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「日本における障害者の所得保障制度――障害基礎年金を中心に」

安田 真之 20101127  韓日障害学フォーラム 分科会2「障害者の所得保障政策――障害年金を中心に」・報告要旨 於:イルムセンター(韓国・ソウル)
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last update:20101203

1.はじめに

 日本における障害者に対する公的な所得保障の仕組みとしては、全国的な制度として障害基礎年金、障害厚生年金がある。また、障害者のみを対象とするものではないが、公的扶助(生活保護)を受け生活を営む障害者も多くいる。さらに、地方自治体によっては、障害者手当等の支給を行っているところもある。本報告では、主に障害基礎年金制度に基づく障害者の所得保障の概要と、障害基礎年金の受給権者である報告者の生活の実情について紹介し、日韓における障害者の所得保障のあり方を検討する議論のきっかけとしたい。

2.年金制度の概要

 日本の年金制度は社会保険方式であり、その仕組みはほぼ賦課方式であるといってよい。制度は3階建ての構造となっている。1階部分は、日本国内に住所のある20歳以上60歳未満のものが職種や労働形態に関わらず保険料を納める国民年金である。2階部分は、勤め人が各職種ごとに保険料を労使で折半して加入する年金である。3階部分は、企業が独自に運営する企業年金等である。このうち1階部分と2階部分は公的年金であり、いずれも老齢、障害、生計維持者の志望といった「保険事故」に対して、老齢年金、障害年金、遺族年金等が給付されるものである。日本国内に住所のある20歳以上60歳未満のものは、専業主婦等を除き、この1階部分または2階部分の年金制度に加入し保険料を納めなければならないこととなっている。
 このような3階建ての制度となったのは1985年のことである。それまでは、民間の勤め人を対象とする制度、勤め人ではない自営業者を対象とする制度というように、職種や労働形態別の縦割りの年金制度であった。しかし、とりわけ勤め人ではない自営業者等を対象とする国民年金は若い世代の加入者が減少し、給付による支出が増える一方で保険料収入が減少するという辞退が生じた。それは、産業構造の変化によって、農業等により自衛を営むものが減少し、保険料を納める若者が皆勤め人になっていったためである。そこで1985年、この国民年金が職種等に関係なく全ての人々に共通する基礎年金(3階建ての1階部分)として再編され、勤め人が加入する年金(2階部分)から国民年金(1階部分)に対して拠出金を支払うこととなった。
 障害者に給付される年金は、この3階建ての制度の1階部分に障害基礎年金が、2階部分に障害厚生年金が位置づけられている。ここでは障害基礎年金について紹介することとする。障害基礎年金の受給要件としては、被保険者である期間内、すなわち20歳以上で初めて医師の診療を受けた障害があること、その障害が年金等級として定められた障害に該当していること、保険料を一定期間以上納めているかまたは免除されていること等が規定されている。但し20歳未満で初めて医師の診療を受けた障害の場合は、障害基礎年金が保険料の納付状況に関係なく給付されることとなっている。年金を受給しようとする者は、医師の診断書を添えて申請を行う。その申請に基づき、障害の状況に応じて1級または2級の区分が認定され、1級では月額約8万円(老齢基礎年金の1.25倍)、2級は月額約6万円(老齢基礎年金と同額)が給付される。子どもを扶養している場合はこれらに若干の加算がある。なお、障害基礎年金の受給権者や生活保護の被保護者は国民年金保険料の支払いが免除される。
 障害者のなかには生活保護制度による保護を受けているものも多い。生活保護は、公的財源により資力調査を伴って実施される公的扶助である。これに対して障害基礎年金は保険料(1/2)と国庫負担(1/2)を財源とし、障害状況と保険料納付等の要件を満たしていれば資力調査等を伴わずに無条件に給付を行うものである。

3.所得保障と生活

 ……(障害基礎年金受給者の生活の一事例、省略)
 障害基礎年金は、一定の所得上限を超えない限り所得があっても給付される。したがって、働きながら年金を受給している障害者も多い。また、障害基礎年金を受給することを前提に月々の給与を定めている事業所も少なからず存在する。例えば、月額15万円の所得を保障しようとするとき、月額8万円の年金を受給するということを前提に、給与を月額7万円に設定するといった具合である。さらに、あん摩マッサージ指圧・鍼・灸治療印を営む視覚障害者等、自営業を営む障害者のなかには、自営業による収入と受給する年金を合わせて生計を立てている者も多い。

4.課題

 以上、日本における障害者の所得保障制度の一つとして、障害基礎年金制度について紹介した。日本において障害者が生活を営むうえで、一定の所得が継続的に保障される障害基礎年金制度が果たしている役割は極めて大きい。他方、いくつかの大きな課題もある。第一に、給付対象が医学的に極めて限定されていることである。生活に困窮しているにも関わらず年金を受給できない障害者は多く存在する。また、年金額は医学的な基準で認定される障害等級によって定められているため、前述のような生活スタイルの違いや地域間格差といった社会的状況が反映されていない。第二に、社会保険方式である日本の年金制度において、障害が保険事故(リスク)として位置づけられている点である。納付免除等の措置があるとはいえ、社会保険方式である以上、障害基礎年金制度は保険料を支払うことによって障害という保険事故(リスク)に備えるということを前提とした構図であることには変わりない。このように、現在の日本の障害基礎年金は、障害者の生活を支える重要な役割を担う一方で、障害を医学的に捉え、さらにはそれを社会保険を通じた共助の対象としてのリスクという形に還元している側面を有するものであるといえよう。


*作成:安田 真之
UP: 20101203 REV:
全文掲載  ◇グローバルCOE「生存学」創成拠点 国際プログラム(2010年秋期)  ◇障害者と所得保障/年金  ◇障害学(Disability Studies) 
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