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重度身体障害者のITコミュニケーション支援

山本 晋輔1)・長谷川 唯2)・堀田 義太郎3)
1), 2)立命館大学大学院先端総合学術研究科博士後期過程 3)日本学術振興会研究員
2010/08/28 第15回難病看護学会学術集会抄録 於:山形県立保健医療大学



【研究目的】
 本研究では、発声による会話困難な状態にある重度身体障害者に対するIT機器を使用したコミュニケーション支援のあり方を探ることを目的とする。現状では、重度障害者に対する有効な意思疎通の方法や支援のための制度が整備されておらず、IT機器に詳しいボランティアが手探りで対応している。ここでは、2008年3月より筆者らが継続的に行なっている筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)患者を対象としたコミュニケーション支援活動を報告する。なお、ALSの特徴は進行性の身体障害を伴うことで、気管切開手術を行なうと発声が困難になる。

【研究方法】
 ALS患者9名を対象として、IT機器を利用するために必要なスイッチを製作し、その製作過程だけでなく訪問時の具体的な支援内容や患者家族の様子などを記録し、また提供後の利用状況についても調査を行なった。対象者のうち4名は、京都府難病相談支援センターを通して依頼を受けた。また、対象者には研究目的・研究方法・倫理的配慮について説明し、署名を得た。

【結果】br>  ALSの進行の程度は非常に個人差が大きく、IT機器用のスイッチが操作可能な身体部位も異なる。そこで、実際に対象者の自宅を訪問して患者の様子を確認し、日常生活上の動作や環境に合わせたものを製作する必要があった。日常生活を送るうえで頻繁に動作する部位にスイッチを設置すると不随意な動きに対しても反応してしまう、あるいは製作したスイッチを固定する場所がないため有効に機能しないことがある。よって、患者が普段過ごすことになる車椅子やベッドの種類、そこでとる姿勢に注意する必要がある。
また、患者本人の要望だけではなく、家族やヘルパーなど周囲との関係を重視することが求められた。患者がIT機器の利用を希望する理由は介護者と円滑なコミュニケーションを図ることを目的としたものがほとんどであり、透明文字盤を習得できない高齢者の家族がIT機器の利用を希望する事例もあった。透明文字盤は有効なコミュニケーション手段ではあるが、長文・長時間のコミュニケーションには向かない。独居者の事例でも、透明文字盤での意思疎通がスムーズに図れるかが介護者の壁となっていた。
ほかにも、患者自身が携帯電話を操作したいという事例があった。既製品の携帯電話用ヘッドセットを改造しつつ、携帯電話の音声入力機能を併用して、介護者の手を借りなくても手元のボタンで携帯電話を操作することを可能にした。

【考察】
 重度障害者のコミュニケーション支援に対する意思伝達装置給付制度はあるが、既製品をそのまま利用できるケースは少ない。また病の進行や機械のトラブルに対して迅速かつ継続的なサポートを必要とするが、現在の制度では十分に対応できていない。筆者らが報告したようなコミュニケーション支援は現状ではボランティアで行なわざるをえず、全国的にもこうした活動を行なう団体は少ない。IT機器を利用したコミュニケーション支援は患者や家族、介護者に必要とされており、今後制度的に保障することが求められる。


UP:20110707 REV:
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