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「利便性・安全性を高める駅構内放送のための実態調査」

中村 雅也 2012 

last update:20130722


1.目的
 駅の構内では、乗降客の列車及び駅施設のスムーズな利用のために、さまざまな情報が提供されている。掲示や路面ペイントなどの視覚情報、構内放送やベルなどの聴覚情報、誘導ブロックや触地図などの触覚情報がある。この3つの感覚情報のうち圧倒的に多いのは視覚情報であろう。しかし、視覚情報の認知が困難な視覚障害者は、聴覚情報と触覚情報をを手掛かりに交通機関を利用することになる。本研究では、視覚障害者に最も多くの情報を提供していると考えられる構内放送に着目し、アナウンスを分析して、提供されている情報の内容を明らかにする。これをもとに視覚障害者にとって有効な構内放送を提案するとともに、すべての乗降客にとって利便性・安全性の高い構内放送について検討する。
2.方法
 駅の校内放送をホームの定点で聞くことにより観察し、その間のようすをICレコーダーで録音して放送のデータを記録した。観察対象の駅はJR大阪環状線鶴橋駅(大阪市天王寺区)である。内回り(大阪方面行)ホームの前方で、構内放送用スピーカー付近で乗降客の流れの少ない定点に立って観察した。なお、駅は内回りと外回りのホームが線路を挟んで向かい合う対面式ホームであり、観察地点である内回りホームのスピーカーから発せられる放送を観察対象とした。
 観察の日時は、2012年10月23日(火)午前7時40分から午前8時10分までの30分間である。乗降客数も多く、電車の発着頻度も高い平日の朝の通勤時間帯を観察時間に設定した。観察時間内の電車の発着数は7本であった。
 記録は、観察地点において観察時間のすべてをICレコーダーで録音した。加えて、ホームや駅員、乗降客のようすについて、観察者の気づいたことを適宜ICレコーダーに吹き込み、簡単なフィールドノーツとした。
 録音した構内放送はすべて書き起こし、トランスクリプトを作成した。トランスクリプトは1文を単位として切片化し、何を伝えているかに着目してコーディングした。コードの共通性により切片をカテゴリーに分類した。生成されたカテゴリーにより、構内放送が何を伝えているかを類型として示した。カテゴリーに含まれる切片の数により、それぞれのカテゴリーが構内放送全体に占める割合を算出し、どのような情報がどれぐらい発せられているかを示した。
 また、それぞれのカテゴリーについて視覚障害者にとっての必要性を吟味するとともに、個々のアナウンスが視覚障害者に理解しやすく、活用可能な表現であるかを検討した。
3.結果
 構内放送のトランスクリプトは1文を1つの切片とした。途中で途切れたり、一部が聞き取れないものもあったが、伝達内容がほぼ理解できたのでそれらも1文と数えた。切片の数は全部で225であった。放送には駅員によるものと、録音を自動放送するものとがあった。駅員によるものが155、自動放送によるものが70である。放送の対象者は、ホームにいる客と到着した電車から降りる客との2つに分かれた。前者を対象とするものが203、後者を対象とするものが22である。後者(降車客)への伝達内容は、乗車への謝意、駅名告知、忘れ物への注意の3つであった。駅員などを対象とした業務連絡は聞かれなかった。
 ホームにいる客への伝達内容は、次の8つのカテゴリーに分類された。それぞれの切片数と全切片数(225)に占めるその割合を百分率で( )内に記した。
 (1)行先、停車駅などを伝える列車情報(42:18.7%)、(2)電車が入ってくることやドアが閉まることを伝える注意喚起(92:40.9%)、(3)客の降車を待つことや空いているドアからの乗車を促す乗車指示(30:13.3%)、(4)ホームでの待つ位置や並び方を伝える整列指示(6:2.7%)、(5)時間調整や延着を伝える状況説明(18:8.0%)、(6)延着のお詫び(6:2.7%)、(7)客の呼び出し(5:2.2%)、(8)その他(4:1.8%)である。
 このうち最も多い割合を示した(2)注意喚起についてその下位カテゴリーを見てみると、電車の接近・到着を知らせるもの(17:7.6%)、点字ブロックまで下がって待つことを支持するもの(9:4%)、電車への注意を促すもの(13:5.8%)、閉まるドアへの注意を促すもの(13:5.8%)、ドアが閉まることを知らせるもの(36:16.0%)、駆け込み乗車を制止するもの(2:0.9%)、電車の発車を知らせるもの(1:0.4%)である。
 突出して多いのがドアが閉まることを知らせるもので、閉まるドアへの注意を促すものと合わせると49となり、注意喚起の総数92の半数を超えている。これらは「環状線内回り、ドア閉まります。ご注意ください。」のように先にドアが閉まることを知らせ、次に注意を喚起する文言が続くことが多かった。
 電車の接近、到着を知らせるものと電車への注意を促すものとについても、「1番乗り場、ご注意ください。電車が到着いたします。」のように組み合わせて発せられていた。
 アナウンス以外では、電車が到着する20〜35秒程度前から警告チャイムが鳴らされていた。
4.考察
 駅の構内放送が伝えている内容で最も多いのは注意喚起であった。次に列車情報、乗車についての指示が続き、延着などの状況説明、ホームでの整列指示などがあった。ただし、これは切片数の割合によるもので、情報量の多寡を直接示しているわけではない。注意喚起は電車の接近やドアの閉鎖に伴う危険を知らせるもので、安全性の確保が構内放送の重要な役割であることがわかる。列車情報と状況説明とは乗客の利便性向上に資するものである。乗車指示と整列指示は安全で円滑な乗車行動を促すものである。このように、構内放送が伝えているのは、安全性確保と利便性向上のための情報であることが明らかになった。
 構内放送という情報提示方法には次のような特徴が認められた。構内放送やベルなどの聴覚情報は、列車の接近やドアの閉鎖など危険が生じやすい時をターゲットに情報を発することができる。視覚情報や触覚情報よりも、安全性の確保に適した感覚情報だといえる。そのため、構内放送には注意喚起を促す内容が多くなっていると考えられる。一方、利便性向上のための列車情報は、常時提供されていることが望ましい。そのため、直近の列車情報を自動提示する案内板や時刻表などといった視覚情報として掲示されている。視覚情報として提供されている分、聴覚情報による提供は不十分である。例えば、電車の発車直後に次のような自動放送が流される。「7時43分発、普通、京橋・大阪方面行きは1番乗り場から発車します。電車は8両で到着いたします。足元白色丸印1番から8番で2列に並んでお待ちください」。これは次に到着する電車の情報であるが、この後は到着直前まで列車情報の放送はない。つまり、前の電車の発車からしばらくしてホームに入った人は、電車の到着直前まで列車情報を聴覚的に入手することはできない。次の電車の到着時刻や行先もわからないまま待たなければならないのは、聴覚情報だけでは十分な情報が提供されていないと言わざるをえない。また、延着などの状況説明は、その都度変化する状況をタイムリーに伝えなければならない。その点で、放送などの聴覚情報に適しているし、聴覚情報のみで十分に提供されている。だが、その分、視覚情報としては情報が提供されていない。聴覚障害者への情報保障のためには、電光掲示板などで文字情報として提供する必要がある。
 次に視覚障害者にとっての構内放送の有効性を検討する。先に挙げた8つのカテゴリーのうち、(1)列車情報、(2)注意喚起、(3)乗車指示、(4)整列指示、(5)状況説明は視覚障害者にとっても必要な情報である。それぞれのカテゴリーについて、内容と表現を検討し、問題点を指摘して改善方法を提案する。
 (1)列車情報については、前述したように重要な情報であるにもかかわらず、提供頻度が少ない。自動放送などで定期的に流すことでより活用しやすくなる。また、女性専用車両の情報は予めホームと車両の位置関係を把握していないと活用することはできない。専用車両のドアなどからの音声による案内が望まれる。
 (2)注意喚起については、おおむね有効だと思われた。「危ないですから黄色い点字ブロックの内側までおさがりください」というアナウンスは、以前は「白線の内側までおさがりください」という文言であった。視覚障害者には白線の認知は困難であり、見えることを前提としたアナウンスであった。しかし、点字ブロックなら触覚的に認知できる。このことは、駅ホームの点字ブロックの敷設が十分に整備されてきたことも意味している。「ドアが閉まります」という放送は36あった。この間、7本の電車が発着しているので、平均すると1本当たり5回以上の放送があったことになる。このことは、最初に「ドアが閉まります」という放送があってから、実際にドアが閉まるまでにはかなりの時間が経過していることを示唆している。実際、「ドアが閉まります。」の放送から30秒以上経過してもドアが閉まっていないことがあった。これではドアが閉まることを伝える役割を果たせているとは言い難い。「ドアが閉まります」という文言は、電車を発車させたいというメッセージを伝えるために発せられていると考えられる。ドアが閉まる性格なタイミングを知ることは、視覚障害者の安全な乗車のためには必須である。本当にドアを閉めるとき以外に、「ドアが閉まります」を連呼するのは慎むべきである。
 (3)乗車指示については、「すいているドアから分かれてのご乗車お願いいたします」という放送が8回あったが、視覚障害者にすいているドアの発見は困難である。各ドアから均等に乗車する仕組みを工夫することも考えてよいだろう。
 (4)整列指示については、すべて「足元白色丸印1番から8番で2列に並んでお待ちください」というものだった。視覚障害者には白色丸印の認知は困難である。乗車待ちの位置は路面の材質を変えるなどして触覚的に認知できるようにするなどの改善が考えられる。(3)乗車指示と(4)整列指示は、視覚障害者が独力でそれに従うのは難しい。周りの乗車客のサポートや、指示されたルールを逸脱した乗車方法でも‘大目に見る’ぐらいの理解を期待したいところである。
 (5)状況説明の放送は視覚障害者には有効であった。しかし、聴覚障害者や日本語が理解できない外国人など、すべての人に情報を伝えるための提示方法を整えることが大きな課題である。
 全体を通じて、自動放送のアナウンスと駅員によるアナウンスが重なり、自動放送のアナウンスがかき消されることがしばしばあった。また、駅員の早口や不明瞭な発声で、内容の聞き取りが十分にできないこともあった。
 以上に見てきたように、駅の構内放送は乗降客の安全性と利便性を高めていた。しかし、情報の提示頻度、タイミング、表現、提示方法やアナウンス技術など、問題点も浮かび上がった。公共交通機関である鉄道駅の構内放送は不特定多数の人たちを対象としている。従って、子ども、高齢者、障害者、外国人などのマイノリティも想定した正確でわかりやすい放送にしなければならない。本調査により浮かび上がった問題点は構内放送のユニバーサルデザイン化に示唆を与えるものである。
 最後に、乗降客の利便性・安全性を高めるためには、乗降客自身のマナーやお互いの思いやりが最も有効で重要であることを蛇足ながら付け加えておく。

【参考文献】
Glaser, B. and A. Straus, 1967, Discovery of grounded theory, Chicago: Aldine.(=1996,後藤隆・大出春江・水野節夫訳『データ対話型理論の発見――調査からいかに理論を生み出すか』新曜社.)
川喜田二郎,1967,『発想法――創造性開発のために』中央公論社.




*作成:小川 浩史
UP: 20130722 REV:
中村 雅也 全文掲載 
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