2.リハビリテーションの目的の変化
リハビリテーションは、ADL(Activities of daily living:日常生活動作)能力の向上や生活自立を目指すものであるというふうに多くの皆さんは理解されていると思う。そもそもこのADLという考え方は、1945年にニューヨークのInstitute for the Crippled and Disabled でDeaverという医師とBrownという理学療法士によって生み出され、その後Lawtonという理学療法士などによって引き継がれて、リハビリテーションの目的として発展していったものである。
しかし1970年代後半頃には、今度はQOL(Quality of Life:生活の質)という考え方が注目されるようになる。それには、1970年代のアメリカの障害当事者によるIL(Independent Living:自立生活)運動の思想からの影響があった。その思想的影響力としてリハビリテーション医師の上田敏は次の2点を挙げる1)。「自立概念の再考の促し」と「自己決定権の重要性」である。「自立概念の再考の促し」というのは、これまでリハビリテーション学が構成していた日常生活動作が自立してはじめて職業的・社会的自立があるといった順序に対する批判である。「自己決定権の重要性」は、たとえ職業的・社会的役割を担うことが困難な重度の障害を持っていたとしても、あらゆる重要な決定は本人によってなされることが大切であり、それが自立であるという考え方である。それは「ADLからQOLへ」というスローガンのようにもなった2)。
「ADLからQOLへ」という動きは、1980年代に生じた様々な社会的出来事とも違和感を生じる考え方ではなかったため、当時浸透しやすかったのではないかと思う。特に1980年代前半には、世界保健機関が国際障害分類試案(ICIDH:International Classification of Impairments, Disabilities, and Handicaps)を公表したり、1981年は、国際連合が国際障害者年と定め、テーマを「完全参加と平等」としたりした年である。一方で、1982年には、三郷中央病院に見る悪徳老人病院の存在の指摘や、1984年には、宇都宮精神病院で患者が看護者の暴力で死亡するという痛ましい事件もあった。
ところが1990年代になると、「QOL向上のためのADLレベル向上」が強調されるようになる。何故かと言えば、「ADLからQOLへ」というスローガンが、ADLはもはや重要でなく、ADLを抜きにしてもQOLの向上はありうると誤解される危険を察知してのことである。それは当時注目され始めた高齢者の廃用症候群へのアプローチの推進と無関係ではなかったはずだ。というのも、そのフレーズは、高齢者の活動性を向上させ、廃用を予防し、ADLの自立を一層向上させるという好循環が、結果的に高齢者のQOLにも繋がるという話と接続してもいるからである。
2000年以降は、医療のアウトカムとしてのQOLを明確にするために、介入範囲や評価法の基準が示されるようになった。それは健康に関連したQOLとして健康関連QOLと呼ばれる。健康関連QOLが注目されるようになった背景には、疾患分布の変化、患者中心の医療化、健康に関するパラダイムシフト、医療資源の有限性に対する認識などがあげられるが、特に4つめについては、医療費の費用対効果を分析するための効用値(主観的選好を数値化したもの)として健康関連QOLが用いられていることを指摘できる。