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「「経済成長」戦略における「戦力化」としての「女性の参画」推進政策の批判的検討」

村上 潔 2010/12/12
社会文化学会第13回全国大会 於:中京大学名古屋キャンパス
http://japansocio-culture.com/taikai/13.htm

last update:20101216

■報告予稿集原稿

 2010年6月15日、政府は閣議で『平成22年版男女共同参画白書』を決定した。それには、政府の男女共同参画会議で今春、「10年たっても男女共同参画社会は実現していない」との反省を盛り込んだ「第3次計画策定に当たっての考え方(答申案)」がまとめられ、女性に厳しい雇用の現状や問題点が指摘されたという経緯がある。そのこと自体の意味はあるとしても、できあがった『白書』の目指す方向性には大きな問題があるといわざるをえない。
 『白書』ではまず冒頭に、「「女性の活躍」を進めることが経済成長のために有効であることを示」すことを目的として、メインテーマの「特集編 女性の活躍と経済・社会の活性化」が据えられている。その中の「経済成長と女性の参画の拡大」という項では、「国際的には女性の参画の拡大と経済成長とを積極的に関連づけて取り組もうとする動きがある。女性の経済への参画を促進し所得を増やすことは、財政や社会保障の担い手を増やすことだけでなく、可処分所得の拡大を通じた消費の活性化にもつながるとの考え方が背景にある」と述べられている。そして、「生活者の視点による新たな市場の創造」という節の「消費における男女の特徴」という項では、「観光関連分野に加え、子育て関連分野、自己啓発などの分野において、結婚・子育て後も職業を持ち続けたいとする女性の消費意向が高い傾向にある」と指摘している。
 東京大学社会科学研究所の大沢真理教授は、以下のようにこれを評価している。「リーマン・ショックで日本経済は激しく落ち込み、諸外国に比べ回復が遅れている。これは、グローバル経済の変動に対し、女性が活用されず、男性稼ぎ主中心の社会経済システムがいかにもろいか、ということを示している。大黒柱が1本ではそれが倒れれば全部崩れる。消費が必要な時も貯蓄に走り、内需が低迷する。男女共同参画は、成長戦略として位置づけられるべき重要なテーマだ」(2010年6月14日『毎日新聞』東京朝刊)。
 こうした見方からは、これまで十分に活用されてこなかった女性の「潜在能力」――『白書』の中で頻出する表現である――を、「我が国」が国際的な「新たな経済社会の潮流」に対応していくために必要な「経済成長」を支える重要なファクターとして「動員」していく、という志向が如実に読みとれる。つまり、女性の労働力をこれまで以上に「活用」し、また同時に(それをとおして)これまで以上の消費主体になってもらう、ということである。これがこの『白書』で打ち出されている根幹「戦略」である――その一端として、『白書』では「女性の起業の流れを後押し」することも提言されている。
 本報告では、こうした戦略のもとに引き出される「女性の活躍」という未来像を批判的に検討する。『白書』では、女性の相対的貧困率の高さを課題として設定しており、「女性が貧困に陥りやすい背景には、女性は非正規雇用が多いという就業構造の問題があ」ること、「税制・社会保障制度が女性の就業調整をもたらす影響もある」ことを指摘している。こうした重要な論点を、先の「戦略」から引き離して、別のかたちで追求していくことこそ、あらゆる「女性の分断/差別化」に抗する問題解決の道筋であろう。新自由主義政策下における問題を総合的に捉え、さらにフェミニズムの論点を整理し直すことから、この課題にアプローチしたい。

■当日の資料

◆報告に使用したパワーポイントのデータをPDF化したもの→【こちら】


*作成:村上 潔
UP: 20101118 REV: 1216
男女共同参画・2010  ◇生存学創成拠点成果・2010  ◇全文掲載
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