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「テクノロジーによる遠隔介護支援システム(米国)」

児玉 真美 201009 月刊介護保険情報,2010年9月号

last update: 20110517

テクノロジーによる遠隔介護支援システム(米国)

母さんは今日ずいぶん早く目が覚めたようだ。5:05にベッドを出て、リビングのお気に入りの椅子に15分間座っていた。その後キッチンとリビングを3回往復。その間に体重と血圧を計測し(体重126ポンド、血圧139/98)、6:16に冷蔵庫を約2分間あけた。薬の棚を7:21に開けて1分後に閉じ、10:47に玄関から外に出た――。
ちゃんと朝ご飯を食べ、忘れずに薬を飲み、外出もして、元気だな……。遠くで一人暮らしをする母親の無事を、仕事の昼休みにパソコンや携帯電話で確認した娘や息子は、仕事と子育てで忙しい生活に心おきなく専念できる。午後もデータはリアルタイムで送られてくるし、夜になって母親がベッドに入り、その動きから眠りについたことが確認されれば、「お母さんは眠られました」と携帯にメールが入る。それを確認してからベッドの明りを消すのが、こちらの日課だ――。
万が一薬を飲み忘れても、2時間後には母親の家でアラームが鳴り、薬ケースのランプが点滅して注意を喚起してくれる。最初は「こんなものはいらないわ。自分でちゃんと飲んでいるから」と嫌がっていた母も、今でも安心だと気に入っている。こちらの携帯にも「お母さんが薬を飲んでおられません」とメール連絡が入るから、その時は母に電話をかけて確認する。ただし、あくまでもさりげなく。逐一見張られていると感じさせないように――。

 米国で現在売り出されている、GrandCare、QuietCare、BeClose、Selfhelpなどの高齢者自立生活支援システムは、センサーの情報をパソコンや携帯に送り、遠く離れて一人暮らしをする老親の動静をたちどころに知らせてくれる遠隔介護支援ツールである。使用されているテクノロジーは大げさなものではなく、ベッドや椅子のセンサー、窓やドア、棚、冷蔵庫の開閉センサー、室内の人の動きを感知するセンサーなど。いずれもワイヤレスで、ドリルで穴をあける必要もなく、取り付けは安全・簡単。転倒しやすい場所に直通のアラーム・ボタンを取りつけることも可能だ。
 これらのセンサーの情報が管理センターとあらかじめ指摘された家族にリアルタイムで送られるだけでなく、生活パターンとして分析・把握されているので、通常のパターンから外れる事態が生じると、即座に家族に連絡が届く。会社と契約した近在のナースやソーシャルワーカーが駆けつけてくれる商品もある。
 糖尿病や心臓疾患など、自己管理が大切な慢性病の老親には、Tele Healthがお勧めだろう。電子血圧計、電子血糖値計測計、電子体重計、服薬リマインダーの情報が電話回線を通じて登録ナースに送られ、クライアントの生体情報として一括管理される。持病を持った高齢者でも、こうして常に医療職と繋がっていて、重大事態になる前にナースから適切なアドバイスや早期介入を受けられる。本人はもちろん、遠くで暮らす家族も安心というものだ。
 ニューヨークタイムズの記事 ”Technologies Help Adult Children Monitor Aging Parents” (7月28日)によると、Grand Careの一例では、センサーなどシステムの取り付けに8000ドルかかり、利用料は月額75ドルとのこと。8000ドルは、生活支援型施設の2カ月分の入所費用に当たる。しかし、親の方は施設に入らなくても自立した一人暮らしが可能となり、息子や娘の方も離れて暮らす罪悪感がぬぐえるなら、この出費を大きいと考えるかどうかは、考え方だろう。
 記事によると、大半の高齢者は、最初はリモートセンサーシステムの導入に反発するが、実際に導入して後は「気にならない」と概ね満足しているとのこと。この時代、高齢者の方だってテクノロジーには馴染んでいるのだ。
 それでも多くの高齢者がカメラの手前で線を引くそうだ。米国ではベビーシッターの虐待を警戒する親たちがこっそりと仕掛けるカメラnanny (子守)cam や、ナーシングホームの入所者の家族が職員による虐待防止でウェブカメラを設置する granny cam などが話題になった。
 確かに、愛のある見守りとプライバシー侵害との一線はどこにあるのか、という問題は気になるところだ。専門家は、最も重要なのは高齢者本人の同意だと強調する。全米退職者連盟AARPの関係者は「そのためにも、まだ切実な必要がないうちから、現状維持で暮らしていくことを目的に、こうしたテクノロジーの導入について親子で話し合っておくのがよい」と勧める。
 記事を読み商品サイトを眺めていると、取材先で見聞きした日本の地域包括支援体制づくりの取り組みのあれこれが、誰か優しく懐かしい人の記憶がよみがえるように、次々に思い出されてきた。

Quietcaresystems
Beclose
Selfhelp
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selfhelpは、もともとはホロコーストで生き残った人たちの支援組織としてスタートしたようです。


UP: 20101101 REV: 20110517
全文掲載  ◇児玉 真美 
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