とりわけ大きな衝撃をもたらしたのは、児童精神科の世界的権威、ジョセフ・ビーダマン医師(ハーバード大)の一連のスキャンダルだ。幼児期から双極性障害(そううつ病)を診断することを提唱し、幼い子どもへの多剤投与を推進してきた人物だけあって、オーストラリアでADHDの治療ガイドライン案がボツになるなど、世界の児童精神科医療のエビデンスそのものが揺らぐこととなった。受け取っていた金額はもちろん、高圧的に金銭を要求する傲岸、治験前から結果を約束する破廉恥と、全てがケタはずれ。New York Times社説は「専門家それとも、ただのサクラ?」と揶揄した。
ビーダマンという名前は、今では製薬会社と研究者との癒着の代名詞。“ビッグ・ファーマ(巨大製薬会社)”は、かつての“ゼネコン”と同じく、巨大資本による企業悪の代名詞だ。米国の親たちが「ビッグ・ファーマが研究者と一緒になって、金儲けのために子どもたちを薬漬けにしている」と警戒するのも無理はない。