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「文字情報支援とインクルーシブな社会──要約筆記と字幕の活動を通して」

三宅 初穂 2011/07/22
坂本 徳仁櫻井 悟史 編 20110722 『聴覚障害者情報保障論―─コミュニケーションを巡る技術・制度・思想の課題』,生存学研究センター報告16,254p. ISSN 1882-6539 pp. 191-197

last update:20110728


第三部

第三部についての但し書き

第三部に所収される全ての論考は、2010年3月22日に開催された公開シンポジウム「聴覚障害者の情報保障を考える」で報告された各団体の基調報告およびパネルディスカッションでの議論を、言い間違い等を直した上で、ほとんどそのまま収録したものである。そのため、本書の第一部および第二部に収録されている諸論文と異なって、文体が会話調になっていることを、あらかじめご容赦頂きたい。





第9章 文字情報支援とインクルーシブな社会──要約筆記と字幕の活動を通して


三宅初穂



 こんにちは。全国要約筆記問題研究会の理事長をしております三宅と申します。今日は、東京から参りました。団体の肩書きで参加させていただいていますが、私の話は、団体としての運動方針といったこととはちょっと違うと思います。というのは、私自身も要約筆記者でありますし、それから手話と要約筆記の派遣事業所で仕事をしています。それから立命館と関係ができた1つのきっかけともいえますが、社会人で立教大学の大学院に行っていました。いましたというのは、25日に卒業する予定なんです。そこで、私が2年間取り組んできたことが、今日のテーマとぶつかるものなので、そのあたりも重なってくると思います。ちなみに修士論文のテーマは「聴覚障害者の音声バリアフリーを文字情報支援から考える」でした。担当の先生にテーマもサブテーマも長すぎると言われましたが、サブテーマが「障害者権利条約批准後の共助のあり方」というものです。
 そうは言っても、全要研の紹介というか、概要だけお話ししておきたいと思います。歴史的には設立から長いですけども、運動という部分でいえば、ちょっと弱い部分はあります。では研究体なのかと言うと、研究面も弱いと思っております。ただ、私どもの団体の定款を見ていただくと、「コミュニケーション支援の拡充」「参加の促進を図るために、要約筆記を中心とした情報保障の手段に関する研究、普及の運動等を行う」となっています。そして、定款には全要研の事業として要約筆記と字幕と2つが掲げられています。
 「要約筆記」という名称の問題ですけれども、これはずっと前から議論されていますし、今もいろんな呼び方をなさる方がいらっしゃいます。「筆記通訳」と呼ぶ方、「文字通訳」、パソコンであれば「文字入力者」と言う方もいます。要約筆記というのは、ここにいらっしゃる要約筆記の先輩が大変ご努力くださって広辞苑にのったんです。広辞苑ではこのように(パワーポイント)扱っています。それから、障害者自立支援法、その他の法律上も「要約筆記」という言葉が使われていますので、いろんな議論はあるのですが、全要研としては「要約筆記」という名称について議論に時間をかけることはあまりしたくないと思っております。ですから私の話は、「要約筆記」という言い方で通します。
 私が要約筆記を人に説明をするとき、簡単には、「音声情報を文字で伝える通訳」という説明の仕方をしています。文字で伝えるというだけだと、簡単な言い方になってしまいますが、2番目として、生の話を伝えるのですから、「話し言葉の特性をつかんで、話し手の意図を文章化する」と考えています。それから3番目、「音声言語を文字言語に変換していく技術、これを大きな意味での『要約』という言葉で代表している」という説明をしております。用語の説明が多くなりますが、ここが曖昧だと、1つの言葉にみんながいろんなイメージをもってしまう問題があるので、細かく話させていただきました。
 今日の話では、完全に分けきれるものではありませんが、「情報」と「コミュニケーション」も少し分けてお話しします。情報といったときには「知覚できる何かのシグナル」ということで、相手方が私に何かを伝えようと思わなくても、私が知覚するシグナル、これも情報と捉えています。コミュニケーションというのは、相手側に伝えようという意図的な発信であって、かつ双方的でありうるものということです。コミュニケーションの中には、言語コミュニケーション、非言語コミュニケーションというものありますが、このあたりの整理もしながら見ていただきたいと思います。
 小さくて見にくいかもしれませんが(パワーポイント)、表の1番上のところ、「聴覚障害者にとってのよき社会」とあります。私の研究テーマでもあったものです。よき社会って何だろうか、と考えたとき、「すべての音声情報にアクセスできる社会」であるとまず、考えました。そうすると、それにはどんなものがあるのか、ということが1番上の段に載っています。そして、その下のほうに、左から要約筆記、筆談、電光表示、字幕、これが文字によるものですね。視覚を通して知覚するものはもっと広くありますが。文字で伝えられるものの1つは「コミュニケーション支援」。通訳行為という言い方をしますが、要約筆記のことです。それから、筆談も文字によるものです。それから、「環境整備」という所にくくりましたが、電光表示、字幕、こういったものもある。これは私自身の整理の過程ですので十分網羅しきれているわけではないのですけれども、これを念頭に以下を見てください。
 レジュメに文字表示の3つの機能と載せました。1つは、コミュニケーション、直接やり取りをするコミュニケーションです。手話ができる方同士は手話でコミュニケーションをとりますが、文字のやり取りの場合は筆談ということです。2番目がコミュニケーション支援。これは、その場のコミュニケーションを支援する、ということです。それから。3番目、私は字幕をここに入れています。字幕とか電光表示、アナログなところでは張り紙とか配布資料、印刷物、こういった事前に準備ができるもの、このあたり整理していけたらいいと思っております。音声情報をその場で、何によって補完するのか、何をもってサポートするのか、と考えると、こういう方法があるということです。
 次に、権利条約の話と結びつけてお話しします。先程高岡さんは別の条文をあげられましたが、私は第2条の後半の部分、「合理的配慮」を抜き出しています(パワーポイント)。ここで赤い字になっているところ。「必要かつ適切な変更及び調整」というのが合理的配慮と言われるわけですけども、ただ後半部分に、「均衡を逸した、または、過度の負担を課さない」と書かれています。条約が批准をされた後、合理的配慮という考え方から、今までなかったところに文字表示がされる機会は圧倒的に増えてくるだろうと思います。それはとても望ましいことですけれども、一方で、過度の負担を課さないという制約があります。この「過度の負担を課さない」ということを、費用負担が嫌だとか、責任を逃れる口実にしてはいけないと思いますが、同時に、1つの形にとらわれない条件整備が望まれます。つまり、音声情報を保障する方法はこうだと頭から決めつけず、いろいろな音声情報の保障の仕方があると考えていくことが、場や対象に適切な情報保障になると考えています。
 例えば、午前中の発表の場合、原稿があってほとんどそのまま読まれました。なおかつ、パソコン要約筆記をつけていながら、原稿は事前に入力がされていました。コミュニケーション支援の部類と考えるだけでなく、事前に準備ができるという扱いも考えていけるだろうと見ていました。その場で質疑応答が起きたときには、これはコミュニケーション支援が必要でしょう。そのあたりを考えていくということが、「合理的配慮」と「過度な負担」の途中にあるのではないかと思っております。
 次の「コミュニケーション支援の課題」は、ちょっと乱暴な言い方になりますが、1つの問題提起として受け取っていただければいいと思います。コミュニケーション支援の課題の1番目。福祉事業の枠組みの中での手話通訳者や要約筆記者の養成派遣は午前中の渡邉さんのご報告にもありましたが、私はある意味での限界に達しているだろうと思っています。これは、過去の否定という意味でとっていただきたくないんですが、これらはボランティアから出発しています。手話通訳者も、要約筆記者もそうです。そして、聴覚障害者の理解者であること、隣人であること、そして共に運動する人であることが求められてきた。ついでに通訳を求められてきたというような面もあったと思います。担い手の側は、技術がない、モラルがない、と言われて、制度としてはいつでもどこでも使えなければいけないと言われ、かつ身分保証は何もない。報酬は生活できる範囲には行きません。そして依頼が来るのを待つしかない。誰もが「いつまでも待つわ」というわけにもいきませんから、継続が難しいと思うんです。仕事を持たなければ食べていけないというのもありますが、待っているだけ、というところの限界。私たちの地元は派遣の依頼数が多いですが、それでもそういう状況があります。これは大きな課題だろうと思います。
 2つ目、さっき高岡さんが難聴者の話をしてくださいました。私は健聴者として、いつも難聴の方の隣にいて感じることをお話しします。難聴の方のことをご存知ない方は意外に思われるかもしれませんが、こんなことがあります。難聴者協会で会議が始まる前の会話です。「聞こえますか? Aさん聞こえる? Bさんは? Cさん聞こえる? ああ、みんな聞こえるね。じゃあ始めましょう」って言うんです。これおかしいことでも何でもなくて、難聴の方たちにとっては、補聴器あるいは人工内耳で、そしてループも使って「聞く」ということがかなりの比重を占めています。だから、音声情報が他の方法でどんなに伝えられたとしても、聞きたいという思いが残っています。この「聞きたい」という思いの強さを知ることが重要だと思っています。それから、小さい時から難聴だったりすると、学校のクラスで話し合った結果は知らされるけれども、合意形成を積み重ねてきたという体験が少ないのです。誰くんが掃除当番になったことは知らせられるけど、どういう経過で合意がなされるかわからない。言い方は厳しくなりますが、会議がうまく進めにくいという難聴者の問題に1つあるのではないかと思っています。ただ、だからこそ私たちは、聞きたいという思いに、とことんつき合わなければいけないと思うんです。手話通訳の方に言われることがあります。要約筆記者って根気がいるわね。誰もスクリーン見ていないのに、あんなに一生懸命にやれるなんて。これ悲しい話ですが、そう言われちゃうんです。誰も見てないというのは極端ですが、たしかにスクリーンは見ていないで言い合っている場面もあります。でも、私たちはそこをきちんと抑えなきゃいけないと思うんですね。聞きたいという思いがどこまでも残る人たちに私たちはいつも対しているということを。
 3つ目です。これもいろいろご議論はあるだろうと思います。コミュニケーション支援で伝えるものは何なのか。耳から入ってくる音を文字にする。これを私は通訳とは思っていません。それから、非言語コミュニケーションで伝わるもの、この余地をどう残すのか。こう考えると要約筆記というのは、きちんと伝えるということから逃げないことが大事だと思います。難聴の方は1字1句全部知りたい、という話がよく出ます。でも、要約筆記者が最低限しなきゃいけないことは何なのか。難聴者協会の会議で、ループも使えない。補聴器も使えない、手話もわからない。文字からしか情報が得られない人、この人を中心に据えるということを考えなければいけない。その後に、他の方法はバリエーションとしてはあると思います。ただ困難さの最低限のところに合わせてコミュニケーション支援を考えていく必要があると思っています。
 4つ目、これは健聴者のコミュニケーションの問題です。そもそも、通訳者がどんなに努力をしたとしても、解決の図れないことがあります。その場にいる人すべてがこの場のコミュニケーションを成立させるという意思を持たない限りは、コミュニケーションは成立しないということです。余談ですが、内閣府の障がい者制度改革推進会議の冒頭。進行役の方が担当大臣の福島瑞穂さんにご挨拶を促しました。あの方は弁護士さんですので、間髪をいれずに言う習慣があるのでしょうが、司会の言葉が終わらないうちに、立ち上がりながら、下を向いたままお話を始めたんですね。私は内閣府のホームページにご意見をどうぞというところがあるので書き込みました。「通訳者がいるところで話をすることに、この会議が敏感にならないといけない、すべての人が情報を得られているかの確認も必要ではないか」と。今日は聞こえない人の場ですが、他の障害の方の場合も同じだと思います。コミュニケーションが成立するかどうかは、聞こえる聞こえないではなく、その場の人たちの共生の意識に関わってくることだと思います。
 それから、情報環境整備というところで3点、時間の許す範囲でお話します。これからの社会で市民のニーズを満たすことはどういうことか。経済成長期やバブル期ではない。このことの上に立って、人口が減少している時代に持続可能な支援を考えていくということです。これは決して、個人とか家族とかボランティアが頑張る時代に戻すということではありません。そういう時代に戻すのではなく、別の意味での市民力を高める。社会貢献したいと思っているリタイヤ世代、たくさんいるわけです。人権感覚を根っ子においた市民力、こういうものを考えていく必要があると思っています。
 最後のところ。これは全要研としてということです。聞こえないという問題、これを個人の問題にしてはいけないと考えています。中途失聴や難聴者の人たちの状況の幅の広さ、多様性、その心理とか行動、これをきちんと受けとめて、表に出てこない問題を丁寧に扱っていかなければいけないだろうと思います。そういう存在として、全要研という組織が働く必要がある、そして聞こえない人たちが聞こえないことの困難や無理解を訴えるだけではなく、自分たちがいることによって、聞こえない人たちの社会環境がこんなに良くなったんだといえるようなそういう協働を全難聴とも作っていきたいと思っています。簡単ですが終わります。


[報告資料]

文字情報支援とインクルーシブな社会
要約筆記と字幕の活動を通して

特定非営利活動法人 全国要約筆記問題研究会
 理事長  三宅初穂


はじめに
 特定非営利活動法人全国要約筆記問題研究会は、定款に要約筆記と字幕の2つを中心的な事業として掲げ、文字情報支援による音声情報バリアフリー社会の実現をめざす団体です。

○1文字表示の3つの機能
 1 コミュニケーション〈筆談〉
  対面した一方、または両方が自分の発信したいことを文字で書いて伝える
 2 コミュニケーション支援〈要約筆記〉
  音声による発信の意図を文字言語による発信に変えてその場で聴覚障害者が受  信できるようにする
 3 情報環境整備〈字幕・掲示板(電光表示・張り紙など)・配布資料〉
  音声による情報発信を文字情報に変えて受信できるように準備して表示する

○2コミュニケーション支援の課題
 1 福祉事業の枠組みでの養成派遣事業の限界
 2 中途失聴・難聴者の聞こえと情報獲得の満足度
 3 意図の伝達と記号の伝達
 4 コミュニケーションの場の成立

○3 情報環境整備の課題
 1 情報発信者側の対象者への認識
 2 合理的配慮で期待される範囲
 3 ニーズを満たすのは「互助」「共助」「公助」?

*コミュニケーションの満足度とコミュニケーション支援の満足度
*インクルーシブな社会の入り口はコミュニケーション成立



UP: 20110728 REV:
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