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AARPから「介護の成績表」

児玉 真美 201111 月刊介護保険情報,2011年11月号

last update:20120117


AARPから「介護の成績表」

「介護の成績表」を州ごとに――米国

 米国退職者協会AARPは9月8日、米国の州ごとの高齢者と身体障害者に関する介護サービスと支援の“成績表”、“Raising Expectations: A State Scorecard on Long-Term Services and Supports for Older Adults, People with Physical Disabilities, and Family Caregivers”を発表した。@費用面での利用しやすさとアクセス、Aナーシング・ホームかアシスティド・リビングか在宅かの選択と事業者の選択、B生活の質とケアの質、C家族介護者への支援の4点について、全25の指標に基づいてデータを点数評価し、その詳細と共に全州をランクづけしたもの。総合点のトップ3はミネソタ、ワシントン、オレゴン。最下位にはミシシッピ、アラバマ、ウェスト・ヴァージニアなど南部の州が並ぶ。
 AARPでは、「下位の州が上位の州の実践から学ぶ機会にと意図した調査だが、上位の州にも改善すべき点はあるので、この情報を元に関係者には改善に向けた意識を持ってもらいたい」。さすがに点数化・ランキングされたとなると各州とも地元メディアが敏感に反応し、自州の成績の要因を考察する記事が相次いだ。実際、報告書で明らかになったバラつき幅はショッキングである。
 例えば、メディケイドの給付資格基準は州ごとに決めることになっているが、この指標でのトップ5州では平均して要介護の低・中所得者の63%に給付されているのに対して、最下位の州では20%にしか給付が認められていない(全米の平均は37%)。また障害者の生活に関する満足度の指標では、トップ5州で91%が満足と回答しているのに対して、最下位の州では81%。この指標で1位のノースダコタ州では、満足と回答した障害者の内57%が仕事についているのに対して、最下位の州で仕事についている障害者は5人に1人。ナーシング・ホーム長期入所者のうち辱そうのある人の割合でも、全米の平均12%に対して、7%から16%の開きがあった。
 報告書は、総合ランキングで上位の州には以下の3点の施策方針が打ち出されていることが共通している、と分析している。

@ 介護サービスと支援を必要とする、より多くの人にアクセスと選択が可能となるよう、またナーシング・ホーム以外の選択肢を提供できるよう、メディケイド事業で工夫。
A 必要とする人がサービスに繋がりやすいよう、効果的なワン・ストップ体制で情報とサービスへのアクセス改善。
B 燃え尽きを予防するべく、介護者への支援とサービスの提供のみならず法的な保護措置をとって介護者ニーズに対応。

 介護者支援施策を打ち出している州は、その他の指標全般においても高得点となる傾向があるとの分析は、たいへん興味深い。
 報告書の試算によると、全州がミネソタ州並みの実践をすれば、12万人以上の入院が避けられ、130億ドルの医療費削減効果が見込まれる。ナーシング・ホーム入所にかかる費用負担はどの州でも中流家庭の支払い能力をはるかに上回っているため、地域で利用可能な範囲のサービスを整備していくことが必要だと説く報告書には、州ごとに具体的な改善策の提言と共に、それによって避けられる入院件数の試算まで添えられている。実に懇切な“ご指導”つき成績表なのである。
 ただ、報告書の結論を読んでいると、そこはかとなく違和感を覚えるのは、こうした米国型競争原理が本当に公平なのだろうか……という点だ。曰く、高齢者にも障害者にも選択する権利がある。ニーズに応じた最も制約の少ない環境で暮らす権利は法的にも確認されている。上位の州の実践を見れば、介護サービス充実はコスト・パフォーマンスがよいことが一目瞭然。住む州によって介護の選択範囲や質が変わってはならない。だから各州はもっと頑張るべきだ――。
 しかし、ランキングの下位に並んでいるのは低所得層も高齢者、障害者人口も多い“貧しい”州である。一方ニューヨーク・タイムズの当該記事は、物価も人件費も高い都市部のジレンマに触れている。報告書で指摘された不備の責をすべて州に帰すことが果たして公平な競争原理といえるのだろうか……。
 報告書の結論(要約版)はその冒頭で、バラつきの要因として、米国にユニバーサルな介護サービス制度がないことを挙げているのだが、その後は個々の「選択」を保障する重要性を繰り返し説く一方で、「だからユニバーサルな介護提供制度を」とは一度も提案せず、各州の尻を叩き続けて終わってしまう。医療制度改革を巡って、格差の広がりを背景に自己責任論と個人の選択重視で真っ二つの米国世論に、AARPも配慮せざるを得ないのだろうか。

UP: 20120117 REV:
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