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「英国HCS、Angela事件」

児玉 真美 201005 月刊介護保険情報,2010年5月号

last update: 20110517
段階的にNCSを創設・整備:英国

英国保健省は3月30日、社会ケア白書“Building the National Care Service”を刊行し、NCS創設に向けた今後の道筋を示した。同省は去年7月、緑書によってNCSの創設を提案し、財源と制度の選択肢を3つ提示した(去年9月号当欄で既報)。その後4ヶ月間のコンサルテーションと今年2月には関係者らから直接意見を聞くカンファレンスを開催。それらの結果を踏まえ、最も支持された包括案(負担を義務付ける代わりにケアを無料で提供)を採用した。
NCSは英国のすべての成人を対象に、今後、何世代にもわたって、どんな病気や障害のある人でも、住んでいるところを問わず、支払い能力と無関係に、ニーズに応じて無料で質の高いケアを受けられる包括的な制度。地方自治体が主導し、NHSと連携、第3セクター、民間組織、コミュニティとも協働する。
 NHS創設以来最大の社会福祉変革だが、財政がひっ迫した状態での大改革でもあり、段階的に作り上げていく必要があるとして、白書は今後、以下のような段階を経てNCSを創設・整備すると展望している。
【第1段階】次期国会に在宅パーソナル・ケア法案を提出し、2011年から最もニーズの高い人に在宅での個別ケアを無料で提供する。また、初めて介護を必要とすることになった人の自立と自信回復を支えるサービスが、どの地域でも保証されるよう制度改革を行う。これらは認知症戦略、介護者戦略その他の関係施策によって整備された既存の制度を通じて行う。
【第2段階】次期国会にNCS法案を提出し、現在の地域間格差を解消するべくNCSブロックを整備する。2011年7月までにNCSリーダーシップ・グループを作り、年末までに詳細な実施プランを政府に提示する。2014年から、施設に2年以上入所している人のすべてに対して3年目以降のケアを無料とする。
【第3段階】次期国会スタート時にコミッションを作り、最も公平で持続可能性の高い財源確保の方法を検討する。コミッションはあらゆる選択肢を考慮の上で結論を大臣に答申し、大臣はその次の国会で実施する。
【第4段階】2015年以降の最終段階で、財源に関する国民的合意を基盤に、包括的なNCSを確立する。
 英国では今後20年間で170万人がケアを必要とすることになる。白書は「この改革は社会が担うべきコストや負担ではなく未来への投資である」と謳う。

11歳重症児の子宮摘出を家裁が承認:豪

 オーストラリア、クィーンズランド州の家庭裁判所は、2月16日、レット症候群の11歳女児Angelaちゃんの子宮摘出を求める両親の訴えを認めた。主な理由は、生理が不順で貧血やてんかん発作を起こす可能性があるため、また本人のQOLを向上するため。しかし判決文は母親の介護負担軽減にも言及しており、障害団体などから人権侵害だと批判が起こっている。
 初潮からわずか2年の生理不順を理由に不可逆的な外科処置を認めてしまう判決が、果たして妥当なのか……。判事が当初から親と主治医の主張を全面的に認め、子ども本人の利益のみを代理する法的代理人を任命しなかったなど、審理手続き上の疑問も残る。
 米国シアトルで重症障害児から子宮と乳房芽の摘出およびホルモンによる成長抑制が行われ論争となった07年のAshley事件(07年3月号他の当欄で既報)以降、これら一連の処置を重症障害児に広く一般化しようとする一部の医師らと、英語圏の障害当事者や生命倫理学、哲学、障害学、法学の学者らとの間で激しいバトルが今なお続いている。そのバトルを追いかけていると、「QOL」や「本人の最善の利益」いう新たな装いをまとってよみがえる優生思想の気配を感じる。背景にあるのは科学とテクノロジーの発展と、それによってもたらされる社会の価値意識の変容だろう。
 4月28日、Maryland大学法学部においてカンファレンス「障害、医療そして倫理」が開催される。障害者の権利に対する医師や倫理委の意識があまりに低いことから、障害者差別や「社会モデル」登場の歴史を振り返りつつ、医療職に必要な障害者の権利に対する知識や戦略、リソースを考えようとの試みだ。
 不幸な歴史を繰り返してはならない――。バトルはこれからも続く。英語圏だけのバトルでもなさそうだ。


UP: 20100607 REV: 20110517
全文掲載  ◇児玉 真美 
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