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JDF被災地障がい者支援センターふくしまでの仮設住宅調査のボランティアレポート


■目次

ボランティアレポート
◇ 聞き取り調査メモ
 ◇ 自治体への仮設住宅聞き取り調査
 ◇ 仮設住宅 訪問聞き取り調査


2011年7月20日
立命館大学大学院博士課程 伊藤佳世子佐藤浩子


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 2011年7月11日〜14日までの4日間、私たちは郡山市にある被災地障がい者支援センターふくしまへ伺った。代表の白石清春さんと話をしたところ、障がいのある人たちで仮設住宅や避難所に入れずにいる人たちがいることを聞いた。
 例えば、スロープの付いた仮設住宅であっても、室内はバリアフリーではないため、車いす利用の方々などが生活困難であること。隣同士が壁一枚でしか隔てられていないために、声がうるさく思われないか気にして知的障がいや発達障がいのある方などが、仮設住宅に入ることが困難であることなど。そうして、そのような人たちは、危険な家屋に住み続けたり、病院へ搬送されたり、施設に入所を余儀なくされていたり、車上で暮らしていたりするということであった。
 こういったことは災害時に仕方がないという言葉で片付けられてしまうのかもしれないが、少しの工夫で障がいを持つ人たちが苦労しなくて済むのであればそれを実現していくべきである。どういうことが困難であるのかということを明らかにし、工夫できることをいくつか探して提案できたらよいと思い、JDF被災地障がい者支援センターふくしまのボランティアとして仮設住宅を見て、そこに住む人たちからの聞き取り、実際に避難所暮らしをしている障がいを持つ方からの聞き取りをまとめることにした。

1 仮設住宅のつくり

 仮設住宅は県が公募をかけ、いくつかの企業に委託して建設する。県が市町村に土地を借りて建設し、仮設住宅を管理しているのは避難者を入居させている市町村である。例えば、郡山市にある仮設住宅であっても、郡山市は土地を貸しているだけで、建設するのは福島県、管理するのは避難者の元住んでいた川内村などの市町村である。手すり一本も改修工事となるため、住む人が市町村に改修工事の依頼をすると、市町村が県に申請を上げ、認められれば手すりの設置工事となる。市町村に決定権がないため、手間や時間がかかり、住む人のニーズに合わせて、素早く対応することができていない。
 多くの企業からの公募となる仮設住宅には多くの種類がある。福島県庁の仮設住宅係ではファイル一冊分種類があるという。それを全てここに羅列することはできないが、福島県庁に聞き取った限りでは「仮設住宅の水回りは段差があると思って間違いない」ということである。実際に、いくつかの市町村に問い合わせ、いくつかの仮設住宅を見る限り、同じユニットバスが使われており、風呂場に入るには段差があり、風呂場もトイレも狭く仕切られているというところが共通している。
 県は要望があれば個別に改修工事するというが、もともとそうしたつくりのものを、仮設住宅に入居してから改修するというのは、そう簡単な工事とはならない現状がある。

  2 ニーズが合わない部分

 車いすで生活する人の場合は、フルフラットであることと一定の広さが必要になる。しかし、外にスロープが設置された仮設住宅もあるが、玄関や風呂場に入るのに段差があり、浴槽に洗面台が突き出していて狭く、トイレも狭く区切られていて、部屋の中には車いすでは入れない。仮設住宅の抽選にはずれて避難所にいる車いすの青年が「仮設住宅が当たっても住めない」と言っていたが、仮設住宅のまわりは砂利が敷きつめられており、住宅に車いすで近づくことすら困難な状態だ。高齢者も浴槽が狭くて足もあがらず入浴できない人がいる。
 また、精神障がいや知的障がい、発達障がいのある方は、新しく慣れない場所にいることも困難である上に、壁や床を通じて音が聞こえ、狭い仮設住宅で過ごすことは難しい。そうかといってどこかへ行くこともできずにいる。
 仮設住宅は店舗や医療機関と離れた場所に建てられている場合が多く、自家用車のない高齢者や障がい者が買い物や病院に行くことがむずかしい。このように、障がい者や足の弱い高齢者は、現在の状態の仮設住宅に住むことは困難である。

3 必要と思われること

 車いすを利用していたり、特別なニーズがある障がい者や高齢者については、フルフラットの広いスペースの仮設住宅が必要となる。あらかじめ仕様を同じパターンで決めてしまうのではなく、入居者を先に決めて、その人の特別なニーズに応じて、部屋を区切ったり、風呂場やトイレをつくるべきである。例えばそれを全部することはかなわなくても、1、2割でもフルフラットの仮設住宅をつくることはできないか。
 仮設住宅の1地区に1割はスロープ付きの仮設住宅を建設しているとのことだが、家の中もバリアフリーにしなければスロープ設置の意味がない。その部屋にスロープを必要とする人が入居できなければ意味がない。せっかく1割の住宅をスロープ付きにしているのだから、家の中もフルフラットにして、あらかじめ部屋を区切らず建てるべきだ。障がい者用として募集し、入居者が決まってから、その人の特別なニーズに合わせて家の中を整備できるようにするべきである。少なくとも、風呂場の段差をなくし、浴槽に突き出した洗面台の位置をかえるだけでも住みやすくなる。
 ニーズに合わせた仮設住宅の建設や改修を早急に行うために、仮設住宅の設計や仕様の決定権を市町村に移すべきである。国や県は予算を出す役割にとどめ、市町村が決定権を持ち、住む人のニーズに寄り添った仮設住宅を建設できるようにするべきである。
 障がいを持っても地域の中で暮らし続けられるように、仮設住宅の見回り、住民のニーズの受け止めに力をそそぐべきである。そのためにも、市町村は「被災地障がい者支援センターふくしま」など民間の支援組織と連携して、障がい者の生活支援を行うべきだ。


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聞き取り調査メモ

◆自治体への仮設住宅聞き取り調査 (2011年7月12日16:00〜17:30)

福島県庁仮設住宅課 024−521−8049  電話インタビュー:伊藤佳世子

 仮設住宅にはフルフラットになっている住宅は一軒もありません。
県が設置をして、市が管理する形になっています。フルフラットの仮設住宅を検討したが、コストが高くて検討途中でやめになりました。基本的に水回り関係には段差があります。改修をしてほしいという話もありましたが、介護者を入れればある程度大丈夫ということで入居されていて、大きな改修はしていない。あくまで仮設のため、オーダーメードはできない。仮設住宅をつくる地元企業はある程度要望に応えようとしている。
 しかし、今のところ要望があれば個別に改修工事をするということでお答えしている。
 「知的障がいなどがあり、大きな声を出すような方が、仮設住宅に入れないようです」という話をすると、「それは施設が良いのでは、そのような要望もあり、つくるような話も出ていたと思います」とのこと。

*葛尾村 住宅担当 0247−61−2850  電話インタビュー:佐藤浩子

 一部の仮設住宅にはスロープがついているが、トイレにもお風呂にも段差がある。間取りは福島県の標準仕様と同じである。
 病院や医療機関が4〜5キロ離れている。地区によって仮設店舗があるところもある。入居者の相談には社会福祉協議会がのっている。

*広野町 0246−43−1331  電話インタビュー:佐藤浩子

 スロープか風除室か最初に選ぶことができる。最初に希望すればスロープをつけることができるが、靴置き場がないのでスロープを断り、風除室型を希望する人が多い。スロープから風除室に変えることはできないので、スロープは作らないようにしようと考えている。2DKのトイレには段差がないが、あとの間取りではトイレに段差がある。風呂場にはすべて段差がある。壁は薄い。3室あってもエアコンは1室だけについている。
 歩いて行けるところには店がない。セブンイレブンには歩いて行けるが坂道である。1時間に2本くらいでているバスにのって買い物には行ける。
 集会室と談話室がついていて、自治会をつくってもらって管理してもらっている。
 1地区だけに職員が配置されていて、クレーム対応をしているが、他の地区には職員は配置していない。

*大熊町 建設課 0242−26−3844  電話インタビュー:佐藤浩子

 一団地につき1割についてスロープがついている。トイレは大部分段差があるが、業者によって違いがあるので、558戸のうち240戸には段差がない。しかし、トイレの入口は車いすが入れる幅はない。そもそも、玄関の正面に洗濯機と流し台があって、車いすですりぬけることはむずかしいと思う。風呂場には段差がある。ユニットバスで高さが30センチくらいある。壁は二重張りになっていて間に断熱材が入っているので、普通の長屋よりは音は聞こえにくく良くなっている。
 医療機関は場所によっては遠いところもある。買い物に行ける店からは1〜2キロくらい離れている。団地の中に仮設店舗があるところもある。
 人が集まれるように集会室や談話室をつくっている。人は配置されていない。自治会で管理している。会津若松市にある仮設住宅には、高齢者のデイケア施設とグループホームを作る予定である。大熊町の地域包括支援センターと保健福祉課で高齢者や障がい者の相談にのっている。

*田村市 総務部長(元保健福祉部長)  面接インタビュー:伊藤佳世子・佐藤浩子

 当初、大熊町から8000人が避難所2箇所に避難してきていたが、現在は35人。田村市の20キロ圏内、30キロ圏内から避難してきている人もいる。現在はほぼ全員が仮設住宅に入っている。仮設住宅は360戸着工しており、216戸完成し、202戸が入居している。コミュニティごとに入れるように配慮している。
 立ち入り禁止の20キロ圏内には120世帯約300人が住んでいた。20キロの外側30キロ圏内には約1000戸4000人は住んでいる。
 仮設住宅は1割がスロープつきである。1ヶ所依頼があって手すりをつけたが、県を通すので手間や時間がかかった。仮設住宅を作るのは県なので、自治体は手すり1本つけることができない。業者を公募しているので、建てる業者によって違いがある。
 社会福祉協議会の生活支援員が仮設住宅をまわって相談にのっている。


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◆仮設住宅 訪問聞き取り調査 (2011年7月13日9:45〜12:30)

インタビュー:佐藤浩子、伊藤佳世子

*郡山市富田町(旧農業試験場) 1Kの仮設住宅に住む80代のご夫婦

 奥さんにインタビュー。夫と二人暮らし。ご主人は軽い認知症があるという。川内村在住の方、原発から20〜30キロ圏内で住んでいる。特に地震や津波の被害があったわけではない。原発のめどが立たないので避難をすることにした。隣に娘さんとその姑が一緒に入っている。週に一度は家に帰っている。ここの仮設住宅は川内でまとまっているので、顔見知りが周りにいるという。
 伺ってすぐに、ご主人のところにディサービスのお迎えがくる。週3回ディサービスに行っているそうである。仮設住宅のお風呂は段差が20センチ以上あり、ご主人は足があがらずご自身でお風呂に入ることができないという。お風呂がユニットバスになっていて、浴槽に洗面台がついているので、お風呂に何とか介助で入れても、危なくてご主人を家のお風呂に入ることはできなかったという。しかし、ディサービスでお風呂に入れているから大丈夫だという。これ以上文句が言えない、色々やってもらい申し訳ないという。お風呂は、川内の自分の家は二人くらい余裕で浴槽に入れた。田舎だったから広かったので、私はこの浴槽に入れるけど、太っているので出るのが大変。入り口の段差も上るのはうまくできるけど、下りるのがとても大変。台所も高く、洗い物が大変。娘が玄関とトイレにビニールクロスを貼ってくれて使いやすくしてくれた。電化製品が備えつけられている。冷蔵庫、洗濯機、ポット、炊飯器、エアコン、レンジ。
 この年になって避難するのもどうかと思ったが、若い者たちに言われて避難をした。かえってこんなに色々やっていただいて申し訳ないと思っている。仮設もね、ありがたいと思っている。こんなにやってもらって申し訳ない。仮設は壁から声は聞こえないが、床がつながっているようなので、隣がドンドン歩くと気になってしまう、隣が娘なので何かあったのではないかと思うこともある。お舅さんと二人なので、喧嘩でもしたのではと思ってしまい、心配することがある。前はもっと娘と離れていたけど、今娘がいるからいろいろ頼める。
 普段は朝5時に3000歩歩いている。そうすると、近所の高齢者も一緒に歩いていて話をすることが多い。昼間は草むしりすることがなくなったし、台所の高さも合わなくって炊事を娘に頼んだりしている都合で、退屈になった。でも、草履をつくるのが好きで、家で作っている。集会場もあるし、買い物に行くバスも出ていたりするが、昼間は集会場には行きたくない。年を取ると荷物を持ってバスに乗るのは難しいので、買い物も娘にお願いしている。娘がいなかったら生活はできないと思う。みんなに迷惑をかけて申し訳ないと思う。よくやってもらっているから、これ以上文句言えない。

写真:風除室のついた玄関にある段差1 写真:風除室のついた玄関にある段差2
風除室のついた玄関には段差がある


*郡山市富田町(旧農業試験場) スロープが設置されている仮設住宅に住む父と息子

 川内村から避難してきた。30キロ圏域の自主避難地域なので、時々もどっている。農業をしていたが現在は失業中。
 スロープがあるせいで雨が入るので困る。昨日、仮設住宅住民と行政の話し合いが集会室(仮設住宅の一地区ごとに一つ集会室がつくられている)であったので、スロープをやめてほしいと要望した。
 この仮設に住んでいるのは富岡町と川内村の人間だが、郡山市民と同じようにできるかどうか話し合う必要がある。介護保険の区分も変わるし…。
2軒先に車いすを使っていた人が住んでいたが、病院に入ったようで今はいないと思う。
 (伊藤と佐藤で行き、インターホンを押してみたが反応がなく、やはりいないようだ。)

 (佐藤の感想:広野町に電話インタビューした時も、「靴置き場がないのでスロープを断り、風除室型を希望する人が多い。スロープから風除室に変えることはできないので、スロープは作らないようにしようと考えている。」と職員が言っていたが、川内村の父子の話を聞いて、仮設住宅の住民から、玄関から雨が入るので、スロープをつけないで欲しいという要望が出ていることがわかった。雨が入るからスロープ型をつくるのをやめたら、車いす利用の人たちが仮設住宅を全く使えなくなる。スロープ型でも雨が入らないようにひさしを長くするなど工夫して、誰もが使える仮設住宅にしてほしいと思う。)

写真:スロープのついた仮設住宅
スロープのついた仮設住宅

写真:仮設住宅の周りに敷き詰められた砂利
仮設住宅の周りは砂利が敷き詰められている


*郡山市南一丁目 2Kのスロープが設置された仮設住宅に住む4人家族

 お母さんにインタビュー。身体障がいのある20か30代くらいの息子とご両親が住んでいる。隣に兄が1人で住んでいる。
 原発から数キロのところに家があったので、3月11日以来帰っていない。ようやく仮設に入ることができた。先日までビッグパレット(避難所)にいて、息子は2ヶ月入院していて退院をしてきた。息子は心臓が悪く、心筋梗塞もやっていて、糖尿もあり、歩行が困難で、外は車いすを使っているが、家の中では這って歩いている。
 一回目の抽選に外れて、二回目にやっと入ることができたので、ほっとしている。しかし、狭すぎて場所がない。お風呂の段差もひどいし、脱衣所がない。お風呂場の浴槽のところについている洗面台がじゃまになり体が動きにくい。お風呂はどうしょうもない。介護が大変でこのまま住み続ける自信がない。3センチくらいの段差でも這って歩くと、それが足に当たってけがをしてしまう。外はバリアフリーになっているが、別に中がバリアフリーになっているわけではない。外は砂利なので介助者が車いすを押さなければ動くのは大変である。とにかく、避難所よりはいいけど、結局うちみたいな子どもがいる家には使い勝手が悪すぎる。でも、やってもらってるからいろいろは言えないけど。
 "県のほうで使い勝手の悪い方には仮設住宅は改修工事をしてくれるといっています"と伝えたら、改修してほしいと頼まれた。

写真:風呂場の段差
風呂場の段差

写真:浴槽に突き出している洗面台
浴槽に突き出している洗面台

写真:台所と部屋の間にある段差
台所と部屋の間にある段差


*避難所ビックパレット 車いす利用の男性

 富岡市出身の30歳代。津波に飲み込まれて大怪我をして車いすになった。リハビリもそこそこに怪我の治療がすんだら強制的に退院させられ、避難所に来た。母親はまだ入院している。母が退院したら一緒に住もうと思って、仮設住宅を申し込んだが落ちた。再度申し込んでいるが当たらない。先日、知り合いの人の仮設住宅見せてもらったが、家の外は砂利で中は段差があり、車いすの状態ではとても住めない。
 自宅は原発から近く、家は津波に流された。姉が亡くなった。富岡町は、役場機能を三春町に持っていき、仮設住宅は大玉村に建てるので、そこに移ってほしいと言うが、役所は何を考えているのか。富岡町をバラバラにするのは腹が立つ。一緒に住める場所を決めてほしい。

写真:ビックパレットに並ぶダンボールハウス
ビックパレットに並ぶダンボールハウス

写真:電光掲示板(0.11マイクロシーベルト/h、7月13日)
ビックパレットの放射線量を示す電光掲示板
7月13日は0.11マイクロシーベルト/h

写真:JDF被災地障がい者支援センターふくしま代表 白石清春さん(前中央)と事務局長和田さん(後中央)と伊藤(左)と佐藤(右)
JDF被災地障がい者支援センターふくしま代表 白石清春さん(前中央)
事務局長和田さん(後中央)
伊藤(左)と佐藤(右)

お世話になりました。

以上


UP:20110820 REV: 0823
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