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「対人支援における消極的意義と積極的意義の考察
――犯罪被害者の対人支援の検討から」

大谷 通高 2010/05/16 第36回日本保健医療社会学会発表要旨  於:山口県立大学
[ワード版]

last update: 20100410
対人支援における消極的意義と積極的意義の考察
犯罪被害者の対人支援の検討から

大谷 通高(立命館大学大学院先端総合学術研究科)



【目的】 
対人支援の場合,支援者が,支援対象者に支援を求められたとき,支援者はその事態を放置することはできない.しかし,支援者が支援対象者の求めに応じ,その要望に具体的に応じたとしても,その応じ方によっては支援対象者に精神的な苦痛や負担を与える場合がある。
犯罪被害者の対人援助の論考において,上記の問題状況は二次被害と呼ばれている.二次被害とは一次被害である犯罪被害に付随して生じる経済的・精神的負担のことであり,犯罪被害者の被害後の問題状況を表す概念である.それは,支援者だけでなく被害者にかかわる者(警察官や検察官,弁護士,マスメディア,友人,親族など)からの不適切な態度による精神的苦痛も含まれている.
支援場面における二次被害的問題において,支援者は二次被害の発生原因とされており,従来の犯罪被害者の支援論において,この支援者の二次被害的問題に考慮して,被害者への対人支援の積極的な意義は提示されてこなかった.そこでの意義は被害者の経済的・精神的負担を悪化させないこととされ,被害者への適切な保護や配慮によって二次被害を軽減・予防する,つまりは被害者の回復を妨げないという消極的なかたちでその支援の必要性が語られてきた.
 これに対し報告者は犯罪被害者の対人支援の積極的意義を提示した(大谷2010).そこでは,被害者の被害からの脱却を「救済」と位置付け,その救済のための対人支援が有する積極的意義として,支援者と被害者との間に固有の関係性(「あなたと私」)が立ち上がることによる被害者の被害(者)からの一瞬の脱却=「救済」の契機を対人支援が内在していることを提示した.本報告の目的は,この対人支援の消極的意義と積極的意義を確認し,その関係を考察することにある.

【方法】 
犯罪被害者の支援論から,対人支援の消極的意義と積極的意義それぞれの支援観を検討することで,両者の支援の前提となる理念を把握すると同時に,それら両支援がいかなる関係にあるのかを考察する.

【結果】 
消極的意義から導出される支援観は,被害者がいきる被害者としての生を「支える」ことに照準するものであり,支援者の意義はあくまでもその生のサポートに徹することとされ,被害者の自主性・主体性・当事者性を重んじ,その自主性・主体性の発揮の手助け・邪魔をしないことが支援であり,これは「エンパワメント」と称される.そのときの支援者の役割はあくまでも被害者のニーズに応じて,支援を提供するという外部者に属している.
 対して積極的意義から導出される支援観において,支援者は被害者の生に内属した存在となり,被害者の生の中から,被害者としての経験やその意味を被害者とともに内破していく営みを試みていく存在となる.

【考察および結論】 
消極的意義に準拠した支援観の場合,被支援者の生を支えることに主軸が置かれているため,支援者と被支援者との関係はつねに非対称性を内在している.これに対し積極的意義に準拠した支援観は,支援者と被支援者との固有の関係性の立ち上げによる「救済」に主軸が置かれるために,支援者と被支援者という非対称な関係を超えたものになる.

*作成:大谷 通高
UP:20100412 
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