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池田 敬二「武雄市MY図書館の果敢な挑戦――クロスメディア時代の出版印刷・34」

2011/11『プリバリ印』2011年12月号, 日本印刷技術協会.

last update:20111228
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  クロスメディア時代の出版印刷 34
  池田敬ニ
  武雄市MY図書館の果敢な挑戦

武雄市MY図書館のホームページ(http://takeo-mylib.jp)
 佐賀県武雄市の電子図書館への取り組みは、樋渡啓祐市長のツイッ夕ーでの宣言から始まった。すべての市民に等しく図書館の図書に親しむ機会を提供するために蔵省をデジタル化しiPadを活用して配信する構想。2011年10月に筆者は武雄市に足を運び、幸いにも図書館のデジタル化をめぐる議論に参加することができた。新しいツールを巧みに組み合わせて果敢にチャレンジを続ける武雄市の姿勢は、出版印刷とクロスメディアという観点からも多いに示唆に富むものであった。

  ツイッターで宣言された「武雄市MY図書館構想」
 2010年7月30日の深夜に佐賀県武雄市の樋渡市長は、ツイッ夕ー上で高らかにこう宣言した。

武雄市図書館の本を電子媒体化し、iPadなどに配信、もしくは、図書館でiPadに入れ込むなどして、24時間365日、わざわざ図書館に来なくても済む「MY図書館構想」を来月ぶち上げます。新刊本は対象外、図書館法、著作権法などの関係法令の壁に挑戦します。ご期待ください。

 1969年生まれの若き市長である樋渡氏は、日本フェイスブック学会の会長でもあるようにソーシャルメディアを巧みに活用し数々の課題を解決しようと日々奔走している。上記の「武雄市MY図省館構想」のきつかけも市民から突きつけられた要望からだった。武雄市は2006年に市町村合併し、面積が約1.5倍に広がった。市民からは1つしかない図書館の分館をつくってほしいという声が寄せられた。
 新しく図書館を建設するにはばく大な予算が必要になる。図書をデジタル化することでさほど予算を投じなくても公共図書館というサービスを成立させることが目的であった。

  iPadを使った図書館サービスが始動
 市長の宣言通り、議会で調査研究委託費を計上したのを皮切りに、翌年の2011年4月に「武雄市MY図書館」はオープンした。電子書籍の貸し出しにはiPadを利用。iPadを保有している人はアプリをダウンロードすれば、24時間いつでも電子化された図書を借りることができる。貸し出し期間は最長15日間で、期間を過ぎると、デジタルデータは自動で削除される。iPadを保有していない人のためにはiPadごと貸し出すサービスも提供している。
 ツイッターでは挑峨的な宣言をしているが、さまざ


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武雄市図書館が入るエポカル武雄の外観 武雄市図書館デジタル化推進協議会でのひとコマ。左が武雄市長の樋渡啓祐氏。右が会長に就任した松原聡氏
まな配慮がみられる。サービス開始当初は武雄市が著作権を有する郷土資料などの図書や著作権保護期間が終了している青空文庫、そして著作権処理済みの国立国会図書館の近代デジタルライブラリー所蔵の図書などに限られていた。ツイッターの宣言には「新刊は対象外」と明記してあるように、出版社や書店の民業を圧迫させない気配りも感じられる。徐々に出版社との個別交渉も開始し、村上龍氏の「歌うクジラ電子害籍版」、人気有料アプリの「元素図鑑」、「日経電子版」などのコンテンツを辛抱強く少しずつ増やしている。利用者の予約数も反応も良好であり、見せていただきたいとお願いしていた貸し出し用のiPadはすべて貸し出し中であった。
 iPadを採用して最も良かったことは、パソコンに不慣れな高齢の方や小学生にも容易に操作できる点がまずあるという。この連載では、「車中読書」によって読書文化を育んできた日本では、片手で操作できるスマートフォンこそが電子書籍をブレイクスルーするデバイスだという分析をしてきたが、それはあくまでも首都圏での話であり、武雄市のような地域では当てはまらないのかもしれない。また蔵書をデジタル化することだけが目的ではなく、市民自身が書いた作品も積極的に投入している。ソーシャル型の新しい図書館のあり方への萌芽ともいえる。

  熱い議論が展開された武雄市図書館デジタル化推進協議会
 武雄市MY図書館事業を推進するため、2011年10月24日に武雄市図書館デジタル化推進協議会が発足した。学識経験者、弁護上、出版閲係者、書店閧係者、武雄市図書館・歴史資料館協議会委員から構成された協議会委員が武雄市図書館・歴史資料館に集結した。筆者も委員に任命していただき、議論に加わることができた。会長には東洋大学経済学部の松原聡教授、副会長には静岡県立大学国際関係学部の石川准教授が選出され、図書館法や著作権法を順守しながらいかにデジタルコンテンツを揩竄キことができるか、また、デジタルでありながら紙の図書と同じ図書館サービスが市民に提供できるのかなど、さまざまな観点から90分におよぶ熱い議論が展開された。
 公共図書館がいかに書店と共存共栄できるか、電子化された出版コンテンツを貸し出すことによって、電子書籍やオンデマンドプリント、そして紙の書籍の販売につながるような導線をいかに築くことができるか、またデジタル化によって可能となる、拡大縮小、読み上げ機能、ァクセシビリティの向上という点にも筆者は関心を持った。閉会後も個別に意見交換させていただき、大いに収穫があった。全国の自治体の中でも突出して画期的なクロスメディアソリューションを実践する武雄市のチャレンジ精神に、民間企業も刺激を受けるはずだ。


(作業者注:ページ上部コラム)
池田敬二[いけだ・けいじ] 
大日本印刷(株)電子出版ソリューション本部
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。
入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。“混迷の時代こそ面白い”がモットー。趣味はジャズと空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア委員会委員長。JPM認定プロモーショナルマーケター。



*作成:青木 千帆子
UP: 20111228 REV:
全文掲載  ◇池田 敬二  ◇電子書籍 2011 
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