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「『沖縄にとっての写真』『写真にとっての沖縄』」

今福 竜太・倉石 信乃(対談) 20101015 『週刊読書人』第2860号、1:3.

last update: 20110627


■今福 竜太・倉石 信乃(対談) 20101015 「『沖縄にとっての写真』『写真にとっての沖縄』」 『週刊読書人』 第2860号、1:3.

■内容


■目次


■引用


「監修者も表面的にはウチナーとヤマトというペアになっていますが、そこにも形式的なバランスを超えるものを私は感じています。違和の関係と、相互干渉と、共犯関係と。」(今福、1)
「「沖縄写真家」というタイトルと東松、中平、森口という本土出身の写真家の存在とが、ある齟齬や違和をきたしている面もあるでしょう。しかし齟齬や違和はむしろ必要なことかもしれません。[…]出してみて、あるいは出しながらさまざまな摩擦とともに考えることが大事なんじゃないか。」(倉石、1)

「明らかにもっと自覚的な写真行為として沖縄の写真が自立したのが60年代末から70年代初頭の、いわゆる「復帰」をはさむ時期ですね。政治的にも本土に対抗するドラスティックな思想状況が生まれたその時期に、日本写真の歴史的負荷から離脱するようにして沖縄写真の自立があり自覚があった。そして仲里さんが「沖縄の写真史の文体が書き換えられた」(大城弘明写真集『地図にない村』解説)と書かれているけれども、70年前後の写真から沖縄の写真史的な文体=視線が変わっていく、まさにその視線の非連続=断絶を私たちはここに目撃することができるわけです。」(今福、2)

「比嘉豊光さん的な発想で言えば、こうしたヤマトの出版によって達成される表現の場は、制度や権力機構の生成と結びつく可能性を持った、非常にアンビバレントなものです。ですから、どの写真家もそうした負の達成に対する自分なりのポジションを問われていると思うんですね。このシリーズのラインナップは、「沖縄」写真なるものの制度的な確立や成熟を謳うものではありえない。むしろ、各巻は相互に厳しく反発しあい、せめぎ合い、連帯というよりは孤立し、にもかかわらずそこに沖縄写真なるものの自立のありようが精緻に描き込まれている。」(今福、2)

「写真は歴史的な映像の証拠を蓄積し続けてきたので、権力や正当性に結びついてゆく公の歴史に連なる写真史が一つの動きとしてありますね。しかしその公的な歴史の背後に、歴史化し得ない、あるいは歴史化されることを拒否し続けるような記憶の層がある。骨がいま露出してくるのと同じで、常に人間の記憶は現在形としてその都度更新されながら、過去の人間や出来事に向けられていくものですね。」(今福、2)

「今回の東松さんの写真集『camp OKINAWA』はかなりポレミックな意味を持ちうる写真集だと思います。今、政治的運動やジャーナリズムの場で語られる基地の存在は、絶対悪という前提で、基地を最終的に無くしていくにはどうすべきか、という非常に単純化された言説のなかで終始している。そこでは、政治的な正義や社会的倫理の観念からみて、基地の存在を認めたり、芸術的な素材として肯定的に意味付けることは、はばかられるし危険なことに思われる。けれども、政治的な蹂躙によって人間の社会も歴史もたえず動いてきたことは否定できないわけです。奴隷制にしても、植民地主義にしてもホロコーストにしても、それは突発的な暴力の発動ではなく、歴史や文化に組み込まれた諸力のいわば継続的な源泉です。その意味で、基地の存在も、写真という20世紀の芸術表現のなかにすでに組み込まれて、芸術表現と一体になって存在している。たんにテーマとしてだけではなく、形態とか色彩とかいった審美的な要素も含めて。その事実の非常に力強い証拠が東松さんや石川さんの写真集です。だからこそ、表現のもっとも真摯な相において、写真にとっての沖縄の存在は大きな精神的な拠点になりうるのではないかと思うのです。悲劇を被写体にして延命しているどころか、基地問題のような政治的には袋小路に突き当たった問題を自らの内部に組み込みながら、写真は錯綜してしまった言説の糸を解きほぐすことすらできるかも知れない。」(今福、2)

「石川さんの写真からは愛情が滲み出すでしょう。米兵や米軍と抽象的な形で言うときには失われる、人間性に向けられたどうしようもない愛。その普遍的な愛の対象が、ここではアメリカ兵士とその身体であるということですよね。基地、黒人といった対象を前にして、平板な社会倫理は我々の情動とか感情を抑圧するという構造が現実にはあります。」(今福、3)

◆社会運動・政治の言説による、基地=悪という平板な倫理。基地という諸力の継続的な源泉。具体的な出会いと生活実践にまで降りて、基地問題を見ることの必要性。社会運動や政治ではない、芸術の領域とその優位性とは何か?


■書評・紹介

■言及



*作成:大野 光明
UP: 20110627
沖縄 社会運動/社会運動史  ◇「マイノリティ関連文献・資料」(主に関西) 「雑誌」
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