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「OECDから介護に関する報告書」

児玉 真美 201107 月刊介護保険情報,2011年7月号

last update:20110810


 OECDから介護に関する報告書

 経済開発協力機構OECDは5月18日に「手助けは必要ですか? 介護サービスの提供と介護費用負担(Help Wanted? Providing and Paying for Long-Term Care)」というタイトルの報告書を発表した。加盟諸国の介護の現状と課題を分析し、今後に向けた提言をまとめた大部のものだ。リリース、「要旨」「サマリーと結論」などに目を通し、要点をざっとピックアップしてみた。
 現在、80歳以上の半数が要介護状態だが、総人口に占める80歳以上の割合はOECD諸国の平均で2010年の4%(2010年)。それが2050年には10%に上昇し、その段階で予想される高齢化率は日本がトップで17%。2位がドイツの15%。
 高齢化に伴い、介護職の需要も少なくとも2倍にはなり、介護支出のGDP比も増える見込み。2008年現在のOECD諸国のGDP比の平均は1.5%。トップはスウェーデンの3.6%。最下位はポルトガルの0.1%。日本は1.4%で10位。
 報告書はおおむね、以下の6点を指摘している。

1. 人口の高齢化、家族の絆の弱体化、女性の労働市場への参加などにより高齢者の介護ニーズが増大している。2050年にはOECD諸国における介護費用は現在の2倍、3倍に膨れ上がることが予想され、介護は財政面からも労働市場の面からも重要な課題である。
2. OECD諸国では50歳以上の成人の10人に1人以上が家族を介護しており、その3分の2が女性だが、高齢になるにつれ男性介護者が増える。家族介護者は介護制度のバックボーンであり、そのニーズにこれまで以上の注意を払い支援することが誰にとっても利益となるウィン・ウィンのアプローチである。
3. しかし家族介護者に過度に依存することは望ましいことではない。多くの国がこれまで断片的な制度整備に終わっているが、OECD諸国すべてが包括的な施策によって実効性のある公的介護制度を強化・整備すべき。
4. 介護は労働集約型の分野であり、介護労働者の確保と維持に難渋している国が多いが、移民介護労働者の活用、介護職の給与や労働条件の改善、介護労働の生産性向上などにより、問題解決は可能である。
5. 財源確保については各国ごとに事情も方法も様々で前向きな工夫も必要だが、高齢期の介護を個々人が賄うことは困難であるため、いずれの国においてもニーズの高い人をターゲットにし、国民全員を対象としたユニバーサルな介護給付を志向することが望ましい。
6. 年金や医療に比べると介護費用のGDP比は低いものの、今後、量・質ともに介護需要が増大することを考えると、介護におけるコスト効率の改善が最優先課題である。利用者にとっては在宅介護が望ましいが、状況により施設介護が最もコスト効率が良い場合もある。介護・病気予防や啓発、医療との連携、利用者とサービス提供者を繋ぎ一貫性のある介護をコーディネートする制度、社会保障全体を見通した介護施策など、介護分野の生産性向上には検討の余地は大きい。

第7章はOECD加盟各国の公的介護財政を比較し論じている。対象範囲、所得制限の有無、財源、対象年齢など項目ごとに各国の制度を比較した一覧表もあり、それぞれの状況が分かりやすい。全国民を対象としたユニバーサルな制度を持つ国として、税財源による国は北欧諸国、社会保険方式をとるのはドイツ、日本、韓国、オランダ、ルクセンブルク。主として医療制度の中に介護給付を位置づける国としてベルギー。
 この顔触れに、ここ数年医師による自殺幇助(PAS)合法化議論を追いかけている私は複雑な気分を味わった。オランダとベルギーは世界でも早くからPASを合法化した国だ。前者では現在「健康な高齢者でも本人が望めばPASを」との議論が出ているし、後者では「安楽死後臓器提供」まで既に現実のものとなっている(10年8月号で既報)。ルクセンブルクも09年に合法化。ドイツは合法化こそしていないが、スイスへ「自殺ツーリズム」に出かけて幇助を受け死んだ人は既に500人を超えている。
 なにやら不吉な符合を見る思いにもなるのだが、もちろんPAS合法化も移民介護労働者の人権問題(06年12月号で紹介)も、グローバルな弱肉強食経済や功利主義の広がりと無縁ではないだろう。そうした中、文化的土壌の異なる日本と韓国が今後どのような道を選択していくのか、世界が注視するところ。いや、注視させたいところではなかろうか。


UP: 20110810 REV:
児玉 真美  ◇全文掲載  ◇介助・介護 
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