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「英国BBCの若年介護者特集&スコットランド自殺幇助合法化法案否決」

児玉 真美 201101 月刊介護保険情報,2011年1月号

last update:20110517


 英国BBCが若年介護者特集

 親や家族のケアを担っている若年介護者の問題には当欄でも何度か触れてきたが、11月16日、英国放送協会(BBC)の独自調査がこれまでの政府の公式調査の4倍もの若年介護者数をはじき出し、関係者らに衝撃を与えている。
 BBCが調査結果の発表と同時に組んだ若年介護者特集によると、BBCがノッティンガム大学と共同でアンケート調査を行った10校4029人の中学生のうち、家族を介護する責任を担っている生徒は337人で、12人に1人の割合。その割合を当てはめると、英国全体では70万人と推計され、2001年の国勢調査で確認された175000人のざっと4倍の若年介護者がいることになる。337人のうち、前の月に介護に「多くの時間」を費やしたと答えた子どもは77人。「いくらかの時間」を費やしたと答えた子どもが260人。いずれのグループでも、女児が男児のほぼ2倍だった。
 調査結果からは、精神病や、薬物またはアルコール中毒の家族の情緒面でのケアを担っている子どもも少なくないと推測される。そうした子どもたちは、「父親がまた自傷するのではないか」、「母親が酔いつぶれてはいないか」と、絶え間ない心労に晒されている。しかし国勢調査では親が回答するために、彼らの存在は数字に反映されなかったのでは、と若年介護者支援チャリティは指摘する。そして、若年介護者を発見し支援につなげるために、学校もGP(家庭医)も、もっと意識をしっかり持つ必要があると訴える。なお英国では若年介護者の平均年齢は12歳と言われている。
 同特集の一環として、若年・こども介護者らとキャメロン首相の面談も行われた。サーシャ・トマスさん(16)は、7歳の頃から多発性硬化症の母親の介護と家事全般を担ってきた。現在は3年前に関節炎で退職を余儀なくされた父親にも介護が必要となっている。両親の介護で自由に家を空けることすらできない現状で「私のような子どもは、どうすれば大学に進学することができるのですか」とサーシャさんが首相に問うと、アイシャ・べリンジーさん(16)も地方自治体による介護者支援の予算カットを止めてほしいと訴えた。
 重症障害のある息子を去年亡くしたばかりのキャメロン首相は、家庭環境のために大学進学が阻まれるようなことがあってはならないと答え、予算の削減が求められる中、予算の決定権はあくまでも自治体にあるが、介護者支援への支出は長期的に見れば支出削減につながるとの見解を示した。
 なお英国の連立政権は同日、介護者のレスパイトのため今後4年間で400万ポンドの投入を発表。25日には介護者支援チャリティのカンファレンスで講演したケア・サービス大臣のポール・バーストウ氏が、連立政権の介護者支援施策の枠組みを発表し、新たに介護者を発見すべくGPの啓発と研修に、今後4年間で600万ドルの予算を約束した。
 バーストウ大臣の講演で提示された今後の介護サービス提供の柱は以下の4点。

 @ 個別ケア:13年までに要介護者全員へのダイレクト・ペイメントを実現する。
 A 介護市場の発展:自立支援テクノロジーを中心に、ダイレクト・ペイメントの利点が生かせるよう介護市場を発展させる。
 B NHSでの支援強化:上記、GP研修と介護者のレスパイトへの予算。
 C 民間セクターの活用:公共のサービスに留まらず、地域でボランティアの活用を推進する。

 連立政権が社会保障全体の予算削減方針を打ち出している中、こうした介護者支援施策が今後どのように展開されていくのか気になるところだ。医療や福祉が患者や高齢者や障害者のところで切り捨てられていけば、必然的に、その周辺にいる子どもたちに負担がのしかかっていくだろう。
 それを思う時、同じような経済苦境下の日本で若年・子ども介護者の存在が今なお可視化されていないことが案じられる。

自殺幇助合法化法案を否決―スコットランド

 スコットランド議会にかねて提出されていた、16歳以上のターミナルな病状の人を対象とする自殺幇助合法化法案は、12月1日、自由投票によって否決された。賛成16対反対85だった(棄権2)。
 パーキンソン病のマクドナルド議員が提出した同法案には、提出時「自立生活できない身障者で生きるのが苦痛と感じている人」も対象者要件に含まれていたが、批判を受けて削除された経緯がある。

UP: 20110215 REV: 20110517
全文掲載  ◇児玉 真美 
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