機関は必要な支援を提供するべきだと規定している。15 しかし、現在中国の多数の政府オープンデータには視覚障害者や聴覚障害者向けのバージョンが提供されていない。
提案
74.政府による情報アクセシビリティのプログラムはより中小都市、特に農村部と中西部において重点的に展開すること。そのプログラムの実施状況を地方政府の執政能力を評価する基準の一つに加えること。
75.公共財政より支援された各政府部門、そのウェブサイトを全面的にアクセシビリティ化し、障害者がインターネットでその他の人と同じように政府の情報とサービスを得る権利を確保すること。
76.重要な政府文書を音声バージョンで提供する。また、他の文書に関しては、必要であれば、視覚障害者が情報を取得できるよう各級政府が協力とサポートを提供するべきである。
77.ラジオとテレビのデジタルチャンネルを開設し、障害者が自ら管理と運営に携わる通信プラットフォームを建立し、障害者が自ら方式を選び、情報を検索し、受信し、伝達して、見解を明らかにし、交流できるよう促進すること。


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第二十三条 家庭及び家族の尊重

78.関連調査によると、結婚適齢期の障害者の既婚率が62.5%で、社会全体平均値の83.1%より遥かに低い。16 そのため、障害者の婚姻状況は注目する必要がある。法律により、障害者には結婚、家庭作りと育児の権利を与えられているが、障害者、特に知的障害者は男女交際の経験と性的知識が乏しく、また、経済収入と居住地も確保できないという問題がある。更に、障害者は経済力と生活力が家族に懸念されているため、彼らの結婚問題が事実上の窮地に陥っている。17 実際、障害者同士の結婚が多いが、近年、非障害者と結婚する人数も少し増えている。しかし、社会全体の障害者に対する認識や、障害者の社会参加率の低さが彼らの低結婚率の最大の原因となっている
79.中国で実施されている一人っ子政策は、「一番目の子供が正常な労働力になれない障害児の場合は、二番目の子供を出産することを認める」と規定している。この規定は現在中国の国情と繋がっているが、具体的な表現には、障害者への差別と誤解が存在している。
80.関連調査によると、18歳以下の障害者の中、両親が保護者であるのが一番多くて、86.0%となり、前年度より0.6ポイント増えたことが分かった。18 両親が保護するのは障害児の成長により有利であるが、固定観念の影響や両親にもたらされる情報、サービス、サポートが不足していることで、無視や隔離、過保護などの極端な態度で障害児を扱う傾向にある。
81.社会の現在の発展段階、特に中国文化の中では、家庭は障害者の生活及び成長に大きなサポートと意義を与えている。特に、障害者に対する家族の思いやりや扱い方は、障害者たちが各方面の制限及び支障を突破できる最大の要因となっている。しかし、家庭または両親の権利、政府の責任がおろそかにされるため、家庭または両親が過大な責任を負い、プレッシャーがかけられる。そのため、一部の家庭または親は法に抵触するようなことをする場合もある。19
82.障害者を引き取って養育すること、障害者を施設などに預けることについて、中国では関連する法律、法規、政策は既に制定されている。しかし、多くの法律や政策には具体的な実施細則がない。また、代替性の扶養は、国内の孤児院にいる障害児のみを対象としている。代替性の養育サービスは、地域間において差が見られ、監視体制の質的改善の必要性がある。児童の代替性扶養方式は児童の利益最大化という原則を念頭にして、選択するべきである。児童の健康的成長からみると、施設での養育、他の家庭に預け育てる、または家庭で養育する、という三つの方式の中、家庭で養育するのが最も理想的で、続いて、他の家庭に預けて育む、施設での養育、と続くと考えられている。しかし中国の現状を見ると、施設での養育がメインになっている。児童養護施設やホームレス児童保護センター、特別支援学校がその例である。
提案
83.社区(コミュニティ)は障害者に婚姻に関して指導し、特に知的障害者に対して婚前の教育と指導、婚後生活と育児のコンサルティングを提供することで、彼らの結婚、子どもを作ることと婚姻の維持に協力すること。また、経済的に豊かでない状態で結婚する障害者に、優先的に公的住宅を提供すること。
84.計画生育政策における不適切な表現を削除し、『条約』の原則と主旨を念頭にして、障害を再定義すること。
85.各障害者団体の協力のもと、障害者の家族間の交流とシェアをサポートすること。また、衛生部門、障害者機構、及び家庭の間の連絡ネットワークを打ち立て、各末端の衛生部門と障害者機構における障害に対する理解と認識を強めることで、障害者家庭に全面的な情報、サービスとサポートを提供すること。
86.法律を制定することで、中国の国情に合う代替性扶養の内容を確定すること。また、その内容に基づき、代替性扶養を提供し、各地の状況によって障害者を引き取って養育する具体的なモデル発展させ、その手順と質量監視基準をさらに細分化すること。それ以外に、現行の法規と政策を修正し、実行可能性を高めること。代替性扶養を提供するスタッフの専門トレーニングに力を入れること。


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第二十四条 教育

87.中国は障害者の教育事業の発展を強化し続けているが、障害児の入学率はまだ高くとは言えない。2006年、全国で行われた障害者のサンプリング調査によると、一般及び特別支援学校で義務教育を受けている6-14歳の障害児はわずか63.19%である。それに対して、中国教育部の統計による2006年の全国の小学校における学齢期児童の就学率が99.27%で、中学校の粗就学率が97%となる。20 2007年から、義務教育段階での「両免一補」(訳注:2001年から中国全国で実施されている学費と諸経費の免除、及び学生寮に住む学生への生活費補助という教育政策)を代表する教育補助政策が全面的に実施されたことにより、農村部と都市部の義務教育を受ける障害児の比率が増え、2010年に71.4%達したが、21 全国の水準と比べると、まだ格差が大きい。
88.『保障法』は「政府、社会、学校は有効な措置で、障害児の就学難を解決し、彼らが義務教育を受けられるように支援すべき」、「通常小学校や中学校は学習生活に適応できる障害児を入学させるべき」、「普通幼稚園はその生活に適応できる障害児を受け入れるべし」と規定している。しかし、これらの規定には障害児と学校が持つ権利及び義務が明確に分けられていない。学校は常に障害児が学習生活に適応できないという理由で、彼らの入学を拒否する。これは『条約』による「障害者は障害で一般教育制度から拒否されるべきではなく、障害児は障害で通常の義務教育から拒否されるべきではない」という条文と一致しない。
89.『義務教育法』は「県レベル以上の地方人民政府は実際の需要に相応しい特別支援学校・クラスを設置し、視覚障害、聴覚・言語障害、及び知的障害の適齢児童・青少年に義務教育を与えるべし」と定めている。これでは、障害児が補助器具などで一般の授業に参加できる可能性を排除している。彼らを障害者ということで特殊教育学級に配置するのは、インクルーシブ教育の原則にそぐわない。
90.近年、インクルーシブ教育という理念がある程度宣伝され、普及しているが、総体的には、中国における発展はまだ比較的ゆっくりしている。北京、上海等の都市では、一部の障害児が通常学校に在籍するメインストリーミングで教育を受けているが、彼らの需要に応じるサポートが乏しい。また、障害児向けの特別支援学校はほぼ都市部に集まり、小さい町や農村部の障害児は特別支援学校を含む学校教育を受け難い。
91.関連研究によると、18歳以上の障害者は教育レベルが低く、その中で、小学校以下レベルの人が76.1%を占め、大学本科(学部)またはそれ以上の学歴がわずか0.5%に過ぎない。22 また、この大学学歴には、一部障害者向けの特別プログラムと、通信講座などの成人高等教育を含んでいる。この現状は『条約』による「障害者は差別されずに、その他の人と平等で一般の高等教育、職業トレーニング、成人教育と生涯学習を受けることができる」という規定に背いている。
92.現行の『普通高等学校学生募集における健康診断に関する見解』には、視覚、聴覚、身体などの障害対して、『条約』に一致していない内容がある:「以下のような障害者の採用は、学校の一部の専攻が拒否可能」、「以下のような障害者に合わない専攻」。また、一部の専攻には、極めて厳しく、また障害者の潜在能力を完全に無視する制限もあり、これらは『条約』の「人の潜在能力を十分発掘し、尊厳と自愛を養いながら、人権、基本的な自由及び人の多様性への尊重を固める」、「障害者の個性、才能、創造力及び知能と身体能力を最大限に発展させる」という内容に背いている。更に、視覚障害者の学生は常に代替受験システムがないため、入学試験参加資格が制限されている。23
提案
93.『保障法』、『義務教育法』、『普通高等学校学生募集における健康診断に関する見解』が代表する法律や法規、行政文書の中でのインクルーブ教育と障害者の完全な発達の原則に背く条項を削除すること。
94.新たに改正する『特殊教育条例』において、教育における合理的配慮の具体的な実行基準と、学校の権利と義務を明文化すること。
95.現在、障害者の教育レベルが全国の平均レベルに比べて格差が大きいという現状に対し、教育部にインクルーシブ教育の執行に関する監督部門を設け、併せて特殊教育とインクルーシブ教育を監視、指導する部門を設立する
96.新たに改正される『特殊教育条例』の中で、視覚障害者が各統一試験に参加する権利、具体的手順、関係する責任主体の義務、及び懲罰制度を明文化すること。


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第二十七条 労働及び雇用

97.中国政府は就業を促進することで障害者の就業や起業を援助し、また、公共機関と私営企業が障害者を採用するよう力づけている。その結果、障害者の就業において成果を挙げることができた。しかし、関連研究によると、2010年度に、都市部の障害者登録失業率が8.6%で、全国の登録失業率の4.3%の2倍となっている。24 また、「偽就職」という現象も存在するため、実際の失業率はもっと高いと考えられる。25 そのため、障害者が社会生活に参加する機会が直接的に制限されており、彼らの生活状況も間接的に影響されている。
98.近年、政府による比率に応じた雇い入れ就職や公益ポジション買収などの労働政策が相次ぎ、企業に比率に応じて障害者を採用させながら、ある程度の税金優遇も与えている。しかし、公共部門における公務員採用 26 、教師資格27 などの資格や登録の規定、特に身体検査の基準には、明確な差別条項があり、公共部門での障害者採用の比率が法的要求より遥かに低い。これは政府が先頭に立って役割を果たしていないことを表している。
99.中国では1992年以来、全国で障害者就業保障金が徴収されはじめ、1998年からは、障害者連合による税金徴収に替わって地方政府による税金徴収に変更になった。これによって徴収金額も迅速に増えている。この税金徴収の変更に伴う新しい問題は、税金の使用率が低く、繰越金の金額が大きいということである 28 。その原因として、1995年に財政部によって定められた『障害者就業保障金管理暫定規定』の中の障害者保障金の使用範囲を制限した5つの条項が考えられる。政策の策定は既に障害者の需要に立ち遅れている。また、各企業と機関で見られる障害者を採用する代わりに、保障金を支払うという代替案は、障害者が他の人と平等に就業することを阻害している。
100.現在、各障害者連合が実施している職業トレーニングは綿密さに欠け、個人を重視していない。トレーニングの内容は障害者の希望や市場要求とも離れている。トレーニングの質より量が重視されている。そのため、障害者の就職水準が低く、就職チャネルも制限されている。例えば、各政府部門及び障害者連合は視覚障害者に対し、マッサージのトレーニングしか提供していない 29。これでは障害者の就職の支障をきたすことになる。更に、知的障害者の就業をサポートするための新しい試みは、未だにこれらの部門や団体に受け入れられていない。
提案
101.公務員や教師など公共サービス部門が採用する際の身体検査にある差別条項を撤廃し、障害者を健常者と平等にすること。政府の公共部門、国家機関、国家財政支援を受ける企業や機関は全ポジションを障害者に開放し、障害者の優先採用や比例採用において先頭に立って手本を示すこと。また、懲罰を明文化すること。
102.現行の障害者就業保障金を管理する規定をなるべく早く改正し、適用範囲を広げ、また、規定の適用に関する監視・問責体制を整えること。既存の障害者職業トレーニングの評価指標を見直し、個性あふれるトレーニングを増やし、単一かつ量を重視するようなトレーニングを減らしていくこと。
103.障害者就業事業に更に力を入れ、新型のポジショントレーニングを試み障害者就業を支援するシステムを設立し、全ての障害者がオープンな労働市場で就業サポートを得られるよう努力すること。


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第二十八条 相当な生活水準及び社会的な保障

104.中国政府は、障害者を最低生活保障の対象に組み入れ、各民政部門の社会救済管理機構は厳格に国家政策の規定に従い、都市部、又は農村部の最低生活保障政策を実行している。しかし、各地方の計算基準は共同生活する家族メンバーに基づいて家庭の世帯収入で計算を行う。そのため、一人当たりの収入が最低生活保障基準を超えると、保障の対象から外れる。そのため、一部の重度障害者は成年になっても生活を営む上で独立することができず、両親とともに生活しなければならない。両親に収入があったとしても、高齢になると重度障害者の面倒をみるのが難しくなる。また、彼らは多額の介護費用も負担している(ケアホームに託しても、相当な費用がかかる)。その結果、場合によって、障害者と家族の関係が壊されるケースも生じている。
提案
105.成年の重度障害者に対し、一人当たり収入の最低生活保障基準を廃止し、各政府部門で普恵制(訳注 経済発展の水準にふさわしい社会保障制度を広く普及させる、という政策)を原則として例外なく最低生活保障対象として扱うこと。


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第二十九条 政治的及び公的活動への参加

106.中国の市と市轄区の95%、県と県級市の88.9%で、五種類(視覚、聴覚、身体的、知的、精神)の障害者専門協会が既に設立されたが、その中の多数は未だに正式に登録されていない。ただし、中国盲人協会が独立法人として登録してから、2011年に、中国聾人協会、中国残肢協会、中国知的障害者及び家族友人の協会、中国精神障害者及び家族友人の協会も独立法人として登録したことは注目されている。
107.中国及び各地方の障害者連合によって設立された障害者団体が、基層部の障害者の需要に対し、まだ満たせないため、大量の民間障害者団体が現れ、各地方のコミュニティでサービスを提供している。しかし、これらの民間団体の中で、障害者の自助グループ(DPO)は少ない。また、伝統的なリハビリテーション・サービス機構と比べて、開きつつある政府購買サービスの中から得られたサポートと援助も、非常に限られている。
提案
108.政府及びすべてのレベルでの障害者連合会は考えを変え、チャネルをオープンにし、多岐に渡る面において、特に資金面から障害者の自助グループの発展を支え、障害者たちに自らの問題により積極的に関与させるべきである。障害者自らの提唱、同士間の配慮、経験の共有と情報の交流を通して、皆が直面した問題を解決し、更に安定したコミュニティ・サポート・システムを設立すること。



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<脚注>

  1. 聯合国社会性別主題工作組「中国残疾婦女数据庫研発及残疾婦女現状研究報告」2008年。
  2. 『第二次全国残疾人抽様調査主要数据手冊』華夏出版社2007版。
  3. 中国残疾人聯合会「2010年度中国残疾人小康進程報告」。
  4. 「無障碍環境建設条例」(征求意見稿)、
    http://www.gov.cn/gzdt/2011-04/25/content_1852011.htm
  5. 『新快報』2010年3月13日第A05版「政協委員斥基層法官態度粗暴 法院台階太高」。
  6. 『中山日報』2012年1月11日第A6版「加強管理整治規範盲道建設」。
  7. 中国上海、www.shanghai.gov.cn
  8. 『杭州日報』2010年4月22日第A11版「聾唖人看病溝通難亟待解決」。
  9. 『南方都市報』2011年2月11日第A03版「讓残疾養女被迫行乞 為養父母親生子婚事籌銭」。
  10. 『華商報』2010年9月19日「盲人弁理房貸兩次遭拒 銀行称風険大拒絶弁理」。
  11. 中国残疾人聯合会「2010年度中国残疾人小康進程報告」。
  12. 『楚天都市報』2009年12月26日第A4-5版「殺害智障者偽造礦難案調査」。
  13. 中国残疾人聯合会ホームページ「中国智力残疾人及親友協会声明」
    http://www.cdpf.org.cn/2008old/ggtz/content/2009-12/29/content_30265369.htm、2009年12月29日。
  14. 『広州日報』2011年9月20日第A21版「禽獸男強奸隣家智障女」。
  15. 「中華人民共和国政府信息公開条例」http://www.gov.cn/zwgk/2007-04/24/content_592937.htm
  16. 中国残疾人聯合会「2010年度中国残疾人小康進程報告」。
  17. 『温州都市報』2010年1月12日第A7版「愛情呀,請不要將這里遺忘」。
  18. 中国残疾人聯合会「2010年度中国残疾人小康進程報告」。
  19. 『南方都市報』2011年5月16日第AA11版「東莞母親浴?溺死13歳脳?孖仔」。
  20. 中華人民共和国教育部、http://www.moe.gov.cn
  21. 中国残疾人聯合会「2010年度中国残疾人小康進程報告」。
  22. 中華人民共和国教育部、http://www.moe.gov.cn
  23. 『京華時報』2011年9月29日第A19版「盲女兩度報名遭拒投訴自考弁」。
  24. 中国残疾人聯合会「2010年度中国残疾人小康進程報告」。
  25. 『南方日報』2011年11月1日第AC01版「“残保金”収用帳目該公開否?」。
  26. 『新安晩報』2010年2月23日第A09版「“独臂老師”難邁資格門檻 体検標準岐視残疾人」。
  27. 『中国青年報』2011年9月13日第03版「甘粛省公務員考試公告被指岐視残疾人」。
  28. 『中国経済周刊』2008年10月17日「“残保金”的喜与憂」。
  29. 『南方都市報』2011年8月24日第FB10版「盲人就業不想只有“按摩”」。

■ 関連リンク

「中国と障害者に関する研究会 ―中国の市民社会における障害者の権利条約への取り組みに焦点をあてて―」 [外部リンク] 主催:立命館大学生存学研究センター [外部リンク] 、共催:学術研究助成基金助成金・基盤研究(C) 「障害者の権利条約の実施過程の研究」(25380717)
公開講座「障害者の権利条約の実施と中国の市民社会」 [外部リンク] 主催:障害者の権利条約の実施過程に関する研究会、社会的障害の経済理論・実証研究(REASE)

■ 謝辞

本翻訳は以下の研究活動成果の一部です。

立命館大学生存学研究センター [外部リンク]
日本学術振興会科研費・基盤研究(S)「社会的障害の経済理論・実証研究」(24223002) [外部リンク]
学術研究助成基金助成金・基盤研究(C)「障害者の権利条約の実施過程の研究」(25380717) [外部リンク]
文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究」(社会的包摂と支援に関する基礎的研究チーム) [外部リンク]

*作成:小川 浩史
UP: 20140311 REV: 20140313, 0318, 0407, 0412, 0414, 20180216
障害者の権利 全文掲載 
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