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「障害者権利条約下におけるコミュニケーション支援の課題」

松本 正志 2011/07/22
坂本 徳仁櫻井 悟史 編 20110722 『聴覚障害者情報保障論―─コミュニケーションを巡る技術・制度・思想の課題』,生存学研究センター報告16,254p. ISSN 1882-6539 pp. 217-222

last update:20110728


第三部

第12章 障害者権利条約下におけるコミュニケーション支援の課題


松本正志



 皆さんこんにちは。初めに自己紹介をさせていただきたいと思います。司会の方からご紹介いただきました、全日本ろうあ連盟手話通訳対策部長の松本と申します。よろしくお願いします。私は今、日本障害フォーラムという13団体が結集している議論の場で、障害者の権利条約を中心に活動しています。日本障害フォーラムには全日本ろうあ連盟から3名が代表として派遣されているのですが、私はそのうちの1人で、そういった関わりもあって、連盟から指名を受けて今日ここにやってまいりました。とにかく頑張って話しますので、よろしくお願いします。
 基調報告の内容についてですが、障害者権利条約下におけるコミュニケーション支援の課題ということに絞って報告させていただきたいと思います。
 聴覚障害者のことを、あるいは障害者権利条約のことをあまりご存知ない方を想定してお話しするのですが、障害者権利条約下におけるコミュニケーション支援についてよく勉強されている方にとっては、今からの私の話は大変おもしろくないというか、眠たい話になっていますので、寝ていただいてけっこうだと思います。
 さて、コミュニケーションに関する現在までの動きについてです。今日お配りしている資料に書いてありますように、「手話は言語」であるということが障害者権利条約のなかに記入されています。
 「言語とは、音声言語及び手話、その他の形態の非音声言語を言う」と定義されています。ここに定義されたということは、手話は言語であるということがはっきりしている。世界人権宣言に謳われておりますように、言語は平等であるということがあります。世界人権宣言の第二条に、「すべての人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見??いろんなことがあっても平等でなければならない」ということが謳われています。障害者権利条約のなかに「手話は言語」と認めている以上、手話は平等に扱わなければならないことになるでしょう。
 さて、(2)のところの権利条約採択の目前に、実は抵抗というか、反対意見が出ました。中国とロシアの2カ国です。当初、中国は手話は言語であるということを認めていたのですけれども、採択が目前に迫ってくると反対に転じました。私たち全日本ろうあ連盟としましては、そのことを大変危惧しまして、国連のロビー活動といいますか、一生懸命ロビー活動を展開して、国々の方に説得にあたって、中国に手話を言語として認めるように説得したり、中国に対してかなり強く働きかけ、やっと中国が手話を言語として認めるという話が伝わってきました。そういう経過の中で、権利条約は採択されました。なぜ中国が反対したのかといいますと、次のような理由によるものです。中国は非常に大きな国で、少数民族が国内に多く居住しています。例えば、今話題のチベットだとか、新疆ウイグル自治区の民族等、いろいろな民族がいます。もし手話を言語として認めた場合には、他の少数民族の言語も認めなければいけないということになるのではないかと中国政府は困惑し、反対に転じたということのようです。それが本当なのかどうか分かりませんが、そういうことを伺っております。ある意味では、手話を言語として認めるという考え方がまだまだ浸透していないということが実際あったんじゃないかと思っています。
 障害者権利条約が2006年12月に採択されまして、署名が2007年9月28日にされたわけです。2007年3月30日に開放して、日本の署名はほぼ6ヵ月後ということになったわけですね。なぜ6ヵ月後だったかといいますと、大きな理由として挙げられるのは、権利条約のなかに、差別の定義の中に「合理的配慮の否定を含む」と明記されており、政府は、その考え方が日本の国内法には馴染まないということで、なかなかすぐに署名に至らなかったようです。障害者運動の積極的な働きかけの中で、政府はしぶしぶ署名をしたという経緯があります。国内法の中に「合理的配慮の概念」というのは今までなかったということですね。
 今の政府は障害者自立支援法の廃止を表明していますが、障害者自立支援法ができたときに、市町村がコミュニケーション支援事業をやるということ、それ自体はいいことではあると思いましたが、実際には、市町村の財政力などにより、かなり地域格差があります。
 現在の政府レベルにおいて、どうなっているのかということですが、障がい者制度改革推進会議が進んでおり、かつてないことだと思っています。これまでは、福祉・社会保障の法律を作るときには、専門家あるいは大学の先生といった方々が集まって進言を行なったり意見を聞いたりして、そのやり取りのなかで決まっていくという方法だったのですが、今回はそうじゃなくて、障害当事者あるいはその家族が参加して、自分たちの意見で、自らの手で作っていこうという方法になっています。これは今までの歴史のなかで画期的な出来事ではないかと思っています。
 我々全日本ろうあ連盟としましては、障害者権利条約に関して、今まで要望・意見をいくつも挙げてきましたが、これからは、要望・意見についてきちんと理論的に構築して示していくという部分では必要だと思っております。
今、試されている時期だと思っています。
 コミュニケーションについての考え方についてですが、連盟としましては、コミュニケーションはろう者の基本的な権利である、ということをはっきり打ち出していますが、今までの流れをみますと、コミュニケーションは福祉のサービスというような範疇で考えられてきたきらいがあります。しかし、豊かな社会をつくっていこうと考えたときには、やはりコミュニケーション権利というのは基本的な権利として広げていかなければなりません。そうでなければ、手話は福祉サービスの範疇で矮小化されてしまいます。決してそうあるべきではありません。司法の場でも、教育の場でも、ありとあらゆる生活の場において、コミュニケーションは権利保障の基盤となる部分であるべきです。それが実現されて初めて他の人たちと対等な立場に立つことができるという意味で、我々連盟としましては、コミュニケーションは基本的な権利であるということを今後も積極的に訴え続けていきたいというふうに考えております。
 3番目のところで、情報・コミュニケーション法というのは仮称なんですけれども、我々連盟が考えているものです。中身はまだ全然詰められているわけではないんですが、さっき言いました障がい者制度改革推進会議の中で、今後、障害者自立支援法に代わって新たな障害者総合福祉法を作ることになっていますが、障害者総合福祉法の基本的な考え方の中に、応能負担という考え方があります。しかし、例えば、手話通訳派遣を依頼した時、利用者は自分の給与所得に応じてお金を払わなきゃいけないのかというような問題が生じてくるわけですね。それはやっぱり正しくない。そこの部分は切り離して新しい法律を作る。そういう意味で、仮称ですけれども、情報・コミュニケーション法というようなことを打ち出しているということです。情報・コミュニケーション法というのは決して手話だけを対象としたものではなく、文字などの様々な方法も検討し、他の団体ともコミュニケーションに関する意見交換をしながら、幅広いものとして整備をしていかなければならないと思っています。どういうふうに作っていくのか、どのようにしていくのかが今後の課題になっています。
 手話について話をします。手話を学びたいという人は広まっていますが、その一方で、手話は言語であるという考えはまだ浸透しているわけではありません。我々連盟としましては、手話とジェスチャーの違いは何なのかということについて、手話表現の七原則というのをここに掲げました。たとえば、具体的な表現、「山」というのはこういう形を示します。置き換えということになるわけですが、空間利用、同時性だとか、指差しとか、表情だとか、繰り返しという七つの原則を掲げました。たとえば、こう指を2本出します。これで「立つ」ということになりますね。空間を使ってこれをこういう向きに変えると、足をどういうふうに考えて、置き換えて、これでこういうふうに動かしますと、泳ぐというような、身振りであれば、ジェスチャーであればクロールをするような仕草、けれども手話の場合は足に見立てている指を横に動かしてこういうふうにする、これをゆっくりするような表現の仕方もあるわけですね。こういうような、さっき申し上げたような法則がある。それに基づいているのが手話であって、言語として認められるべきだというふうに連盟としては考えています。そのためには、運動の面と学術・学問の面の両面が必要であると思います。運動の面といいますのは、「我々聴こえない当事者がコミュニケーションするためには手話が必要だ。そういう事実があって、そういう事実のもとに、手話は大事なんだ」ということで、運動としてこれまでも声を上げてきました。その一方で、学問といいますのは、手話は言語であるかどうかといいますか、その辺りのことを深めることにあります。というのも、その二つを一緒に同時にしなければならない。そこを混同させてはいけなくて、それぞれきちっと突きつけていく。実際、手話を使っているという事実から運動が始まっているわけで、その一方で、手話が言語であるということをきちっと立証していくという、そういう二つのことが必要ではないかと思っています。
 今後の動きですが、障がい者制度改革推進会議と連動していくことが極めて重要です。昨年(2009年)の3月30日に、障害者権利条約の批准と障害者基本法改正をセットにするという政府の意向があったらしいのですが、連盟だけではなく、他の障害者団体もその意向には反対をしています。障害者基本法というのは障害者福祉の憲法に該当するわけですが、政府は障害者権利条約批准と一緒に障害者基本法の改正を行なうつもりで、我々はそれに反対しました。なぜかといいますと、以前、子どもの権利条約について、まずは批准してから国内法を整備したらよいということで、何とか条約に批准したのですが、その後、実際のところは何も実態が変わらなかったという過去の歴史があります。その二の舞になってはならないということで、我々は反対をしました。障害者権利条約と国内法の整備の関係を申し上げますと、内閣府の考え方は、障害者基本法を変える、それと障害者総合福祉法、障害者差別禁止法の3つを考える、それを合わせて障害者権利条約を批准したいというふうな意向を持っているようです。厚生労働省はといいますと、どちらかと言えばあまり乗り気ではないといいますか、もし手話が言語であることが認められた場合はものすごい予算がそこに絡んでくる、なのであんまり今申し上げたようなことには乗り気ではないといったような状況です。お隣の韓国では、手話言語法制定の動きがあって、この来年の3月中、国会に出されるというような話を聞いています。2年前だと思いますが、韓国の障害者差別禁止法の中に手話が言語であるということを載せたかったのですが、国に強く反対されたために、その部分が載らなかったという経緯がありました。今回は手話が言語であるということに絞って運動が展開されているようです。日本でも似たような状況が生まれるのではないかなと思います。例えば、障害者総合福祉法のなかに手話は言語であるということを載せるのがよいのかどうか、今後の課題になっているのではないかと思います。
 最後に、時間ですが、私たちは「手話は言語」であるということで国民の理解を得る、説明というのではなくて、運動をやっぱり展開しなきゃいけない、それがやっぱり大きな鍵になると思います。啓発だとかで意識してもらうことも含めて、それができた暁に、コミュニケーションの保障というのが実現するのではないかと展望を持っております。もう20分になりましたので、これで私の報告を終わります。
 


UP: 20110728 REV:
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