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池田 敬二「ブランド戦略〜手書きによるハガキが効力を発揮――クロスメディア時代の出版印刷・32」

2011/10『プリバリ印』2011年10月号, 日本印刷技術協会.

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  クロスメディア時代の出版印刷 32
  池田敬ニ
  ブランド戦略〜手書きによるハガキが効力を発揮

 アップルの快進撃が依然として続いている。この7月にはアップルは過去最高の売上高と利益を発表し、時価総額で世界一の米エクソンモービルに迫る勢いを見せた。そうした追い風のなか、 iPod、iPhone、 iPadと次々にヒット商品を華麗なプレゼンテーションによって紹介し、アップルを復活させたスティーブ・ジョブズに関するビジネス書が数多く刊行されている。今回は『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』(日経 BP社)に焦点を絞り、クロスメディア時代のブランド戦略について考察する。

  スティーブ・ジョブズによる驚異のイノベーション
 『スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン』(カーマイン・ガロ著 日経 BP社)が発売になったのは 2010年7月。ビジネスマンを中心に売れ行きも好調のようで、多くの書店で現在でも平積みで売られている。日本の各産業や音楽、出版といった文化的側面からいって、アップルの快進撃を手放しに褒め立てていいとは思わないが、電子書籍や電子出版、クロスメディアビジネスを考えていく上で必読書だと判断して購入した。
 本書はいわばプレゼンテーションのハウツー本である。 iPodや iPhone、そして iPadをプレゼンしているスティーブ・ジョブズの動画は、アップルのサイトやユーチューブなどで容易に見ることができるが、たしかに見事というしかない衝撃を聴衆に与えている。こうしたプレゼンの裏には、溢れるような情熱、練習、努力が積み重ねられているという分析を示しつつ、ジョブズのテクニックはだれにでも身につけることが可能だとするのが本書の要旨である。こうした内容に日本のビジネスマンが注目するのは十分納得できる。自分も多いに得るものがあって、読み終えるや否や著者・版元も同じ続編『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』も入手し読了した。こちらでは、スティーブ・ジョブズやアップル社の成功体験から導き出されるイノベーション、情熱、ビジョンの必要性を強調するだけでなく、他社の豊富な成功事例、人物を通して詳細に著している。

  オンラインショップ「ザッポス」の仕事は「幸せを届ける」こと
『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』で特に印象的だったのは靴を中心としたアパレル・オンラインショップ「ザッポス(Zappos)」の事例である。本書では、アップルとザッポスの共通性が示されており、それは自社ブランドに対する顧客の意識を変えたことである。アップルの仕事は「コンピューターを売る」のではなく「暮らしを豊かにする」ことであり、ザッポスの仕事は「靴を売る」のではなく「幸せを届

本の表紙写真
カーマイン・ガロ『スティーブ・ジョブズ驚異のイノベーション』(日経 BP社)


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ける」ことにあるとする価値観が全社員に浸透しているというのである。
 ザッポスのオフィスのカスタマー対応用電話の横には大量のハガキが用意されている。たとえば、ビーチサンダルを購入した顧客には購買理由を尋ね、フィジーに旅行すると聞けば『楽しんできてください』と手書きのハガキを送る。また母親のために靴を注文した顧客が、母親が急死したので返品したいと申し出ると、翌日には花束と手書きのお悔やみのメッセージカードが届いた。顧客はこのことをブログに書き、有名なエピソードとなった。こうしてザッポスは顧客との関係を強固に、かつ末永いものにしている。こういった試みの成果は、ザッポス・ドット・コムの売り上げの75%がリピーターによるものという数字にも表れている。ザッポスは『フォーチュン』誌が選ぶ「働きたい職場ランキング」でも上位に入る人気企業だという。

  雑誌編集長が年間 5,000枚のハガキで読者とコミュニケーション
 これを読んで思い出したのが、小学館の雑誌『サライ』や『BE-PAL』で編集長を務められた岩本敏さんのことだ。20年以上にわたって年に5,000通もの手書きのハガキを読者に送り続けたことを、15年ほど前に講演でお聞きした。平日に1日20枚のハガキをノルマにしていたという彼は、「ただ、好きで続けただけ」としながら、クレーム対応はもちろんのこと、愛読者をどれだけアフターフォローできるか考えて実践されていたのだ。
 愛読している雑誌の編集長から直接メールやツイッターのリプライが届くのも感激するものである。読者はその雑誌に対して、いつまでも強固な絆を感じ続けるだろう。こうした試みは雑誌だけでなく、単行本の著者や小説家、映画監督などの作り手も積極的にソーシャルメディアを活用して、作品をより多くの顧客に届けるために行われている。
 しかし、デジタル全盛の時代だからこそ、手書きによるハガキは確実に読者の心にダイレクトに響くことだろう。こうした読者一人ひとりに向けられた心のこもったコミュニケーションのなかに、ブランドを構築させ、関係性を強化し、永続させる秘訣があると確信する。
 なにも真新しいデジタルメディアを使うことだけが、効果的なクロスメディアであるとは限らない。手書きハガキというアナログな従来のメディアも強力な手段のひとつであるのは間違いない。このように、新旧のツールを組み合わせていくことによって、顧客との関係強化を狙うことは、あらゆるビジネスで有用性があると思われる。
ウェブページの写真
Zappos.comのホームページ(http://www.zappos.com)

(作業者注:ページ上部コラム)
池田敬二[いけだ・けいじ] 
大日本印刷(株)電子出版ソリューション本部
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。
入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。“混迷の時代こそ面白い”がモットー。趣味はジャズと空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア委員会委員長。JPM認定プロモーショナルマーケター。



*作成:青木 千帆子
UP: 20111020 REV:1111
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