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「介護と支援財政委員会」報告・ケアラーズ・ウィーク2011

児玉 真美 201108 月刊介護保険情報,2011年8月号

last update:20120117


 「介護と支援の財政委員会」報告(英国)

 英国の「介護と支援の財政委員会the Commission on Funding of Care and Support」は7月4日、報告書Fairer Care Fundingを発表した。同委員会は、公平で持続可能な成人介護制度の財政システムを検討すべく、政府が去年7月に経済学者のアンドリュー・ディルノット氏を委員長とし、独立の委員会として立ち上げたもの。
 今後20年間で65歳以上人口が1.5倍に、90歳以上人口は3倍に、また知的障害のある就労年齢の成人人口は30%増加する、との予測に基づいて詳細なデータ分析を行い、現行制度は紛らわしく、不公平で制度維持性にも欠けると指摘した。
 例えば23,250ポンド以上の資産がある人が入所ケアを必要とする場合には、現行制度では事実上何の支援も受けられないが、英国の65歳以上で持ち家のある人の住宅資産の中間値は16万ポンド。これではほとんどの人が入所ケアを受けるために家を手放さなければならない。「高齢者の寿命が延びたことも障害のある人たちが以前よりも自立した生活を送っていることも慶賀すべき事実だというのに、我々は『歳をとることの負担』ばかりを云々し、国民は不安を抱えケア費用を賄えるのかと心配しながら暮らしている」とディルノット氏。
 そこで委員会は、@国民一人一人が生涯に支払う介護費用に上限(委員会提言は35000ポンド)を設け、それ以上は国が負担する。A資産審査による介護費用全額受給資格の上限を現行の23,250ポンドから10万ポンドに引き上げる。B入所ケアを受ける人の持ち家を担保に自治体が低金利のローンを運営し死後に売却・償還する仕組みを作る、C成人した段階で介護と支援のニーズのある人すべてに、資産審査なく国が無料の支援を行う、などの思い切った改革を提言した。
 26のチャリティが連名で提言の実行を求めた他、労働党も実現に向けた話し合いに歩み寄りの姿勢を見せているが、委員会が見積もった総額17億ポンドのコストを前に、政府の反応はどうも歯切れが悪いようだ。しかし、委員会メンバーの一人が早速メディアのインタビューに「提言通りの改革が実行されないということにでもなったら、委員会メンバーとしては“失望”なんて言葉では足りません。“不愉快きわまりない”ですね」と発言するなど、英国の介護制度を巡る議論には、これから大きな波乱がありそうだ。

ケアラーズ・ウィーク 2011
 英国で毎年6月恒例の介護者週間(Carers Week。以下CW)が、今年も6月13日から19日に行われた。
毎年、CWに合わせて家族など無償の介護者(以下ケアラー)の実態が報告されるが、現在、全英にケアラーは600万人。成人の8人に1人がケアラーだ。約6割が女性。週50時間以上のケアを担っている人が125万人。60歳以上のケアラーが150万人。ケアラーの働きは総額1190万ポンドに相当するが、ケアラー手当は週55.55ポンドで、1時間あたりに換算すると1.59ポンド。ケアラーの8割が、連立内閣の社会保障費削減方針に不安を感じている。また、この削減方針によって、国内17万5000人と言われるヤング・ケアラーへの支援までがカットされ始めている。
 そんな中、今年のCWでは去年よりも30%も多い1700の地方組織がイベントを行ったという。官邸での首相とケアラーの面談もCWの恒例行事だ。レセプションで挨拶したキャメロン首相は「皆さんは望んでケアラーになったわけじゃない。天使でもない。介護をしていると罪悪感や自己嫌悪やフラストレーションやストレスで精神的にも疲れ果てる。私も重い障害のある息子をケアした経験から分かる」と、理解と共感を示した。その上で、レスパイトに予算を組んだことを強調し、政府が取り組む課題として介護費用対効果パフォーマンス向上、官僚主義を排しケアを個別化することなどを挙げた。そして政府だけですべてができるわけではない、と改めて支援チャリティに協力を求めた。
 初めて当欄で取り上げたのは2007年だが、今年はガーディアン紙が特集記事を組み、BBCも特番を作るなど、CWもすっかり国民的行事として定着してきたようだ。
 今年のテーマは「ケアラーたちの本当の顔」。この、ちょっと不思議なテーマのココロはCWの公式サイトで、「“身勝手な豚”の介護ガイド(the Selfish Pig’s Guide to Caring)」という本の著者ヒュー・マリオット氏が本の主人公に語らせている。(右ページに全文の仮訳を掲載)なお、マリオット氏はハンチントン病の妻の介護をするケアラー。当該ページのイラストでは、語り手の豚の手に「なんでボクが?」と書かれたプラカードがある。

UP: 20120117 REV:
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