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池田 敬二「日本独自の電子出版のかたちとは――クロスメディア時代の出版印刷・31」

2011/09『プリバリ印』2011年9月号, 日本印刷技術協会, 34-35.

last update:20110920

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  クロスメディア時代の出版印刷 31
  池田敬ニ
  日本独自の電子出版のかたちとは

 7月7日(木)から10日(日)まで、東京ビッグサイトにて「第18回東京国際ブックフェア」が開催された。同時開催された「第15回国際電子出版 EXPO」(旧デジ夕ルパブリッシングフェア)は、出展社数が前年の81社から150社へと増加し今回のブックフェア全体(4日間)の入場者数は8万8,767人。前年比101.5%と微増にとどまったが、ビジネスデイ(7〜8日)の来場者数は前年を1万人近く上回った。ビジネスとしての電子出版に依然として注目が集まっていることの証明といえる。今年のブックフェアを振り返り、日本の電子出版の状況を改めて検証してみる。

  見えてきた日本独自の電子出版のかたち
 筆者は、これまで開催されてきた18回の東京国際ブックフェアのうち、第2回から第17回までの大日本印刷のブ一ス設営、運営にかかわってきた。今年は電子出版制作?流通協議会(電流協)に出向したこともあってブース運営から離れたが、電流協のセミナー「見えてきた、日本独自の電子出版のかたち」の運営に携わった。電流協技術委員会委員長の植村八潮氏(東京電機大学出版局局長)の基調講演に加え、電流協流通委員会委員長岸博幸氏(慶応義塾大学大学院教授)をコーディネーターに、小城武彦氏(丸善CHIホールディングス社長)、小林泰氏(ビットウェイ社長)によるパネルディスカッションを行った。
 植村委員長の基調講演では現在の電子出版の状況を3つの流れから説明(図)。1つ目は「プリバリ印」読者にはなじみが深いと思われる紙の出版物をつくってきたDTPの流れをくむ交換フォーマット(XMDF、ドットブック)、2つ目はウェブコンテンツの流れであるEPUB、3つ目は多機能電話(フィチャーフォン)からスマートフォンといった携?電話の機能拡張の流れである。この3つの流れが融合しつつあるのが、現在の電子出版の状況と捉えることができる。今回は、この3つ目の流れであるスマー

図 電子出版三つの流れ
(作業者注:現在の電子出版に次の3つの流れが合流している図
@出版物の流れ:出版物DTP→交換フォーマット→専用端末→現在の電子出版
Aケータイコンテンツの流れ:多機能ケータイ→スマートフォン→現在の電子出版
Bウェブコンテンツの流れ:ウェブコンテンツ→EPUB→タブレットPC→現在の電子出版)


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トフォンにフォーカスを当てて、日本独自の電子出版 のあるべき姿を検証してみる。

  スマートフォンにみる日本人の読書習慣
 パネルディスカッションで小城社長が強調したのは、スマートフォンが日本人の読書習慣に合致したデバイスとして期待が持てるということであった。通勤や通学などの移動中や隙間時間に読書することに慣れている日本人には、スマートフォンが合っているというのである。満員電車のなかでもスポーツ新聞や文庫本を読む日本人だからこそ、片手で操作できるスマートフォンはたしかに読書習慣との親和性が高いと思われる。
 こうした日本人特有の「移動しながらの読書習慣」に関する興味深い分析がある。永嶺重敏『<読書国民>の誕生』(日本エディタースクール出版部)の第三章「車中読者の誕生」だ。明治以降の近代 交通機関の発達が、出版流通や人びとの読書生活に急激な変化をもたらしたことが詳細に示されている。近代の鉄道網の全国的な拡大は活字メディアの国内流通網の形成を可能にしたが、出版物流のほかに、鉄道のネットワークに乗って全国的規模で「車中読書文化」という新たな読書形態を創出・発展させたのである。
 近世までのほとんどの旅人は自らの足で歩いて旅していたので読書する暇などなかったが、近代 の交通機関の登場によって初めて移動しながら読むという娯楽が可能になった。こうした「車中読書」の進展にともなって、娯楽性の高いコンテンツによる新聞や雑誌、さらに、明治期に「袖珍本(しゅうちんぼん)」と呼ばれた現在の文庫本が登場したというのはたいへん興味深い。つまり、いま我々に身近なスポーツ新聞や週刊誌、文庫本などはこうした「車中読書」によって誕生してきたのである。
 読書は当然ながら、車中以外の自宅や図書館でも行われる。しかしこれまでも移動中の読書が出版界にとってひとつの大きなマーケットを形成してきたのは事実であり、スマートフォンが担うであろう一定の日本人特有の読書習慣をしっかりと検証することは、決して無駄ではないはずである。どのようなコンテンツが求められるのか、最適なデバイスのサイズ、操作性などを考える上で大切なポイントとなるだろう。

  満員電車に最適なコンテンツ、デバイス、操作性
 「日本独自の電子出版のかたち」を模索してみよ う。まずコンテンツ。たとえば、満員電車に乗ることは苦痛である。それを忘れさせてくれるような娯楽性の高いコンテンツが求められることが第一に考えら れる。また、時事性の高い話題にキャッチアップしたいというニーズもあるであろう。
 そしてデバイスの大きさや操作性となると、片手で操作できることが必須であるといえる。iPadやiPhoneで身近になったピンチイン、ピンチアウトは電子出版ならではの画期的な機能だが、満員電車のなかで片手による操作は難しい。満員電車に乗る 苦痛を和らげてくれる適度な娯楽性、時事性に富んだコンテンツを片手で、操作できるデバイス。これが日本独自の電子出版市場を切り拓く条件となるので はないだろうか。


写真 第18回東京国際ブックフェアにおける電流協セミナーの様子

(作業者注:ページ上部コラム)
池田敬二[いけだ・けいじ] 
大日本印刷(株)電子出版ソリューション本部
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。
入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。“混迷の時代こそ面白い”がモットー。趣味はジャズと空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア委員会委員長。JPM認定プロモーショナルマーケター。



*作成:青木 千帆子
UP: 20110920 REV:
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