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障害者制度改革推進会議の基本的考え方を踏まえた制度設計を!

医療的ケアが必要な人たちとともに歩む立場から

穏土 ちとせ人工呼吸器をつけた子の親の会<バクバクの会>
2010年9月23日 障害者制度改革に関する地域フォーラム広島


  ご存知のように、たんの吸引や経管栄養など、いわゆる「医療的ケア」が欠かせない人たちがいます。みなさんと同じように、誰もがその"命と思い"を尊重され、年齢に応じた当たり前の社会生活を送りたいと願っています。
  「医療的ケア」は治療行為とは違って、食事や排泄と同じ日常生活行為の一部ですが、いまだ「医療行為」とされているために、本人・家族以外では、医師や看護師以外が業務として対応することが認められていません。その結果、当事者の生活の幅が狭められ、自立や社会参加を阻害されています。同時に、家族の生活も健康も奪われ、疲労困憊の末、当事者の安全をも脅かされるという悪循環が続いています。もっと言えば、これらの状況をもって、「家族介護が大変ですよ」とか「そこまでして生きていて本人は幸せなのか」という当事者不在の勝手な論理の下、一部では、気管切開や人工呼吸器装着の見送りが語られ、呼吸器外しを可能にしようという動きもみられます。
  このような中、推進会議「第一次意見」では、当事者主権の視点で5つの基本的考え方が掲げられ、「日常生活における医療的ケア」についても、「その行為者の範囲を介助者等にも広げ、必要な研修や手続の更なる整備等を行う。」と明記されました。わたしたちは、大きな一歩として評価しています。
  ところが、7月から、厚労省で医療的ケアを介護職にも認めるための制度のあり方について検討会が始まっています。ここでの議論は、当事者の生活をよくするどころか、地域での当たり前の生活を奪いかねない内容です。
  第一に、「医療的ケア」が、あくまで「医療行為」の範疇でしか捉えられていません。
  第二に、介護職にケアを認めるための条件が過剰で、現実的ではありません。
  第三に、何より、当事者のいろいろな生活場面が想定されていません。
  当たり前の生活とは、24時間、ベッドの上で過ごすわけではありません。買い物にも出かけるし、旅行もするでしょう。その度に、看護師さんを派遣してもらうなど不可能ですし、本人たちもそれを望んではいません。
  教育の場面でもそうです。医療的ケアが必要でも、地域の学校に通っている子どもたちが全国にたくさんいます。推進会議でも、インクルーシブ教育の実現をめざすことが確認されました。しかし、検討会では、特別支援学校しか想定されていません。
これでは、推進会議での制度改革の基本的な考え方を全く踏まえていないと言わざるを得ません。当事者の生活実態を明らかにし、当事者がどういう生活をしたいのかという声を聞いて支援の方法を検討しない限り、新たな制度も、当事者を幸せにするどころか、この枠の中だけで生きなさいという縛りにしかならないのではないでしょうか。
  実は、私の娘の幸実も人工呼吸器をつけていました。地域の保育園に通い、友だちと一緒に地域の小学校に通うことを望みました。夏休みは学校がなくて具合が悪くなるほど、学校が好きでした。でも、医療的ケアへの対応のため、親の付き添いが条件でしたから、きょうだいが熱を出したときなど、自分は元気なのに、親と一緒に学校を早退しなければなりませんでした。仲間と別れて教室を去るときの、眉間にしわを寄せて「帰りたくない」と必死に訴えていた顔を今でも忘れることはできません。
また、人工呼吸器をつけていることを理由に「危険だから」と、普段問題なくやっている二階への移動などを、学校では一方的に禁止されました。二階へ上げてもらえない自分は、みんなと一緒に進級させてもらえるのだろうかと、本人は悩み抜きました。それが引き金となって体調を崩し、2年生を目前に、天国に旅立ちました。
  あれから、10年近く経ちました。10年経ってもなお、今、この広島にも、お母さんが体調を崩すと、大好きな学校を休まなければならない子どもがいます。看護師が配置されたはずの特別支援学校でさえ、広島県では、呼吸器をつけていると、本人の状態にかかわらず、訪問教育にされるということも聞いています。
  呼吸器も、医療的ケアも、元気に生きていくための手段です。それを、バリアとされてしまう社会は、決して私たちの求める共生社会ではないと思います。
 これから、障害者制度に関わるいろいろな改革が進められると思いますが、推進会議の基本的考え方から決して乖離することのないようにしていただきたいと思いますし、私たちも、推進会議のみなさんとともに、声を届け続けたいと思います。


UP:201008 REV:
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