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池田 敬二「大公開時代の到来「パブリック」が示す印刷の本質――クロスメディア時代の出版印刷・37」

2012/03『プリバリ印』2012年3月号, 日本印刷技術協会, 34-35.

last update:20120322

p34
  クロスメディア時代の出版印刷 37
  池田敬ニ
  大公開時代の到来「パブリック」が示す印刷の本質

 スマートフォン、スマートテレビ、夕ブレットPC、電子書籍リーダーなどが登場して、新聞、テレビ、雑誌、ラジオといった既存メディアの役割や価値が問われている。ネットサービスでは、日本でも爆発的に登録数が増えているFacebookやTwitterに代表されるようなソーシャルメディアが、ユーザーに「パブリック」であることを求めている。「パブリック」というキーワードが見えてくる「印刷」の本質と、新たなビジネスの萌芽を考察する。

  「パブリックネス」と印刷技術の相似性
 小林弘人監修・解説本として『フリー』『シェア』に続く 3冊目が『パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ』(ジェフ・ジャービス著関美和訳 NHK出版)。現在のソーシャルメディア、ネットの世界の状況を、活版印刷の発明者グーテンベルクの業績を引き合いにしながら紹介していたのが印象的だった。
 印刷の利点は、少数の写本ではすぐに散失してしまう知識をまとめて1冊に取り込み、長く同じかたちにとどめ、多くの人の手に届くものにできたことである。こうした機能を有していたからこそ、印刷はル夕ーの宗教改革を後押しし、近代科学の進歩に貢献するなど、社会の発展に多大に寄与した。しかし印刷物が増えるにつれ当時のエリートたちは動揺し、「その数の膨大さこそ、学問を傷つける」「これらの紙の爆弾は、本物の爆弾と同じくらい危険な ものになった」と嘆いた。印刷技術は未知なる力を 有し危険な発明と受け止められていた。ジェフ・ジャービスはこのように印刷技術がもたらした往時の状況と、現在のソーシャルメディアが展開するパブリックの世界との相似性を指摘している。
 「パブリックネス」は社会経済の秩序を再構築する核であり、グーテンベルクの印刷機と同じように、根本的な変化をもたらすものだと私も信じている。
 印刷技術は垣根を超えた知識の伝播を可能にし、この変化は社会的なものにまでなった。現在はウェブの世界に、新しい「つながり」が生まれているという。どこまで自分をオープンにするか、プライバシーとのバランスが今後も課題となるが、日本でもその影響力は絶大となっている。

  ソーシャルメディアの醍醐味
 個人的な話になるが、私自身も依存症といわれるほど、ちょっとした空き時間にもソーシャルメディアに接触することが多い。ニュース速報や仕事に関する情報、趣味の最新情報もFace bookやTwitter経由で知ることが非常に増えてきた。ソーシャルメ

『パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ』紙本版表紙写真
ジェフ・ジャービス著/関美和訳『パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ』(NHK出版)


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『パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ』電子書籍版表紙写真
同タイトルの電子書籍版を購入。検索機能を生かして読む。

ディアは無料のサービスであるが、自らをオープンにすることで仲間との絆が構築される。特に出版、音楽、映画といった有料コンテンツを推薦する機能の効果は極めて高い。
 個人の経験からいうと、雑誌や書籍はFace bookやTwitterで友だちが推薦しているものを購入するケースが圧倒的に多くなった。購入した雑誌の特集や書籍を読了すると、必ず感想を書き込むようにしている。するとその投稿がきっかけとなってまた別の友だちが購入し、読了したあとの感想をソーシャルメディア上に書き込んでくれる。お互いの感想をシェアすることで、それぞれの友だちへさらに拡散されていく。Facebookでは「友達」、Twitterでは「フォロー」している間柄だと、なにかしらの「つながり」が存在する。
 こうした関係性のなかで各々感じたことや意見を オープンに、パブリックにするのがソーシャルメディアの特徴である。共感してくれると単純にうれしいし 建設的な反論によって議論が深まったり、多面的な価値観を共有することもできる。匿名の掲示板にありがちな他者を誹謗中傷する「荒らし」「炎上」のような展開にならないのも特徴だ。情報の送り手からユーザーへ一方通行になりがちな既存メディアでは不可能な、「ユーザー同士の絆の広がり」がソーシャルメディアの醍醐味といえる。

  既存メディアとソーシャルメディアの理想的な関係
 ソーシャルメディアの力はたしかに世界中で実証されている。Facebookの登録者数は世界人ロの10分の1に当たる7億5,000万人に達し、1人に平均130人の友達(私は400人)がいて、1日に10億のコンテンツが新たに投稿されている。動画投稿サイトのYouTubeでは毎分35時間分の動画が受け付けられ、毎日20億回も閲覧されている。このような数字からも、いかにソーシャルメディアが巨大なものに成長しているかが分かる。チュニジアからエジプトに飛び火した昨年の中東の革命では、Twitterが大きな役割を果たした。また、東日本大震災に起因する原発事故の政府発表や既存メディアの報道に対して、人びとが疑問の声を上げ、検証を行ったきっかけもソーシャルメディアであった。
 とはいうものの、既存メディアが果たす役割もまだまだ歴然としてある。特に、ある一定の考え方や思想を伝えるには、ソーシャルメディアに飛び交う断片的な情報の寄せ集めだけではむずかしい。印刷物や電子書籍リーダーでじっくりと腰を据えて読むからこそ、自分自身の思考や価値体系を支える糧となる。新聞やテレビ、ラジオといった既存のメディアも、ソーシャルメディアを有効に取り込み、ストレートなユーザーの声に真摯に耳を傾けることで、自分たちの存在意義を再定義させられるはずだ。それによって収益面の改善も可能だろう。既存メディアがソーシャルメディアの台頭をチャンスと捉えれば、未来への光は見えてくる。

 創刊以来、当連載を執筆させていただきましたが、 今月号で最終回です。自分にとっては初めての連載でしたが、読者の方々の温かな反応や、編集者とともに記事をつくり上げてきたことはすばらしい思い 出です。読者の皆様、編集部の皆様に心より感謝 申し上げます。


(作業者注:ページ上部コラム)
池田敬二[いけだ・けいじ] 
大日本印刷(株)電子出版ソリューション本部
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。
入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。“混迷の時代こそ面白い”がモットー。趣味はジャズと空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア委員会委員長。JPM認定プロモーショナルマーケター。



*作成:青木 千帆子
UP: 20120322 REV:
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