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医療的ケアを要する重度障害者の在宅移行支援体制の検討
――独居ALS患者の一事例を通して――
長谷川 唯
2011/06/05 第25回日本地域福祉学会大会 於:東洋大学白山キャンパス
【研究目的】
本研究では、家族の支援がない難病患者が地域で独居生活を送るために必要な支援内容を明らかにすることを目的とする。筆者は、2008年度から筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)患者の在宅独居生活支援活動を行なっている。近年、在宅医療が推し進められる中で、医療的ケアが必要な重度障害者の在宅移行支援が重要な課題として認識されているにもかかわらず、それらについての詳細な情報は少なく、明らかにされていない。医療的ケアを要する重度障害者が病院から在宅へ移行する際に、その過程でどのようなことが行なわれていて、実際の在宅生活の場面では何が起こっているのか、実態を把握しそれらを明らかにすることは、患者や家族に保障するべき支援を制度化するための基盤となる情報として必要である。家族の支援が乏しい独居ALS患者一事例の在宅移行支援を通して、その過程を明らかにしつつ、そこで生じた課題について報告する。
【研究方法】
上述の支援活動を通して、事例検討を行なう。調査対象者は、60歳代の男性でALS患者(以下S氏)である。調査期間は、2009年1月から6月である。これは調査対象者が気管切開手術と在宅生活の再構築を目的とした入院から退院し、実際に在宅生活を再開した期間である。
【内容】br> 退院に向けたカンファレンスでは、医療体制をベースとした生活支援の必要性が認識されていたにもかかわらず、実際の在宅生活では、医療的ケアの方法が統一されず混乱が生じた。病院で実施された吸引指導は、在宅の環境に基づいたものではなく隔たりがあった。また文字盤の練習は、個々の自主性に任せられており、S氏と意思の疎通が図れずS氏のニーズに対応できない者もいた。病院での退院支援は主に地域連携室が中心になり進めることになっていた。だが実際には、退院支援を行なう部署や役割分担、その内容さえも明確ではなく、地域連携室のかかわりは主にカンファレンスの開催と新たな看護・介助事業所の手配調整だけだった。病院での退院支援は在宅生活を見据えたものではなく、実際に在宅で可能かどうかの検証もなされなかった。また、病院と在宅の関係者が顔を合わせる機会は、カンファレンスしかなく、主に地域連携室とケアマネージャーを介して連絡がとられるため、周囲はお互いの状況がみえにくく、患者の状態や生活のニーズについての把握も難しい。このように、病院側が用意する退院支援は不足しており、患者が退院後に安定した在宅生活を維持するには不十分だった。そのため支援者は、在宅で必要となる最低限のことにかんしての準備などボランティアで退院支援を行なった。現実には、家族や支援者がいなければ在宅移行は非常に困難になるが、実際に支援者が介入することは、その立場が不明瞭なために周囲の理解が得られず難しかった。
【結論】
在宅生活の体制が不十分な状態で退院してしまったことが、その後の生活にさまざまな混乱を引き起こすこととなった。S氏の場合は偶然にも補う支援者がいたが、本来はこのような役割を担う人は存在しない。支援者がいなければ、今以上に退院支援が不十分なものだったことは明らかである。現状では、病院側が用意する退院支援だけでは、患者が退院後に安定した在宅生活を維持するには不十分なうえに、現実には、家族や支援者がいなければ在宅移行は非常に困難になる。より適切な在宅移行支援を実現するには、支援者のはたらきを職務として認め、有償にし、立場を明確にすることが必要である。
UP:20110707 REV:
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ALS
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