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「貧困とウツ状態にあえぐ英国の介護者たち」

児玉 真美 201011 月刊介護保険情報,2010年11月号

last update:20110517

貧困とウツ状態にあえぐ英国の介護者たち

 世界中で経済の行き詰まりが深刻化する中、英国の介護者チャリティ the Princess Royal Trust for Carersが家族介護者の経済事情を調査し、その過酷な実態を明らかにした。9月23日に発表された調査結果によると、介護による経済的な苦境のため半数近くが「介護から逃げ出してしまいたい」「ウツ状態で、もうやっていけない」などと感じており(重複回答あり)、37%の介護者は「朝が来ても目覚めたくもない」気分だという。
 調査対象となった家族介護者は800人で、76%が女性。働いている人は556人で、全体の70.8%に当たる。そのうちフルタイムで働いているのは89人(38.4%)で、パートタイムが圧倒的に多い。年収を問うた質問では、回答した254人のうち半数以上の135人(53%)が1万ポンド(約133万円)以下と答えている。「介護者となるために有給仕事を辞めざるをえませんでしたか」という質問に「はい」と答えた人は207人(59.3%)に上る。そういう状況では想像もつくというものだが、89%もの人が介護を担うことで経済事情が悪化したと回答。貯蓄がないのは488人(62.2%)で、介護のために自分の蓄えを全て使わざるを得ないと答えた人が478人(64.1%)いることと、符号する。
 日々の生活費のために5人に3人が家族や友人に借金をしており、10人に1人は闇金融に手を出している。また39%は介護のために家を手放すことになるだろうと案じており、37%が将来に怯える。酒を飲み過ぎている自覚のある人も15%いる。
 神経難病の夫を介護するカレンさん(42)は、「夫が病気になって、あっという間に貧乏になりました。私は高給の仕事を失い、家も将来もなくなりました。電気代を払うためにサラ金を頼ったこともあります。介護のストレスとお金の心配で数年前に精神的に参ってしまいました。今は回復しましたが、日によって切羽詰まった気持ちになることはあります。家賃を払って食べるのでギリギリ。夫の介護をしていることに対して国からペナルティを課せられているような気分です」
 こうした調査結果を受け、同チャリティではお金の問題に焦点を絞った「介護者の10の心得」を作り、支援を試みている(右ページに概要を掲載)。この心得からは、英国の介護者に対する支援制度の実情がうかがえて興味深い。
 地方自治体には、介護者自身にニーズ・アセスメントを行い必要な支援を提供する義務が課せられている(07年6月号当欄で紹介)が、介護者が支援を受ける場合にも要介護者と同じくダイレクト・ペイメントで現金支給を選ぶことができる。
 また、介護のための離職によって年金受給資格を満たせなくなる人への救済策も注目に値するだろう。政府の「介護と年金」サイトによると、これまでも介護者手当の受給者や低所得の介護者は年金払い込み記録に登録され受給権を保護されるシステムがあったが、今年4月にさらにCarer’s Credit制度が新設され、介護者の年金受給権が広く保護されることになった。中・上級の障害者手当など、一定の要介護度を示す手当の受給者を週20時間以上介護していることが条件。介護を受けている人がそれら手当の受給条件に該当しない場合でも、医療や福祉の専門職に介護証明書を発行してもらうことができる。

それでも障害者手当は20%カット

 しかし5月に誕生した保守党と自民党の連立政権は、各党の予算を平均25%削減する方針を打ち出しており、10月に具体的な歳出見直しが予定されている。財務大臣は6月の緊縮予算に障害者手当の20%カットを盛り込んだ他、新たに障害者手当の受給条件として医療検査が義務付けられることとなった。  それらの変更が高齢者介護に及ぼす影響について、ケント大学など3大学と高齢者チャリティが共同でシミュレーションを行い、報告書”The impact of a tightening fiscal situation on social care for older people”にまとめた。それによると、65歳以上で在宅介護を受ける65万人の高齢障害者のうち、50万人が(つまり4人のうち3人が)必要なサービスを受けられなくなる見通し。介護者チャリティCarers UKは、この度の予算削減の影響で、既に過酷な経済状況にある介護者から、さらに経済支援が奪われることになると予測し、政府に再考を求めている。
 カレンさんの言う“ペナルティ”は、ついに英国の高齢者、障害者、介護者の生存まで脅かそうとしている――。


介護者の10の心得  by the Princess Royal Trust for Carers

 1. 自分を大切に! 介護は肉体的にも精神的にも介護者の健康に影響しがちです。でも、あなたのことだって大事。安全な介護の方法を学び、適切な食事をとり、よく眠り、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。

 2. レスパイトを。負担とストレスの大きな介護から、時には離れて息をつくことが大切です。自治体やチャリティに相談して、自分に替って介護してくれる人や場所を探しましょう。レスパイトのための資金援助を受けられる可能性もあります。

 3. あなたは一人ではありません。あなたと同じような経験をしている介護者が英国には約600万人います。地元の介護者センターや自治体を通じて支援グループに参加すると、他の介護者と出会うことができます。

 4. 家庭医に相談を。介護している人の健康に気を取られ、介護者は自分の健康を顧みる余裕をなくしがちです。介護をしていることをGP(家庭医)にちゃんと話しておきましょう。健康管理に気を配ってもらえるだけでなく、介護に役立つ機関にも紹介してもらえます。

 5. 介護者アセスメントを。あなたには自治体の介護者アセスメントを受ける法的権利があります。政府のウェブ・サイトや最寄りの介護者センターに問い合わせ、手続きをしましょう。

 6. もらえる経済支援をチェック。介護者が受けられる支援には以下のものがあります。該当していないか再確認しましょう。

 ・介護者手当 16歳以上で週35時間以上の介護をしている人が対象。他にも条件はありますが、働いていなかったり学生なら該当する可能性があります。現在、週53.90ポンド。
 ・所得支援 60歳未満で低所得、貯蓄総額が16000ポンド以下の人が対象となります。問い合わせを。
 ・介護者プレミアム 介護者手当の受給資格を満たし、さらに所得支援または年金の受給者であれば、週27.15ポンドを上限に追加支援が受けられます。
 ・減税措置 大半の世帯はなんらかの減税措置の対象となります。調べてみましょう。
 ・障害者手当 障害のある人を対象にした手当があります。チェックしましょう。
 ・住宅手当 福祉手当を受けている人や低所得で家賃や自治体税を払えない人は住宅手当の対象になる可能性があります。調べてみましょう。
 ・年金受給資格保護 週20時間以上の介護をしている人が介護者手当も所得支援も受けていない場合、年金の受給資格を保護する制度から漏れている可能性があります。介護のために仕事を辞めたり減らした人には、新たな救済制度も出来ました。政府の「介護と年金」ウェブサイトを読むか、介護者手当の担当部署に電話をしてみましょう。

 7. 助成金をもらいましょう。短期のレスパイトや送迎、器具や機器の購入には自治体や介護者センターから助成金が出る場合があります。

 8. 自分でサービスを選べます。自治体の介護者アセスメントを受け、介護者支援を受けられることになった場合、ダイレクト・ペイメントを選択することができます。現金支給によって、自分で好きなようにサービスをアレンジすることが可能になります。

 9. ジョブセンター・プラス(公共職業安定所)の利用を。介護を担うからといって仕事をやめなければならないというものではありません。もう一度働きたい人が研修や面接を受ける場合には、その間の代替え介護の費用がジョブセンター・プラスから支給される可能性があります。政府の「介護と雇用」ウェブ・サイトを参照してください。

 10.助けを求めましょう。全国に144の介護者センターを持つThe Princess Royal Trust for Carersをはじめ、多くの組織が介護者に情報提供を行い、支援を提供しています。上記以外に自治体独自のサービスやボランティア組織もあります。若年介護者も遠慮せず、相談してください。


 ・全文翻訳ではなく、各項目の主旨を取りまとめたものです。
 ・スコットランドに関する情報は省略しました。
 ・多くの項目に当該サイトへのリンクや担当部局の電話番号がありますが、省略しました。


UP: 20101204 REV: 20110517
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