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東日本大震災 障害者たちの1週間

MLから垣間見た情報提供と支援の模索(緊急寄稿)

児玉 真美 201104 月刊介護保険情報,2011年4月号 Korean page

last update:20110511


 本誌連載「世界の介護と医療の情報を読む」をきっかけに、インターネットで英語情報を読む面白さにハマり、ブロガ―が“本業”のような生活になって久しい。重い障害のある娘を持つ親でもあるので、障害関連のメーリング・リスト(ML)にも3つばかり参加している。貴重な情報をいただき様々な議論から多くを学ばせてもらうほか、英語圏の障害者を巡る医療倫理には気がかりな動向が目につくので、懸念される情報をこちらからMLに流すこともある。時に「てーへんだー!」と江戸の町ならぬMLの中を騒ぎ走る“かわら版小僧”みたいな、ごく小粒なメンバーだ。

●2011年3月11日(金)
 3月11日金曜日の午後も、いつものようにML情報をチェックしながらインターネットで英語ニュースを読んでいた。モニター上部に地震発生を知らせる大きな囲みが現れたので、チラと確認だけして作業を続けていると、すぐに次の地震。そして、また……。
 震度も次々に地名が変わっていく様もただ事ではなく、すぐに階下へ降りてテレビをつけた。そこには既に津波が車を次々に飲みこんで押し流していくリアルタイムの映像が流れていた。画面が切り替わるたび、目の前の現実はさらに酷い悪夢の様相を深めていく。津波が凶悪な意思を持った黒い生き物のように田を這いビニールハウスを踏み越えて、車が何台も逃げ惑う道路へと迫っていく。誰もいない家の中で、口を手で強く覆ったまま凍りつき、立ちつくした。
 私の住む瀬戸内の町では、夕刻に出された津波注意報を近所に知らせるサイレンと放送が唯一の異常だった。しかし、あの現在進行形の被災状況を、テレビを通じて空から丘の上から“目撃”してしまうと、目の前に続いている当たり前の日常の方にリアリティが希薄になってしまう。その衝撃は一週間がたった今もたぶん覚めきってはいない。
 MLも、あまりにも大きな災害の衝撃に茫然としているかのように、ほとんど沈黙した。翌12日にいくつか原発と震災関連がポツポツ……。
 もしや被災した人が沢山いるのでは……。大きな災害が起こるたび、重い障害のある娘を思い、被災したら一体どうなるのだろう、との想像に胸が押しつぶされそうになる。障害のある身で地震や津波で被災した人たちは今頃どうしておられるのだろう……。心が波立つ。

●2011年3月13日(日)午前
 13日の日曜日は、いつも通りに重心施設から連れて帰った娘との週末を、いつもよりも落ち着きのない気持ちで過ごしていた。
 すると、その朝、「震災情報です」として、東京電力が翌14日月曜日から輪番停電を予定しているとの情報がMLに流れた。人工呼吸器等使用者への早めの周知と対応の呼び掛けだった。
 2時間後、その情報が即座にALS協会のMLに流されたことが報告された。その際にコピーペーストされていた人工呼吸器使用者へのアドバイスの中には、「アンビューバッグを用意し、停電までに必ず練習しておくように」「外部バッテリーの消耗度を点検しておくように」なども。
 続けて、アンビューバッグで鼻マスクへ手動で空気を送る方法がYouTubeにアップされる。市販されているバッテリーに関する情報提供が呼び掛けられる。
 間もなく、それに応じる形で、人工呼吸器をつけた子の親の会「バクバクの会」が、手に入りやすい市販のバッテリーとインバーターを使って電源を確保するための詳細情報を同会のHPにアップ、MLにも情報提供が行われた。輪番停電の第1報からわずか3時間の間のことだった。
 しかし、それらは私には愕然とする情報ばかりだった。あらかじめ予定された停電なのだから、在宅で人工呼吸器を使用している人たちの安全は何らかの形で保障されるのだろうと呑気にも思いこんでいたのだ。
 これほど差し迫った命の危機に各自で対処しなければならないというのか……。あまりの厳しさに絶句する。たった3時間の停電で直接的に命を脅かされる人の恐怖と介護者、支援者の緊張を想像すると、こちらの方まで息苦しくなってくる。

●2011年3月13日(日)午後
 午後1時、厚生労働省医政局指導課から当該郡県医療主管課宛に出された事務連絡「東京電力株式会社による輪番停電に係る医療機関の対応について」の内容が流れた。
 「人工吸入器・酸素濃縮器、在宅透析機器、吸引器等の在宅医療機器を使用している患者については、医療機関とメーカーで協議しつつ、停電期間中、代替機器を配布、貸し出しなどの対応を行うこと」「どうしても、在宅医療機器を使用することが必要な場合には、医療機関への一時受け入れ等で対応することを指導するなど、輪番停電への対応にかかる指導について特段の御協力をお願いいたします。また必要に応じ、自家発電装置の燃料の確保等について必要な支援を行っていただくようお願いいたします。なお、状況によっては、患者の搬送を行うことも検討するとことし、そのような措置を講ずる場合には当課あて御報告願います」
 これを読んでほっと息をつき、何ができるわけでもない私までが全身を力ませ息をつめて緊張していたことに気づく。当事者たちの危機感はどれほどのものだろう。もちろん命のかかった人たちがこれで安心できるわけもない。
 その後も、具体的な非常用バッテリーの機種名や値段、具体的な使い方や輪番停電の地域と時間に関する情報など、別のMLやネットワークを迂回した情報も次々に届き続ける。今すぐそこに命の危険に直面している人たちがいるという切迫した危機感を共有し、多くの人が必要な情報を集め、整理し、必要な人に届けようと必死で動いていた。

●2011年3月14日(月)、15日(火)、16日(水)
 14日の月曜日未明、立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点リーダーで、先端総合学術研究科教授の立岩真也氏から、これら広範なネットワークを通じて集まっている情報を拠点のホームページに集約し始めたとの連絡投稿が入る。
 人工呼吸器を利用する在宅医療患者の緊急相談窓口が、東電エリア内の独立行政法人国立病院機構、独立行政法人労働者健康福祉機構および社団法人全国社会保険協会連合会などの運営による医療機関に設けられ、緊急一時入院体制も開始されるとの通知が厚労省から報道各社に対して出されたのは、翌15日火曜日のことだった。
 MLに集まる情報も徐々に広がりを見せ、障害のある被災者への対応をめぐる情報がそれぞれの障害や疾患別に当時者団体や支援者らから広く集まり始めていた。
 例えばDPI女性障害者ネットワークは、14日の段階で「[暫定版]障害がある被災者について知っておいてもらいたいこと」を流した。その夜のうちに緊急災害対策本部、枝野幸男官房長官と災害ボランティア担当の辻元清美首相補佐官に要望書として送付された後、改訂されて「あなたの避難所にこんな方がいたら」として同ネットワークのHPにアップされた(文末のリンクを参照)。
 また障害関係図書の専門書店「スペース96」からは、詳細な支援関連情報のリンク集の投稿があった(添付資料を参照)。
 立岩氏がそれらの情報を集約しては数時間おきに更新するサイトは、更新のたびに項目を増やしリンクを重ねて、詳細なデータベースとして整理されていった。
 日本障害フォーラム(JDF)は14日、内閣総理大臣、厚生労働大臣らに宛て、被災障害者の実態調査や障害に応じた情報保障、医療機器の電源保障、避難所での配慮、介助者手配、施設・住居の修復予算の6項目の「被災障害者等への特別支援の緊急要望書」を提出(文末のリンクを参照)。
 また16日にはDPI日本会議、全国自立生活センター協議会(JIL)、ゆめ風基金など、いくつかの障害者団体が共同で東北関東大震災(東北地方太平洋沖地震)障害者救援本部を立ち上げた。
 ゆめ風基金は、1995年の阪神淡路大震災の際の被災障害者らが日ごろのネットワークを生かして助けあった経験をもとに立ち上げられた、大阪拠点の被災障害者救援活動のNPO法人だ。この度の救援本部では西日本側の事務局の役割を担う。
 地震翌日の12日から既に現地入りしていた先発隊やその後に続いた人からの被災地情報も、随時、各団体のブログなどに報告されている。

●「生存学」拠点、など
 そして、あの日から一週間――。「生存学」拠点のHPには「災害と障害者・病者:東日本大震災」というページ(http://www.arsvi.com/d/d10.htm)ができた。 17日更新段階では、まず冒頭にある項目は「人工呼吸器(停電時の対応等)」「人工透析」「自閉症」「精神障害/精神医療」「視覚障害」「知的障害」「聴覚障害」「血友病(血液製剤の供給状況)」「医療と社会(医療機関の対応・医療情報等にリンク)」「出産・生」「薬」「がん」「心臓病」。それから「ボランティア・寄付・支援物資」「災害対応:マニュアル・ガイドライン・ハンドブック」。
 上記DPI女性障害者ネットワークやスペース96の情報も全文が掲載されているほか、「情報提供etcリンク」(添付資料を参照)や、多言語で発信されている震災関連情報のリンク集もある。
 この一週間、英語ニュースの“かわら版小僧”は“かわら版”の一枚も発行することができず、多くの当事者、支援者が「何とかしなければ」という思いを行動として結集していく様子を、ただただ感嘆と敬服の思いで見ていることしかできなかった。
 テレビ画面が途切れることなく映し続ける破壊と悲惨、原発事故の刻々の展開の情報に、まるで中毒にでもなったように見入っていると、恐怖や悲しみだけでなく、自分には何もできないという自責の念や、自分が普段と変わらぬ生活を続けていることへの罪悪感が起こってくる。そして、これから私たちが住む社会はどのような場所になって行くのだろうという、底知れない不安――。
 たまたま被災を免れることのできた私たちも、あれほど大きな災害を前に、精神的なダメージを受けているのかもしれない。
 ネット上では、国外退避する外国人に向けた心ない発言も出始めていた。

●災害時のメンタルケア
 そんな中、14日の早い段階で「知人の臨床心理士から有益な情報を教えてもらったので」とMLに投稿された「災害時のメンタルケア」に助けられた。
 「まず落ち着いて自分のメンタルケアをしましょう。必要な情報で安全を確保したら、不安状態に陥らないようにテレビを離れ、人と語りあい触れあいましょう」。
 そう呼び掛けるメッセージに、募金と節電以上には何もできないように思える私たちにも、自分のメンタルケアを意識して、不安エネルギーをまきちらさないよう自制することができる、と教えられた。
 自分の不安を他者への排斥や攻撃性に転じることなく、多くの人と同じく不安になっている弱い一人である自分を認め、自らケアする努力を払って節度ある言動を心掛けること。それだって、この困難な状況下で個々にできる大切な貢献の一つだろう。

●その後
 この原稿をここまで書いた18日夜、ALS協会理事の川口有美子氏からMLに投稿が入った。ALS協会が厚労省副大臣と交渉した結果、震災により入院した人工呼吸器等の重度障害者では、介護保険、障害者自立支援法による居宅介護、重度訪問介護が通常通り利用できることになったそうである。
 その後、震災から2度目の週末にあたる3連休の間にMLにあった多くの投稿からいくつかの情報を拾ってみると、21日夜には、先発隊で被災地に入っていた人の帰阪を受け、ゆめ風基金が緊急報告会を大阪で開くとのこと。被災精神障害者への支援の参考にと、精神科医として阪神淡路大震災の体験や考察をつづった中井久夫氏の著書「災害が本当に襲った時」の電子データの公開及び無償頒布の情報。また災害と障害者に関わる、この1週間余りの報道リンク集など。これらも、また今後も引き続き寄せられる情報も順次、上記生存学のページに加えられていくことだろう。
 社会的弱者、災害弱者といわれる障害者やその周辺の家族や支援者らの、こんなにも迅速かつ力強い行動とネットワークが可能にした情報ページである。このたびの震災で被災された障害や病気のある人々や高齢者のためにも、また今後の復興や、未来の日本がより弱者に暖かい社会になるためにも、大いに活用されていくことを願っている。その思いを込め、同じMLに参加する“かわら版小僧”が目撃した一週間を、小僧の目に見えたままに書いてみた。大震災後初めての“かわら版”をこのような形で書く機会をくださった本誌編集部に心より感謝している。
 この度の大震災で犠牲になられた多くの方、大切な人をなくされた方々に心からお悔やみを申し上げます。そして、苦しい状況におかれた人たちのために静かに、けれど確かに行動し続ける日本中の多くの人たちに、心からの敬意を――。どうぞ一つでも多くの命が救われますように。一日も早く、被災された方々に安全で平穏な暮らしが戻りますように。

        (2011年3月22日)


UP: 20110511 REV:
災害と障害者・病者:東日本大震災  ◇児玉 真美  ◇全文掲載 
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