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池田 敬二「電子出版にアクセシビリティーを――クロスメディア時代の出版印刷・30」

2011/08『プリバリ印』2011年8月号, 日本印刷技術協会.

last update:20110920

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  クロスメディア時代の出版印刷 30
  池田敬二
  電子出版にアクセシビリティーを

 出版物のデジタル化によって、これまで読みたくても読むことが出来なかった高齢者や視覚障がい者などの「読書障がい者」の方々にも、待望の読書の道が開かれることになる。電子出版の技術を活用することで新たに生み出される電子出版アクセシビ
リティー市場は、 2020年には 3000億円市場になると予測されている。こうした「電子出版アクセシビリティー」を実現するための技術、展望を考察する。

  総務省委託事業「アクセシビリティーを考慮した電子出版サービスの実現」
 2010年 6月に総務省・文部科学省・経済産業省合同による三省懇の報告書として発表された「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」には、電子出版に関する課題解決に向けた具体的な指針が示されている。これを受け、 2010年度の総務省委託事業新 ICT利活用サービス支援創出事業の公募が行われた。
 一般社団法人電子出版制作・制作流通協議会(電流協)では「アクセシビリティーを考慮した電子出版サービスの実現」プロジェクトを受託した。このプロジェクトでは、一般消費者の読書機会の拡大だけでなく、視力が低下した高齢者や視覚障がい
者などもアクセス可能な環境実現のためにガイドラインの策定を行った。
 アメリカでは、 1990年に制定された「障がいを持つアメリカ人に関する法(Americans with Disabilities Act: ADA)」によって、バリアフリーやユニバーサルデザインへの取り組みがいち早く進められている。アマゾンのキンドルやアップルの iPhoneや iPadといったデバイスに読み上げ機能が搭載されているのは、そういった法整備に裏打ちされた意識の高さが表れているともいえる。

  電子出版アクセシビリティーの課題に向き合う
アクセシビリティーといえば、 iPadや iPhoneのユーザーインターフェースでおなじみのピンチイン、ピンチアウト(タッチパネル上で 2本の指で画面をつまむようにして操作すること)による文字の拡大縮小機能や、視覚障がい者が利用している音声読み上げ機能を思い浮かべる人が多いだろう。
 確かに、従来もこうしたアクセシビリティーを考慮した機能や技術は存在していた。しかし、現状ではなお課題が山積している。
 コンテンツ制作そのものの仕組みをみると、現在の読書障がい者向けの電子出版アクセシビリティーへの取り組みは、ボランティアが紙の書籍をスキャンして OCRソフトでテキストデータ化し、校正を自力で行って提供することによって支えられている
という実態がある。そのため、残念ながら一般消費者がアクセス出来る紙の書籍・雑誌・電子出版に比べて、読書障がいを持つ人々が利用可能なコンテンツは、著しく低い水準にとどまっているのだ。
 こうした認識を踏まえ、電流協は 5つの領域における 7つの仕様案、ガイドラインを策定した。いずれも、出版物がデジタル化された上で、どのような点をクリアすれば電子出版アクセシビリティーが実現出来るかという提言である。
 まずは TTS(Text To Speech)である。この連載の「印刷を『再生』させるオーディオブック」(vol.3)でも取り上げたように、デジタル化されたテキ


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ストデータは、音声に変換することが可能になる。視覚障がい者だけでなく一般消費者にとっても、音声コンテンツはライフスタイルに今後浸透していく可能性が高く、有望なジャンルといえる。
 しかし、日本語は漢字、仮名、アルファベットなどが混在しているため、読み方に複数の可能性が存在するケースが度々生じる厄介な言語である。文学作品などでは書き手がこのように読んで欲しいと思う読み方でルビを振ることがある。強調したい部
分などに傍点を付ける場合もある。このような日本語の特性を踏まえて、標準的な音声読み上げ対応の制作プロセスをガイドラインとして取りまとめ、更に適切に音声読み上げが出来るようなテキスト表記仕様も併せて取りまとめた。
 文字拡大機能では高齢者などを対象に調査を実施し、適切なサイズなどの仕様案を策定した。また、デバイスやアプリケーションの制約を解き、オープンで電子出版を利用出来る使用案も策定した。これが「オープン型電子出版DRM(デジタル著作権管理)仕様案」である。
 また、雑誌など画像情報が多い出版物からテキスト情報を抽出し、読み上げなどを可能にするテキスト抽出に関するガイドラインなども提案した。

  「電子出版アクセシビリティー市場規模」2020年には 3000億円市場へ
 電子出版制作・流通協議会 特別委員会の発表によると、2020年に読書障がい者は1500万人、市場規模は3000億円に達すると試算した。市場規模の内訳はコンテンツで500億円。残りの2500億円はデバイスやプラットフォームである。
 アクセシビリティー・マーケットをこの試算に沿って拡大するためには、市場を支える技術を標準化していく必要がある。こうしたアクセシビリティー技術を利活用して、過去の膨大な出版コンテンツにもアクセス出来る環境が整備され、誰もが読める電子出版が実現出来れば、読者にとっても出版社を始めとする出版業界にとっても、理想的な姿といえるだろう。

名称概要利用対象者
1TTS対応電子出版物制作ガイドライン出版社、制作会社などが電子出版物の制作プロセスの中で容易に音声読み上げ対応電子出版物を制作出来るよう、標準的な音声読み上げ対応の制作プロセスをガイドラインとして取りまとめた著作者、出版社、印刷会社、配信事業者、機器・アプリケーションメーカーなど
2TTS対応テキスト表記仕様案電子書籍リーダーなどが個別の対応をせず、容易に正確な音声読み上げに対応出来るよう、音声読み上げ用のテキスト表記仕様を取りまとめた出版社、印刷会社、機器・アプリケーションメーカーなど
3オープン型電子出版DRM仕様案@ DRM仕様案端末やソフトの制約を超え、読書障がい者が持っている端末などで電子出版物が利用出来るよう、水平分業型の DRM仕様案を策定した配信事業者、機器・アプリケーションメーカーなど
AUCCF更に、端末などを超えたコンテンツの利用に際して操作などのインターフェースの互換性を持たせるため、 DRMとインターフェース情報をパッケージで持ち運ぶためのフォーマット仕様案を策定した出版社、印刷会社、配信事業者、機器・アプリケーションメーカーなど
4オープン型電子出版UI仕様案@操作/ナビゲーション読書障がい者支援のために端末間で電子出版物を移動する際などに、共通的な操作性、ナビゲーションが実現出来るよう、ユーザインターフェースに関する仕様案を策定した出版社、配信事業者、機器・アプリケーションメーカーなど
A文字拡大機能また、高齢者等が文字拡大によって電子出版物を快適に利用出来るよう、拡大表示基準案を定めた配信事業者、機器・アプリケーションメーカーなど
5画像データからのテキスト抽出ガイドライン画像情報が多い雑誌などの出版物を電子出版で利用出来るようにするため、画像化された見出し、写真などの意味・内容からテキスト情報を抽出し、読み上げなどに利用するためのテキスト抽出に関するガイドラインを定めた出版社、印刷会社など
電子出版制作・流通協議会「電子出版アクセシビリティーを実現するためのガイドライン及び仕様案」の概要

(作業者注:ページ上部コラム)
池田敬二[いけだ・けいじ] 
大日本印刷(株)電子出版ソリューション本部
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。“混迷の時代こそ面白い”がモットー。趣味はジャズと空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア委員会委員長。JPM認定プロモーショナルマーケター。


*作成:青木 千帆子
UP: 20110920 REV:
全文掲載  ◇池田 敬二  ◇電子書籍 2011 
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