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「遺伝子差別」文献表、引用とコメント

小椋 宗一郎 2011/09


 次の文献の「第8章 遺伝子差別」(下記「本文」という)の執筆のために使用・参照した文献について、紹介とコメントします。
 玉井真理子/松田 純(編)『遺伝子と医療(シリーズ生命倫理学 第11巻)』、丸善、2011年(刊行予定)

凡例
〔1〕〜〔32〕 上記論文「遺伝子差別」に挙げた文献
「・」      その他の文献
鍵カッコ(「 」)内は、文献からの引用
「@」 以下は、小椋によるコメント

1.「遺伝子差別」の定義について

〔1〕Phyllis G. Epps. 32004: Art. "genetic discrimination". In: Stephen G. Post(ed.), Encyclopedia of Bioethics, New York: Macmillan Reference USA. (生命倫理百科事典翻訳刊行委員会(編)『生命倫理百科事典』第1巻、丸善、2007年、159-162頁)
「遺伝子差別は、ある人やその血縁者がゲノム上に変異をもっていることに基づいて、その人に敵対的な行動や否定的な態度をとることを一般に指す言葉である。社会的烙印(スティグマ)のひとつである遺伝子差別とは、特定の遺伝子配列が示す情報が、現在および未来の健康状態の予測に有意であるという仮定に基づいて、社会的処遇に差異を設けることである」
@蔑視などの「否定的態度」までを含むという点で、また将来だけでなく「現在の」健康状態を視野に入れている点で、比較的広い意味での「遺伝子差別」について述べている。

〔2〕ドイツ連邦議会「現代医療の法と倫理」審議会(編)(2004)『人間の尊厳と遺伝子情報』、松田純(監訳)中野真紀/小椋宗一郎(訳)、知泉書館、年(Enquete-Kommission "Recht und Ethik der modernen Medizin" (Deutscher Bundestag 14. Wahlperiode). 2002: Schlussbericht.)
「『遺伝子差別』とは、遺伝学的素質を理由に,ある人に対してなされる不当に不平等な扱いを意味する。遺伝子差別には、事実上あるいは推測上の遺伝学的差異が関係している。〔ただし〕その個々人およびその家族は、健康であるか,または遺伝学的素因による軽い症状が出ているだけで健康や働きが制限されていないような場合が、遺伝子差別である」〔90頁〕
@おもに「将来の」健康状態に関連した不平等な扱いに焦点を当てている点で、比較的狭い意味で遺伝子差別を規定している。詳しくは本文を参照されたいが、小椋は、おもに将来の健康状態に関する遺伝的素質に関連した具体的差別を「狭義の遺伝子差別」とし、現在の健康状態および蔑視などを含めたそれを「広義」、さらに人種などの集団的な遺伝的特徴や過去の偏見に基づく差別を含めた「最広義」における定義として提示している。「狭義」だけに限定するならば、たとえば既に発症した人々が受ける差別を「遺伝子差別」の問題から排除してしまうが、病気や障がいをもつ人々への差別の中でも、とりわけ遺伝学的要因に関連する疾患等に特有の深刻な問題があるということを覆い隠してしまう。詳しくは本文参照のこと。

2.「遺伝子差別」の歴史

〔3〕H.G.ギャラファー(1996)『ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』、長瀬修(訳)、現代書館
1939年11月、ナチ・ドイツにおけるT4計画遂行のため、各精神病院には各患者たちの状態を報告することが求められた。そのための説明文書には次のように書かれている。(58頁)
「報告さるべきすべての患者は以下のとおり。
1、以下の病気により掃除等、施設での機械的作業にしか従事できない者
 精神分裂病
 てんかん(器質性でない場合は、戦傷や他の原因を記入すべし)
 老人性疾患
 治療に反応しないマヒや他の梅毒性障害
 原因を問わず知的障害
 脳炎
 ハンチントン舞踏病や他の慢性神経性疾患、もしくは
2、少なくとも5年以上入所している者、もしくは
3、犯罪性精神病者として保護されている者
4、記録と国籍により、ドイツ国民でない者、もしくはドイツもしくは関連する血統でない者」

@ユダヤ人大虐殺への道筋をつけたT4計画(障害者「安楽死」計画)は、これまでヒトラーやナチ党の優生思想に基づく政策だと言われてきた。しかしギャラファーは、T4計画に「優生学はさして重要な役割を果たしていなかった」と言う。たとえばこの説明文書に見られるように、ガス室送りにする際の選別基準には、遺伝性の病気だけでなく、「老人性疾患」や「脳炎」など明らかに遺伝とは関係のない疾患名が挙げられている。「知的障害」については、わざわざ「原因を問わず」という但し書きさえ付いている。たしかに当時の「優生学」では、「犯罪性」の遺伝といった、現在では否定されている点についても研究されていたが、ナチ・ドイツにおける所業をみれば、当時の限られた研究上の知見からさえも著しく乖離してゆく過程において生み出されたことは明らかである。「遺伝学」が政治的に"利用"されることの危険性を示している。

〔4〕ダニエル・J・ケヴルズ(1993)『優生学の名のもとに』、西俣総平(訳)、朝日新聞社
@おもに英米における「優生学」の展開と遺伝子差別に関して。

〔5〕Howard M. 1992: The Stigma of Disease: Implications of genetic screening. In: The American Journal of Medicine, vol. 93, p. 212.
「合衆国においては、多くのアフリカ系アメリカ人たちが、保因者であることによって、健康保険や生命保険、雇用機会を拒絶されるというかたちで、スティグマが付与された。合衆国空軍アカデミーへの入学さえも拒否されたのである」
@1970年代米国における鎌状赤血球症スクリーニングに関連した遺伝子差別について。マーケルは、多くの遺伝疾患のなかで、しかも他のさまざまな社会的ニーズのなかで、なぜ鎌状赤血球症だけに焦点が当てられたのかに疑問を呈している。まだ鎌型赤血球症には決定的な治療法はなく、最も健康へのリスクの高い乳幼児について確実な検査結果を得る技術も開発されていなかったからだ。さらに、たとえば地中海沿岸地域出身の人々などにも鎌状赤血球症がみられるにもかかわらず、黒人だけにスクリーニングを義務づける法律が作られたのは不可解だという。これは黒人の政治的影響力が増してきたことにも関連している。「もっと切迫した他の健康問題や社会経済的問題が山積するなかで、アフリカ系アメリカ人たちが直面している『致命的な健康問題』として比較的まれな疾患に焦点を合わせることは、いくつもの極めて否定的な政治的含意を示している」。

〔6〕米本昌平(1995)『先端医療革命』、中央公論社
@本文に関連する部分に関して言うと、1970年代米国における鎌状赤血球症に関連した差別についての比較的詳しい記述がある(64〜67頁)。

3.雇用における遺伝子差別

〔7〕Karen Rothenberg et. al. 1997: "Genetic Information and the Workplace: Legislative Approaches and Policy Challenges," Science, vol. 275, pp. 1755-1757.
@米国における遺伝子差別禁止立法の経緯について。1975年、ノースカロライナ州では、雇用者が鎌型赤血球症またはヘモクロビンC症の形質をもつ人々を差別することを禁止する法律が作られた。その後、4つの州で同様の立法がなされた。

〔8〕茂木毅(1994)「遺伝子プライバシー:第三者による遺伝子診断の利用とその制限」『ジュリスト増刊 情報公開・個人情報保護』有斐閣、249-253頁
@1991年の遺伝子検査に関するウィスコンシン州法が紹介されている。遺伝子検査に関する包括的な(特定の疾患に限らない)立法としては米国初。雇用者だけでなく、職業紹介所や労働組合、資格試験実施機関および保険会社が、遺伝子検査またはその結果に関する情報を要求することが、一定の場合を除いて禁じられた。以降、ほとんどの州が何らかの反遺伝子差別立法をもつに至っている。

〔9〕斉藤明子(1991)『アメリカ障害者法(全訳・原文)』、現代書館
@連邦レベルでの反遺伝子差別立法としては、「アメリカ障害者法(ADA)」(1990年成立、1992年施行)が挙げられる。15人以上の従業員を有する事業体は、求人手続き、採用や解雇、その他の雇用条件に関して、「資格のある障害者を障害ゆえに差別してはならない」(第102項(a))。「資格のある(qualified)障害者」とは、「適切な設備(配慮)があれば、…職務に伴う本質的な機能を遂行できる障害者を指す」(第3項(二))。「職務に伴う本質的な機能」が何であるかは雇用者の判断に委ねられるが、差別の申し立てに対しては、「仕事に関連しており、事業上の必要性に合致する」ことについて弁明を行う責任がある(第103項)。

〔10〕松田一郎(2001)「アメリカにおける遺伝情報による雇用差別防止法の成立とその背景」、「Molecular Medicine」38、552-558頁
@2000年、クリントン米大統領(当時)は、「連邦公務員採用時における、遺伝情報に基づく差別を防止するための特別命令」に署名した。これによって、連邦政府およびその資金を受けた事業者が遺伝学的情報を取得することが規制され、その情報に基づく差別が禁止された。

・松田一郎「遺伝子医療と生命医学倫理」(2006)、日本小児神経学会「脳と発達」38-2、95-100頁
@遺伝子差別に対する各国の法、各学会ガイドラインの概要がまとめられている。WHO「遺伝医学における倫理問題の再検討」(2001年)に関する記述がある。また「遺伝カウンセリング」について、「"非指示的"の名の下に、カウンセラーが専門的な洞察をクライアントと共有することを拒否するのは、クライアントの便益を損ない、十分な協力を拒んだことになる」というアメリカ人類遺伝学会委員会の見解を紹介し、「支援的モデル、協議的モデル(deliberative model)」に言及されている。

〔11〕山本龍彦/一家邦綱(2009)「医事法トピックス:アメリカ遺伝情報差別禁止法」、「年報医事法学」(24), 241-247頁
@上記の米大統領令の適用は、連邦政府およびその資金を受けた事業者だけに限られていたが、2008年5月に成立した「遺伝情報差別禁止法(GINA)」によって、15人以上の従業員を抱える民間企業にも適用が拡大された。
(http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/23601/02360117.pdf)

〔12〕甲斐克則(2007)『遺伝情報と法政策』成文堂
@特に米国の立法について、吉田仁美「第1章 アメリカにおける遺伝子差別規制の動向」。遺伝子例外主義について、山本龍彦「第2章 遺伝子例外主義に関する一考察」、瀬戸山晃一「遺伝子情報例外主義論争が提起する問題」。「遺伝子例外主義」とは、「遺伝情報は、特別な保護または格段の例外的取り扱いを受けるに値するほど他の医療情報と異なる」と考える立場のことである(41頁)。これに対しては、遺伝学的情報を他の医療情報とは別格のものとして特別視する理由はなく、「他の医療情報を含めた包括的なプライバシーほどのあり方を模索したほうが公正かつ効率的である」などの批判が向けられている。雇用や保険の分野で「遺伝子情報」の利用を法的に規制するとすれば、その内容の厳密な定義が要求される。その定義に関する論争のキーワードが、「遺伝子例外主義」である。
実際、米国の反遺伝子差別立法における各州の定義もさまざまである。山本龍彦は、これらを「限定型」と「広範型」および「折衷型」に分類している(45〜47頁)。(a)テキサス州などで採用されている「限定型」の定義は、検査時点において無症状で、もっぱら遺伝性要因によって生ずる疾患に関する遺伝学的情報に限定している。この場合には、すでに発症している疾患に関する遺伝情報や、疾患に直接関連しないDNA型情報などは含まれないことになる。(b)アリゾナ州法など近年の立法に多い「広範型」は、「遺伝情報を『個人または家族から獲得される遺伝子、遺伝子産物、遺伝特性に関する情報』と広く定義し」ている。「こうした定義の下では、身長、目の色、性別といった情報や、遺伝子と環境が相互に作用する心臓病、がん、糖尿病、精神疾患のような多因子疾患にかかる情報なども『過剰包摂(over-inclusive)』されることになる」。(c)「折衷型」に分類されるミシガン州法では、「遺伝情報を『遺伝子テストによって獲得される遺伝子、遺伝子産物または遺伝特性に関わる情報』として限定的に定義するが、その『遺伝子テスト』についてやや広範な定義を与える」ことで調整を図っている。つまり、「遺伝情報」をDNA配列や染色体等を調べるいわゆる遺伝子テストの結果に限定し、健康診断や日常的な血液検査などの情報は含まないが、健康診断等の情報が「『遺伝子または染色体の存在、不存在、変異を具体的に決定する目的で実施される場合』には、『遺伝子テスト』に含める」。

〔13〕The American Society of Human Genetics and The American College of Medical Genetics. 2000: "ASHG/ACMG STATEMENT: Genetic Testing in Adoption", American Journal of Human Genetics, 66: 761-767
@アメリカ人類遺伝学会は、1991年のレポートで、養子候補者の家族歴や遺伝学的情報の収集は「養子縁組手続きの必須事項にすべきである」と勧告していた。しかし2000年のこの声明では、「一部の親たちは『完璧な子ども』の保証を期待する」などの「潜在的問題」についての認識のもと、養子縁組の際の遺伝子検査は、大人になるまでに発病し、有効な治療法のある疾患についての検査に限るべきであり、「通常の範囲内の身体的、精神的あるいは行動上の素質ないし遺伝子多型を探ることを目的とした検査をすべきでない」と勧告している

・米国立ヒトゲノム研究所ホームページ、"Cases of Genetic Discrimination"(http://www.arsvi.com/b1990/9106sa.htm
@雇用や保健の分野における遺伝子差別の事例についてまとめられている。簡略な記述だが、ここには遺伝子差別の存在について争われている議論のあらましが述べられている。
 上記の『生命倫理百科事典』の「遺伝子差別」の項では、「現代の社会で遺伝子差別が行われている経験的な証拠はあまり多くない(somewhat slight)」と書かれている。これだけを読めば、あたかも「遺伝子差別」は実際にはほとんど起こっていないように見える。しかしこの記述は、米国では90年代から「遺伝子差別」についてテレビ番組などで盛んに取り上げられ、その恐怖が煽り立てられたという背景を知らないと誤解されてしまう。対立の図式をあえて単純化すれば、遺伝子差別を糾弾するThe Council for Responsible Genetics (CRG)→文献〔14〕に対し、遺伝子差別は実際にはほとんど存在しないという姿勢をとる経済界、とりわけ保険業界(→文献〔18〕)が挙げられる。慎重な態度を取る学者たちは、文献〔15〕にみられるように、騒がれている遺伝子差別の事例は、差別を受けたと主張する当事者のみを対象とした調査に基づいているため、より客観的な調査が必要であることを指摘している。

〔14〕The Council for Responsible Genetics (CRG). 22001: "genetic discrimination: position paper".
http://www.councilforresponsiblegenetics.org/pageDocuments/2RSW5M2HJ2.pdf
@「責任ある遺伝学のための協議会」は、遺伝子差別に反対する学者と市民からなる民間団体である。独自の調査にもとづいて数百件の遺伝子差別の例を記録したと主張している。次は、その「声明文」に挙げられている雇用差別の一例。
「キムさんは幅広い人的奉仕活動を行うソーシャル・ワーカーである。慢性疾患をもつ人々のためのケアリングについての職員ワーク・ショップの際、キムさんはハンチントン病で亡くなった彼女の母親の世話を担っていたことに言及した。キムさん自身、この致死的疾患を発病する50%の可能性をもつ。そのリスクを明かした一週間後、キムさんはその仕事を解雇された。解雇の一ヶ月前、非常に優秀な業績への評価を受けていたにもかかわらず、である」
「雇用者や保険会社は、差別的な仕方で遺伝学的情報を使い続けるであろうし、ますます多くの人々が遺伝学的体質をもとにして烙印(スティグマ)を押されるであろうと強く信じる」

〔15〕Otlowski, M. F. et al. 2003. "Genetic discrimination: Too few data". European Journal of Human Genetics, vol. 11, pp. 1-2.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12529697
@遺伝子差別の事例に関する論文のレビュー。これまでの調査はもっぱら「多くの場合、匿名の個人の主観的印象に頼っている」。(結論として)「遺伝子検査が利用可能な地域における遺伝子差別に関する包括的調査が喫緊に必要とされている」。

〔16〕Department of Labor/Department of Health and Human Services/Equal Employment Opportunity Commission/Department of Justice, 1998: "Genetic Information and the Workplace". (http://www.genome.gov/10001732)
世論調査会社ハリスによる1997年の電話アンケートによれば、63%の人が、「もし健康保険会社や雇用主がその結果にアクセスできるならば、諸疾患に関する遺伝子テストを受けたくない」と答えている。また、「乳がんの〔リスクを高める〕遺伝子変異をもつ女性たちが健康を保つ方法を知るために企画された多年次にわたるペンシルバニアでの調査では、研究への参加を呼びかけられたハイリスク女性の3分の1近くが、プライバシーの侵害や差別への恐怖から参加を断っていることが報告された」。
@1998年1月20日に出された、《米》労働省、厚生省、雇用機会均等委員会、司法省によるレポートより。

〔17〕U.S. Census Bureau. 2010: "Income, Poverty, and Health Insurance Coverage in the United States: 2009," p. 34. (http://www.census.gov/prod/2010pubs/p60-238.pdf)
@米国統計局による2009年調査資料。米国における2009年の無保険者数は5千万人を超えた(全国民の16.7%)。

〔18〕Nowlan, W. 2002: "A Rational View of Insurance and Genetic Discrimination," Science, vol. 297, pp. 195-196.
http://www.sciencemag.org/content/297/5579/195.summary
@「生命保険会社の医療主事」 であるW・ノウランが、「サイエンス」誌に寄稿した文章。当時審議中であった連邦遺伝子差別禁止法は、不必要であるばかりか有害であると強く主張している。〔とりわけ以下の文章はメモ用の部分粗訳と要約なので、引用される方は自ら原文を確認してください――小椋〕
「そうした法律は象徴的な目的には役立つだろうが、かれらの立法の合理的根拠付けには瑕疵がある。健康保険会社による遺伝子差別の恐れは明白かつ現在の危険だという誤った信念は、明白かつ現在の危険を示している」。ELSIの文献には、そうした断定が満ちている。しかし1998年のHall and Rich*の調査において、現存の反差別立法が差別を減らす効果をもっているかが調べられたが、「その驚くべき結果は、何の計測可能な影響も見出されなかったというものだ。なぜなら、それらの法律は、実在しないように見える問題に向けられていたからだ」
「この国では、潜在的にはみんなが社会保障を通じて生存のための給付金を受ける資格があるが、しかし生命保険は社会的権利ではない。私的保険のシステムは金銭的なセーフティネットを提供するが、それは任意であり、公的助成を受けていない。個人生命保険は、事実上、保険者によって同意された死亡リスクにしたがって、保険金と交換に死亡給付金を支払う商取引である」
「もろもろの批判は、みんなに最も低いレートが適用されないのは、基本的に不正義だと主張する。しかし、低リスクの人々が、事実上、非自発的に、高リスクの他人の死亡給付金のために、税控除されない寄付を要求されるということが、より『フェア』なのだろうか? 生命保険の購入に関する限り、それは個人の選択の問題であり、フェアネスが役割を果たすとしたら、保険者がリスクを適切に分類し、それにしたがって課金することなのだ」
「そのような『情報の不均衡』〔民間保険の場合では、加入者が知る遺伝学的情報を保険会社が知らないということ――小椋注〕は、自由市場の有効な機能に深刻な破壊をもたらす可能性があるとする経済学的理論は、ますます増加している」
乳がん遺伝子の発見は、そのほかの一般的な病気の素因に対する検査の先駆けなのではないかと思う人もいる。しかし同様の「爆弾遺伝子」は発見されていないし、乳がん遺伝子にしてもその死亡率増は、喫煙のそれに比較しうるようなものだ。
「すでに医療記録のなかに存在する遺伝子検査結果を、生命保険会社に対して選択的に隠そうとするいかなる企ても、極めて問題があるということがはっきりするだろう。法的規制の擁護者は、保険者たちを規制の地雷原に追い込むことの社会的病を認識すべきだ。そこでは、契約に関するいかなる不利な決定も、日常的に集められる(ただし保護された)情報を考慮したせいだとみなされるのだ」

* Hall, M. A./S. R. Rich, Genetic Privacy Laws and Patients' Fear of Discrimination by Health Insurers: The View from Genetic Counselors. In: The Journal of Law, Medicine & Ethics, Volume 28, Issue 3, pages 245-257, September 2000. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1748-720X.2000.tb00668.x/abstract

・平凡社『大百科事典』、1984年、「逆選択」の項
「保険事故発生の可能性の高い危険保持者が、自己に有利な保険に加入しようとする傾向をいう。保険者(保険事業を営む者)が自己にとって好ましい保険事故発生の可能性の低い危険を選択する傾向があるのに対して、保険契約者(保険加入者)側がその逆の傾向を示すので、こういわれる」
@生命保険における遺伝子差別に関する議論には、「逆選択」という言葉がよく出てくる。ふつうは消費者が保険商品を選ぶという意識が強いので奇妙な言い回しに聞こえるが、保険会社からすれば自社が保証するリスクを「選択(危険選択)」し、高いリスクを抱えた消費者が自分に都合の良い商品を選ぶことを「逆選択」という。

〔19〕European Society of Human Genetics. 2003: "Genetic Information and Testing in Insurance and Employment: Technical, Social and Ethical Issues. Recommendations of the European Society of Human Genetics," European Journal of Human Genetics, 11, Suppl 2, S11-S12.(日本人類遺伝学会のページに松田一郎氏による仮訳あり http://jshg.jp/resources/ )
「基礎的保険は社会の構築における本質的要素である。『基礎的保険』を構成するものは何かという定義は政策論議に俟つべきであり、各国内での社会的および政治的な交渉の問題であるに違いない。この基礎的保障の水準や、公的保険によって提供するか民間保険によるのかといったメカニズムもまた個別の国での協議事項である。だが〔基礎的保険の提供は〕個人の遺伝学的体質に左右されてはならない。それ以下ならば遺伝学的情報を開示しなくてよいという保障限度を設定することで、民間保険の範囲において社会的連帯の一部を担うことができるだろう。このようなシステムにおいて、すべての顧客が同額の保険料を支払い、現在または将来の遺伝学的〔疾患による〕不利益をカバーしあうことで、社会的連帯の基本的要素を担うことができる」
@生命保険は単なる「商品」であり、保険会社が契約を遺伝学的情報によって選別することは許されるのか、それともそうした選別は許されないのか、という二者択一的な議論は、解決不可能なアポリアに突き当たると小椋は考える(本文参照のこと)。その点で、ヨーロッパ人類遺伝学会による2000年の声明で、「基礎的保険(basic insurance)」という概念が打ち出されていることは注目に値する。要するに、「これこれの金額までの生命保険の契約には遺伝学的情報は用いられてはならない」という規制を設けるべきだというのだ。基本的な生活の質(「基礎的ニーズ」)を満たすためには、健康保険だけでなく生命保険にも不可欠な役割がある。たとえばイギリスでは、住居を買うためのローンを組むためには生命保険に加入することが必要だが、遺伝性疾患をもつというだけで生命保険加入を拒否されるなら決して住居を買うことができない。そこで、10万ポンド(約1700万円)以下の保険加入には、ハンチントン病に関する遺伝学的検査の結果を開示しなくてもよいとされている〔20〕。2009年7月31日に成立したドイツの「遺伝子診断法」は、保険金総額30万ユーロ(約3400万円)あるいは年額3万ユーロ以下の生命保険あるいは就業不能保険、介護年金保険の契約前および後に、保険会社が遺伝学的検査の実施およびその結果を要求することを禁じている〔21,22〕。この声明も言うように、どこまでを「基礎的ニーズ」とみなすかは各国で議論されなければならないが、民間の生命保険にも《一定の》公共性があり、「社会的連帯」原理のもとに《一定限度の保障》については遺伝学的情報を用いるべきではないという規制を設けるべきである。

〔20〕武藤 香織(2000)「逆選択の防止と「知らないでいる権利」の確保 〜イギリスでのハンチントン病遺伝子検査結果の商業利用を手がかりに」、「国際バイオエシックスネットワーク」第30号、11-20頁
http://www.arsvi.com/2000/001000mk.htm

〔21〕山口和人(2009)「【ドイツ】遺伝子診断法の制定」、『外国の立法』240-1
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/24001/02400107.pdf

〔22〕甲斐 克則(2010)「医事法トピックス ドイツの「人の遺伝子検査に関する法律」」、「年報医事法学」(25), 197-201頁

〔23〕立岩真也(2000)『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術』、青土社
「自分の遺伝子を調べる前に保険に入ってしまうことで、検査を受けることと差別されないで保険に加入することとを両立させることはできる」(209頁)
「本人が遺伝子検査を受けその結果をすでに知っている場合には、その情報の提供を求め情報に基づいて保険加入の可否を保険会社が決め、保険料を査定することを許容する。しかし、検査を受けること、検査結果を知らせることを要請すること、情報提供の有無と情報の内容によって格差をつけることを禁ずる。以上がとりうる方策である」(209頁)
@しかし(小椋の)私見によれば、遺伝学的検査を受けようと思う人は、すでに家族歴または何らかの症状をもつ場合が少なくないと私には思われる。たとえ契約後に検査したとしても、遺伝学的原因が発見されれば、契約以前からの症状と結び付けられ、保険会社による契約解除や保険金不払の根拠とされる可能性がある。これについては、契約後の遺伝学的検査に関する情報の利用を禁止することで対処することもできるだろう。しかし、検査前であっても遺伝疾患の可能性が高いと思われる人が高額の保険に加入する可能性を排除できず、また検査によって陰性と分かれば加入者のほうから契約を解除することも考えられる。そのためヨーロッパの対応は、限度額の設定という方策を採らざるを得なかったと思われる。ただし、疾病に関係する遺伝学的素質をもつ人が限度額以上の保険から排除されることに問題はないのかという指摘がある〔2:122頁〕。また一定額以上の保険契約のために受けた遺伝学的検査によって、偶然に重大な疾患の可能性が発見された場合、「知らないでいる権利」を脅かされる危険性もある。さらに、日本の現状から言えば、一定限度額以下の保険に関して遺伝学的情報の使用を禁じることは、それ以上の生命保険には遺伝学的情報の使用を認めることをも意味するため、かえって高額保険における遺伝子検査が普及するのではないかとも懸念される。それにもかかわらず、下記文献〔31〕がいうように、日本においても「実際には患者と調査員との間で微妙な駆け引きが始まりつつある」状況があるのだとすれば、疾患に関係する遺伝的要因をもつ人々が少なくとも「基礎的保険」に加入する権利をもつということを明確に規定する必要があると小椋は考える。一定限度額以上の保険契約に遺伝学的検査を要求する企業が日本に現れるとすれば、その保険会社は被保険者への説明や心理社会的相談の実施義務をはじめとした様々な責任を負うという事を明確に認識する必要がある。

〔24〕小林道夫/山下友信(2006)「責任開始前発病による高度障害保険金不払と真偽則違反」、生命保険文化センター「保険事例研究会レポート」204 (http://www.jili.or.jp/research/search/pdf/E_204_1.pdf
・2000年7月30日朝日新聞「重度障害の保険金支払い請求、遺伝子診断結果で拒否 加入者が生保提訴」(http://www.arsvi.com/d/gt.htm

〔25〕蒔田 芳男/羽田 明(2004)「生命保険加入における遺伝情報の取り扱いに関する現状と問題点」、「日本マス・スクリーニング学会誌」14(1)、17−23頁
@旭川医科大学の羽田明教授らは、通常の新生児スクリーニングにおいて陽性と判定された赤ちゃんたちが、生命保険等への加入を断られている実態を調査によって明らかにした。これによれば、先天性甲状腺機能低下症とフェニルケトン尿症と診断された計105人の子どもたちのうち、90人が保険加入を試みたが、43人が断られたとされる。「加入できたのは、病名を告知しなかった36人と、出生前に加入手続きを済ませたり、外資系保険を選んだ人だったという」*
*2002年4月18日毎日新聞「保険拒否 先天性の病気持つ子供に郵便局が」(永山悦子)http://www.arsvi.com/d/gt.htm
・日本人類遺伝学会(ほか)(2002)「「新生児マススクリーニング検査と生命保険」における遺伝情報の取り扱いに関する現状認識とそれに基づいた提言」(http://jshg.jp/pdf/20021000.pdf

〔26〕小林 三世治(2002)「新生児マス・スクリーニングと生命保険の危険分類」、「日本保険医学会誌」 100(1), 101-113頁
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004697881

〔新生児スクリーニングの結果も、〕「通常の定期健康診断における血液検査と同様」〔に、生命保険加入の告知事項である〕。「これを『遺伝情報』とするならば、・・・先天性心疾患において聴取される心雑音も『遺伝情報』といわざるを得ないし、さらに、視診でわかる先天性の口唇裂・口蓋裂あるいはダウン症候群における顔貌も『遺伝情報』になってしまう」
@「第一生命相互保険会社」の小林氏による論文。羽田教授らの調査が話題になった時期に書かれている。文献〔18〕のノウランも述べているように、「遺伝情報」とされる情報の範囲が際限なく広がれば、保険会社の査定業務は成り立たなくなるといった趣旨である。文献〔12〕でも扱われているように、たしかに遺伝学的情報の定義をめぐる問題は検討すべき点を多く含んでいる。しかし文献〔25〕でも触れたように、フェニルケトン尿症と診断されても「外資系保険」には加入できた例があることからすると、日本の保険会社は、遺伝子差別の問題についての認識不足から、遺伝的要因をもつ疾患を抱える人々に対して、諸外国の保険会社よりもむしろ厳しい態度をとっている現状があるのではないか。また小林は、民間生命保険は「任意契約」の商品であり、「連帯性」に基づく社会保険とは全く異なるとしているが、ヨーロッパ人類遺伝学会がいうように、民間生命保険にも社会的連帯に基づく一定の責任が存するということを認識すべきである。

〔27〕福島義光(監修)/玉井真理子(編)(2007)『遺伝医療と倫理・法・社会』、メディカルドゥ
@遺伝医療と遺伝相談、関連法制に関する良書。本文では「遺伝学的情報」という概念の定義に関して、涌井敬子「遺伝子検査」〔27:99頁以下〕を参考にした。原則として「遺伝的」ではなく「遺伝学的」という言葉を用いるのは、すべての「遺伝病」は「遺伝する」もの、あるいは「遺伝による」ものだという誤解を避けるためでもある〔11頁〕。次の信州大学のページも参照のこと。
「遺伝医学の基礎知識」 http://genetopia.md.shinshu-u.ac.jp/genetopia/basic/basic1.htm

〔28〕石田清彦(2007)「高度障害保険の責任開始期前発病不担保条項の解釈と信義則」、「ジュリスト」1334、246-248頁
@文献24で扱われている障害保険金支払いをめぐる訴訟について、「契約時までの医学水準ではその症状の原因を明らかにすることができなかった」という前提の上で、本人が保険会社に対して当時の症状についての十分な説明を行っていたとすれば、保険会社は、契約時における契約後の危険選択に関する十分な説明なしに、保険金不払いを主張すべきではないと述べられている。

〔29〕山下 典孝(2004)「金融商事判例研究 高度障害保険金請求権の支払要件は充足していないとしながらも保険会社の支部長の対応等から高度障害保険金の支払いを拒否することは信義則違反に該当するとして支払いを認容した事例--大阪高判平成16.5.27」、「金融・商事判例」1198, 62-68頁
@同上の訴訟について、「確定診断を受けたという事実が、保険金支払いを左右しているものではないし、Y社〔保険会社〕はそのことをもって支払を拒否しているわけでもない」等の理由から、信義則違反という判断の妥当性を否定している。石田論文と山下論文を比較すると、法律家のあいだでも意見が分かれていることが分かる。

〔30〕山野 嘉朗(2003)「判例研究 高度障害保険金請求権と遺伝子疾患の責任開始期前発症(神戸地判平成15.6.18) 」、「愛知学院大学論叢, 法学研究」45(1・2), 120-96頁
〔文献24で扱われている判決の要約〕「本件は、保険加入のため遺伝子情報の提供が必要とされたケースではない。したがって、保険に加入するに当たっての遺伝子情報の取り扱いや、遺伝情報のコントロール権などの議論は本件では妥当しない」〔105頁〕
@本件では、たしかに「保険加入」ではなく「保険金支払い」に関して遺伝学的情報が用いられた。しかし遺伝学的情報の取り扱いに関する議論は、健康上の必要があっても遺伝子診断を受けることを躊躇しなければならない事態を避けることに向けられてきたのであるから、「保険金支払い」に関しても考慮されるべきである。この判決に関するかぎり、将来にわたる遺伝医療をめぐる倫理的問題への関心がほとんど見られないことに強い危機感をもたざるをえない。

〔31〕武藤香織ほか(2000)「日本の遺伝病研究と患者・家族のケアに関する調査――家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)を対象に」、三菱化学生命科学研究所「Studies 生命・人間・社会」4、1-93頁
@入手困難であるが極めて貴重な資料。小椋は国会図書館からコピーを取り寄せた。この資料をお持ちの方はぜひ大学図書館などに寄贈してほしい。以下要約。
 FAPは常染色体優性の遺伝疾患であり、多くは20歳代後半から30歳代に発症し、手足のしびれや内臓障がいなどが進行し、多くの患者は発症から約十年で亡くなるという難病である。ただし今日では、初期に肝臓移植を受ければ進行を止めることができる。1966年に病名が確定され、84年には遺伝子検査が可能になった。日本では地域的に患者が集中しているが、「この病気は戦後しばらくのころ、当地で特定の家筋に集中する奇病と考えられ、その名字をつけた『○○病』という呼ばれ方をしていた」〔31:4頁〕。その病態の悲惨さを目にした周囲から疎まれ、「孤立するようになったその家系では、発病した人が次々と亡くなっていき、自然に、その名字を名乗る人も絶えてしまった」。しかしその後も付近の同じ地区一帯で同様の症状を示す人が多かったために、やがてその地区名をつけた「××病」という名前が浸透するようになったという。病因が判明したことによって、「FAPがたたりや風土病でないことが明らかになったが、一方で、差別意識をよびさまし、正当化するような、新たな医学的根拠を与えることにもつながった」。
具体的な差別としては、「結婚忌避が中心であった」とされる〔11頁〕。ある女性は結婚の直前になって不可解な理由によって拒絶されたが、相手の親類である看護師が偶然知りえたことを伝えていたのがその原因であったという。1996年の調査では就職や保険加入における差別については聞かれなかったが、1999年ごろからその具体例が語られるようになったという〔15頁〕。日本の主要保険会社による研究会報告書によれば、希少な遺伝疾患に関する情報を保険加入の査定に用いる考えはないとされている。しかし米本らの報告書には、「実際には患者と調査員との間で微妙な駆け引きが始まりつつある」と書かれている。
日本における患者とその家族が抱える困難の特質として、問題が表面化しにくいという点が挙げられるだろう。あからさまな差別的言動が比較的少ない代わりに、裏で囁かれたり忌避されたりすることによって、患者や家族は孤立しがちになる。当事者たちにおいても、いわゆる"世間の目"を避けたいという傾向が非常に強いと思われる。たとえばFAPの患者会「道しるべの会」が発足する際、患者同士の交流を図るために会員名簿を作成しようとしたところ、それに異議を唱える患者や家族たちが現れたという。「自分や家族がこの病気の家系であることを知られたくないからである。会員名簿を保管するのは誰なのか、部外者に流出する恐れはないのかといったクレームが殺到した」〔49頁〕。結局名簿は事務局長だけが預かっている状態が続いている。また、遺伝している可能性がある子どもにさえ、親はなかなか事実を伝えられないという〔59頁以下〕。このような傾向をもつ患者や家族のケアには、極めて繊細な配慮が必要とされる。また日本における遺伝子差別について議論する際には、現実の問題が水面下に沈潜しやすいという点に、ことさら注意を向ける必要があると思われる。

〔32〕米本昌平(2006)『バイオポリティクス』、中央公論社
@文献〔31〕の調査に関して、次のように述べられている。
「調査を始めて、ただちに私は激しい憤りに襲われた。FAPの患者・家族は、差別を恐れて徹頭徹尾事実を隠し、本来受けられるはずの医療・保健・福祉サービスから遮断されたまま、最近まで想像を絶するほど厳しい状況に耐えて暮らしていた」〔73頁〕

その他ガイドライン等
遺伝ねっと(京都大学)「遺伝医学・遺伝医療に関するガイドライン」に詳しい
http://idennet.kuhp.kyoto-u.ac.jp/w/index.php?guideline

遺伝医学関連学会「遺伝学的検査に関するガイドライン」(2003年8月)
http://jshg.jp/pdf/10academies.pdf

日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(2011年2月)
http://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf


UP: 20111007 REV:
遺伝子…  ◇全文掲載 
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