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池田 敬二「デジタル化がもたらす市場拡大の展望――クロスメディア時代の出版印刷・35」

2012/01『プリバリ印』2012年1月号, 日本印刷技術協会.

last update:20120123
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グーグル・ミュージック https://music.google.com/
 出版コンテンツがデジタル化されることによってさ まざまなビジネス展開が可能になる。従来の紙の出 版物での表現方法や商行為をデジタルで「模倣」 するだけではなぐデジタルだからこそできるサービ スを探求することによって、出版市場の秘められた 可能性がみえてくる。出版コンテンツが持つ可能性 を検証してみる。

  「グーグル・ミュージック」にみるSNSの市場拡販の可能性
 米グーグルは、11月16日に音楽配信サービス 「グーグル・ミュージック」を開始した。いち早く音楽配信を始めたアップルのiPodが発売されてから10周年を迎えたことを考えると、後発であることは否めない。しかし、グーグルのスマートフォン、夕ブレットのプラットフォームであるアンドロイドは、スマートフォンのOSとして日本およびアメリカにおいてはトップシェアを誇っている。全世界で2億台を超えたアンドロイド端末の普及が、今回のサービスインの背景にあるといわれている。当面のあいだはアメリカのみ での運當であるとのことだが、ユニバーサルミュージックグループ、EMI、ソニーミュージックエン夕テインメントという音楽ソフト大手3社の1,300万曲がそろう。
 グーグルのアンドロイドマーケットで楽曲を購入したユーザーが、同社のSNS (ソーシャル・ネットワーキング・サービス)である「Google+」で、曲を推薦したいと思うコミュニティーを選択すると、そこに所属している友人は初回だけはフルで試聴できる。これには驚いた。2回目以降は半分程度が聴ける。
 これまでもSNSで従来型のビジネスを拡大させる指針や展望は数々提案されていたが、大きな実績を残したものは少ないように思う。しかしこのグーグル・ミュージックの試みは、電子書籍での応用やレコメンドがもたらす市場拡大という観点でも大変興 味深い。

  リアルタイムで感想を共有しあう 「ソーシャルリーディング」
 自分の最近の書籍の購買、読書行動を振り返ってみると、ユーザー数が8億人(2011年9月現在)のSNSであるフェイスブック経曲で書籍の存在を知り、購入、読了。感想をツイッ夕一とフェイスブックで


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発信して、「友人」同士で刺激し合うのが習慣になっている。
 リアルタイムで読書の感想を共有できるソーシャルリーディングの分野でも、近頃は新サービスが登場している。角川グループの電子書籍配信プラットフォーム「BOOK☆WALKER」配信のライトノべ ル、コミック、文芸作品などを、ドワンゴ運営の「ニコニコ静画(電子書籍)」で閲覧しながら、同時にコメント投稿機能を使って読者同士の感想などの共有も楽しめるようになった。すべての出版コンテンツがこのようなサービスに適しているとは思えないが、一定のジャンルに対しては親和性が高ぐ読書という行為のエン夕ーテインメント性をより向上させることもできるはずである。
 思えば、自身のソーシャルリーディングの初体験は『シェア〈共有〉からビジネスを生みだす新戦略』 (NHK出版)だった。電子書籍版の「シェア」には、 読者が気に入ったフレーズをマーキングしコメントを添えると、特設サイト上でリアル夕イムに表示され、読者みんなで「シェア」できる「SHARE READER」という機能が施されていた。まず紙の書籍版で読み始めたが、途中からこのソーシャル機能がおもしろくなってiPhone経由で購入した電子書籍版に乗り換えてしまった。読者同士がリアルタイムに感想を共有できることに興奮しながら読了した。

  電子書籍の特性をつかめば 市場の拡大にさらなる展望がみえる
 現状の電子書籍のヒット作品でも、電子書籍ならではの特性をうまく利用しているものが多い。たとえば、紙の書籍は再販売価格維持制度(再販制)が あって新刊市場ではディスカウントできない。しかし電子書籍に再販制は適用されないので、柔軟な値付けが可能である。iPhoneのベストセラー辞書アプリ『大辞林』が売り上げを伸ばしたのは、通常2,500円を期間限定で1,000円にしたことが要因とされている。発売翌年の2009年にはグッドデザイン賞、電子出版アワード大賞をダブル受賞している。
 インプレスR&Dでは2020年に電子書籍市場は2,000億円(2010年650億円)と予測しているが、これはあくまでも紙の書籍のように一冊ずつダウンロードする販売モデルが前提だろう。しかし、出版コンテンツがデジ夕ル化されると、単に書籍または雑誌の購入、定期購読というこれまでの通り一遍な販売以外のビジネスモデルも考えられる。一般企業でいえば総務、法務、経理、人事など各セクション向けに有用な最新の出版コンテンツサ一ビスを、リーズナブルな定額制で提供することも可能だ。紙ではできなかったことも実行すれば、アイデア次第で市場規模を拡大していけるはずだ。デジタル化の波をチャンスと捉えて、クロスメディアに展開していけるかどうかが、いま問われている。
ニコニコ静画 http://seiga.nicovideo.jp/


(作業者注:ページ上部コラム)
池田敬二[いけだ・けいじ] 
大日本印刷(株)電子出版ソリューション本部
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。
入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。“混迷の時代こそ面白い”がモットー。趣味はジャズと空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア委員会委員長。JPM認定プロモーショナルマーケター。



*作成:青木 千帆子
UP: 20120123 REV:
全文掲載  ◇池田 敬二  ◇電子書籍 2011 
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